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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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ミカワ到着

 二ヵ月ぶりの訓練も終わり、オーマ達は、訓練後にサレンとヴァリネスの仲を修復することになりつつも、その後は数日休みを満喫した。

そして翌週に入ると、一行は遠征の準備に入る。


 目指す地はミカワ___。

帝国の南東に位置する旧トウショウジン領にある街の1つだ。

 トウショウジンとアマノニダイの関係は、ゴレストとオンデールの関係に似ていて、ゴレストがオンデールからオンデンラルの森の一部を貸し与えられているのと同じように、トウショウジンもアマノニダイから友好の証としてアマズルの森の一部を貸し与えられている。

ミカワはその共有スペースの地域に作られた街で、帝国東方軍とアマノニダイ軍の駐屯地でもあり、スカーマリス魔族との戦場(狩場)の最前線基地でもある。


 準備は一日二日で終わり、サンダーラッツ一同は、そのミカワに向けて出発した___。




 アマズルの森は落葉樹の森で、秋になると木々の紅葉がこの上なく美しい絶景を見せてくれる。

それが目的で、この十月ごろになると観光目的で東方の地を訪れる者が増える。

 帝国東方地方(旧トウショウジン領)の特徴は、同じ帝国でありながらアマノニダイの影響を受けた独自の文化が残され、別国の様な生活様式である事と、アマズルの森を中心に綺麗な景色が見られることで、観光も盛んであるという事だ。

ミカワに向けて出発したオーマ達も、道中でそれらしい人々を多く見かけた。

それに釣られてか、はたまた本々のサンダーラッツの“ノリ”なのかは分からないが、オーマ達の行軍も少し観光気分だった___。




 一行がミカワに到着すると、門兵が直ぐに人を呼んで、団長のオーマと勇者候補達、ヴァリネス含む隊長達と一般兵に分けられ、それぞれ軍の宿泊施設へと案内された。

遠征軍(平民)が来た場合、雑な対応をされることが多いのだが、第一貴族の命令の為かその様な事は無く、対応は丁寧で、受け入れもスムーズだった。

 宿泊施設も、普段の遠征では見られない良い部屋を用意してもらえた。

指揮官の部屋は勿論、一般兵の部屋も植物を使った畳という床材が敷かれ、掃除が行き届いており、寝具(東方では布団)のシーツなんかも白くてキレイな物が支給されている。

 別名“和式”と呼ばれる東方の生活様式で、サンダーラッツの殆どの者にとって馴染みの無いものだったが、その部屋の清潔さと居心地の良さのおかげで、殆どの者が直ぐに馴染んでくつろぐことが出来た。

 オーマと勇者候補達の部屋は更に特別で、貴族指揮官用の部屋を用意してもらえていた。

特に、勇者候補達に対しての配慮だろう。

銘木のケヤキで作られた座椅子と脇息、飾り棚には趣のある花瓶や水槽などがあり、部屋の仕切りには白い生地に艶やかな花が彩られた几帳が置かれている。

そんな、初めて目にしているにも拘らず、どこか落ち着きを感じさせる部屋の調度品が、広々とした空間を贅沢に使って配置されている居心地の良い開放的な部屋だった。

貴族の宿泊施設と聞いて、最初は緊張していたオーマも、この淑やか部屋に入って少し時間が経つと、随分と居心地の良さを感じてくるのだった。

 まるで高級宿の様な高待遇に、観光気分だった勇者候補達のテンションは益々上がっていた。


「良い部屋を用意してもらえましたね!」

「なんか、軍の任務できている感じがしないな」

「道中も景色が綺麗で、観光気分でした」

「できるなら、このまま観光して帰りたいですねー」

「いいですねぇ♪道中でクシナさん達に聞いたのですけど、キョウって街も観光地としてお勧めらしいですよ」

「私は着物が来てみたい」

「あっ!あのエリストエルフの民族衣装、私も着てみたいです!」

「私はやっぱり、美味しいものが食べたいですねぇ」

「それは私もだ。イワナミ隊長から東方では食材から調理法まで帝国とは違うと聞いている」

「へぇー、堅物のご主人様でも、東方観光は興味ありますか?」

「だから、ご主人様じゃー・・・私だって噂には聞いていたし、そりゃ興味はあるさ。もちろん、任務が最優先だがな。けど、時間が有るなら少しくらいは・・その、オーマ団長と・・・」


