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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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ヤトリ・ミクネとの初対面(2)

 初めて見る実際のヤトリ・ミクネの姿は、見た目から印象までオーマがイメージしていた通りだった。

そんなイメージ通りの姿を眺めていると、その童顔で攻撃的な印象のある顔が歪んで、更に攻撃性を増した。


「おい!聞いているのか!?何者なんだ!貴様らは!?帝国の人間が何故ここにいる!?」

「___あ!失礼いたしました!」


 ヤトリ・ミクネに詰められて、オーマはハッと我に返る。

そして、相手をこれ以上刺激しないように、オーマは直ぐに姿勢を正して皆を代表して自己紹介した。


「初めまして、ヤトリ・ミクネ様。私はドネレイム帝国北方遠征軍第3師団所属、雷鼠戦士団団長オーマ・ロブレムと申します」

「北方遠征軍第3師団の雷鼠戦士団?・・・ああ、あの“ドブネズミ”か・・・何の用だ?」


“ドブネズミ”というワードにオーマは一瞬イラッとしたが、もちろん態度には出さない。他のメンバーも、だ。

事前に話を聞いていたので、これ位の事は言われると思っていた。


____イラつくが予想通りだ。


 オーマは、ヤトリ・ミクネの挑発には付き合わず、こちらの用件だけを率直に伝えることにした。


「本日、このアズマ神社を訪れたのは、ヤトリ・ミクネ様に、我々の行うスカーマリスの捜査に協力して頂くためにございます」

「スカーマリスの捜査・・・そうか。さっきババアどもが話していた連中とはお前らか・・・。断る。自分達だけでやれ。帝国は人の質も量もそろっているだろう?なら、スカーマリスの捜査くらい余裕だろう?じゃあな」

「___っと」


そう言い捨てて、ヤトリはオーマ達を通り過ぎていく。


(取り付く島も無いな・・・だが___)


事前に話を聞いていたので、やはりこれ位の態度は取られると思っていた。


____イラつくが予想通りだ。


 ヤトリ・ミクネの態度を見て、オーマはサレンに視線を送って、“選手交代”の合図を出す。

その合図にサレンはコクンと頷いて、ヤトリ・ミクネの説得役を交代した。


「待って下さい!ヤトリ・ミクネさん!」

「あぁん?いい加減に___って、お前・・ラルスエルフか?」

「はい。私はオンデールのサレン・キャビル・レジョンと申します」

「サレン!?あの“神の子”と謳われている魔導士か!?」


ヤトリはサレンの名を聞くと立ち止まり、興味を見せた。

それと同時に、ヤトリが纏っていた他人を寄せ付けない刺々しい雰囲気も無くなった。


「何故、お前ほどの魔導士が帝国の人間と一緒に居る?聞いたところじゃ、お前は私と同等かそれ以上の魔導士らしいじゃないか」

「私達は現在、ゴレスト神国と共に帝国と友好的な関係を築いている最中なのです。それで、その一環で私は使者として帝国に来ています」

「・・・オンデールは帝国に下ったのか?」

「違います。人間から迫害を受けた歴史を持つ私達が、人間の国家に下る事は有り得ません」

「では、どういう事情で一緒に居る?」

「先程も申し上げた通り、帝国と友好を築くためです。そして、そうする理由は魔族に対抗するためです」

「・・・・・」


ヤトリはサレンの言葉に表情を変えずに黙っている。

 サレンはそれを、“こちらを拒絶していない”と受け取って、話を続けた。


「ヤトリさん。魔族、そして魔王はファーディー大陸に生きる者達全ての敵です。そして、その力にはこの地に生きる者達が一丸とならなければ抵抗できません。今がその時なのです」

