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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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ベーベル平原の戦い(1)

 ジョウショウはその細い目で展開している敵軍を見渡す。


「種類が多いな・・・」


 見れば魔王軍の兵種は多彩だ。

 前衛中央にはリザードマンが約三千、左翼にグレイトホーン約千、右翼にゼオノトプス約千と、前衛にはフィジカルの強い魔獣が配置されている。

後衛には、中央にゴブリン約三千、左翼にグレイハウンド約千、右翼にハイエルフタイガー約千と、汎用性の高い魔族や機動力を持つ魔獣が配置されている。

そして、その奥に二百体ほどの下級悪魔に囲まれて司令官のグレーターデーモンがいる。

更にはその後方に、ハーピィ約千、フェイク・フェニックス約四百、ワイバーン約四百と、飛行能力を持つ魔物が遊撃として配置されている。


「この近辺には生息していない魔獣・・それもワイバーンという山岳地帯の僻地にしかいない魔獣までいる。どうやら魔族の長達は全員参加しているな」


スカーマリス全土から集められた魔族部隊の編成を見て、スカーマリス魔族全勢力が連携している事が判明する。


 これまで、各地の魔族が一か所に集結した事など一度もない。

今のスカーマリス魔族を取りまとめている者達がどれほどの者なのかは分かっていないが、まだ帝国と活発に衝突していた魔王大戦直後の頃と代わっていないのならば、魔王軍幹部クラスの魔族が統率しているはずである。


「フッ・・・面白い」


そんな、魔族の最上級に位置する存在が複数結託しているというのに、ジョウショウは普段の冷静で武骨な雰囲気を捨て、ニヤリと不敵に笑っていた。


「恐るべき相手なのだろうが・・・そいつらは今の帝国にとってどこまで脅威なのだろうな?これまで協力してこなかった連中が集まったところで、そんな連携はすぐにメッキが剥がれるぞ?」


油断しないようにしながらも、ジョウショウはあくまで自分が“狩る側”というスタンスを崩さない。

そして、頭の中で敵の連携のメッキをどう剥がすか考え始める。

そうやって、頭の中で戦略を練って楽しんでいると、兵士からヤトリの件が落ち着いたとの報告を受ける。


「では、始めるか・・・」


ジョウショウは敵の長達が自分の戦略で慌てる姿を想像する楽しみを後にとって置いて、目の前の楽しみに意識を向けて攻撃命令を出した____。




 ベーベル平原にてジョウショウの戦闘開始の号令が飛ぶと、帝国軍はしっかり陣形を固めながら前進を始めた。

 対する魔族軍は、待ちの姿勢で待機していた。

だが、その態勢と陣形は防御のそれではなく、獲物を狩る者のそれだ。

 魔族軍は、自軍手前の泥濘が深くなっている場所に帝国軍を引き込んで、一気に飛び掛かるつもりでいる。

ただの魔物の群れでは不可能な事だが、指揮官のグレーターデーモンの下、統率されている魔獣部隊は誰一人として先走らず、殺気を抑えて飛び掛かる合図が来るのを、力を溜めて待っていた。

 オーマといえば、ヤトリとウェイフィー達を横に、工兵隊を後ろに連れて、ハツヒナの後に続いている。

オーマは、戦闘開始直後でしばらく出番はないため、ハツヒナの指揮官としての技量を観察するつもりでいる。

三大貴族以外の第一貴族のお手並み拝見と言うわけだ____。



 「嫌ですわ・・・野生動物や並の人間相手ならいざ知らず、私に対してそんな雑な殺気の抑え方・・・ごまかせるとでも?」


ハツヒナは、敵軍の放つ気配で相手の意図を察して、“なめられたものだ”と言わんばかりのセリフを吐き捨てる。

野生動物でも感じ取るのが難しいはずの魔獣達の殺気を、ハツヒナは容易く察知していた。

 そして、敵指揮官が攻撃合図を出すため間合いを計っているように、ハツヒナも突撃命令を出すため、敵が飛び掛かってくる間合いを計っている。


(敵が攻撃合図を出すのは距離150・・いえ、200メートルね。敵の前衛はリザードマン。足は速くないですが沼地ならそれ位のはず・・・)


