烈震の勇者ろうらく作戦会議(1)
宿舎だと勇者候補の三人に捕まって気持ちが休まらないと言うオーマのせいで、ダラダラとした雑談が続いていたが、それも終わって、ようやく作戦会議は始まった___。
「先ず、今作戦の第一段階である、ヤトリ・ミクネをスカーマリス捜査に同行させる説得には成功した。それで、今後スカーマリス捜査内でヤトリを籠絡するための立ち回りを検討したい」
「今回の会議で話し合うのは、ヤトリさんとの接し方だけですか?」
「スカーマリス捜査については?」
「そだぞ。ヤトリちゃんとの接し方なんて、本人に会ってみないと分からねーんだから、むしろそっちがメインだろ?」
「違うわよ。スカーマリスの捜査は東方軍と合同で、総指揮はジョウショウが取るのよ。だから、捜査方針を決めるのは私達じゃないわ」
「副長の言う通りだ。だが、当然優先順位はろうらく作戦の方が高い。そのため、こちらの作戦遂行に必要な要望には、最優先で応えてくれるそうだ。そういった理由も有って、先にろうらく作戦の基本方針だけでも決めなくてはならん」
「そうは言ってもなぁ・・・」
「私達、まだヤトリさんと有った事も無いのですよ?」
「だが、基本の方針だけでも決めなくてはならん。ヤトリと会った時の俺と副長の印象を教えるから、それでなんとか知恵を絞ってくれ」
「これは上からの命令なの。勘弁してね」
「マジっすか?」
「ろうらく作戦の方針を軸にスカーマリス捜査の方針も決めるから、先に決めてくれってジョウショウ閣下に言われたの?」
「そういう事だ。こっちの方針が決まらないと捜査に動員する人数すら決められず、準備を始まる事すらできないだろ?もちろん後で、修正が必要な場合は応じてくれる」
「ヤトリさんの力は、味方を巻き込む可能性が有りますからね」
「性格もな」
「スカーマリス捜査にはそれなりの人員が必要だけど、味方を巻き込む可能性が有るなら、多くは連れて行きたく無いですよね」
「なら、どう口説くかもそうですが、ヤトリさんを中心に勇者候補の皆さんの力をどう使っていくか?って事も決めなくてはならないですね」
「正直、ヤトリの力はかなり物騒です。使ってほしくないのが本音ですね」
「ヤトリさんの力は規模が違いますからね」
「巻き込まれたら、一撃で全滅だってあり得る」
「こ、怖いですね・・・」
「けど、力を使わせないなら、“なら何で呼んだんだ!”ってなる感じの性格なんだろ?」
「そんな感じの性格よ」
「なら、どれくらい活躍してもらうか、か・・・」
「前衛に置くのか、後衛に置くのか・・・」
「どっちが向いているんだろ?」
「資料の印象だと、力も性格も前衛向きに思えたが・・・」
「やはり、どんな子か知りたいですね。団長、お手数ですが、アズマ神社を訪れた時の事を話して頂けませんか?」
「ああ、分かった。コホン。・・先ず、初日にシュウゼンってエリストエルフを紹介されて_____」
オーマは一度咳払いし、アズマ神社を訪れた時にヤトリとしたやり取りを話始めた_____。
オーマの話は、途中でヴァリネスの補足なんかも入りつつ、数分ほどで話し終わる。
そして、話を聞き終えた一行のリアクションは全員が同じで____
「「ぎゃはははは!団長だっせぇ(笑)!!」
_____大爆笑だった。
「うるせぇな。そんなに笑うな・・・」
「いや、笑うだろう(笑)!」
「ヤトリさんの性格云々の前に、団長がそんなんでどうするんですか(笑)」
「だけど、初対面で失礼だろ。見た目は子供でも、人間なら成人している年齢だし」
「団長、呼び名とか結構気にしますもんね」
一同の中で唯一ロジだけが、笑わずにオーマの傷心を労わってくれた。
(・・・・女神だ)
オーマの中でロジの好感度が上がった。
「へえー、団長って名前とか気にする人だったんですね」
「あれ?ユイラって知らなかったっけ?」
「はい。初耳です」
「そっか。団長はね、昇進して自分の兵団ができて、雷鼠戦士団という兵団名が命名された時にも文句言ってたの。“何で俺がネズミなんだよ!”って」
「ああ。そういえば、何か愚痴ってましたね・・・」
「自分も噂には聞いていました。その頃はまだ新人だったから詳しくは知りませんけど」
「う・・・うるさいな」
古参とはいえ通信兵のシマズにまで知られていて、オーマは少し恥ずかしくなった。
ちなみにオーマの戦士団に“ネズミ”の名が付いたのは、どんな危険な戦場でも生き残って来たその“しぶとさ”からきている。
「クク・・・それにしても、逆から読んだら魔王って・・・プッククク」
「上手いこと言うな」
「どこがだよ!!真顔でいじってんじゃねえよ!イワッ!むしろムカつくわ!てか、逆から読んだら“マーオ”だし!“マオウ”じゃねーし!」
「まあ、そうですが・・・」
「ここで、そんなこと言うなら、その場で訂正すればよかったじゃないですか」
「ヤキトリのツクネって返した時点で、同罪」
「うるさいなぁ・・・クソ、思い出したら、またムカついて来たぞ」
隊長達にいじられて、オーマの中でヤトリに魔王と言われた時の記憶が怒りと共に再び蘇ってきた。
「いや、団長。名前だけで、そこまで怒らなくても・・・」
「名前だけじゃないんだ。奴の態度には、内心ずっとイライラしていたんだ。途中でサレンに説得を代わってもらったから耐えられていたが・・・」
「キレちゃったじゃん」
