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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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スカーマリスの准魔王たち(前半)

 スカーマリスの中心部から北北東に少し進んだところのエリスト海岸に大きな城がある。

名はオータム城。ヤーマル砦と同様に、前魔王の滅ぼされた人間の国家の施設だ。

 ただヤーマル砦とは違い、ここに住んでいる魔族は高い知能を持っているため、今もこの城は住居としても防衛施設としても機能している。

いや、むしろ上級魔族達の手によって高度な魔法技術が導入されていて、人間が住んでいた時よりも住人も施設も強化されている。


 オータム城の主人は今、赤く綺麗な絨毯が敷かれただけの何もない地下の広間いる。

名は、シーヴァイス____。

 190センチメートル程の人型の魔族で、青白い肌でなければ魔族とは分からないほど人間に似ている。

目鼻立ちがしっかりした端整な顔立ちに、黄緑色のカール&ウェーブのアップバングヘアで男らしい色気と清潔感がある。

加えて、立ち姿も姿勢が良く、黒いタキシードを着ている事もあって紳士的に見えるため、人間の女性でさえ容易く虜にするだろう。

まるで、若い容姿端麗な人間の男性といった姿だが本当の姿は違う。

 シーヴァイスの本来の姿は、ウミヘビの様な見た目の体長30メートルにもなる巨大な海獣だ。

前魔王大戦で“大災害”という二つ名が付いた海の王者リヴァイアサンで、前魔王にエリスト海の支配を任されて以来、エリスト海の魔族支配権を守り続けている元魔王軍幹部の一人である___。



 「おい!シーヴァイス!いつまで待たせる!?本当にあの二人は来るのか!?」


 広間にはもう一人いて、その人物は魔王軍幹部だった最上級魔族のシーヴァイスに当たり散らすように声を掛けた。

 体格は縦も横も人間形態のシーヴァイスの倍以上は有る巨体を持つ、人型の黒いワニ。

名前は、バルドールという。

リザードマンという爬虫類型の獣人魔族で、バルドールはその最上位種のブラック・エンペラーと呼ばれるリザードマンだ。

ブラック・エンペラーのリザードマンは、高い闘争本能を持った獰猛な種族な上、硬い鱗と強靭な肉体、尻尾、牙を持っていて、生まれたばかりでも大抵の獣を捕食できてしまうほど強い。

上級魔族らしく、強者として生まれ、弱者を蹂躙する為に生きる様な獣人だ。

 バルドールはそんなブラック・エンペラーの中でも更に強力な個体で、他のリザードマン達とは違い鱗それ自体が魔力を持っており、物理防御力だけではなく、生まれながらに高い魔法防御力も持っていた。

その為、その4メートル近くある黒い巨体からは想像できないほど魔法にも長けている。

その生まれながらに魔法の才にも恵まれ、魔力を帯びた黒い鱗を持っていることから、“黒檀宝珠”の二つ名を持っている元魔王軍幹部で、シーヴァイスと同格の存在である___。



