表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
153/358

見えたヤトリ突破口

 (あー・・・やっぱ、無茶だったか・・・ジョウショウがこの配置を決めた時から嫌な予感してたんだよなぁ)


 ヤトリが以前、会議に出席したくない理由はハツヒナが居るからだと言っていたのを聞いて、オーマは会議の段階で薄々ヤトリがハツヒナとの連携に反発する事を予想していた。

予想はしていたものの、第一貴族を相手に・・それも嫌われている本人を前にして言えるわけもない。

一応、それとなく反対してみたものの、結果は変わらなかった。

 実はジョウショウのこの采配もマサノリの指示で、オーマのヤトリろうらくが捗るからと言われての事なのだが、当然そんな事を知らないオーマは内心でジョウショウを恨んだ。


 (くっそ・・・だが、何とかしなければ)


とはいえ、任務放棄なんて帝国軍の人間としても反乱軍の人間としても許されることではないため、オーマは何とかしようと知恵を絞る____


(副長!ヘルプ!)


____出た結果は、自身でどうにかできる気が全くしないので、ヴァリネス姉さんを当てにする事だった。

 オーマはいつものアイコンタクトで、ヴァリネスに助けを求めた。


(いや・・私も自信ない)

(そこをなんとか!俺よりはましだろう!?)

(はあ・・・まったく。期待はしないでね)

(期待してます!)

(するなって言っとろーが!!)


オーマにアイコンタクトでキレながら、ヴァリネスしぶしぶヤトリの説得を試みる。


「ねぇ、ミクネ」

「ミクネ?」


ヴァリネスの“ミクネ”呼びに反応して、ハツヒナの眉がピクンと上がった。


「何だ?ヴァリ」

「ヴァリ・・・あだ名」

「?」


ハツヒナはヤトリの“ヴァリ”呼びにも反応して呟いたが、その言葉は誰にも聞こえていなかった。

だが、その呟きをした時に、少しだけ“独特の気配”をハツヒナが漂わせたことには、その“独特な気配”を良く知るナナリーだけは気が付いた。


「私からもお願い。やっぱり作戦上、これが一番よ」

「ヴァリの頼みでも無理だ。てか、上手くやるなら私に任せれば良いだろう?あれ位なら私一人で、全滅させられるぞ?」

「つい先日の戦いで味方を巻き込みかけたろうに・・・」

「何だと!?今なんて言った魔王!」

「あ、しまっ・・・」


思わずツッコミを入れてしまい、ヤトリに噛みつかれたオーマは自分の失態を呪った。

 そして、ヤトリの怒りの矛先はオーマに向いた。


「だいたい魔王!貴様が悪い!」

「はあ?」


また理解しがたい難癖をつけられて、オーマの方にもスイッチが入り始める。


「貴様が私に教えなかったのが悪い!ちゃんと事前に言っていれば、こんな事にはならなかったんだ!!」

「なっ!?」


確かにオーマはこの作戦内容を直前まで言わなかった。だがそれは___


「お前が“いらん”と言ったんだろうが!」


___そう、ヤトリ自身が先の戦いの後「次はどんな事でもちゃんとやる!」と言って、オーマの報告を聞かなかったのだ。

ヤトリなりに先の戦いでの自分の行いを反省して、文句や注文は控えようと思って言ったセリフだった。


「うるさい!うるさい!この女と一緒になるなんて思っていなかったんだ!こいつと一緒になるなら、ちゃんと話せ!バカ魔王!」


____ブチッ


「何だとぉ!?」


そして、オーマにもスイッチが入った___。


「気の利かない奴だな!この魔王は!」

「うっせーー!そんなの分かるわけねーだろ!このわがまま焼き鳥!」

「何だとーー!?」

「ちょ、ちょっと止めなさいよ!二人共!」

「焼き鳥?」

「あっ・・・」


 ハツヒナはオーマの“焼き鳥”呼びにも反応した。

そのハツヒナの反応に、殆どの者がオーマとヤトリの喧嘩に注目して気付けない中、ずっとハツヒナの様子を見ていたナナリーは気付くことが出来た。

 ナナリーはマズイと思って、オーマをフォローするためにハツヒナに近づいた。


「また、あだ名呼び・・・羨ましい」

「え?」


フォローするために近づいたナナリーだったが、耳に入って来たのは、“同盟国の要人に対して失礼な呼び方をしたオーマに怒っている”というものでは無かった。


(どういうこと?・・・・・この方、もしかして・・・)


娼婦として働いていたナナリーは、ハツヒナの表情から一般的には読み取りづらい感情が見えた気がした。




 「いい加減にしないさい!団長!周りを見て!」

「は!?」


ヴァリネスに怒られて、すぐそばにハツヒナがいる事を思い出したオーマは我に返る。


「あ、いえ!ハツヒナ様!これは、その・・・」

「___オーマ殿」

「うっ!」


 言い訳をしようとしたオーマの言葉をハツヒナはぶった切る。

その口調にも表情にも優しさが有るように見えるが、それ以外の感情も混じっているような気がしてオーマに緊張が走った。


「も、申し訳ありません・・・」

「何を謝っているのですか?私は怒ってなどいませんよ。ただ、羨ましいと思っただけですわ」

「う、羨ましい?」

「ええ・・・。お互いをあだ名で呼び合っていて、ずいぶんと仲がよろしいようなので・・・私もヤトリさんとそうなりたいものです」

「ヒッ!?」

「ッ!?」

「あ、ああ・・・そういう意味でしたか」


失礼なあだ名で呼び合っているのを“仲の良い者同士の無礼講”と解釈されてオーマはホッと胸を撫で下ろした。

他の殆どの者達も、ハツヒナの言動に対してオーマと似た反応だったが、ナナリーは違った。


(やっぱりこの方・・・ああ、そういうこと。だからヤトリさんは____)


