烈震の勇者ろうらく作戦会議(2)
オーマは団長として、いつも兵を指揮し、癖の強いメンバーをまとめ上げて会議も上手く進行している。
だが、今回の会議では、今作戦の影響で始める前の雑談が長引いたり、任務を放棄する様な発言が出たりと、スムーズには進んでいなかった。
ヴァリネス達に諭され、それもようやく落ち着くと、オーマは気持ちと表情を引き締めて本格的に会議を始めるのだった___。
「では、ヤトリ・ミクネを攻略する上で、スカーマリス捜査との兼ね合いで、先ずは彼女を口説くための基本方針を決めようと思う。そして、基本方針を決める上で、サンダーラッツと一緒に行動するヤトリ・ミクネをどの部隊に配置するかを皆で検討したい」
「ヤトリ・ミクネを戦場でどう扱うかを決めるのですね」
「そうだ。ろうらく作戦にしろ、スカーマリス捜査にしろ、ヤトリ・ミクネの戦場での扱いを決めないと話が進まないからな」
「まあ、そうですね」
「了解です」
「賛成」
「でもよー、それなら当然、団長と副長の本隊って事になるんじゃねーの?どう口説くかは決まってなくても、誰が口説くかは決まってんだからさ」
「確かにそうだが、俺達本隊は司令塔だからあまり前線に立つ機会は多くない。そこに勇者候補を配置しても宝の持ち腐れだろ?」
「そうですね。それに、彼女の性格は、戦力として誘っておいて当てにしないのなら、不満を言う性格なのですよね?」
「そうだ。それに___」
“それに、ぶっちゃけヤトリとは四六時中一緒に居たくない”とオーマは言いかけたが、また説教されそうなので踏みとどまった。
「ん?どうしたんです?団長?」
「い、いや、何でもないよ、ユイラ」
「はあ・・・」
「フフッ・・・」
「・・・・・」
ヴァリネスだけがオーマが何を言おうとしていたのかを察して、含み笑いを見せていた。
そして、“ヴァリネスだけがオーマが何を言おうとしていたのかを察した”事をクシナは察して、ヴァリネスに嫉妬していた___。
「正直に言うが、今回のスカーマリス捜査自体は、俺はそこまで難しいものだと考えていない。だから、戦う相手や状況で配置を決めるのではなく、俺達との性格や能力の相性を見て配置を決めたほうが良いと思っている」
戦場によっては、状況に応じた編成が必要だろう。
特に魔族は、魔法以外にも様々な能力を持っている者が多く、人間にとっては脅威である。
だが、スカーマリスの魔族は長い戦いを経て、その生態と能力は十分に分析されており、帝国軍人は軍学校でそれらは学んでいる。
加えて、サンダーラッツはオーマ達幹部だけじゃなく、兵士達にも魔族との戦闘経験を持った者が多く所属している。
更に、同行する東方軍に至っては、帝国の中でも最も魔族との戦闘経験が有る、対魔族軍とも呼べる軍団である。
ディディアルのような元魔王軍幹部といった大物でも出て来ない限り、帝国軍は苦戦すらしないだろう。
そして、仮に魔王幹部クラスの魔族が出て来たとしても、勇者候補が四人もいれば問題にはならないだろう。
万が一問題になった場合は撤退すれば良いだけだ。作戦の優先順位から言っても、ヤトリとの交流が最優先なのだから___。
「そういう訳で先ずは、お前たちの意志確認をしたい」
「意思確認?」
「何の?」
「お前達の今作戦でのやる気をだよ。散々俺のヤトリとのやり取りを「ダセェ(笑)」って笑ったんだ。当然お前達はヤトリとの交流を前向きにやってくれるんだろう?」
「「う・・・・」」
そのオーマの一言で、隊長達に気まずい空気が流れた____。
「では、この中でヤトリ・ミクネと一緒の配置になりたい者、なっても良いという者は手を上げてくれ」
「「_____」」
隊長達は全員手を上げずに、視線を下に落としていた____。
「____っざけんじゃねーー!!散々俺の事いじったくせに、お前達も気が引けてんじゃねーか!!」
オーマはここぞとばかりに倍返しした。
「も、申し訳ありません・・・」
「いやー・・だってよー」
「わ、私はやる気がないのではなくて、彼女とはまったく反りが合う気がしないからで・・・・」
「ボクもです。ヤトリさんの話を聞いていて、お役に立つ自信がありません」
「怖い」
「「ははは・・・」」
隊長達がバツの悪そうな態度でいるのを、隊長達と同感なのだろう通信兵の三人は愛想笑いを浮かべて見ている事しかできなかった。
オーマがプンスカしていて、八人がハハハで誤魔化すなら、場を治めるのは一人しかいない。
「ま、そりゃーそーよね。プライベートで近所の子守をするんじゃなく、危険な性格と力を持った子と軍事作戦をしろってんだから誰だって嫌よね。団長も、笑った事は許してあげなさい」
ヴァリネスの言う通りだった。
わがままで勝手な性格で、 “縁起が悪い”なんて理由で同盟国の人間を拒絶する。
そして、その力は容易く周囲の人間を葬り去る事が出来てしまう。
更には、同盟国の要人で、隊長達どころか団長のオーマよりも立場が上なのだ。
そんな人物と誰が組みたいと言うのだろう___?
