ヤトリ・ミクネとの初対面(4)
サレンの説得方法に手応えを感じていたオーマは、サレンの説得が失敗したことに驚いた。
そしてそれは、サレンも同じだった。
「な、何故ですか!?オーマさん達が帝国の人間だからですか?」
「うんにゃ。確かに二人だけでスカーマリスを捜査するというのは現実的じゃない。サレンの言う通りだ。私が冷静じゃなかった。だから捜査の間だけなら、帝国軍と行動するのはこの際我慢しようと思う。だが、そいつらはダメだ。特に・・・そこの男はなっ!」
「えっ!?お、俺ぇ!?」
ヤトリが協力を断った理由が自分だと言われて、オーマは更に驚いて動揺してしまった。
(何でだよ!?何で俺!?俺って、ヤトリに何かしたっけ?変なことした覚えは無いぞ?ちゃんとアマノニダイの作法だって守っていたし、失礼な真似は・・・いや、てか、そもそも、取り付く島も無くて、話自体殆どしていないじゃないか!!)
頭をフル回転させて自分のこれまでの言動を振り返ってみるが、ヤトリの機嫌を損ねる様な事にまったく思い当たらない。
なら当然、黙っているのも限界になる____。
「あ、あの~、何故、私が一緒だとダメなのでしょうか?私が何かヤトリ様を不快にさせる様な事をしたのでしょうか?」
「ああ、お前は不快だ。お前は縁起が悪いからな」
「____はっ?」
思いもよらない理由で、オーマから間抜けな声が出た。
「え、縁起が悪いって?」
「ど、どういう事なのでしょう、ご主人様?」
「私が知るか」
後ろで話を聞いていた、ヴァリネス、レイン、ジェネリーの三人も、ヤトリが何を言いたいのかピンと来ず、コソコソと三人で話している。
三人がそんな調子で、オーマが間抜けになっているなら、当然サレンが聞くしかない。
「え、えーと・・・東方のエリストエルフの方は、 縁起の良いものを取り入れたり、縁起の悪いものを省いたりして、“験を担ぐ”と聞いた事が有りますが・・・そういう事ですか?」
「そうだ」
「「はあ・・・」」
東方文化を知らない他の四人には、良く分からない言い分だった。
サレンも、東方文化のそれ自体は知っていたが納得はしていない。
「そ、それで、オーマさんの縁起が悪いというのは、どういう事ですか?」
「だって・・名前が、“オーマ”じゃんか」
「?・・・それが?」
「逆から読んだら“マオー”だろ?魔王ってさー」
「_____はっ?」
またオーマから間抜けな声が出た。
「ま、魔王・・ですか?」
「ああ。縁起悪いなんてもんじゃないだろう?そんな名前の奴と一緒に戦えるか?無理だろう。どうせ、ろくな奴じゃないだろ」
「_____はっ?」
そんな理由で“ろくな奴じゃない”と言われ、またまたオーマから間抜けな声が出てしまった。
「な、なんという・・・」
「難癖にも程が有るわね・・・本気かしら?」
「ヤ、ヤトリさん・・・それ、本気で言っていますか?」
「もちろんだ!そんな名前している奴は悪党に違いない!」
ヤトリは胸を張って、えへんっ、という態度でそう言った。
「_____はっ?」
胸を張るヤトリの態度に、オーマから間抜けな声が再び____。
「な、何と言いますか・・・やっぱり無茶苦茶な子ですね、兄様」
「・・・・・・・」
「・・・兄様?」
「・・・っけんな・・・」
「は?・・に、兄様?今、何て?」
「ふっ・・・っけんな・・・」
「ちょ!?兄様!?落ち着いて!」
「ふっっっっざけんなーーーーーー!!!」
そして、オーマはブチ切れた____。
「何だそりゃぁあ!?お、俺をよりにもよって魔王だとぉ!?人の名前で遊ぶなぁ!!このクソガキィ!!」
「あんだとー!?そんなふざけた名前している貴様が悪いんだろう!!」
「悪いわけあるか!!人様の名前をバカにするなって、親に教わらなかったのか!?」
「うるせー!!偉そうに説教するな!!」
「ああ!そうかよ!そりゃー悪かったな!ヤキトリのツクネ!!」
___ブチ。
「だ、誰がヤキトリのツクネだーーー!!!」
そして、ヤトリもブチ切れた____。
