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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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ヤーマル砦攻略(後半)

 ヤーマル砦の攻略作戦が開始されると、ヤトリは魔法術式を展開して、今ウェイフィーたちに使用している魔法とはまた別の魔法を発動した。


 ヤーマル砦一帯に一陣の風が吹く____。


 人間にとっては何て事の無い微風だったが、その風にはハイエルフ・タイガーとって天敵となる魔獣の足音が混じっており、ハイエルフ・タイガーの生存本能を刺激したのだった。


「「ガァオーーーン!!」」


「「ガァオーーーン!!」」


「「ガァオーーーン!!」」


 この風に反応して、ヤーマル砦の中からはハイエルフ・タイガー達の敵の襲来を告げる遠吠えがあちこちで鳴り響いた。

それからドドドドッとハイエルフ・タイガーが動き出し、砦の中には恐れ、殺気、警戒、混乱といった気配が充満していく・・・。

そして、それが破裂したかのように、ハイエルフ・タイガー達が一斉に砦の外のウェイフィー達の居る方へと飛び出した。


 これが今回のヤーマル砦の攻略作戦である。


 ヤトリの力でバレないように砦を半包囲して罠を設置。

そこに砦の中に居るハイエルフ・タイガーの群れをヤトリの力でおびき寄せ、ハイエルフ・タイガーの群れを罠に嵌め、更に工兵隊で追撃も行う。

ハイエルフ・タイガーの群れが砦から離れ、数を減らした後は、控えていたオーマ達本隊が工兵隊のいる方向とは逆方向から侵入して、砦を制圧するという内容だ。

 主力のハイエルフ・タイガーが居なければ、砦の制圧は容易だろう。

そのハイエルフ・タイガーも、入り組んだ地形が無ければ、自慢の小回りの利いた俊敏性を活かせない。

罠にはまり自分達の長所を殺され数が減ったハイエルフ・タイガー相手なら、ヤトリとサレンにとってはもちろんのこと、ウェイフィーたち工兵隊にとっても敵にはならないだろう。

 そして作戦通りに、外に飛び出したハイエルフ・タイガー達は次々に工兵隊の作った落とし穴に落ち、底についている棘に体を食い込ませ臓腑を貫かれて死んでいった・・・。

 また、それらを回避できたとしても、工兵隊が潜んでいる辺り(工兵隊の攻撃魔法の射程圏内)の地面は、あちこちが泥濘に変えられており、ハイエルフ・タイガーの足を鈍らせる。

