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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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ベーベル平原の戦い(2)

 ベーベル平原の戦い開始直後、帝国軍は主力となる東方防衛軍第二師団のその能力と、それを指揮する師団長ホウジョウ・ハグロ・ハツヒナの指揮能力で、敵に先制を加えるチャンスを手に入れる。


(どんな攻撃を加える?)


オーマは、これまでのハツヒナとその部隊の能力をしっかり分析しており、この後の攻撃にも注目していた__。



 東方防衛軍第二師団は、各騎士団の全兵士が土属性を使用できるように統一されている。

全軍で集団魔法を使用すれば、かなりの殲滅力を発揮するだろう。

だが、さすがに突撃しながら全軍の魔法の種類、魔力量、タイミングを計って合わせるのは不可能だ。

ハツヒナ軍が全軍での集団魔法を使えるとは言っても、それは防衛時。

全軍が待機状態の時に、予め打ち合わせていた魔法と魔力を、通信兵を使ってカウントダウン形式でタイミングを合わせて打ち出すという方法だ。

突撃時では、この方法は現実的ではない。

突撃時に集団魔法を使うとなると、約千人の戦士団・騎士団単位でも難しく、部隊・小隊規模で集団魔法を使うのが現実的だ。

 そうなると、ここで注目すべきことが一つある。

それはハツヒナ軍のメイン属性が土属性であるということ。

土属性は、地形適性の高い属性なので戦場は選ばないが、魔族相手には効果的な属性では無いのだ。

 土属性に耐性を持つ魔族は多い。

少なくとも、今回の戦場に居る魔族軍の前衛、リザードマン、グレイトホーン、ゼオノトプスは高い土属性耐性を持っている。補足になるが、リザードマンは水属性の耐性も高い。

部隊・小隊規模の土属性集団攻撃魔法で、どこまで前衛を削れるかに疑問が出てくるのだ。

だが、もちろん個人では魔族側に分が有るので、このチャンス活かすなら集団魔法を使わない手はない。


 つまりは、この先制チャンスを活かすなら、もう一工夫欲しいということだ。



 オーマが頭の中でそんな考えを巡らせて、火力が足りない場合にはヤトリかサレンを使ってサポートすべきかと悩む。


(でもサレンはヤトリの抑え役だし、ヤトリは暴走するかもしれない。特にハツヒナの事は相当嫌っているからな。この流れに乗じて___なんてことも・・・いや、さすがに無いか?・・・いや、でも・・・)


二人を使うかハツヒナに相談するか迷っていると、両軍との距離は10メートルを切っていた。


「ブレイキング・ブラックだ!撃てぇーーーー!!」

「こちらも続くぞ!やれぇ!」


ハツヒナ軍の前衛四列目五列目の部隊が、各部隊の隊長達の号令で土属性魔法の“ブレイキング・ブラック”という魔法を集団魔法で発動し、リザードマン部隊に黒い粉を飛ばした。


(何だ!?あれは!?)


 ハツヒナ軍のオリジナルなのか既存の魔法なのかは不明だが、オーマは“ブレイキング・ブラック”という魔法を見た事も聞いたことも無く、その効果のほどは分からない。

 黒い粉をまぶされたリザードマン達は、目を瞑ったり、くしゃみをしたりしている。

だが、それだけで他の効果は無いように見える。


(・・・コショウ?)


一瞬オーマの中で、あの黒い粉の正体にそんな考えを巡らせたが、「さすがにそんな訳はないか」と直ぐにその考えを否定した。

 確かに否定して正解なのだが、今のところはそう言いたくなるほどの効果しか現れていないのも事実。

効果だけを見れば、ハツヒナ軍がやった事は悪戯と変わらない。

効果がゼロではないだろうが、効果的とは当然言えない。

もちろん、この後に何かが有るという事なのだろう。


(___あ!いや、やはりそうか!!)


そして次の効果を期待していたオーマは、前衛最前列の部隊が集団魔法を今まさに繰り出そうとするその時に、その効果の答えを出した。


「ファイヤー・ウェーブ!撃てぇ!!」


 ハツヒナ軍の最前列の部隊が発動したのは“ファイヤー・ウェーブ”。

炎属性で中級の初歩となる魔法で、7~10メートルの炎を放射する。

初級よりは威力が高いが、中級の中では威力が低いため、突撃しながらでも集団魔法で合わせられる魔法だ。

そして今は、小隊ごとの集団魔法で飛距離が30メートル以上になってリザードマン部隊を効果範囲に入れることが出来ている。

その代わり、当然威力は中級の炎属性魔法で一番弱い。

集団魔法で威力も上がっているし、土属性と水属性の耐性があるリザードマン相手に土属性の集団攻撃魔法よりはマシだろうが、効果的かどうかは疑問がでる攻撃力である。

だが、そんな心配は必要無かった。


 カッ!______ズドォオオーーーーーーーーーーン!!


 突如として凄まじい爆発が起こる。

その火力は5~10人の小隊規模での中級攻撃魔法の威力とはかけ離れたもので、黒雲が立ち上がり、熱風が吹き荒れた。


(____やはり火薬だ!)


