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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
147/358

ヤーマル砦攻略を終えて・・・

 スカーマリス攻略初戦。ヤーマル砦の制圧・・・もとい、殲滅が終わって夕方___。

普段なら酒が振る舞われて、簡単な祝勝会などが開かるのだが、サンダーラッツ幹部、勇者候補、通信兵と、主なメンバーはオーマの天幕に集まって、険悪なムードを漂わせていた。


「「どういうつもりだッ!!」」


特に怒りを顕わにしているのはオーマとウェイフィーで、二人は声を揃えて怒鳴り、ヤトリに詰め寄っていた。


 理由は言うまでもない。


「ん、んだよー・・・誰も死んで無いんだからいいだろ」


怒る二人にヤトリは、少し落ち込んだ様子で言い訳していた。


 確かに今回の作戦で味方に死者はいない。どころか、負傷者すらいない。

砦の外に出てきたハイエルフ・タイガーは工兵隊の罠で殆どを潰し、残ったのもサレンが近寄らせる事すらさせずに殲滅した。

ヤトリの“あの”魔法も規模が規模だっただけに、シマズから伝令を受けるまでも無く、オーマ達は危険を察知して砦への侵入を中止したため、巻き込まれた者は居ない。

だが___


「「そういう問題じゃない!!」」


「う・・・」


 オーマとウェイフィーは再び声を揃えて怒鳴った。これの理由も言うまでもない。

“誰も死ななかったんだから良いだろう?”には、“誰かが死んでいたらどうするんだ!?”なのだ。


「「・・・・・」」


他のメンバーも、何も言わないがその表情と放つ気配はオーマとウェイフィーに同意するものだった。


「ん、んだよー・・・ちょっと調子に乗っちゃっただけじゃんか・・・」


皆からの非難にさすがに悪いと思ったのか、ヤトリはやっぱり少しだけばつが悪そうだった。

このヤトリの態度は、帝国人に対して物凄く意外な事のはずなのだが、怒る一同は気が付いていなかった。

 オーマ達の怒りはもっともだが、過ぎてしまった事でもある。

更にはこれからの作戦の事も有るので、誰かがオーマ達を宥めてお終いにしなければならない。

 その役目はヴァリネスしかいなかった。


「はい!ミクネも反省しているみたいだし、それ位にしましょ、二人共」

「副長・・・」

「いや、だがな?副長___」

「 “だがな?”、じゃない」


オーマはヴァリネスに詰め寄ろうとしたが、逆にヴァリネスに“計画を忘れるな!”とアイコンタクトで注意されてしまった。


(むう・・・)


そう言われては__とオーマが大人しくなったところで、他の者達も留飲を下げ、そのまま解散となる。

 ヤトリはサレン達勇者候補と共に自分の天幕に戻って行き、残ったのはサンダーラッツ幹部と通信兵達だけになる。


 そうなったところで、今度はヴァリネスの愚痴が飛ぶのだった。


「まったく・・・気持ちは分かるけど、作戦序盤で詰め過ぎよ。特にそこの二人」


「「うっ・・・」」


ヴァリネスに詰められて、今度はオーマとウェイフィーが少しばつが悪そうだった。


「で、でも、あんな突拍子も無く危険な魔法を使うなんて・・・」

「そうだぞ。死人が出ていたかもしれないんだ」

「出なかったじゃない。結果オーライよ」


ヴァリネスは“何てこと無い”といった風に、あっけらかんとした口調で言った。


「い、いや、それじゃ済まないだろ!?」

「馬鹿ね、済むわよ。少なくとも私達は。だって、私達だって危険な作戦を強行したりして来たじゃない。それを“結果良ければ全て良し!”で済ませてきたのは誰よ?それとも何?自分の作戦なら味方を危険にさせても良いけど、ヤトリの魔法はダメなの?」