 「案ずるな、バルドールよ。この緊急事態だ。二人共必ずやって来る」


バルドールが低くドスの利いたしゃがれ声で当たり散らすのに対して、シーヴァイスの方は澄んだ落ち着きのある声で宥める。

それに効果が有ったのかは分からないが、バルドールは当たり散らすのは止める。

だが、腹の虫は治まっていないのか、不満は止まらなかった。


「まったく・・・貴様がどうしてもと言うから待っておるというのに・・・そもそも何故、自分の領地を奪われて黙っていなければならん」


 バルドールはスカーマリスの南西部のアマズルの森に面した平原や沼地を支配している。

つまり、バルドールの言う奪われた自分の領地とは、ヤーマル砦の事だ。

今まで自分の領地だったヤーマル砦がドネレイム帝国によって落とされたという報は、その日のうちにバルドールの耳に届いた。

勇猛で獰猛で盲進なバルドールは、この報を聞いて直ぐに報復のために反撃に出ようとしたが、同じくその日のうちに帝国の侵攻を知ったシーヴァイスに止められたのだった。

 理由は言うまでも無く____


「帝国は侮れん。それに、今までこちらの戦力を削る小競り合いだけだったのに領土侵攻してきたのは、他に目的が有るからかもしれない」


戦場に立てば“大災害”と謳われるほどの戦いを見せるシーヴァイスだが、好戦的で感情的なバルドールと違い、この状況に対して冷静だった。


「“侮れない”?・・・フンッ!たかが人間を侮ったところで何だと言うのだ!」


 だが、バルドールはその冷静な判断自体が気に入らない様子だった。

バルドールは魔王軍幹部として、一軍をまとめ上げているだけあって、けっして物事を考えられない無知という訳ではない。

ただ生まれながらに強者であったため、感情のままの暴力で大抵の事は解決できてしまっていた。

そのため“冷静”とか“慎重”、“戦術”や“策略”といった言葉と縁が無かったのだ。

 そんな、今まで暴力だけで己を通して来たバルドールにとっては、人間に対して何かを気にするという事自体が有り得ない事だ。

人間が道の端を歩く蟻を“侮らず冷静になって対処する”といったことが無いのと同じだ。

格下の人間という弱者に対して“侮るな”と言われること自体が屈辱と言ってよかった。


 「ヒャッヒャッヒャッ!随分長生きしておるくせに、相変わらず短気じゃのうバルドール」


 そんな怒りを顕わにするバルドールに、老人のからかい声が入って来る。

その声の持ち主は、殆ど足音を立てずにヌーっと広間の中央にやって来た。

 姿は人の形をしているが、顔は獅子で白い毛並。爬虫類型の獣人のバルドールとは違う獣型の獣人だ。

白を基調に金糸の刺繍が入ったローブを纏っており、宝石の付いたゴツゴツの金の装飾品を首と腕に着けて、同じく宝石がゴツゴツ付いた杖を握っている。

 そのゴテゴテした装飾品のせいで成金に見えるが、そういう訳ではない。

この人物は、そういう見た目だけを飾るのはむしろ好きではない。

彼の身に着けている物は、装飾品、杖、ローブ、服、ブーツに至るまで魔法が付与された魔道具だ。

戦うための装備という点でシーヴァイスやバルドールより、良い身なりをしている

 名をジェイルレオと言い、シーヴァイス達と同じ元魔王軍幹部の一人である。

獅子の獣人で、バルドールに負けず劣らずの体格をしているが、バルドールの様な獰猛さは無く、その代わりに挑発的な目をしていて人を食った態度をしている。

シーヴァイスやバルドールより二百歳は年が上で、その見た目とは裏腹に老獪な魔術師である。

 獅子の獣人は獰猛で自慢の肉体を武器とする者が多いが、ジェイルレオは同種の中では非力だった。

そのため、幼少の頃は同種から除け者にされる、いわゆる“いじめられっ子”だった。

だが、秀でた魔力と高い知性をもって生まれていた為、魔導の道を歩むと事態が好転する。

あっという間に、自身で魔道具を創造できるほどの技(帝国の基準で言うSTAGE6(付与))を会得して、強者の立場になり、自分をバカにしていた者達を亡き者とした。

 それで味を占めたジェイルレオは、そのまま魔道具の研究にのめり込み、魔道具によって自身の肉体を改造するようにまでなった。

そして終には、自身で作成した“レジネスハート”という魔力を強化する魔道具を心臓に埋め込むことによって、魔王軍幹部の地位にまで昇る強さを得た。

 その多彩な魔術は“百式”と形容され、その知識で己すらも改造した事と合わせて、“百式改獣”の二つ名で呼ばれるようになった____。



 「チッ!ようやく来たかジジイ。遅せーんだよ」

「ヒャッヒャッヒャッ、すまなんだ。だが、若者を待たせるのは老人の特権ぞ?許せ」

「何、下らねぇ事言ってんだ____って、おい」