 オーマの中で答え合わせが終わる。

 先程リザードマン部隊に発動した“ブレイキング・ブラック”は、やはりコショウなどでは無く、引火して爆発を起こす火薬だった。

前衛の後ろにいる部隊が土属性の特殊STAGEで粉を火薬に性質変化させ、振りまいたのだ。

後は前衛の最前列の部隊が炎属性の集団魔法で着火する。

そうする事で、上級魔法すら超えた広範囲で高威力の爆発を可能にした。

 集団魔法×集団魔法のコンボの威力は絶大な効果を発揮し、敵軍前衛のリザードマン部隊はその殆どが苦しみ叫ぶので精一杯なほどの重傷を負っていた____。



 「おお・・・」

「すごい」

「お見事ですね」


 ウェイフィー、サレン、シマズの三人は感心の声を上げる。


(___チッ)


オーマも同じ様に感心しながらも、内心では舌打ちもしていた。

 オーマの“先制攻撃のチャンスをどれだけ活かせるか?”という疑問には、敵軍前衛をほぼ壊滅にするという結果で答えが返って来た。

はっきり言って、サンダーラッツを含め戦上手の北方遠征軍でも、こうまで上手くは行かないだろう。


(やはり第一貴族の傘下の兵士は練度が高い・・・)


 帝国の社会システム上、第一貴族に憧れる者が多いので、第一貴族の部隊には、第一貴族、第二貴族、平民と、身分に関係無く優秀な人材が多く志願して入団する。

そんな者達が、魔族相手に己の実力を実戦経験を積んで磨いているのだから活躍するのは当然だろう。

 そして、オーマが悔しさと警戒心を抱いているのは、それだけではない。

対魔族というのを抜きにしても、ハツヒナ軍のどの騎士団もサンダーラッツと同等以上の実力が有ると分かったからだ。

師団長のハツヒナの軍でこの実力なら、他の第一貴族の軍団もこれ以下ではないだろう。

強豪で知られる北方遠征軍が形無しになっている。

将来的に戦う事になると考えると、オーマは警戒と恐怖を捨てることが出来なかった。



 「ハン!何を感心している!あんなの大したことないじゃないか!」


オーマの代わりに強がった発言をしてくれたのはヤトリだった____理由は・・まあ、何となく分かる。


「でも、あの兵士の数であれだけ整った連携ができるのはすごいですよ?」

「その効果も抜群」

「はい」

「何言ってんだ。私だったら先制の一撃で敵の全軍を潰している」


ヤトリはエヘンッと胸を張って自慢してきた。


「ま、まあ・・・」

「それは・・・」

「そうでしょうけど・・・」


 これに関しては事実なので全員が否定はしない。

ただ内心に、“味方も巻き込むんじゃね?”があるので、その返事は曖昧だった。


「なんだ?疑っているのか?よーし!ならば、やって見せてやろう!では___」

「うおーー!?やめろぉ!!」

「ダメ!」


 “本気”と書いて“まじ”と読んでいるヤトリを、オーマとウェイフィーは慌てて止める。

サレンとシマズの二人は、それぞれ静寂魔法と通信魔法の準備をしていた。


「もう前衛だけじゃなく両翼とも接触するし、敵軍後衛も動き出した!もうすぐ乱戦になる!」

「ここで貴方が魔法を使ったら絶対に味方を巻き込む」

「平気だって!」

「平気じゃない!!」

「チッ・・なんだよぉー、あいつの部下なんて、ちょっと巻き込んでもいいじゃないか・・・」

「いいわけないだろ!!」

「やっぱり味方を巻き込んでもいいと思っていた・・・」

「ぬ~~・・・」

「ダメだぞ!」

「ダメ」

「く~・・・せめてホウジョウだけでも__」


「「ダメ!!」」


オーマとウェイフィーの声が揃うと、それを合図にサレンが魔法を発動し、ヤトリを沈黙させた。


「ぶー・・・」


魔法が使えなくなったヤトリは、口をタコにして不満気だった。


「“ぶー”じゃない。こんな戦いで、お前が使う様な超大技なんか出せるか。もっと考えろ」

「考えてるよ!だから乱戦になる前に敵をだな____」

「いや、間に合うわけない」

「チッ・・・ふん。だが、多少味方を巻き込んででも敵を殲滅した方が良いかもしれんぞ?どうせ入り乱れたら、揉みくちゃになって大きな被害が出るぞ?個人の戦いじゃ貧弱な帝国兵士じゃーあの魔獣共の相手は厳しいからな」


 ヤトリはそう拗ねた様なセリフを吐き捨てた。

思いのほか否定しづらい意見を言っているが、サレンが呟くように否定の声を出した。


「それが、そうでもなさそうですよ・・」

「あん?」


サレンの言葉に全員が反応してサレンの視線の先を追うと、見えたのはウザネ率いる東方遠征軍第二師団が敵軍の両翼を蹂躙する景色だった____。

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