「う・・・」


正論を言ったつもりだったが、“昔のお前もそうだっただろ?”と返されてオーマは詰まってしまった。

 確かにオーマも、ヤトリほどではないが昔は無茶な作戦や危険な賭けは何度もして、それなりに無鉄砲だった。

ヴァリネスの言い分は事の良し悪しではなく、“自分達もそういう部分は有るだろう”という言い分で、オーマには否定できないものだった。


「むう・・・」

「ね?だから、もう怒るのはお終い。説教だってしたんだし、ミクネも悪かったと思っているんだから」

「副長、今回はずいぶん大人だな・・・」

「すごく冷静」

「“今回は”は余計よ。だって団長がそうなら、私がこうならなきゃでしょ?それに、作戦自体は順調だしね。ミクネの好感度が最初に会った時のままなら、悪いとすら思っていなかったはずよ」


「「確かに・・・」」


 そう、ヴァリネスの認識は正しい。

そもそも帝国嫌いで、あわよくば帝国兵を亡き者にして戦力を削りたいとすら思っていたヤトリが、その帝国兵を危険な目に遭わせて“悪かった”と思っているのだ。

オーマ達が思っている以上に、この短い期間でヤトリの好感度は上昇しているのだ。


「でも、一体何故・・・いつの間に勝手にそんな事になって____ぐふぅ!?」


オーマが自分の疑問を言い終える前に、ヴァリネスの拳が腹部に突き刺さった____。


「ぶん殴るわよ、団長」

「も、もう殴ってます・・・」

「うるさい!貴方がやる気出せない間、人に任せておいて何が“勝手に”よ!」

「・・・もしかして、副長のおかげ?」

「他に誰がいるのよ?代わりにミクネと打ち解けておくって言ったじゃない」

「・・・・・」


 そう、ここ数日、サンダーラッツ幹部達が尻込みしている中、ヴァリネスは一人ヤトリと交流していた。

ヤトリがウェイフィーの感謝の言葉にツンデレたりしたのも、ここ数日でヴァリネスがヤトリとの仲を深め、サンダーラッツ自体に好感を持ってもらえたからだった。


「本来“誰かさん”がやらなきゃならん事を人にやらせておいて“勝手に”とは何事かぁあ!!」

「も、申し訳ありません・・・」


もっとも過ぎるヴァリネスの言い分に、オーマは心底申し訳ないと思い猛省する。

猛省しつつ、“やっぱ俺って実行役に向いてないよなぁ・・”とか、“副長の方が適任じゃね?”等と自己嫌悪にもなっていた。


「副長って本当にコミュニケーション能力高いですよね」

「団長よりこの作戦に向いてるんじゃねーの?」

「それは俺も本当にそう思う」


なので、フランの言葉にオーマは完全に同意だった。


「イェーイ♪ありがと♪・・・って、でも正直、私だけの手柄って訳じゃないと思うのよね」

「え?そうなんですか?」

「どういう事です?」

「何と言うか、もう既にこちらに興味を持ってくれていた感じなのよねぇ・・・理由は多分“あれ”だわ」

「“あれ”?」

「今回良いところ無しの団長がやったドジよ」

「ドジ?・・・何だっけ?俺そんなドジなんて____へぐぅッ!?」


オーマが言い終わる前に、再びヴァリネスの拳が腹部に突き刺さった_____。


「ぶん殴るわよ、団長」

「も、もう殴ってます・・・」

「まったく・・頭に血が昇って覚えて無いの?団長が自分で反乱軍であるようなこと言っちゃったでしょ?」

「あっ・・・」


言われてオーマは直ぐに思い出せた。


「もしかして・・・」

「うん。多分、私達の事を帝国の反抗勢力なんじゃないかって疑っているわ。一緒に居て、さり気なく探って来ているから・・・モロバレだけど」

「そ、そうか・・・」


 オーマの中でさらに気まずい気持ちが湧いてくる。

自分自身で振り返っても、さすがに迂闊だったとしか言えない。


「すまん。副長。あの時の俺は、本当に迂闊だった」


 オーマは改めて、ヴァリネスと向き合って謝罪した。

今回の作戦が始まってからずっと調子が悪く、ヴァリネスに頭を下げ続けているオーマは、ここでもまた頭を下げるのだった。


「はあ・・・今回は本当にらしくない事が続いているわね。そうやって私に謝るの何回目?」

「さあ・・・?」


オーマ自身も調子が悪いと思っており、ヴァリネスにも指摘された事で、オーマは自分の不調をはっきりと自覚する。


(きっと、ヤトリとは相性が悪いんだろうな・・・)


