一向に始まらない会議
オーマの“もっとみんなと一緒にいたい”発言に、全員が声を揃えて気持ち悪がった。
「そ、そんな言い方するなよ・・・」
全員満場一致のドン引きリアクションに、予想はしていたがオーマの心は若干傷ついた。
「いや・・こんな言い方するでしょう・・・」
「団長に一緒に居られなくて淋しいと言われてもですね・・・」
「嬉しい・・・じゃなくて、み、妙ですよ!」
「ボクは普通にうれしいですけど?」
「レンデル隊長は素直で良いですね。他の皆さんも___」
「断る」
「私は会議初参加でピンと来ないです」
「団長ぉ、マジでどうした?」
「プッ・・・クククク」
「副長?団長の病気が何か知っているの?」
「病気って言うな。ウェイフィー」
「ええ、知ってるわ。団長はねぇ、宿舎に戻りたくないのよ」
「「宿舎ぁ?」」
全員が頭にクエスチョンマークを浮かべて、声だけでなく表情まで揃えた。
「何故ですか?貴族指揮官用の良い部屋を用意された、って聞きましたけど・・・」
「それはねぇ・・戻ったら、団長大好きの勇者候補の三人が待っているからよ」
「ん?まあ、そうですね・・・でも、それが何か?」
「ハーレムじゃねえかよ。俺ならこんな会議さっさと終わらせて、三人のもとに戻るぞ」
「作戦が上手く行っているという事ですよね?」
「そ、そうですよ・・・いい傾向じゃないですか・・・」
「クシナ。無理しないで」
「いい傾向だから、三人の中で恋のさや当てが起きているのよ。団長は三人と一緒に居て、それに巻き込まれたくないのよ」
そう言ってヴァリネスは、ミカワの宿舎での出来事や、アズマに行った時に見たオーマの奪い合いなんかのエピソードを皆に聞かせた____。
「はあ・・・それで戻りたくないと」
「三人とも積極的で、団長もお疲れなのですわね」
「はあ?なんだそりゃあ!?羨ましい限りじゃねーか!あんなカワイイ子達に好かれてアプローチされて、疲れるだとぉ!?団長!テメ―の血は何色だ!?恋愛で溜まるのは愛情であって、疲労じゃねーーー!!」
「うわっ!キモッ!」
「フランがそれを言いますか・・・」
「うざい」
「きついです。フラン隊長・・・」
女性陣(ナナリー以外)は明らかに生理的に受け付けていない表情だった。
「何でだよ・・・間違ってないだろう」
「言いたいニュアンスは分かるけど、言ったのがフランじゃねぇ・・・」
「今のは、言う人とムードを選ぶセリフですよね」
「それをフランが言ったら、滑るに決まってんじゃない」
「どうしてだよ!俺はこれまでもこれからも何人もの女性を愛していく自信があるぞ!」
「だから、それがダメなんだろ・・・」
「ちょっと、何て言っていいか分からないですね」
「らしいと言えば、らしいのでしょうね」
男性陣も毎度のことながらと呆れていた。
「え?でも、言ったセリフはともかく、何人もの相手を愛することはダメじゃないでしょ?私も自信あるし」
「うわぁ・・・」
「副長は黙っててください」
「そうだろ?副長。そうなんだよ。だって愛は無限大っていうだろ?」
「ふーん・・・。なら何故、フラン隊長は私のもとを去ったのでしょう?」
「___がふっ!!」
「あ、フラン」
「うーん、さすがナナリー・・・」
「一撃でしたね」
フランの主張は、ナナリーによってあっさり撃沈された_____。
「でも、レインはともかく、ジェネリーさんまで積極的になったのは、正直意外でした私」
「サレンさんが来てからですよね」
「積極的というより、サレンも恋愛に関しては積極的だから、焦って前に出ている感じかしらね」
「それで三人そろうと、団長の奪い合いが始まるんですね」
「モテる男はつらいですわね。団長」
「よ、止してくれ。俺まで撃沈する気かナナリー」
「そんなつもりは無いのですけどー・・」
「だが、実際どうすりゃいい?こちらの都合で口説いたわけだし、好かれるのも嬉しいものだが、三人そろったときにどう対応すればいいのか正直わからん」
「団長、童貞だもんね」
「違うぞ、ウェイフィー」
「団長、素人童貞だもんね」
「それは・・・違くはないが勘弁してくれ」
「甲斐性無しだもんね」
「言いたい放題だな!ウェイフィー!ああ!そうだよ!甲斐性無しの素人童貞だよ!ゴメンね!」
「ったく、情けねーなー!男らしくガッ!っと行けよ!ガッ!っと!」
「・・・何だよ、“ガッ!”って?」
「だから、三人まとめて抱いちまえよってこと!初体験が4Pなんて男の夢だろう?」
「ブーーーーー!」