 軽口を言うジェイルレオにバルドールが詰め寄ろうとしていると、何も言わずにカッカッカッとハイヒールの様な足音を立てて二人の間を通り過ぎた女性が居た。

背丈はシーヴァイスの顎下位までしかないが、両腕の翼はシーヴァイスの身長と同じ位の大きさをしている。

ハイヒールの様な足音の正体は爪____ハーピィだ。

だが、ハーピィは鳥類の翼を持つはずだが、その女性の両腕の翼はドラゴンが持つ様なゴツイ蝙蝠羽だった。

ハーピィの変異種、ドラゴン・ハーピィの女性。名前はメテューノ。

ここに集まったシーヴァイス達同様に元魔王軍幹部で、幻獣の雷竜と魔族のハーピィとの間に生まれた幻獣と魔族のハーフだ___。



 「おい!メテューノ!何、黙って通り過ぎようとしてんだ!一言あってもいいだろう!」

「相変わらず貴様は五月蠅いな。この距離でそんな大声出さなくても聞こえる」

「なら、詫びの一つも言えよ」

「仕方が無かろう?私の居城からこの城は遠すぎる。遅刻くらい大目に見ろ」

「この女ァ!」


メテューノは悪びれも無くそう言い放つ。

実際、メテューノが治めるスカーマリスの地域は北東の山岳地帯なので、距離は一番遠い。

なので、言い訳になりそうではあるのだが・・・


「ウソつけ!てめーの翼は飾りじゃねーだろ!」

「ヒャッヒャッヒャッ!確かに、そうでなければ“空の怪威”などとは呼ばれんな」


 メテューノは、ハーピィの小回りの利く旋回能力と、雷竜の驚異的な推進力を併せ持つことで、魔族の中でも比肩できる者が居ないほどの飛行能力を持っている。

その魔族の中でも珍しい変異種である事と空中戦において無類の強さを持つことから、“空の怪威”の二つ名を持ち、若くして魔王軍の幹部に上り詰めた強者だ。

 そんなメテューノが空を飛べば、自身の根城からこのオータム城まで来るのにそう時間は掛からないはずで、バルドールはそれを指摘している。


「フンッ!あー、もう!身体は大きいくせに器は小さい奴だねぇ!いいじゃないか!私が最後って訳じゃないんだろ?そこから先は、あの“枯れ木”に言っとくれ!」

「枯れ木ぃ?・・・ディディアルなら来ないぞ、メテューノ」

「はあ?“准魔王”の緊急招集なんだろ?」


メテューノは、自身の支配地が辺境である事と奔放な性格もあって、世情に興味がなかった。


「まったくお前さんは、どこまで世間知らずなんじゃ。奴はタルトゥニドゥに行って、そこで命を落とした」

「へ?そうなの?・・・ふん、でかい口叩いていた割に対した事ない奴ね」


世情に興味が無く自身の好きに生きているため、メテューノは事の重大さに気付いておらず、“元同僚が馬鹿やって死んだ”くらいのノリだった。


「じゃー今日の緊急招集って、奴の支配していた地域を誰が仕切るか?とかなの?なら帰るわ。あの枯れ木にもタルトゥニドゥにも興味無いし、あいつの支配権の管理なんて面倒だからあんた達の好きにして」

「いや、そうじゃない。ディディアルが死んだ事と今回の招集は関係・・・するかもしれないが、もっと大事だ」

「ついでに言えば、お前さんはそう言うと思って、ディディアルの支配地域などとっくにわしらだけで分配しておる」

「俺が言えた義理じゃねーが、お前は政に関心無さ過ぎだ」

「ふん・・・じゃーどういう招集なの?大事って何?」

「帝国が攻めて来た。しかも今までの様な小競り合いではなく、バルドールの管轄のヤーマル砦を落とした」

「完璧に宣戦布告じゃのう」

「ッ!?」


“帝国”というキーワードに、メテューノの表情がやる気のない放蕩魔族から一軍の将のものに変わった。


「もし、奴らが本当にこのスカーマリスを攻略するというのなら、准魔王の我ら全員で協力せねばならん」

「・・・分かったわ。詳しく聞かせて、シーヴァイス」

「もちろんだ。では早速、対策会議を始めよう___」


 シーヴァイスのその一言で、スカーマリスを治める長達は改めて向き合う。


 スカーマリス北西、エリスト海とその海岸地域を治めるリヴァイアサン、“大災害”シーヴァイス。

スカーマリス北東、大陸最果ての山岳地帯を治めるドラゴン・ハーピィ、“空の怪威”メテューノ。

スカーマリス南西、平原地帯と湿地帯を治めるブラック・エンペラー・リザードマン、“黒檀宝珠”バルドール。

スカーマリス南東、平原とアマズルの森の一部を治める獣人魔導士、“百式改獣”ジェイルレオ。

 これに、スカーマリス中央を治めていた召喚魔導士、“百花召喚”ディディアルを加えた元魔王軍幹部の五人が、魔王亡き後もスカーマリスを支配してきた“准魔王”と呼ばれるスカーマリス魔族の長達だ。

 帝国の軍事侵攻を受けて、百年もの間バラバラだった准魔王達も本格的に動き出すのだった____。

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