「人の名前をそんな美味そうな名前にするんじゃない!!!」
「はんっ♪そんなふざけた名前をしている貴様が悪いんだろう!?」
「んだとーーー!!き、貴様は親から人に対して言って良い事と悪い事が有るって教わらんかったのかーーー!!」
「うるせーーー!!てめーが言うな!!」
「ちょ!兄様!?」
「オーマ団長!落ち着いてください!」
「あわあわ・・・」
「あーあ・・・」
どんどんヒートアップしていく二人に、勇者候補の三人は慌てている。
ヴァリネスだけが、冷静になって(と言うより呆れて)ブチ切れた二人を眺めていた。
「ヴァリネスさん!そんな落ち着いてないで、何とかしてください!」
「いや、無理よ。オーマの奴、戦士団の名前とかもそうだけど、意外と名前とか気にするタイプだし・・・」
「そんな!?じゃーどうするんですか!?」
「うーん・・・とりあえず、魔法を使いだしたら全力で止めましょう・・・・あんた達三人がいて良かったわ」
「「えー・・・」」
「さっきから聞いていれば______!!」
「そっちこそ______!!」
ヴァリネスの指示に三人がドン引きしている最中も、二人の罵り合いが止まらない____。
だが、二人とも辛うじて理性が残っているのか、物理的な喧嘩までには発展してはいかなかった。
その代わりと言ってはなんだが、言葉の刃は激しさを増していくのだった____。
「だいたい、ちょっと名前をいじっただけでギャーギャー喚くな!大人気ない!」
「感情のまま振る舞う単細胞が何言ってんだ!!不用意に魔法なんてぶっぱなすんじゃねーよ、バーカ!!」
「バカって言うほうが、バカだ!!バーーカ!!」
「うるせーイノシシ!!」
「唐変木!!」
「ちーび!!」
___訂正しよう。激しさが増しているのではなく、どんどん幼稚になっていた。
「な、なんか、子供の喧嘩みたいになっちゃってますね・・・」
「ここまで来るともう、どっちもどっちだ・・・」
「兄様ぁ・・カッコ悪いです」
「ア、アハハハハハ・・・・」
ヤトリと子供じみた喧嘩をするオーマを見て、勇者候補の三人の中でメキメキとオーマの好感度が下がっていく。
ヴァリネスはその三人にもオーマ達にも、掛ける言葉が見つからず、乾いた笑いで取り繕う事しかできなかった_____。
「もーーー知らん!!お前みたいな縁起の悪い奴とは絶交だ!!このクソ魔王!!」
「こっちだって、お前みたいなクソガキなんて願い下げだ!!」
「「・・・・・」」
____“いや、まだ交際していないだろう”と四人は思ったが、誰もツッコまない。
というより、ツッコむ気になれない・・・。
「もういい!!よし!四人とも帰るぞ!」
「え?」
「ちょ!?」
「兄様!?」
「いや、団長。それは流石に___」
帰る(任務放棄)と言い出したオーマに、流石に四人とも呆れてしまう。
だが、オーマの中では腹の虫がおさまらない様だった。
「ダメだコイツは!俺はコイツと一緒に帝国と戦える自信がこれっぽっちも無い!!」
「は?帝国?」
「ちょ___!?」
「何言ってんですか!?」
「兄様!?それはダメです!!」
「このバカ!!」
ぶっちゃけ過ぎたオーマの口を皆で慌てて塞いだ____。
「モ、モガガガガァ!!」
「し、静かに!」
「兄様!今は黙ってください!」
「・・・おい。今、“帝国”と戦うって言ったか?」
「い、いえいえいえ!そんなこと言ってませんよ!」
「ただの言い間違いです!」
「ヤトリさんの気のせいです!」
「いや、どっちだよ・・・」
「と、とととにかく!今日の所は帰りましょうかぁ!?」
「そ、そうですね!また明日来ます!」
「し、しししっ失礼します!」
「あ、おい・・・」
ヴァリネスの撤退命令が出ると、勇者候補の三人は慌ててその場をごまかしつつ、オーマを引きずって退散して行った____。
「・・・ただの言い間違えなら何でそんなに慌てるんだよ・・・・」
一人ポツンと残されたヤトリは、オーマの言動と言うより、その言葉に焦りを見せた一行の態度が気になっていた____。