烈震の勇者ろうらく作戦会議(3)
会議が本格的になり、ヤトリ・ミクネの配置に付いての話になると、隊長達による押し付け合いが始まった。
誰もヤトリとは組みたがらず、ヤトリの配置は一向に決まらない。
そして、それは今も続いていた____。
「き、決まりませんね・・・」
「そうですわねぇ・・・」
「まあ、隊長達の気持ちも分かる」
そんな押し付け合いの様子を、通信兵の三人は何とも言えない表情と気持ちで見守っていた。
そして、そんな三人の様子を見ていたヴァリネスは、何気なく三人に声を掛けた。
「んー。てか、通信兵の三人はどう思うの?」
「「ええっ!?」」
ヴァリネスの何気ない一言に、それまで隊長達の押し付け合いを見ているだけだった通信兵の三人は激しく動揺した。
(どう?って言われても・・・隊長達がこんだけ嫌がっているのでは・・・)
(私達の立場からじゃ、何も言えませんよ~~・・)
(か、勘弁してくれ・・・)
自分達より立場が上の人間達が押し付け合いをしているところに、“この人が良い”と意見を言える者は少ないだろう。
ヴァリネスからの突然のフリに、三人は咽喉を詰まらせたような口調になる。
「い、いや・・・我々は・・皆さんほど戦術に長けているわけではありませんし・・隊長の皆さんほどお互いも理解していないので、人柄等での判断も難しいと言いますか・・・」
「そ、そそ、そうです!そうですよ!・・・ハハハ・・・」
「ヤトリさんの事も全然分かっておりませんから、正直意見が出せませんわ」
「は、はい。本当・・せっかく会議に参加させて頂いているのに、お役に立てず申し訳ありません。ハハハ・・・」
三人は打ち合わせもしていないのに、話を合わせて受け流す作戦に出た。
「・・・別に、印象で言っていいのよ?違う立場の意見が聞きたいだけだから。何か無いの?」
((くそぉ!!))
そして、あっさりヴァリネスに切り返された・・・・・ちなみに本人に悪気はない。
「よせよ副長。隊長達がこんだけ嫌がっているんだから、三人からは意見を出しづらいだろ」
「あ、そっか・・・」
((ほっ・・・))
オーマのフォローに、三人は心底安堵した。
「んーー、なら、もう団長が命令するしかないんじゃない?」
“お手上げだ”と言った風にヴァリネスは呟き、隊長達は同意のリアクションを見せる。
「そうですね。もうそれしかないと思います」
「決まりませんからね」
「仕方がない」
「んじゃ、団長。もう団長がビシッと決めてくれ」
そして、一同の注目はオーマに集まった。
「・・・いいんだな?」
「いいという訳ではないですけど・・・」
「私達だけでは、決まりそうにありませんから」
「きっとずっと平行線」
「ならば、団長が決める以外では納まらないでしょう」
「・・・そうか、分かった」
オーマは隊長達に念を押して意思確認するとコホンとワザとらしく咳払いを一度して、それから静かに、だが有無を言わせぬオーラを出して、ハッキリとその名を上げた。
「___ウェイフィーの工兵隊に配置する」
「____ッ!!?」
「おっしゃーーー!!」
「よ、よかった・・・」
「ほっ・・・」
ウェイフィーは固まり、ウェイフィー以外からは喜びの声が漏れる。
そして、安堵と共に隊長達の口は滑らかになった。
「いやはははは!まあ、でも、妥当だと思うぜ?実際」
「確かに、ウェイフィーと工兵隊が一番ヤトリを刺激しなさそうだ」
「気遣いのできる方が多いですものね」
「適任かもしれませんね」
「____ッ!!?」
「そういう訳でウェイフィー、ここは一つよろしく頼む」
「____ッ!!?」
ウェイフィーは一人、固まっていた。
そんな今回の犠牲になったウェイフィーの様子を見て、一同は声を掛けずにはいられなかった。
「ウェイフィー・・・大丈夫ですか?」
「なんて顔をしてるのよ・・・」
「は、初めて見る表情ですよ・・・」
「・・・なんか、夕食の皿にくっさいウ〇コを乗せられた様な表情してんな」
「どんな表現だ、フラン」
「例えがばっちぃですよ」
「でも何となく、言わんとしている事は分かります」
「おっ?だろ?さすがシマズ」
「何が流石なのかは分かりせんよ?」
だがフランが言う様に、ウェイフィーは確かに夕食の皿にくっさいウ〇コを乗せられた様な表情をしていた。
「ウェイフィー」
「____ッ!!?」
「ウェイフィー?」
「____ッ!!?」
「おーい!ウェイフィーー!」
「____ハッ!!」
「あ、戻って来た」
「だ、大丈夫ですかウェイフィーさん」
「ダメ。助けてロジ」
「あう・・・」
「ハッキリ言いますね・・・気持ちは分かりますが・・・」
「同情する。自分だったら耐えられん」
「とは言え、これは団長命令だ。すまないが、やってもらうぞウェイフィー」
「・・・・何故えぇ・・?」
消え入りそうな、でも怨みが籠ってそうな、そんな良く分からない声でウェイフィーは理由を尋ねた。
その声に若干引きながらも、オーマは率直に理由を述べた。