最初は気のせいだと思っていたナナリーだったが、二度目でハツヒナのヤトリに対する感情・・・欲情に確信を持った。

 そしてナナリーは一人、ヤトリがどうしてハツヒナをあそこまで嫌うのかを理解する。

ヤトリは、性的な目で見てくるハツヒナに生理的嫌悪感を抱いていて、それを色恋の経験がないから上手く言葉にできないだけなのだ、と____。

 ナナリーがそう確信した通り、ヤトリは自分でも理解できない悪寒に襲われて、思わず一番近くに居たオーマの袖を取って後ろに隠れてしまった。


「「あ・・・」」


 ヤトリのその行動を見て、ヴァリネス達はピンときた____。


「な、何だよ。くっつくな。今それどころじゃない」

「だ、だって・・・」

「・・・・・」


気付いていないのは、素人童貞のオーマだけだった・・・。


(あのバカ・・・)


せっかくターゲットが自ら接近してきてくれたというのに、そのチャンスを棒に振るオーマにヴァリネスはガックリと肩を落とした。


「本当に仲がよろしいですわね・・・」

「え?あ、いえ、そんな事ないです。こいつとは前から___」

「あ、はい!そうなんですよ!ハツヒナ様!ウチの団長とヤトリ様は意外と気が合うらしくて、意気投合しちゃってー」


いい加減察しの悪い素人童貞には任せておけず、ヴァリネスは会話に割り込んだ。


「へぇ・・・」


そしてハツヒナは、最初の“笑顔の無表情”のままだった。


「ちょ、ちょっと待て、副長。俺は別に___」

「そ、そうだぞ、ヴァリ。私はこんな奴と___」


慌てて否定しに来る二人に対してヴァリネスは、ヤトリには耳打ちで、オーマにはアイコンタクトで返した。


「いいから!言う通りになさい!ハツヒナと一緒に居たくないんでしょ!?」

「むう・・」

(そして、団長___貴様は黙れ)

(は、はい・・・)


 二人を黙らせると、ヴァリネスはどんどん話を進めていった。


「そういう訳でして、ウチの団長もハツヒナ様と連携する部隊に加えようかと思うのですが、よろしいでしょうか?」


「「ふえッ!?」」


 ヴァリネスの意外な提案に、オーマとヤトリの声がハモった。

予定では、ハツヒナのそばに付くのはヤトリと工兵隊のみで、残りのサンダーラッツはオーマ指揮の下、遊撃のはずだった。


「・・・オーマ殿を?」

「はい。やはりヤトリ様の態度を見ていると、その方が良さそうなので」

「ッ!」

「えーと・・何か差し障りがございますでしょうか?」

「いえ・・・特には。そちらの統率が団長不在でも取れるというのなら、私が反対する理由はございませんわ」

「それは問題ございません。副団長の私が責任をもって指揮を取ります」

「・・・そうですか。分かりました」


立場上、オーマ達のろうらく作戦のサポートをしなければならないハツヒナは、内心とは裏腹にヴァリネスの提案を了承した。


「では、我々は配置に付きますので、失礼します」


 そう言って、ヴァリネスは礼をして下がった。

下がってそのまま持ち場に戻ろうとするヴァリネスを、ヤトリとオーマは“訳が分からない”といった態度で追いかけるように詰め寄った。


「お、おい、ヴァリ。どういうことだ?」

「この方がマシでしょ?ハツヒナと一緒にいたくないと言っても、もう作戦変更はできないわ。なら、団長を盾にしてさっさと戦いを終わらせた方が良いでしょ?」

「む・・そ、それはそうかもだが、何で魔王なんだ?ヴァリじゃダメなのか?」

「ダメよ。団長以外じゃミクネとハツヒナの間に入れないもの。団長は立場も身分も低いけど、一応作戦会議にも出席できているわけだし」

「あ!そうそう、それって一体何で____」

「というわけで、ハツヒナに絡まれたら団長を使って乗り切るのよ?頑張って!私はもう行くから!」

「あ!ちょ___」


ヴァリネスは言うだけ言うと、時間が無いとばかりにナナリーを連れていそいそと持ち場に戻って行った。

そしてその去り際に、サレン、ウェイフィー、シマズの三人に目で合図を送った。

 ヴァリネスの意図を理解していた三人は、頷いてこれに答えた。


「どうなってんだよ・・・一体」

「なんなんだぁ?」


オーマとヤトリだけが、ヴァリネスの意図を理解しておらず、困惑していた。

困惑した二人の間に微妙な空気が流れながら、ベーベル平原の戦いは始まるのだった_____。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