その立場と性格でわがままに指示を出されるのも嫌だが、そんな立場と性格の人物に指示を出す___いや、“機嫌を取りながら、任務をやって頂く”というのも嫌である。
隊長達全員が拒否するのも仕方が似ない事だろう。
「・・・はあ。分かったよ。お前達、今後は自分の事を棚に上げて人の事悪く言うなよ」
「「はーい」」
「よし。じゃー話を戻して、ヤトリの配置を決める。皆が嫌がる以上、本人の意志ではなく性格や能力と言った事で決める。異論は無いな?」
「分かりました」
「仕方が無いですよね・・・」
「そうだ。仕方が無いんだぜ。だから頑張れよ。クシナ」
「えっ!?」
フランはいきなりクシナを名指しで指名した。
「な、何故、私なのですか!?」
「だって、ヤトリちゃんの能力って言ったら、超遠距離攻撃だろ?だったら砲撃隊で決まりだろ」
「おお、なるほど!」
「確かに」
「そうですね!」
「「・・・・」」
フランの言い分に他の三人の隊長もワザとらしく同調した。
そして通信兵の三人は、それを若干引き気味で見ていた____。
「何を言っているのですか!砲撃手に必要なのは、味方に誤爆させないコントロールです!性格にムラの有る子には向いていませんよ!」
「む・・・」
「ぬう・・・」
「それは・・・」
「確かに」
「「・・・・」」
寄ってたかってクシナに押し付けようとする隊長達を、クシナは正論で押し返した。
そして通信兵の三人は、それを若干引き気味で見ていた____。
「相性で言うなら、それこそ同じ属性なのですから遊撃隊が良いじゃないですか。性格的にもフランが一番相性よさそうですし!」
「おお、なるほど!」
「確かに」
「そうですね!」
「「・・・・」」
クシナの言い分に他の三人の隊長もワザとらしく同調した。
そして通信兵の三人は、それを若干引き気味で見ていた____。
「て、てて、適当なこと言ってんじゃねーよ!俺だって第一貴族に面と向かて喧嘩売るほどイカれちゃねぇよ!部隊の相性にしたって、同属性だったら何だよ?ヤトリちゃんに集団魔法でも使わせるのか?わざわざ魔力を一般兵に合わせてもらうのか?意味ねーだろ!なあ?団長?」
「うん?まあ・・確かにな」
集団魔法は、同属性の魔法を全員が同じ魔力量にして連結させなければ相乗効果が得られない。
天下の帝国軍とはいえ、一般兵がヤトリの魔力量に合わせる事など不可能なので、仮にヤトリと集団魔法を使用するとなれば、ヤトリが兵士達の魔力に合わせることになるだろう。
そうした場合、恐らくその集団魔法の威力より、ヤトリが個人で実力を発揮した魔法の方が強力だろう。それでは意味がない。
集団魔法は、皆で足並みをそろえる事で、その真価を発揮する魔術だ。
勇者の候補に上がるくらい個が強力だと、集団魔法の真価は発揮されない。いや、必要が無いと言える。
そして、集団魔法を使用しないのであれば、部隊と属性を合わせる必要性は薄い。
むしろ、個で群に勝る勇者候補ならば、違う属性で組んだ方が戦術幅は広がるだろう。
つまりは、フランの言い分は苦し紛れの発言という訳でも無い、という事だ。
「性格云々で言うなら、ロジの突撃隊でいいじゃねーか」
「ええ!?ボクの所ですか!?」
ロジは、今度は自分が押し付けられて、激しく動揺した。
人が良いロジでも、やはりヤトリを自分の部隊に配置されるのはごめんらしい。
「だってほら、ヤトリちゃんと突撃隊連中ってノリが似てるじゃん?わりと馬が合うと思うんだよ」
「おお、なるほど!」
「確かに」
「そうですね!」
「「・・・・」」
フランの言い分に他の三人の隊長もワザとらしく同調した。
そして通信兵の三人は、それを若干引き気味で見ていた____。
「で、でも・・・」
「それにロジ自身、人に会わせるのが上手いじゃんか」
「確かに」
「ウチで一番社交性が有りますもんね」
「癒し系」
「そんな・・・」
「「・・・・・」」
言い返す言葉が出ないロジに対して、四人は追い打ちを掛けた。
そして通信兵の三人は、それを若干引き気味で見ていた____。
そして、四人は更に追い打ちを掛ける。
「な?ロジ、お前しかいないんだ。団長のために一肌脱いでやれって」
「そ、それは・・ボクも団長のためだったら頑張りたいですけど・・・」
「おおっ!じゃ、決まりだな!」
「さすがロジだ」
「器がデカいですね」
「偉い」