「それは、ウェイフィーが隊長達の中で一番サレンと仲が好いからだ」
「ぬ・・・」
「ああ」
「なるほど」
「そういう発想ですか」
「なら、確かにフィットプット隊長が適任ですわね」
「ぬう・・・」
オーマのその一言で、その場に居る全員がオーマの言わんとしている事を察した。
今回の烈震の勇者ろうらく作戦で、一番のキーマンになるのはサレンだろう。
ヤトリは帝国を嫌っていて、帝国の立場の者では、そもそも取り付く島が無い。
同族で同等の力を持つサレンが一番距離が近い上、その距離も縮めやすい。
これは、ファーストコンタクトでのヤトリの反応から見ても間違いない。
となれば、オーマとヤトリの橋渡し役は必然的にサレンになり、ヤトリはサレンと一緒にさせるのが基本になる。
万が一、ヤトリが暴走したときも、静寂の力を持つサレンが一番の抑え役にもなってくれる。
そして、そのサレンの手助けが一番できるのは、一番仲好しのウェイフィーだろう。
____と、言う様な理由で、オーマの判断に異を唱える者は誰も居なかった___一人を除いて。
「で、でも、サレンは何て___」
「因みにサレンには、事前に話をして、了解を得ている」
「___チッ!」
オーマは、ウェイフィーが言おうとしたことを察して、先に答えた。
そして、他の一同からは感心するような声が上がった。
「既にサレンさんに根回し済みでしたか」
「用意周到ですね、団長」
「作戦も会議も円滑に進めるためには必要な事だろ?」
「なんだよー。じゃー俺達の話し合いなんて意味なかったじゃん」
「そんな事は無い。お前達の誰かが“やる”と言えば、そいつに任せるつもりだった・・・まあ、とにかく、決定だな」
「よろしくね、ウェイフィー」
「副長ぉ・・・」
「ウェイフィー・・・お願いよ。押し付けるような形になっちゃったけど、団長のこの意見には副団長の私も同意なの。貴方と貴方の隊が一番適任だわ」
「う・・・」
サンダーラッツでは、オーマとヴァリネスの意見が一致したならば、余程の意見が出ない限り決定である。
そして、これまでのヤトリの押し付け合いからも分かる通り、そんな意見は隊長達から出るはずもない。
「決定だな」
「ウェイフィー、頑張って」
「ボ、ボクもたくさんフォローしますから」
「サレンも付いているんだ。万が一のときでも何とかなるはずだ」
「サレンさんにとっても、フィットプット隊長とが一番心強いと思いますわ」
「むう・・・」
「そうそう!子供同士、三人仲良く____グェッ!!」
フランはウェイフィーが錬成した蔓で、人間では不可能な関節技をきめられた。
「フラン・・・殺すぞ。・・・全ての関節をへし折って・・コロス」
「ぼ、ぼうんどうでぃ・・ずみばぜんでじだ。がんべじでぐだざい・・・」
壊れたマリオネットみたいな格好で、フランは懇願した。
「本当に学習能力が無いわね、こいつは」
「ただでさえ、ヤトリさんの相手に決まってナーバスになっているのに・・・」
「きっと、自分がやらずに済んで浮かれたんだな」
「はあ・・・フラン隊長、ここはフィットプット隊長を気遣う場面ですよ。フィットプット隊長はこれから大変な思いをなさるのですから」
「ん?何を他人ごとみたいに言ってんだ?シマズ?」
「え?」
「お前もウェイフィーと一緒に、ヤトリ攻略の中心メンバーに入ってもらうんだぞ?」
「はぃいいい!?」
シマズから過去一の声が出た。
「何驚いてるのよ、当たり前じゃない」
「ふ、副長ぉ・・?」
「ヤトリと一緒に魔族と戦ったら何が起きるか分からないんだから、部隊の連絡役は、通信兵でキャリアが一番長いあんたがやるに決まってんじゃない」
「そうだぞ。何のために今日お前達を呼んだと思っている?」
「____ッ!!?」
シマズは夕食の皿にくっさいウ〇コを乗せられた様な表情になった___そして、ユイラとナナリーは、心の底から安堵していた。
この後、シマズもヤトリと一緒に行動する事をごねてみたが、ウェイフィーの後だったのでまともには取り合ってもらえず、橋渡し役としてヤトリと一緒に行動するメンバーは、サレン、ウェイフィー、シマズに決定した____。
「よし。ヤトリ攻略の中心メンバーと部隊配置は決定した。ではこれから、スカーマリス攻略での戦術とヤトリへのアプローチの仕方を皆で検討する」
「「了解」」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ウェイフィー」
「シマズさんも」
「りょーかい・・・」
「了解・・です・・・」
この後は、ヤトリを使った工兵隊の破壊工作戦術や、ヤトリの性格を考慮したアプローチに、万が一の皆でのフォローを話し合う。
会議は順調に進み、スカーマリス攻略とヤトリへのアプローチの基本方針は、この日の内に決めることが出来た。
翌日、決まった基本方針をジョウショウに報告すると、東方軍はすぐにスカーマリスへの出陣準備へと取り掛かる。
そして、オーマ達の作戦会議から四日後、一行はスカーマリスへ向けて出陣するのだった____。