「うわぁ・・・」
「そ、それは・・・」
「きつい」
「そお?愛と体力があれば人数なんて___」
「だから、副長は黙っててください」
「ってかそれ、団長には無理」
「そうですよ。団長にそんなこと期待するなんて可哀想ですよ。フラン」
「な、なんだろう・・複雑だ」
ウェイフィーとロジの言葉に、どう反応したらいいのか分からないオーマだった___。
「まあ、団長がここで三人まとめて手が出せる人なら、とっくの昔に恋人ができてるわよね。ねぇ?クシナ?」
「わ、私に聞かないでください!」
「な、なあ・・冗談じゃなくて、なんか対策は無いか?」
「そうは言いますが、三人は帝国では“勇者候補”という立場ですから・・・」
「上からの配慮で三人とも同じ高待遇を受ける場合が多いですから、三人を別々にする機会は団長が采配できる時だけになりますよね」
「では、やはり今回は厳しいですね。スカーマリス捜査の総指揮はジョウショウ閣下なわけですし」
「な、何とかならんか?このままだと、三人と居る緊張感で消耗が激しい」
「「うーーん・・・・」」
甲斐性がある人物なら楽しめるハーレム状態なのだが、オーマには無理だという・・・。
そんな素人童貞の悲痛な訴えに、一同は頭を悩ませる。
「では、団長に甲斐性を付けて頂くというのはどうでしょう?」
「どうやるのよ、ナナリー?」
「簡単です。団長にさっさと童貞を卒業して頂くのです」
「ブーーーーー!」
「な、ナナリー、なな、何、ナナリー、何言ってんのよ!?落ち着きなさい!」
「いや、落ち着くのは、おめーだよ。クシナ」
「ですが、これが一番手っ取り早いですよ?よろしければ、私が団長を男にして差し上げますが?」
「ブーーーーー!」
「大胆」
「あー、でも確かに良いかも」
「あ、あはははは!わ、私からは何とも言えません・・・」
「ほ、本気で言っているのか?ナナリー?」
「うーん・・・やはり冗談って事にしておきますわ、イワナミ隊長。クシナ隊長に撃沈されそうですし」
「・・・・」
「ク、クシナ・・・」
クシナは、ナナリーの人体を貫ける位の冗談ではない魔力を込めたフレイムレーザーの準備をして、ナナリーに標準を合わせていた___。
「な、なんだ。冗談かよ・・・驚かすなよ、ナナリー・・」
「・・・団長?ちょっと残念?」
「ん、んな!んな訳ないですでしょ!ウェイフィー!バ、バババコンなことを!いや、バカンな事・・・バカな事言うんじゃありませんですわよ!」
「めちゃくちゃ動揺してんじゃんか・・・」
「そ、そそそそんあんことは___って、うお!よせ!クシナ!!」
クシナは、今度はオーマにフレイムレーザーの標準を合わせていた____。
「もう・・・それだったら、クシナが相手すれば良いじゃん。したいんでしょ?」
「ん、んな!んな訳ないですでしょ!ウェイフィー!バ、バババコンなことを!いや、バカンな事・・・バカな事言うんじゃありませんですわよ!」
「団長の口調が移った・・・」
「めちゃくちゃ動揺してんじゃんか・・・」
「い、いい加減にしてください!今日は、何のために集まったんですか!?」
作戦会議で集まったはずなのに、先程から一向に始まる気配が無く、遂にクシナはキレた____風に見えるが、照れ隠しだ。
「確かに、まだ会議始めてすらいなかったわね。じゃ、クシナもいじったし、そろそろ会議始める?」
「そうだな・・・作戦会議もせず、ただ集まって団長の恋の悩み相談にするのもアホだしな」
「あの三人(勇者候補)絡みなら、一応会議では?」
「そうなのですか?幹部の皆さんの会議って、いつもこんなノリなんですか?」
「い、いえ、違いますよ、ユイラさん。確かにフランが暴走することは多々ありますが・・・」
「何言ってんだよ、ロジ。俺じゃなくて副長だろ?」
「いえいえいえ、私などフラン様の足下にも及びません♪」
「またまたまた・・・副長ってば、ご謙遜を___」
「でも、そろそろ真面目に会議始めませんか?」
「ん。そうだな・・・。時間も結構経ってしまったし、そろそろ始まるか」
「団長が時間稼ぎしたんだろ・・・」
「だが、長引かせたのは俺じゃないだろ?」
「はいはいはい!もう、その位にして!そろそろ本気で始めましょ!羽目を外し過ぎた事は謝るわよ」
「副長の言う通りだな。俺の方も悪かったよ。えー、では、第六回勇者ろうらく作戦会議を始めます」
「「りょうかーい」」
ダラダラした雑談の雰囲気を今度こそ断ち切って、オーマは作戦会議を始めるのだった___。