「何だ?魔王でも誕生するのか?」

「我々がスカーマリスの捜査する理由は聞いていないのですか?」

「ああ。出かけようとしたら、帝国の人間が訪ねてくるから社務所に居ろと言われただけだ。その後はムカついて、ぶっ飛ばしたから詳しい話は聞いていない」

「・・・・・」


事情も聞かずに同盟国の要人の訪問を無視するというのは、こちらがアポなしとはいえ非常識に思えた。

加えて、それを伝えて使者に会うよう説得してきた相手をぶっ飛ばしたのは、確実に非常識だ。

だが、やっぱり事前に話を聞いていたので、堪えることが出来た。


____イラつくが予想通りだ。


ただ、もし仲間に出来たとしても、その後上手くやって行けるか不安にはなってしまった・・・。


「こほん。では、私から事情を説明いたします。先日私達は、オンデール、ゴレスト神国、アマノニダイ、ドネレイム帝国の四か国でタルトゥニドゥ探索を行いました」

「へぇー」


 あの四か国外交は、結構大きな出来事のはずで、普通なら高官のヤトリ・ミクネが知らない筈は無い。

だが、ヤトリは初耳だったようだ。

彼女の普段の勤務態度がうかがえる反応で、オーマは“こいつは公務も雑なのか”とイラ立つのだった。


「その探索の中で、我々は元魔王軍幹部のディディアルという名の魔族に襲われました」

「ほーー、元魔王軍幹部ねぇ・・・お前達が生きてここに居るという事は倒したのか、その元魔王軍幹部とやらを。やはり強んだな、お前」


ヤトリは感心したように、そう言った。

話の要点はそこではないのだが、指摘すると面倒そうな性格なのはすぐに分かったので、誰もその事をツッコまない。


「ありがとうございます。それで、そのディディアルという魔族なのですが、タルトゥニドゥではなくスカーマリスに住む魔族だという事が分かったのです」

「スカーマリスの魔族が何故わざわざタルトゥニドゥに?てか、どうしてそれが分かった?」

「そう推測できる言動があったのと、タルトゥニドゥの魔族達の証言もあります。そして、ディディアルの狙いは私の力でした」

「お前の力?」

「はい。私は世に隠し続けてきた特殊な力が有ります。ディディアルはそれを奪いに来ました」

「ふーん」

「そして、ここで問題が浮上します」

「問題?」

「はい。それは、“何故スカーマリスの魔族がオンデールで隠し続けてきた私の力の事を知っていたのか?”です。オンデールのエルフは、迫害の歴史から、オンデンラルの森に結界を張って、自分達の力を隠し続けて来ました。それにも関わらず、です。私がこの力を結界の外で使ったのは、四か国でタルトゥニドゥ探索に出る前に一度、オンデールとゴレストだけでタルトゥニドゥ探索を行った時の一回だけです」

「その時にディディアルに見つかったんじゃないのか?」

「いえ。ディディアルに遠く離れた場所の魔力や魔法の観測をする力はありません」

「なら、教えた奴がいるのか?」

「はい・・・。そしてその人物は、そのディディアルでさえ利用していた節があり、ディディアル以上の力を持った魔族の可能性が高いのです。元魔王軍幹部以上ともなれば放置しておくのは危険です。それでその魔族の正体を突き止めるために、スカーマリスを捜査することになりました」

「それで、私にその捜査に協力しろという訳か?」

「はい。相手が相手なだけに生半可な戦力では犠牲が増えるだけです。是非、ヤトリさんにご協力頂きたいのです。お願いします!」


そう言って頭を下げたサレンに続いて、オーマ達も頭を下げた。


「う~~ん・・・」


ヤトリは、その様子を見下ろしながら、腕を組んで考え込む・・・。

 オーマは、ヤトリが何に対して悩んでいるのか気になっていた。


(・・・・疑われている?それとも損得?)


 話自体は本当の事だし、疑われたとてアマノニダイの高官達に確認してもらえば分かる事だ。

サレンの説明も特におかしかった部分は無い。

クラースが言う様に、魔族に対する事なら、特に迷う必要なくOKしても良さそうだと思いつつ、頭を下げたままヤトリの返答を待つ。


 暫くすると、腕を組んでブツブツ考えていたヤトリが答えを出した。


「確かにその魔族は危険だし、同じエルフとして協力したい気持ちも有るがー・・・やっぱダメだな」


ヤトリの返事はNOだった。


(うおっ!?クラースの奴、外しやがった!?)


断られたというのに、クラースの予想が外れてオーマはちょっと喜んでしまった。


「だ、ダメなのですか!?」

「すまんな。やっぱ帝国の連中とは組みたくない。嫌だ」

「そ、そんな・・・!?」


ヤトリの返答に、サレンは言葉が出せずに絶句してしまう。


(しょうがないよなぁ・・・。断った理由が、利害とか信用とかじゃなくて、相手の好き嫌いだもんなぁ)


 同盟国や同じ種族の頼みを、個人の感情で断るのは立場の有る者としては非常識だが、オーマは有り得ると思っていたので、そんなに驚かなかった。


____イラつくが予想通りだ。


(にしても、とことん帝国が嫌いなんだな、この子は・・・。どうしてか理由が知りたいが、踏み込んで聞いて大丈夫だろうか?)


ヤトリが感情的過ぎて、どれぐらいの距離感でどれくらい踏み込めるのか、オーマにはまったく見当がつかない。

ヴァリネスにアイコンタクトで相談して見ようかと思ったが、先に納得がいかなかったサレンが口を開いた。


「ヤトリさんは、どうしてそこまで帝国が嫌いなのですか?」

「それは逆にこっちが聞きたい事だ。何でお前は帝国とつるめるんだ?こいつらは大陸最大最悪の侵略国家だぞ?自分達の都合で他国に攻め込んで人を虐殺しているんだ。魔族と変らんぞ。誰が好きになるんだ?同盟にしたって、私が好きで結んだわけじゃない」


オーマ達帝国の人間がいる前で、ヤトリは堂々とそう言い放つ。

 だが言われたオーマは、今度は全く頭にきていなかった。


(なるほど。友好国としての立場がどうのじゃなく、人・・エルフとして帝国のやっている非人道的な行いを嫌っているのか・・・それなら___)


____納得だ。

むしろ、まだ多少の子供っぽさを感じつつも、勇者の素質ともいえるヤトリのその正義感に、オーマは好感さえ覚え始めた____。

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