「けど、こう言っては何ですが、ヤトリさんとウチの隊員達とは馬が合わないと思いますよ?ウチの子達は皆真面目ですから」
「「真面目?」」
あの変態集団の何処をどう受け取ったら真面目になるのか、一同にはさっぱり分からなかった。
「で、でも、誰かがやらなきゃいけない事ですし、団長がどうしてもと仰るなら、隊員達と協力してやってみま____」
「___却下」
ロジの言葉をインターセプトしたのはヴァリネスだった。
「ロジくんの部隊にあんな物騒な子を置いておけるわけないじゃない。却下よ」
「えー・・・」
「そんな・・・」
「何でロジだけ・・・」
「差別」
「うるさいうるさい。とにかく却下よ」
「まあ、そうだな」
「「ええ!?」」
ヴァリネスのロジの特別扱いに賛成したオーマに対し、他の隊長達は怒り交じりの驚きを見せた。
「団長・・・副長の言い分を許すのですか?」
「ショック」
「こういう部分では公平な方だと思っていたのに・・・」
「見損なったぞ!団長!」
「違う違う。別に副長の言い分を許したわけじゃない。ヤトリと突撃隊を組ませられない理由があるだろ?」
「ん?何?」
「どんな理由だよ?」
さも、理由を知っていて当然、と言った風のオーマだが、他の者達には思い当たる事が無いらしい。
その態度にオーマはやや呆れ気味だった。
「マジかよ、お前ら・・・本当にヤトリと突撃隊が合うとでも思ってんのか?」
「だから、その理由を教えてくれって」
「連中との付き合いが長くて感覚が麻痺したか?あいつ等は“最狂で最強”の突撃隊だぞ?」
「「・・・・・」」
「今までの、突撃隊を目の当たりにしてきた勇者候補達の事も思い出せ」
「「・・・・・」」
「・・・ロジ。ゴメン」
「反省」
「許してください」
「無茶を言ってしまった」
「え?え?皆さん急にどうしたんですか?」
「いや、本当に悪かった」
「そうですよね。ロジは“あの”突撃隊でしたね」
「じゃー、やらせられる訳がないわな・・・」
「ロジが死ぬ」
「????」
ロジ以外の全員が、オーマの言わんとしている事を理解して、ロジに頭を下げた。
そうなのだ。普通に考えれば、突撃隊の“あの”姿を見たら許容する可能性より、拒絶する可能性の方が遥かに高いのだ。
レインの様な例は稀である。
もし、ヤトリが突撃隊の戦う姿を見たら___
「な、なな、なんじゃコイツ等~~~~!!」
___と言って、ロジごと突撃隊をふっ飛ばしてしまうかもしれない。
冷静に考えれば、そんな姿が容易に想像できる。
ロジの隊は相性が良いどころか、一番ヤトリにぶっ飛ばされる可能性が高い部隊なのだ。
オーマが却下するのも無理は無かった。
「そっかぁ・・じゃーロジの所が無理ならー・・・イワ、もうお前の隊しかないな」
そして、標的はイワナミに移った。
「・・・何故そうなる?」
「だってよ。ヤトリちゃんの性格を考慮して配置決めしようとしたら、もう決まらないじゃんか。なら、ヤトリちゃん自身を教育、または指導するしかないと思うんだよ」
「なるほど。兵士の指導はイワナミが一番上手ですものね」
「意外と人望もある」
「そういう事で、な?頼まれてくれよ」
「すまんが断る」
「なんだぁ?自信が無いのかよ」
「その通りだ」
「な!?」
フランの挑発に、イワナミは胸を張って自信満々にそう返した。
「それはそうだろう?同族のエルフや、帝国の第一貴族でも持て余す性格を俺がどうこう出来るとは思えん。認める。俺では指導力不足だ」
「くそ・・・開き直りやがったな」
「上手い切り抜け方ですね」
「やる」
言い訳なしの素直な降参に、他の隊長達はそれ以上詰めることが出来なかった。
「なら残っているのは、ウェイフィーさんの隊だけになりますね」
「そうだな。ウェイフィーちゃん、頼む」
「ヤダ」
____イワナミ以上に率直な返しだった。
「ウェイフィー・・少しくらい前向きに検討してはくださいませんか?」
「ヤダ」
「ひょっとしたら馬が合うかもしれないぞ?」
「ヤダ。絶対に合わない」
「そいつは分からないぜ。“小さい子”同士仲良くできそうじゃん?」
_____ブチッ。
「___フラン」
「はい?」
「殺すぞ」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・ごめんなさい」
ウェイフィーは子供扱いされるとマジ切れします____。
この後もしばらくの間、隊長達によるヤトリの押し付け合いが続くのだった____。