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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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次の戦場はベーベル平原

 ヤーマル砦攻略から一夜明けた次の日の昼、オーマは再び軍議のためにジョウショウの天幕に足を運んだ。

被害も無く勝利した事と、ヤーマル砦が防衛施設としては機能しない事で、事後処理に掛かった時間も少ない。

そのため、さっさと次の戦いの話に移ろうという事だ。

だが、次の戦いの話に移る前に、オーマにはジョウショウ、ハツヒナ、ウザネに対してすべき事が有った。


「___大変申し訳ありません!」


 オーマは三人の前で土下座していた。

先の戦いで、ヤトリがヤーマル砦を崩壊させたことに対して、指揮官として謝罪しているところだ。

そういう訳で、元々居心地の良くなかった三人との会議の場で、更に居心地の悪い思いをしていた。


「謝罪だけで済むと思っているのか貴様は!ジョウショウ閣下は砦を制圧しろと言ったのだぞ!誰が破壊しろと言ったのだ!!」


頭を下げるオーマに説教しているのは主にウザネで、容赦なく罵声を浴びせていた。


「まあまあ、ウザネさん。それ位にしておきましょう。オーマ殿もわざとやったわけではないのですから」

「ハツヒナ様!?ですが!」


 怒るウザネを宥めながら、ハツヒナはオーマをフォローする。

例によっての第一貴族の“飴と鞭”なわけだが、ウザネは理解していないだろう。

弁護されている立場なので何も言えないが、オーマは心の中では“らしいな・・・”と吐き捨てる。

このまま第二貴族が折れて、寛容に見える第一貴族の株が上がるというパターンだろうとオーマは思っていたが、今回は違っていた。


「私達でもヤトリさんは制御できないのですから、オーマ殿のせいにしては可哀想ですよ。私はむしろ、無傷で勝利できて凄いと思いますわ」

「____ッ!?」


 ハツヒナがオーマを褒めると、ウザネはギッ!と奥歯を噛み締めてオーマを睨みつけた。


(くそ!また余計な一言を!勘弁してくれよ!)


またハツヒナの、“オーマを持ち上げている様でウザネを煽っている”と思われる一言で、オーマはウザネに殺気の籠った視線を送られた。

そして例によって、言い回しが微妙なため故意によるものなのか、偶然なのか判断できなかった。


(まあ・・・分かったところで、第一貴族相手じゃ止める術もないのだが・・・)


それでも判明した方が、精神衛生上良いだろう。

これからあと何回行うか分からない会議で毎回この調子では苦しい。オーマが背負う負担はこれだけではないのだから。

 何か謙遜する言葉を言うべきだろうか?むしろそうした言葉は、余計にウザネの神経を逆撫ですることになるだろうか?と、そんな風にオーマがどうしたものかと悩んでいると、ジョウショウが割って入ってきて話を進めてくれた。


「ハツヒナの言う通りだ、ウザネ。ヤトリ様の事は予め予想していたし、アマノニダイも目をつぶると公言している。砦を壊したといっても、元々利用価値は無い。あそこを落としたのは、後顧の憂いを断つためだ。自軍に被害が無いなら、問題は無い。話を進めよう」