「耐えられてねーぞ?団長」
「うさいな。それは悪かったよ、もういじるなよ。でも、奴を仲間にして、これからも一緒に居る事を想像していたら、どんどんストレスが溜まっていってさ・・・そこにきてあんな事言うもんだから・・・」
確かに、帝国に対する感情などは納得できたし好感も持ち掛けたが、それを差し引いてもあの性格はオーマにとって面倒に感じるものだった。
私的で平和的な場ならいざ知らず、統率が必要で生死に関わる戦場なら特にだ。
もし仮に、サンダーラッツの新兵としてヤトリ・ミクネが入団してきたならば、オーマは速攻でオルド師団長に相談しているだろう。
出会って初対面で自分の手には負えない性格と感じていた。
それに加えて、魔導士としても手に負えず、味方を全滅させるかもしれない危険性が有るのだ。
正直に言えば、オーマはヤトリを口説くどころか、反乱軍の仲間に加えるのにも気が引けていた。
「・・・なあ。ヤトリ・ミクネは、どうしても口説かないとダメか?」
「はあ!?」
「ちょ・・・」
「どうしちゃったんですか、団長?」
「弱気」
「だが、真剣な話、ヤトリは仲間にするのも危険だぞ?クラースの奴も言っていたが、あの子は性格も能力も手に負えないだろう?」
どちらか片方ならオーマもここまで悲観的にはなっていなかっただろう。
性格が手に負えなくても、能力が御せるなら指揮下に入れる事もできるだろう。
能力が手に負えなくても、問題を起こさない性格なら指揮できるだろう。
だが、両方共問題ならオーマには扱う自信がない。
今回の作戦に関して、“俺がヤトリ・ミクネを指揮することが出来るだろうか?”と、漠然とした不安を抱えていたが、本人に直接会ってその気持ちに拍車が掛かってしまっていた___。
「くそぉ・・今まで、勇者候補の子達をどうやって仲間にするかばかり考えていたが、そもそも“こちらが仲間にする気になれない人物”を口説く羽目になるとは・・・完全に予想外だ」
口説くのが難しい相手も厄介だか、口説く気になれない相手はもっと厄介だ。
ある意味ヤトリ・ミクネこそ、籠絡する勇者候補達の中で最難関と思えた。
「冷静に考えれば、こういう人物と出会う可能性も無くは無かったのに・・・・・」
「確かに・・・普通に考えれば、組織には欲しくない」
「うーん・・・なんやかんやで、ウチで一番忍耐強い団長が無理だってんなら、しょうがないか?」
「じゃあ、ヤトリ・ミクネさんを反乱軍に加えるのは諦めるのですか?」
嫌がるオーマを見て、ウェイフィー、フラン、ロジもオーマに同調し始めた。
「ちょ、ちょっと!ロジくんはいいけど、ウェイフィーもフランもバカ言わないで!」
「何でロジは良いんだよ・・・」
「差別・・・」
「いいから聞きなさい!これは、そもそも宰相のクラースの命令で実行している作戦なのよ!」
「その通り。好き嫌いで辞められる任務じゃない」
「それに反乱軍としても、ヤトリ・ミクネが本物の勇者の可能性が有る以上、放っておくべきではありません」
「クシナの言う通り。私達の目的は、帝国に対抗する力を得る事なのよ?その点でもヤトリは無視できないわ。それに、“一人くらい仲間にしなくてもいいや”って言って、その子が本物の勇者で帝国側に付かれたらこっちはお終いよ?扱いづらい人物なら、“どうすれば扱えるか?”って方向で考えるべきよ」
「「うっ・・・」」
ヴァリネス、クシナ、イワナミに諭されて三人は反省する。
その様子を見ていたオーマも反省して、自分の考えを改めた。
「すまん。俺も大人気なかったよ。お前達の言う通りだ。あんな子を口説かなきゃならないのかってプレッシャーで、少しストレスが溜まっていたようだ」
「素直でよろしい。・・大丈夫よ。ちゃんと団長がヤトリを口説いて扱えるようにサポートするわよ」
「同じく。団長の負担が少しでも減るように、我々も知恵を絞ります」
「そうよ。もう団長だけの問題じゃないんだから、ヤトリの事も反乱軍の事も一人で背負わないで大丈夫よ」
「ヴァ、ヴァリネス・・・」
「何、泣きそうになってんのよ・・・」
オーマは感動して、不覚にもガチ泣き寸前だった。
そのため、クシナの視線に気が付ついたのはウェイフィーだけだった。
「クシナ」
「・・・何ですか?」
「案外一番の強敵かもね」
「知っています・・・・」
クシナは長年オーマを見てきたので、当然知っていた。
“これ”が、クシナが長年思う様にオーマにアプローチ出来なかった理由の一つなのだ。
クシナがこれまでオーマに接近できなかったのは、クシナが奥手と言うだけではない。
だがこの事は、オーマはもちろん、ヴァリネスも気付いておらず、いつもの調子だった。
「ありがとうな副長」
「別に気にしなくて良いわよ。ちゃんと倍返ししてもらうんだから」
「・・・倍返し?」
「うん。勇者候補全六人を口説くのを手伝ったからには、最低12人は私が男を手に入れるのを手伝ってもらうわ。私、ハーレム作るなら可愛い男の子を十人以上は欲しいのよ。ね?だから遠慮しないで♪」
「お、おお・・・」
「えー・・・」
「そ、そんな理由・・・」
相変わらずのヴァリネスに三人はドン引きした。
(俺のハーレム作ってどうのって話も結局、反乱軍とヴァリネスへの恩返しで楽しむどころじゃないのかもな・・・)
オーマは内心でそう思い、自分の性格とは関係なく、ハーレム生活は楽しめない気がするのだった____。