 オーマはそう結論を出す。

本当に相性が悪い相手というのは、“合わない”、“合せられない”なのではなく、“合わせる気になれない”ものなのだと悟った。

 女性を口説くのが苦手なので、今まで相手にどうアプローチするかという事ばかりに頭を悩ませていたが、それとは別次元の難易度の今回に、ろうらく作戦の本当の難しさを目の当たりにするのだった。


「こら!」

「ッ!?」


改めて自身が請け負う作戦の難しさにオーマが落ち込んでいると、ヴァリネスの叱咤が飛んできた。


「今、落ち込んでいたでしょ?」

「う・・・」

「大丈夫よ。言ったでしょ?作戦自体は順調だって。ミクネ自身、帝国との対立にはさすがに慎重みたいだから他には漏れていないし、そのおかげで私達に興味を持って、“他の帝国の奴らとは違う”って、思ってくれているみたいだしね」

「そ、そうなのか?」

「ええ。そうでなきゃ、さすがに私でもこんな短い間であの子と距離を縮めるなんて出来ないし、他の子達に対しても友好的にはならないわよ。でも、ウェイフィー達の前で自分の良いところ見せようしたわけでしょ?」


 ヴァリネスとだけ仲良くなったのでは、工兵隊やウェイフィーに友好的になる理由は無い。

失敗こそしたが、ヤトリが工兵隊やウェイフィーの前で自分の良いところを見せようとしていたのは事実であり、そう思ったのはオーマ達が帝国の反抗勢力で“仲間になる可能性が有る”からなのだろう。


「確かに、ろうらく作戦から見れば良い傾向ですね」

「暴走したけど」

「でも、結果としては誰も死ぬ事なくヤーマル砦を制圧できたわけでしょ?ミクネの行為が危険だったとは言え、ミクネの力がなかったら無傷じゃ無理だったはずよ」


____そう。ヤトリの暴走に対してオーマ達は、“死人が出たらどうするつもりだったんだ!?”と詰めたわけだが、そもそもヤトリ無しで戦っていれば死傷者が出ていたはずなのだ。


「冷静に状況を確認すれば、ヤーマル砦攻略は無傷で完了し、ヤトリ・ミクネも友好的という訳ですね」

「なるほど。確かに悪い事態にはなっていませんね」

「どころか、ろうらく作戦もスカーマリス攻略も順調じゃねーか」

「そういう訳だから団長、私は団長とミクネの相性が悪いとは思っていないわよ」

「え?な、何を・・・」

「“自分とヤトリは相性が悪い”とか思っていたんでしょ?」

「う・・・」


長い付き合いでズバリ本心を言い当てられてしまった。


「なんだよ、団長。そこまで落ち込んでいたのかよ」

「気付きませんでした」

「・・・・」

「クシナ」

「分かってますよ、ウェイフィー」

「な、何で分かったんだ・・・いや、何故そう思うんだ?副長?」

「顔見れば分かるわよ。でも、本当に相性の悪い相手とは物事も上手く行かないものよ。だから作戦が順調なら相性が悪いとは思わないわ。大丈夫よ」

「な、なるほど・・・」


今のヴァリネスに言われると、そう思えてくる。


「じゃ、じゃー結果オーライか?」

「ええ、“結果オーライ”でいいのよ」

「分かった。ありがとう、副長」

「ふふん♪どういたしまして。ウェイフィーもいいわね?」

「ダメって言える空気じゃない」


ヴァリネスに励まされるオーマの横で、ウェイフィーもしっかり励まされていたらしく、文句は無いようだった。


「あの~、じゃーこれは、“これからもこの調子で頑張ろう”って事で良いのでしょうか?」

「それで良いと思うぞ、ユイラ」

「おっし!じゃー、話もまとまったし、飲もーぜ!」

「賛成!」

「そう言えば祝勝会まだでしたね」

「なら、外に出て兵士の皆さんに交ざりましょう」


「「おー!」」


問題もあって文句も出たが、全員が作戦が順調であると理解して話がまとまると、一同は気持ちを切り替えて騒ぐことにするのだった___。

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