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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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ヤトリ・ミクネとの初対面(3)

 ヤトリから帝国を嫌う理由を聞いてオーマは納得し、好感さえ抱き始める。

そして、オーマの中で、ヤトリの幼稚で傍若無人なイメージが少し変わった。


 ヤトリの方は、それだけでは飽き足らないようで、愚痴るように帝国の非難を続けた。


「それに・・あの帝国の貴族共だ。特に第一の奴らだ。あいつ等はろくなもんじゃないだろう」

「第一貴族が、ですか?」

「第二貴族ではなく?」

「ああ、そうだ。第二貴族はただ偉そうなだけだ。だが、第一貴族は質が悪い。下の者達には他国に攻め込ませて侵略しておいて、下った者達には親切で優しくって・・・偽善にも程があるだろう?帝国の下の連中も、アマノニダイの高官達も、何故あいつ等を信用しているんだ?全く信用できないだろ?」


「「へぇ・・・・」」


ヤトリのこの発言に、オーマとヴァリネスに加えて今度はジェネリーも感心の声を出した。


(そうか。この子は薄々・・・いや、しっかりと帝国第一貴族の本質を理解しているのか)


 自分の立場を気にしないという事は、決して良い事ではないが、相手の立場にも囚われずに物事を見ることが出来るという事でもあるのだろう。

そして、感情のまま振る舞うというのも、決して良い事ではないが、理屈や上辺に騙されない勘が働くという事でもあるのだろう。

事前に聞いていたヤトリの性質は、裏を返せばそういう事であり、第一貴族の本質を見破る要素でもあったという事だ。


「サレン。お前は本当にあいつ等を信用しているのか?」

「・・・・・」


 サレンはヤトリの質問には答えない。

内心では当然、“信用していない”という答えなのだが、今この場は自分の意見を言う場ではないと判断しているからだ。


 ヤトリと対面する前に、事前に打ち合わせをして、オーマの交渉が上手く行かなそうなら、ヤトリの説得役を同じエルフであるサレンに交代してもらう事になっていた。

そしてその際は、少しでも作戦に役立つ情報が必要なため、可能な限りヤトリに話をさせる様にオーマから指示を受けていた。

今、サレンが沈黙を選択したのはそのためだ。

 ヤトリの言葉に反対するのは危険だし、ヤトリの質問に「信用していない」と答えてしまえば、そこでヤトリが自分語りを止めてしまう可能性が有るとサレンは考えたのだ。


 この選択のおかげか、これまで面白いくらい自分の話をしていたヤトリは、また更に自分の帝国に対する思いを語ってくれた。


「あいつ等が優しいのは上辺だけだぞ?中身は強欲でしたたかな野心家だ。・・・いや、強欲だからこそ上辺が優しいのか?まあ、どちらにしろ、奴らは自分がこの大陸の全てを支配するために動いている。そんな奴らと手を組んでいたらゴレストもオンデールも、気付かない内に帝国の手中に収まってしまうぞ?」

「・・・・」

「・・・そうだ。ゴレストやオンデールだけじゃない。アマノニダイだって、いつかは・・・・いや、もうすでに支配されかけていると言ってもいい・・・」


 ヤトリの言葉の最後の方はトーンが落ちていた。

その事で、ヤトリが一番に心配している事は“それ”なのだと、オーマ達は容易に理解できた。


(なるほど。自国のアマノニダイも気付かない内に徐々に支配されて行って、完全に支配されることを恐れているんだな・・・。なんだ、思っていたよりずっとまともじゃないか)


 オーマの中でヤトリの印象がまた更に変わった。

 ヤトリは帝国第一貴族の本質を見抜いていて、それを危険視している。

帝国が全てを牛耳る前にどうにかしたいと考えていて、恐らく、アマノニダイには帝国と手を切ってほしいのだろう。

だが、アマノニダイと帝国は前魔王大戦で共に戦った頃からの信頼関係がある。

その築き上げた信頼は非情に強固で、ヤトリがいくら帝国の危険性を主張したところで、ヤトリの方が批判されて立場が悪くなるだけなのだろう。


(そんな状況なら、ヤトリの言動も納得がいくというものだ)


 傍若無人なヤトリの言動____。

その気持ちと真摯に向き合えば、その言動は辻褄が合い、理解もできるものだった。

 帝国は危険だからどうにかしたい。自国には帝国と縁を切ってほしい。

だが、そうはならないし、訴えても自国の者達はヤトリより、帝国第一貴族を信用してしまっている。

ヤトリにとってはもどかしい限りだろう。

そのもどかしさと、帝国に対する不信感、自国が徐々に侵されている焦りを思えば、傍若無人な振る舞いにもなるというものだ。


(・・・これは、非常にチャンスなのでは?)


