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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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部隊訓練:本隊と突撃隊(後半)

 「突撃隊!アクア・アーマー展開!」


「「了解!!」」


「本隊!サンド・アーマー発動!!」


「「了解!!」」


 戦闘が始まると両隊とも動かず、お互いが示し合わせたかのように魔法術式を展開する。

 これは訓練だから起こる事では無く、どちらの勢力も部隊の衝突と魔法のタイミングが上手く測れないと判断したときは、よくこういった事が起こる。

魔法技術が発達した近代の戦場ではよく見られる光景だ。


 気合の返事と共に術式を展開していくと、兵士達のボルテージがどんどん上がっていく。

それは、離れた所から見ているオーマとサレンにも感じ取れるものだった。


「両隊とも殺気立っていますね。ここからでも分かります。特に突撃隊はすごいですね。始まる前と雰囲気が全然違います」

「・・・・」

「・・・オーマさん?」

「エッ!?」

「突撃隊の皆さんの雰囲気が・・・」

「あっ!?ああ!そうだな!“やばい”ことになっているな!」

「はい・・・」


 恐らく、サレンが感じ取っている突撃隊達の“気”は、サレンが思っているモノとは違うだろうなとオーマには分かっているのだが、口にできない。

真剣な表情で突撃隊の様子に注目しているサレンを見ながら、オーマが再び冷汗をかいている一方で、突撃隊、本隊は共に魔法を発動し、突撃隊は水属性の防護魔法、本隊は土属性の防護魔法をその身に纏う。