「「むっ!?」」


 ジェネリーのその一言で二人にスイッチが入った。


「へぇー、ジェネリーは抜け駆けする気だったんですねぇ?」

「もう・・だから、最初は私だと何度言ったら___」

「そ、それは状況次第だってオーマ団長も仰っていたじゃないか!」

「でも、それだったら、ご主・・ジェネリーの出番は無いですよ」

「何ぃ!?何故だ!?」

「だって、ジェネリーは雷鼠戦士団重装歩兵隊隊長補佐じゃないですか?なら指揮官としての仕事があるでしょう?浮かれてはいられないんじゃないですか?」

「そうですねぇ?今からでも、イワナミさんのお手伝いに言ったらどうですか?」

「くっ!・・・ずるいぞお前達・・・わ、分かっているとも!言われんでも、イワナミ隊長の手伝いはするさ!」

「じゃあその間、私が兄様と観光デートしてますね♪」

「待って下さい、レイン。レインもそれどころではないでしょう?」

「どういう意味ですか?サレン」

「だって、レインはジェネリーのメイドでしょう?なら、ジェネリーの世話をしないといけないじゃないですか」

「なっ!?」

「おお!そうだなぁ♪お前は私のメイドなのだから、ちゃんとついて来てもらわんとなぁ?」

「ちょ!?それはあくまで建前でしょ!?ずるいですよ!ジェネリー!」

「ご主人様と呼べ」

「うっわ!調子のいい!」

「ではそういう事で、オーマさんとは私がデートしますので♪」


「「まてまてまて!」」


「ちょ・・三人とも」


三人が少しずつヒートアップしてきて、ようやく居心地が良くなってきたオーマに、再び緊張が走りだす。


(勘弁してくれ!こんな所で喧嘩なんて!)


心の中でそう絶叫しながら、三人をなだめるセリフを考えてはみるものの、素人童貞のオーマでは良い言葉がまったく浮かんでこない。


「じゃー、誰がオーマさんとデートするか決着つけますか?」

「いいだろう。一回ハッキリと決着をつけておきたかった」

「望むところです!」

「ちょ!?ま、まじで止めろってぇ!」


 いよいよ喧嘩になりそうでオーマは焦り出す。

だが、神はオーマを見捨てておらず、寸前のところでトントンと襖を鳴らしてヴァリネスが部屋に入って来た。


「ハァーイ♪団長、準備できてる?って、うお!?メチャクチャ良い部屋じゃない!?どこの高級ホテルよ!」

「うおおお!ヴァリネス待っていたぞ!」

「はあ?どういう事?」

「いいからいいから!もちろん準備はできている!行こうか!三人共そういう訳だから、ヴァリネスと東方軍団長に面会してくる!」

「む・・・」

「もう・・・」

「またですか?」

「・・・何なの?」


よく状況を理解していないヴァリネスをせかせかと連れ出し、オーマは東方軍団長のジョウショウに会うべく、ミカワの本城へと向かうのだった____。




 駐屯地のミカワの城は、ナガシノ城という和式の城だ。

かなり昔に建設られた城で、まだトウショウジンがエルフと親交が無く、アマノニダイと戦争をしていた頃から存在する。

そして、その頃は対トウショウジン、魔王大戦中は対魔王軍、大戦後は対スカーマリス魔族の前線基地として使われ続けている。

そのため、最新の魔法設備だけではなく、切岸や土塁といった原始的な防衛施設も残っている。

 歴史は長いが、何度も改装されているため、城内はわりと真新しい。

入城したオーマとヴァリネスは、物珍しいその城内の造りや、庭やらを横目で眺めながら、ジョウショウのいる部屋へと案内された___。


「失礼します。ジョウショウ様、雷鼠戦士団の団長と副団長をお連れしました」

「通せ」

「はっ」


 案内してくれた従者がスーっと襖をあけて、部屋に入るよう二人を促す。

二人は「失礼します」と一言断わりを入れてから部屋に入った。


「失礼します、ジョウショウ様。宰相クラース閣下の命により、雷鼠戦士団団長オーマ・ロブレム、並びに副長ヴァリネス・イザイア到着しました」

「よく来てくれた。遠慮せず座ってくれたまえ。勿論、足も崩してくつろいでくれて構わない。東方出身ではない君らには正座は馴染みが無いだろう」

「ありがとうございます。失礼します」

「失礼します」


ジョウショウに促され、二人は畳の上に置かれている金糸の刺繍が施された高級座布団の上で胡坐をかいた。


 そうしてオーマは、ジョウショウと向き合う。


 帝国三大貴族のマサノリの腹心の部下であるホンダ・ニツネ・ジョウショウ___。

やはり、第一貴族だけあって、その存在感には確かな実力を感じさせるものがある。

 大きく厚みのある体格は胡坐をかいていても大木の様な威圧感があり、太い根が張ってあるように感じる。

オーマが本気で上級魔法を打ち込んでもビクともしない____そんなイメージが湧いてきてしまう。

戦うどころか、構えてもいないのにジョウショウが強者であると理解できる。


(一対一じゃ厳しいか?ヴァリネスと二人なら____ふん)