 オーマはヤトリの話を聞いて、最終的にそんな感想に至った。

 もし、ヤトリの心情や状況がオーマの思っている通りなら、ヤトリは今、間違いなく変化を望んでいるはずだ。

帝国に反発する動き、帝国に対抗できる力を持った勢力の台頭を、誰よりも望んでいるのはヤトリなのかもしれない。

 それならば、ヤトリを反乱軍に加えるのは、実は容易な事なのかもしれない。

少なくとも、ヤトリが帝国に対して不信感を持っていなかった場合よりは良いだろう。

 ヤトリが帝国をアマノニダイの者達同様に信用していたら、ろうらく自体は容易いだろうが、反乱軍に加えるのはかなり困難な作業になるだろう。

だが、帝国に不信感を抱き、帝国と自国が仲が良い事も嫌がっているならば、反乱軍に加えやすい筈である。

ヤトリのこの性格ならば、帝国に対して牙を向ける事を躊躇ったりもしないだろう

 オーマの中でヤトリ攻略の道筋が見えてきて、気持ちが前向きになってくる。

それと同時に、オーマはヤトリに対してまた更に好感を抱き始めていた____。


「なあ、サレン。いっそ私と二人でやらないか?そのスカーマリスの捜査」

「えっ!?」

「確かにお前が言う様に、その魔族を放置しておくのは危険だというのは分かる。ただ、帝国の奴らと組むと何があるか分からないし、アマノニダイの者達も頼りない。だから私とサレンの二人でやるってのはどうだ?名案だろ!?」


ヤトリはサレンにズイッと顔を近づけて、嬉々とした表情で提案した。


「え、ええと・・・それはさすがに現実的ではないと思います」

「何でだ?元魔王軍幹部を屠れるお前と私なら、スカーマリスの魔族の相手なんて余裕だろ?」

「む、無理ですよ・・・。ディディアルを倒したのは私ではありませんし、あの広いスカーマリスを二人だけで捜査するのは厳しいですよ」

「確かに時間はかかるだろうが、やれるだろう?」

「時間を掛けていたら、その間に逃げられてしまいますよ」

「う~ん・・・だがなぁ・・・帝国の連中と一緒というのはなぁ・・・」


 ヤトリはまた腕を組みながら渋い表情を見せる。

相変わらず、オーマたち帝国の人間がいてもまったく気にしない態度だったが、オーマ達も気にしない。

いや、気にしないどころか、むしろオーマは少し嬉しいくらいだった。


「ヤトリさん。確かに貴方の仰る様に、帝国は信用できないところが有ります。私も帝国の全てを信用したわけではありません」

「ほう・・・」


サレンの言葉にヤトリは感心した表情を見せる。


「なら何故、帝国の人間と一緒に居る?」

「それは、私が個人的に、オーマさん達を信用しているからです」

「個人的に?」

「こちらにいるオーマ団長と、その雷鼠戦士団の幹部の皆様とは、タルトゥニドゥ探索で一緒に行動していましたが、実力、人格、共に信頼に足る方達です。まだご一緒して日が浅いので、全てを信用することは出来ませんが、この一件に関してなら行動を共にできる方達だと断言できます」

「むぅ・・・」


“全てを信用することは出来ませんが”の部分は、方便でついたウソだろう。

一緒に死ぬ覚悟までしたサレンが、オーマを信頼していない筈がない。

恐らく、ヤトリとの目線を近づけるために吐いたのだろう。

そうして目線を近づけた上で、サレンは“スカーマリス捜査の間だけなら良いだろう?”というニュアンスでヤトリを説得しに行った。


(ナイスだ。サレン)


このサレンの説得の手順をオーマは感心する思いで評価していた。


 現段階では、自分達が帝国の反乱軍であることを告白するのは危険だ。

ヤトリが帝国を嫌っているのは間違いないが、まだ自分達との信頼関係は築けていないのだから、反乱軍の話を出すのは、スカーマリスで行動を共にしてある程度の関係を築き上げてからが良いだろう。

であるならば、スカーマリス捜査の間だけと限定して、信頼を得るチャンスを手にするのがセオリーと言える。

オーマもサレンの立場なら、同じ様な説得の仕方をしていただろう。

そのため、オーマはサレンのヤトリの説得に手応えを感じていた。だが____


「やっぱダメだ」


「「ッ!?」」


ヤトリの返答は再びNOだった____。

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