 リザードマンは決しては足が速い魔物ではないが、大きい足と太く強靭な尻尾で上手くバランスを取りながら沼地でも失速することなく走ることが出来る。

本当の平原ならばともかく、沼地などの地形で戦う場合は人間より機動力が有る。

飛び掛かって反撃できる間合いは、その鈍足そうな見た目より広い。

 成人したリザードマンの身長は平均で約2.5メートル。人間より遥かに大きい。

自分より大きな獣が、泥濘で動きづらい中で自分より速く動いていたならば、それはその人物にとって脅威その物だろう_____帝国軍でなければ。


「各部隊、魔法詠唱を開始せよ!突撃準備ですわ!」


ハツヒナの号令で東方防衛軍第二師団の各団長が各部隊へと指示を出すと、全兵士が魔法術式を展開し、防護魔法を発動する。

 ハツヒナ軍が発動した防護魔法は、土属性の中級防護魔法の『サンドストーム・アーマー』。

自身の肉体の周囲に、物理攻撃だけではなく魔法攻撃の威力も軽減できる砂嵐を発生させ、接近戦になれば受け流しや目潰し効果も期待できる魔法だ。

 そして、ハツヒナ軍が使用したサンドストーム・アーマーには、これに更なる効果が追加されている。

 『特殊STAGE』の性質変化を使って浄化の力を追加し、毒耐性、呪い耐性の効果もある砂嵐の鎧だ。

魔族と戦う事が多い東方軍ならではの改良がされている。

 こういった対魔族用に改良された魔法を使い、例えば、サンダーラッツの隊長達でさえ戦闘不能にしてみせたストーンバジリスクのポイズンブレスなんかも、東方軍の末端の兵士達は防いでみせるのだ。

長年の戦闘経験で得た知識。それに基づいた対策。そしてそれの練度。オーマは対魔族軍とまで呼ばれる東方軍の強さを垣間見た。


「アース・リンク!」


 ハツヒナ軍が防護魔法を発動し突撃準備に入ったところで、今度はハツヒナが魔法を発動した。

アース・リンクで泥濘を土で埋め立てて、足場を固める。

中級魔法で比較的簡単で広範囲に効果を及ぼせるものではあるが、ハツヒナの魔法効果範囲は数百メートルにおよび、東方防衛軍第二師団全軍をカバーできるほどの広さと、その効果範囲は尋常でなく、ハツヒナが並の魔導士ではない事を証明した。


(なるほど・・・師団長一人で味方全員の足場を固められるなら、全部隊が突撃準備をしても問題は無いってワケか・・・すごいな。それにタイミングも完璧だ)


 ハツヒナは、カウンターを狙っている魔獣達と、突撃準備をしている自軍との間合いを完璧に計り、自軍の突撃が最大限の効果を発揮するタイミングを見計らって足場を固めていた。

そのことで魔導士としてだけでなく、指揮官としても戦上手だと分かる。


(やっぱり第一貴族だな・・・。いや・・・なめていた訳ではないんだが・・・)


 ハツヒナの普段の振る舞いは、どこか戦離れ・・・いや、浮世離れしたものだったため、戦う人種とは思えぬ雰囲気があった。

だが、いざ戦が始まれば、そんな浮世離れした優美な令嬢はどこへやら、第一貴族らしい強者ぶりを見せつけていた。


「突撃ィィィイイイ!!」


「「うおーーーーー!!」」


その強者は、更に強者らしく覇気のある声で突撃命令を出した。


 号令に従い、突撃を開始した東方防衛軍第二師団____。

その突撃速度は重厚な鎧を着用していながら、軽装鎧のロジの突撃隊に匹敵する。

そして、そんな速度でありながら陣形は小隊ごとにちゃんと維持されており、術式を展開して集団攻撃魔法の準備に入っていた。

そこのタイミングもばっちりなので、東方防衛軍第二師団はハツヒナだけでなく指揮官も兵士も優秀だと分かる。


(これは____)


その様子を見て、オーマにはこの後の展開がはっきりと分かった。


「行けぇええええ!!」


「「グゥォオオオオ!!」」


東方防衛軍第二師団が攻撃魔法の準備に入ったところで、魔族軍の指揮官が攻撃命令を出す。


(遅いよ。間に合わない)


 オーマは心の中で、そう呟く。

 帝国軍はすでに攻撃準備に入っている。

このタイミングでの突撃では、魔族軍が帝国軍に届く前に、帝国軍に攻撃魔法を撃たれてしまう。

魔族軍の指揮官は、完全に突撃のタイミングを見逃してしまった。

集団戦での間合いの取り方は、ハツヒナの方が数段上という事だった。


(___どうなる?)


オーマの関心はすでに、その帝国軍の先制攻撃がどれほどの効果になるのかという事に移っていた____。

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