そこで動きの鈍ったハイエルフ・タイガー達に、工兵隊は小隊ごとの土属性集団魔法で強化した棘の散弾を容赦なく浴びせ、近寄らせることなく仕留めていく。

単純かつ簡単な作戦だが、効果は抜群だった。

 敵の生態が分かっており、それを利用する力も有るなら、作戦を複雑にする必要など無い。

そもそも普通なら、ハイエルフ・タイガーに気付かれずに近づくのも、おびき出すのも困難な作業だ。

ヤトリの力は、戦いをここまで単純化できてしまうほど強力なモノというわけだ_____。




 「凄い・・・本当に出来てきた」

「ハハン!どうだ!」


感心するサレンに対して、ヤトリは心底得意気だった。


「・・・・スゴイ」


 そしてウェイフィーも、内心で腹立たしさを抱えつつ、サレンと同じ様に感心していた。

ヤトリの力で作戦がものの見事に決まり、死者どころか負傷者すら出さずにハイエルフ・タイガーの群れを全滅させつつあるのだから、それも当然だろう。

 ウェイフィーはその光景をしばらく眺めた後、スクッと立ち上がりヤトリと向き合った。


「・・・ヤトリ様」

「あん?何だ?」

「ありがとうございます」

「へ!?」

「貴方のおかげで私の部下のリスクは大きく減りました。この調子なら、私の隊から死者が出る事はないでしょう。感謝します」

「あ、ああ・・・あわわ・・お、おう」


ウェイフィーはヤトリに頭を下げ、丁寧に感謝を述べた。


 本心だからだ。


 ヤトリの性格がどうであれ、ヤトリの力のおかげでウェイフィー達は圧倒的に有利に戦えている。

部下の命が救われたも同然だ。

それに対し、指揮官であり仲間想いのウェイフィーは本心から感謝の言葉を述べた。

 ウェイフィーからの感謝に、ヤトリは顔を真っ赤にしてアワアワしていた____完全に照れていた。


「・・・フ、フンッ!べ、別にお前達の為にやったんじゃない!・・・で、でも、まあ、感謝するというのなら、されてやろうじゃないか・・・ないか」


___完全にツンデレていた。


「うわぁ・・・分かり易い」


余りに分かり易いリアクションに、サレンは思わず呟いてしまったが、ヤトリには聞こえていなかった。


「でも意外・・・」


ウェイフィーは、いきなりツンデレたヤトリの態度に驚いていた。


「思っていたより、付き合い易そうですね」


シマズも、照れるヤトリに驚きながらも、聞いていたよりも接しやすそうだと思って、少し安堵していた。

 聞いていた話では、帝国の人間からの賛辞など受け入れず、拒絶するほどヤトリは帝国嫌いだという話だった。

だからウェイフィーは、感謝の言葉を述べながらも、正直自分の感謝の言葉など一蹴されると思っていて、シマズも同じ様に思っていた。

だが、どういう訳だかヤトリは照れて有頂天になっていた。


______有頂天になり過ぎていた。


 「よし!分かった!そんなに部下が大事なら私に任せろ!私が一発で終わらせてやる!」


「「えっ!?」」


有頂天になって調子に乗り始めたのか、ヤトリはそう言いだした。

そのヤトリの様子に、三人はすこぶる嫌な予感を覚えた。


「あ、あの、ヤトリさん?“一発で終わらせてやる”って、どういう事ですか?」

「これから本隊が攻め込むのですが・・・」

「作戦は順調。余計な事はしなくていい」

「ハハッ♪なあに、心配するな。悪いようにはしない。どうせ、ヤーマル砦は機能していないんだから、魔王オーマが制圧しやすいようにしてやるだけだ」


 そう言ってヤトリは再び魔法術式を展開する。

その術式の規模は、ウェイフィーとシマズが今までの人生で見たことが無い程の規模だった。


「え・・・何、その規模・・・それ本当に打つの?」

「ヤ、ヤトリさん!砦ごと吹き飛ばすおつもりですか!?」

「ヤバイ・・・」

「あはははは!この方がっ手っ取り早いだろう!」

「___ッ!シマズ!本隊に伝令!急いで!」

「りょ、了解!」

「いけない!」


サレンは、ヤトリが本気だと分かって、静寂の力を使うため魔法術式を展開する____のだが


(___ダメ!間に合わない!)


 静寂の力は、たとえサレンであっても一定のタメが必要になる。

しっかりタメて発動できれば、どれ程の規模の魔法でも抑えられるが、ヤトリの魔法は規模が大きいだけじゃなく、タメも早かった。

元々数十キロメートル規模で魔法を行使できるヤトリにとって、数百メートル程度の規模の魔法にそこまでのタメは必要ないのだ。


「ヤ、ヤトリさん!ダメですって!!」

「止めなさい!」

「ユ、ユイラか!?団長に作戦の中止を____」

「ふははははー!いっけぇえええーーー!!」


____ブンッ!!


ヤトリは絶叫しながら巨大な木槌を振るって、太鼓を鳴らす様に魔法陣に叩きつけた。


______ズゴゴゴッゴオッゴォオオオオン!!


 ヤトリが発生させた風魔法の振動によって、地面が震動する___。


「「ガァオーーーン!!」」


「「ガァオーーーン!!」」


______ズゴゴゴゴゴゴォオオオオオオ!!


 そして、ヤーマル砦を囲む数百メートル規模の局地地震が発生し、元々廃墟同然だったヤーマル砦を中に居る魔族ごと完全に崩壊させた・・・。


「どうだぁ?スゴイだろう♪アハハハハハハー♪」


 サンダーラッツの一同が、ヤトリは不機嫌にさせるだけじゃなく、上機嫌にさせても暴走すると知ったのはこの時だった____。

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