 そうして両隊の準備が整うと、やはり突撃隊が先に動いた。


「突撃隊!突撃開始ーーー!!」


ロジが覇気ある良く通る声で突撃命令を出した。


「___ッ!?気配がまた変わった!?」


 サレンは、命令を受けた突撃隊の気配がさらに獰猛になったのを感じ取る。

そしてサレンは、水属性の魔法を纏った突撃隊が堰を切ったように勇猛に突撃していくのだと期待した。

だが____


「ヴァヴァリアンダオウルヅラアアァアアーーー!!」

「ひゃう!?」


勇猛?とは違う、禍々しい殺気をまき散らしながら、餌に飢えた魔獣の様に敵に向かって行く突撃隊の変貌ぶりに、サレンはビクッ!と身をすくませて小さな悲鳴を上げた。


「な、な、なんですか!?オ・・オマ、オーマさん!?あ、あれ!あれぇ!!」

「お、落ち着けサレン。大丈夫か?」

「あ、あれは一体、何と言う種類の化け物ですか!?」


そしてサレンは、突撃隊を人間と認識できなくなっていた____。


「じ、人類の兵士だよ・・・一応」


___と、オーマは一応呟いてみるが、サレンの頭に入っていないのが、ありありと見えてしまった。

 サレンのリアクションが予想通りでありながらも、落ち着かせるのにオーマは苦戦する。

そして、オーマが必死にサレンをなだめている間に、両隊は衝突する寸前まで接近していた。


「「うおーーーーー!!」」


本隊が気合を入れて、防御態勢をとって迎え撃つ。


「「ババババハバリリリャリャリャーーー!!」


そこに突撃隊が奇声を上げながら飛び込んだ____


______ドガガガガガガガガンッ!!ギンギギギギィイン!!


 刃が交わる音、人と人とがぶつかり合う音が、離れているオーマの所まで鳴り響く。

その爆発が起きた様な衝突は、お互いが一瞬弾け飛ぶようにふっ飛ばされる者が出るも勢いは止まらず、両隊が入り乱れる乱戦を呼んだ____。


 勢いも人数も突撃隊に分があるため突撃隊が優勢かと思われたが、戦いは意外にも拮抗していた。

本隊の兵士達は少ない数ながらも、乱戦の中でも小隊ごとに陣形を保ち、しぶとく突撃隊の猛攻を凌いでいた。

 本隊が突撃隊との乱戦の中でも小隊ごとに陣形を保てているのには理由がある。

 それは、本隊の練度の高さだ。


 本隊の兵士達は、兵役の長い者が多い。

入ったばかりの新人は、先ずは他の個性が強くて役割がはっきりしている隊に配属される。

そして、キャリアの長い兵士を、属性に応じて他の隊に回すわけだが、この時に土属性持ちの兵士は優先して本隊に異動となる。本隊の役割は多岐にわたるからだ。

 重装歩兵隊と共に敵兵の突撃を正面から受ける事も有るし、突撃隊や遊撃隊と共に敵陣に切り込む事だってある。

あるいは後方で、砲撃隊や工兵隊の支援だってする。

全隊中、最も器用な立ち回りが求められるため、キャリアの長い兵士達で構成されているのだ。

だから、本隊は経験値が高いため、能力以上の強さを発揮するのだ。

 そして、それは魔法にも現れていて、サンダーラッツの全隊中、最も集団での特殊STAGE(性質変化)が上手い。

 性質変化の魔法自体はそこまで難しくは無く、帝国の正規兵ならば誰でもできるだろう。

だが、これを集団魔法で行うとなった場合、その難易度は途端に跳ね上がる。

 理由は簡単で、“属性”と“魔力”の他に、“性質”という、集団で合わせる項目が一つ増えるからだ。

性質変化の集団魔法ができる隊は、帝国全部隊でもそう多くは無い。

この高難度の集団魔法をサンダーラッツの本隊は容易くやってのける。


 サンダーラッツ本隊は、土、岩、泥、砂と、四種の土属性の性質変化を集団で行える。

そして今、それが見事にハマって突撃隊の勢いを抑える事に成功している。

 本隊が小隊ごとに使用した集団魔法は、性質変化で “砂”に変えてある。

砂は水分をよく吸収する。

サンダーラッツ本隊は、砂の集団土属性魔法で突撃隊の水属性魔法を吸収しながら戦っていたのだ。

こういった具合で、狂信的な勢いで突撃してきた突撃隊に、本隊はその経験値の高さを活かして粘って見せる。

 だが、やはりそれでも、突撃隊はサンダーラッツ最強部隊。

恐れ知らず、痛み知らず、疲れ知らずの彼らは、暴れるのをやめる気配がまるでない。

更に、数にも差があるため、本隊の兵士達も頑張ってはいるが、抑えるのが難しくなって押され始めていた。


「___行ける!このまま押し込んでください!!」


「「ババリアシダリャーーー!!」」


 勝利を確信したロジは兵士達に指示を出し、勝負に出る。

ロジの指示に、突撃隊は再びその勢いを取り戻し、本隊にプレッシャーをかける。


「く、くそぉ・・」

「こいつら・・・相変わらず・・」

「こ、このままじゃ・・・」

「あ、諦めるな!」

「こ、堪えろー!」


 本隊の兵士達は、そのプレッシャーに押されながらも、なんとか持ちこたえる。

そうとうなストレスだろうに、キャリアの長い兵士達は、誰一人として挫けない。


 だが、肝心のヴァリネスが限界に来ていた・・・・違う意味で。


「ふざけんじゃねーぞ・・・こいつらぁ・・・」


 ヴァリネスは突撃兵を抑えながら、腹の底から怒りと憎しみを燃やし、それがブツブツをこぼれ始めていた。


「このままじゃ負ける・・・それで、何?こいつらは戦いに勝って、その後にご褒美(ロジくんの膝枕ヒール)まであるの?・・・・・くそがぁ・・・羨ましい・・・羨ましい、羨ましい羨ましい羨ましい羨ましいぃ!」