「そうですわ」

「う・・・」

「ほっ」

「それで今後の予定だが、ヤーマル砦陥落後の敵の行動はDパターンだった」

「あら、意外ですわね。イノシシになってくれていたら、ことはもっと上手く運びますのに。残念ですわ」


 これからスカーマリスを攻略する上で、ジョウショウはヤーマル砦を落とした後の敵の反応を何パターンか予想していた。

三人の予想では、自領を侵された魔族の長が感情的になって反撃に出て来るというのが予想の本命だった。

とはいえ、魔族の長達が冷静に状況を把握して連携する事も予想の範囲内であったため、全員の反応は薄目だ。


「敵は今、ベーベル平原に戦力を集結させていると斥候から報告があった」

「場所は予想通りですが、動きは思っていた以上に早いですね」

「ああ。あの落ちぶれ共にしては頑張っている」

「数はどれほどなのでしょう?」

「今現在で五千を超えている。まだまだ動員する動きが有るから、ありがたい事に一万を超えてくれるだろう」

「バカ正直ですね。やはり落ちぶれ魔族です」

「ウザネさん。皆まで言ったら可哀想よ?」

「ですが、自分ならばベーベル平原に送る兵力は四千~五千に留めて戦力を分散させて、もっと上手く戦います」


ハツヒナに褒めてもらいたいのか、ウザネはそう得意気に言って、自分の考えを披露した。


 魔族側に立った場合、戦力を分散させた方が守り易いだろう、というのがウザネの意見だ。

ベーベル平原に部隊を展開されると、攻め手側は無視できない。

これに対して、敵側がとった行動は、これ以上自領へ攻め込ませまいと戦力を集中させているわけだが、ウザネはこの考えを否定する。

 ウザネは、あえて数を抑えて伏兵を匂わせることで、“他に何かある”と思わせた方が牽制になるという。

そして、魔族にとってはその方が有利になると考えていた。

 帝国が強くなったとは言っても、帝国が魔族に対して有利に戦えるのは、発展した魔法技術、経験で蓄えた魔族に関する知識、そして集団での連携だ。

個々の力はやはり魔族の方が強い個体が多く、少数の戦いでは未だに魔族の方が有利だろう。

単純に、数が多ければ多いほど人間側にとって有利で、数が少なければ少ないほど魔族側に有利ともいえる。

荒廃したスカーマリスの地も、人間より魔獣などの生態に有利に働く環境だ。

ゲリラ戦は魔族側の方が有利だろう。

 ならば、魔族側は戦力を少数精鋭にして、人間側に伏兵や兵站線の断絶を匂わせつつ、敵を分断して各個撃破した方が優位に戦える。

 それに帝国は、これまでのスカーマリス魔族の生態調査で魔族側の総戦力を凡そではあるが把握している。

ベーベル平原に一万以上もの戦力を集結させてしまうと、後はほとんど拠点の防衛戦力くらいの数しか残らないと判断できてしまう。

そうなると、他所の兵の配置も悟られてしまうため、そういった意味でも魔族側の動きは安易だとウザネは言う。


 このウザネの意見にはオーマも同意できた。


「魔族側は本当に何も考えていないのでしょうか?」


 同意した上で、素朴な疑問を口にしてみた。

すると、ジョウショウが答えてくれた。


「こちらの目的を探るくらいの事はしてくるだろう。だが、その程度だ。この段階でこちらの目的を探るのに戦力を割いているようでは話にならん。まあ、個人的には他の策が有ってくれた方が楽だがね」

「それはどういう意味ですの?ジョウショウ閣下」

「我々の本当の目的は、タルトゥニドゥでディディアルを操った黒幕を見つける事だ。そこから考えた場合、こちらの読みが外れてくれた方が判断しやすい。・・・これは個人的な意見だが、私はこのスカーマリスに元魔王軍幹部を操って、帝国を出し抜くなどという策謀ができる者などいないと思っている。今回のヤーマル砦陥落後の場当たり的な対応からも、そう確信している。だからもし、この場当たり的な対応以外で、こちらを嵌める様な予想外の動きが有れば、それは逆にこの地の魔族以外の策謀家がいるということだ」


 ジョウショウは、敵の動きを予想しきる自信が有るという事だ。

だからジョウショウは、“自分の予想が外れた場合は、こちらが読み間違えたわけでもなく、相手が読みを外したわけでもなく、別の存在がいると断定できる”というわけだ。

 自分の判断に自信が無ければ言えない意見だ。

ジョウショウは自分に自信が有る。

そして、これは決してハッタリではないだろう。それが第一貴族だ。

今のところも本命こそ外れたが、敵の動きはジョウショウの予想した幾つかのパターンの範疇である。


「「なるほど」」


自分達の思惑が外れた方が、自分達の作戦にとって都合が良いというのは奇妙な話だったが、ジョウショウの言い分は全員が理解できた。


(個人的にはそんな奴いてほしくないがな・・・)


 オーマは心の中でそう吐き捨てる。

 ハツヒナとウザネの相手、ヤトリのろうらく、勇者候補たちのオーマの奪い合いと、現状ですでに自分の手に余る事態となっているオーマにとっては、歓迎できない話だ。


「なんにせよ、次はベーベル平原だ。そこで集結した魔族軍を撃破する。その後や、そこで展開される敵部隊を見れば、また何か分かるだろう・・・まあ、分からなくても問題無いが」

「かしこまりました。ヤーマル砦では完全にオーマ殿の部隊に任せてしまいましたから、ベーベル平原では我らも奮闘しなくてはですね、ウザネ?」

(あ、また・・・)


ハツヒナの言い方にオーマは嫌な予感がした。


「ハッ!お任せください!サンダーラッツごときに後れは取りません!」

(やっぱり・・・)


案の定、ウザネは鼻息荒くそう宣言し、オーマを睨みつけた。

協力する間柄なのに、ハツヒナのせいでウザネに対抗意識を持たれてしまい、オーマはまたストレスを感じた。


 「そうだな。次の戦いではハツヒナとウザネにも頑張ってもらう。だが、サンダーラッツにも引き続き奮闘してもらうぞ、オーマ殿。そういう編成なのだ。それに、例の黒幕が暗躍していた場合、我らの予想外の事態が起こる可能性が有る。その時は勇者候補に対処してもらう事になるだろう」

「ハッ!了解しました」


元々勇者候補の活躍を想定した編成なのだから、オーマたちが戦場に駆り出されるのが多いのは当然で、連戦になってもオーマに異論は無かった。


「ではベーベル平原での戦いの基本方針はそれとしよう。それでは陣形だが、敵が各地方から戦力を集結した場合____」


そのままの流れで、話はベーベル平原での部隊編成と陣形の事になり、その検討をしてこの日の会議は終了する。

 そして翌日、補給を終えたスカーマリス攻略軍はベーベル平原へと進軍する。

ベーベル平原に到着後、敵戦力を把握してから、もう一度軍議を行い作戦の修正をすると、いよいよベーベル平原の戦いに臨むのだった____。

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