 軍人としての癖で強者を前にすると、つい相手に勝てるかどうかを考えてしまう。

オーマの中で、“自分一人では勝てないかも?”と感じたわけだが、それと同時に“その程度だろ?”とも思った。

 クラースやマサノリ、カスミといった面々ほどの絶望的な戦力差には感じないし、ろうらく作戦を任されてからは勇者候補の実力も見てきている。

それらと比べると、絶対に油断してはならない相手ではあるが、緊張する相手では無かった。

 そういう感想に至ったオーマは、気負う事無くどっしりと構えて、ジョウショウと向き合った。


「クラース宰相から話は全て聞いている。例の作戦が順調で何よりだ」

「ありがとうございます。今回も作戦を成功させるために奮迅努力いたします」

「こちらも可能な限り尽力するつもりだ」

「感謝いたします」

「いや、礼には及ばん。クラース宰相から言われている事でもあるし、それに____」


 見た目と表情に変化は無いが、大きな塊が揺らいだような感覚を覚え、ジョウショウがバツが悪そうにしているとオーマは感じとる。


「・・・如何なされたのでしょう?」

「うむ・・。情けない話で話すのは躊躇われるが仕方が無い。帝国の行く末にも関わる大事な案件。見栄を張っているときでは無いな。実は____」


普段なら絶対に見せないであろう第一貴族の弱気な態度に、オーマは一瞬嫌な予感を覚えた。


「今回、早速君達にヤトリ・ミクネを会わせる為に、アマノニダイに書状を送ってヤトリ・ミクネを招待しようとしたのだが、応じてもらえなかった」

「はあ?___あ、失礼しました!あの、その、それには何か理由が・・・?」

「無い」

「へ?・・・あ!し、失礼しました!え、えーと・・そ、それはどういう・・・」

「単純に無視された。アマノニダイにいるエルフの友人曰く、アマノニダイ高官達の前で堂々と“嫌だ”と言って書状を破り捨てたそうだ」

「はあ?」

「ちょ・・・」


嫌な予感が的中し、オーマだけではなくヴァリネスも絶句した。


(マジかよ。そんな奴、口説く自信ねーよ・・・・・・てか、本当にその性格だけか?他に“そう”振る舞わなきゃならない理由があるんじゃないか?)


ヤトリ・ミクネの余りの傍若無人な態度に、そんな深読みをしてしまう。

 いくら同盟国の要人で強い力を持っているからといって、そこまでの振る舞いができるだろうか?

若さも有るのだろうが、それを差し引いても現実的ではない気がしてきた。


(あるいは、俺の器で測れないだけで本当に傍若無人な人物なのかも・・・もし、そうだったら___)


___しんど過ぎる。

ろうらくするのも大変だが、上手く仲間に出来たとて、そんな人物を制御する自信オーマには無い。

雷鼠戦士団に新兵として配属されてきたら、すぐにオルド師団長に相談する案件だ。


 振動を操り、超広範囲攻撃と超破壊攻撃を可能にする、制御不能な魔導士____。


(そんな奴が自分のところに来ても困る・・・。軍隊全てを吹き飛ばす爆弾を抱えている様なもんだぞ・・・・でも、敵に回すのはもっと・・・ああ、クラースの奴が敵にも味方にもしたくないって言ってたのわかるわ・・・)


考えれば考えるほど不安になり、まだヤトリ・ミクネと会っていない事もあって、オーマの中でどんどんヤトリ・ミクネの存在が恐ろしいモノになっていく・・・。


「そういう訳で、情けない事だがヤトリ・ミクネに関して直接的な援護は期待しないでくれ。その代わりと言ってはなんだが他の事、特にスカーマリス捜査に関してなら、私の権限の及ぶ限り協力しよう」

「感謝いたします。では、ヤトリ・ミクネに対しては、こちらが直接出向くのですよね?それで___」

「ああ、分かっている。皆まで言わなくても大丈夫だ。既にアマノニダイの方には伝えてある。何時君達が訪れても大丈夫だ。それと、向こうで失礼のないようアマノニダイでの立ち居振る舞いに関しても教師を用意した。アマノニダイはかなり個性的な文化だ。礼儀作法も帝国とは違う。東方出身の者ならわりと馴染みが有るが、君達はそうではないだろう?」

「はい。ありがとうございます」

「では、明日からアマノニダイを訪問する準備に入ろう。今日のところはゆっくり休むといい」

「あっ!ありがとうございます!」


 これからの事が決まり、オーマ達が頭を下げたところで今日の面会は終了となる____。




 オーマは、宿泊施設に戻る途中もずっとヤトリ・ミクネの事を考えていた。


(本当に傍若無人なら、こちらの態度一つで計画がご破算になるかもな・・・面倒だが、明日からの講習頑張らないとな・・・)


そう心の中で決心して、明日に備えようと思った。

だが、宿泊施設に戻ってみると、再び勇者候補の三人の三つ巴の戦いに巻き込まれるのだった____。

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