「ふ、副長?」

「だ、大丈夫ですか!?」


 ヴァリネスの異変に気が付いた部下たちは、突撃隊の猛攻に晒されながらも、声を掛ける。

だが、ヴァリネスには全く届いておらず、本人はどす黒いオーラを纏っていく。

怒りと憎しみ・・・いや、妬みと嫉みが限界に達して、ヴァリネスは遂にキレた___


「うらぁああああああーーー!!ムカつくわぁ!!突撃隊の童貞共ぉ!!ブッッッ殺す!!」


「「ひぃぃいいいい!!」」


阿修羅の如く怒り狂うヴァリネスの突然の変貌ぶりに、近にいた突撃兵達のスイッチが恐怖で切れた。


「「う、うわぁ・・・」」


付き合いの長い本隊の兵士達も、ヴァリネスのキレ方にも、キレた理由にも、ドン引きしてしまった___。


「へうっ!?・・・______」

「うおお!?サレーーーーン!!」


突撃隊以上の狂乱ぶりを見せるヴァリネスの姿に、サレンは意識を保つことを止めてしまった___。


「ギザババガアアアアアア!!!!」


ヴァリネスは奇声を上げながら金属性魔法で錬成した鎖鉄球をブン回して、突撃隊を駆逐していく。


「「ギャーーーーー!!」」


突撃隊はヴァリネスのその姿と自力の強さに圧倒され、悲鳴を上げて逃げる者まで出始めた____。


「よ、よし!今だ!副長に続けぇ!!」


「「・・・・・」」


「どうした!?お前達!?」

「えーと・・・続かないとダメですか?」

「・・・・」

「その、何と言いますかー・・・」

「流石にドン引きなのですが・・・」

「き、気持ちは分かるが、勝機を見出した指揮官に兵が続かないでどうする?」

「そ、そうですよね・・・」

「そ、そうだ!何がどうあれ、これはチャンスだ!反撃に出るぞ!!」


「「おー」」


「声が小さい!!」


「「おーーー!!」」


ヴァリネスの姿にドン引きしていた本隊の兵士達も、なんとか自分達を奮い立たせてヴァリネスに続いた___。



「さすが副長・・・部隊同士で形勢不利と見るや、個の力で押し返すとは・・・このままじゃあ」


色恋に鈍感なロジは、ヴァリネスの狂乱の意味を理解しておらず、ただただ純粋にヴァリネスの働きを称賛していた。



 魔法があるこの世界では、優れた魔導士ならば個の力で戦況を覆せる場合がある。

流石に文字通りの“一騎当千”の働きは勇者候補クラスでないと無理だろうが、数十人、状況次第では数百人を相手に出来たりする場合もある。

ヴァリネスやオーマ達、帝国の団長以上のクラスがそうだ。


「副長ほどでなくとも、ボクだって!」


 ヴァリネスほどの働きは無理でも、ロジとて帝国の強豪が揃う北方遠征軍の一団、雷鼠戦士団の幹部だ。

他国の兵士なら百人、帝国兵でも二十人くらいは一人で打倒する実力はある。


「相手は100人。そこから数も減っている・・・」


見れば、敵の数も残り半分は切っている。勢いで押されていても、ロジが奮闘すれば形勢は変わり、十分倒しきれる範疇だ。

そう状況を見て、冷静に判断したロジは自分も勝負に出る事を決断する。

その状況判断も、勝負に出る決断をした事も、何も間違ってはいなかったが、今回は相手が悪かった_____いや、悪い相手だった。


 決めの一手はヴァリネスの方が速かった___


「あはっははあははは!!ロジくぅううんん!!覚悟しなさい!!」

「へっ!?」


 ヴァリネスは壊れた笑い声を上げながら、方向を変えてロジに突進していく。

兵士の数を減らすものだとばかり思っていたロジは、頭に?が浮かび一瞬反応が遅れてしまった。


「ひゃああぁっはーーーー!!突撃隊の腐れオタク共ぉ!!見ておけぇ!ロジくんをぶっ倒して、てめーらのご褒美なくしてやるからよぉ!!」


「「な、なにぃいーーーーーー!!!」」


「はははははあはあああ!!死なばもろとも!!どうせご褒美がもらえないんなら、私の手で引導を渡してあげるわ!!」

「う、うわああああ!!レンデル隊長を守れぇ!!」

「あの外道副長を隊長の所に行かせるなぁ!!」

「何をしてでも止めろぉーーー!!」


「「おーーーー!!」」


「ちょ!ちょっと!?皆さん!?陣形が!?」


 慌てるロジの言葉を無視して、突撃兵達は次々にヴァリネスに襲い掛かる。

だがヴァリネスは、荒ぶる狂信者達を狂神となって薙ぎ倒していく___


「完全に陣形が崩れた!?今だ!押し込めーーー!!」


「「うおーーーー!!」」


ロジの指示を無視したことと、ヴァリネスに暴れられたことで、完全に部隊としての機能を失った突撃隊は、本隊の反撃に遭い、次々と打ち取られて行った。

そして、2.5倍もあった人数差は、あっという間にひっくり返ってしまった。


「ロジくぅううんん!!♪」

「あっ!しまっ____」


隊長であるロジも狂神ヴァリネスに打ち取られ(でもやっぱり手加減されていた)、本隊が不利と思われていたこの戦いは本隊に軍配が上がり、やはりサンダーラッツで最凶はヴァリネスであることが証明された。


「何やってんだ・・・あいつら・・・」


 全く訓練の意味を成していない内容に、団長のオーマは気絶しているサレンを抱えつつ、自身の頭も抱えるのだった___。



 余談だが、ヴァリネスの豹変を見て気絶したサレンはその姿がトラウマとなり、ヴァリネスはサレンに避けられるようになってしまい、オーマとサレンの仲を深める前に、ヴァリネスとサレンの仲を修復する事になるのだった____。

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