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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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部隊訓練:遊撃隊と工兵隊

 砲撃隊と重装歩兵隊の訓練を一通り見たサレンは、他の隊の訓練が見たくなり視線を他に移すと、フランの遊撃隊が走っている様子を見つけた。

そして、直ぐに違和感を抱き、ある事に気が付いた。


「あっ・・・人が消えた?・・・オーマさん。あれは?」

「ん?」


 オーマが、頭の中で重装歩兵隊やジェネリーの運用方法について考えていると、サレンに袖を引っ張られて現実に戻された。

ハッと気が付いて、サレンと同じ方向を見てみると、フラン率いる遊撃隊が平原を全力疾走しているのが視界に入った。


「ああ・・・あれは遊撃隊のー・・・走り込みか?」


パッと見では、オーマにはそうとしか見えなかった。


「でも、時々人が消えるのです・・・あっ、ホラッ!」


サレンが言う様にその様子を見ていると、全力で駆けている遊撃隊の隊員たちが、一人また一人と姿を消していた。

不可解な現象だが、団長のオーマにはすぐに察しがついた。


「ああ・・なるほどな」

「何なのですか?あれは?」


 フランの用意した遊撃隊の訓練内容を把握できたオーマは顎に手を当ててサレンに解説を始めた。


「あれは、フランの遊撃隊とウェイフィーの工兵隊の合同訓練だろう」

「合同訓練?」

「そうだ。恐らくフランの遊撃隊が走り込みをしている一帯に、工兵隊が落とし穴などのトラップを仕掛けているんだろう。遊撃隊はトラップなんかの障害物を抜ける訓練になるし、工兵隊はトラップを仕掛ける訓練になる」

「ああ、なるほど・・・」


特に工兵隊は、森林や街などの入り組んだ地形ではトラップを仕掛けやすいが、平原などであればトラップは仕掛けづらいし見破られやすいため、良い訓練になるだろう。



 「どうしたお前達!!いいようにやられているぞ!!」


工兵隊のトラップにハマって、どんどんその人数を減らしている自分の隊に、フランは檄を飛ばす。


「で、ですが隊長―!」

「そ、そうは言いますけどー!」

「こ、この速度で、トラップに掛からないようにするのは・・・」

「ついて来れない者もいますー!」

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

「隊長~・・・」

「はぁ・・はぁ・・・」

「ひ~~」


フランに檄を飛ばされるが、フランに付いて行くのがやっとな上、トラップまで警戒しなくてはならない遊撃隊員からは悲鳴が上がる。

 その様子をフランは足を止めることなく、後ろを向きながら目を細めて見ていた。


「あいつらぁ・・・たるんでるなぁ。こりゃー、一回シメないとな・・・」


 隊長達の中で最強を誇るウェイフィー率いる工兵隊のトラップのクオリティは高い。

そのトラップを躱しながら、サンダーラッツで一番(勇者候補は除く)足の速いフランの走る速度に付いて行けているだけでも、一兵卒としては十分に立派なのだが、隊長のフランはそれで良しとしない。

命を懸ける兵士なのだから当然ではある___。


「速度を上げるぞ!!半分以上付いてこられなかったら、追加で明日も明後日も訓練するからなぁ!!」


「「ひ~~!」」


 隊員たちの悲鳴を無視して、フランは潜在魔法を自身最大のRANK4(神経)まで引き上げた。

肉体の神経まで強化して感覚が鋭くなった事で、肉体をより上手く動かせるようになり、走る速度が上がる。

さらに感覚が研ぎ澄まされているので、常人を超えた速度で走りながらも、草原の草の一枚一枚、そこで飛び跳ねる虫の一匹一匹まで知覚できるようになり、トラップの位置を正確に把握できるようにもなった。

 そうしてフランは、隊員達を置き去りにするつもりで、ゴールまで駆け抜けようとした____だが、


「___甘い」

「なっ!?」


 潜在魔法で強化されたフランの聴覚が、ぼそりと呟いたウェイフィーの声を拾うことが出来た。

だが、それまでウェイフィーの存在に気付けなかったことが敗因だった。

フランがウェイフィーの声と共にその気配を察知した時には既に、ウェイフィーの樹属性魔法で錬成された草がフランの足を絡め捕っていた____。


「___ふん!」

「のわあああああ~~~・・・」


気合の一声と共にウェイフィーが魔力を込めると、フランの足を絡め捕っていた草が一気に成長し、フランの身体を簀巻にしながら、フランを逆さ吊りにした。


「た、隊長ーーー!?」

「大丈夫ですかぁーーー!?」

「隊長を救出しろーーー!!」


フランの後をなんとか付いて行けていた数人の遊撃隊員たちが、フランを助けようとする。

だが、その隊員達の足にも既にウェイフィーの魔法の草が絡まっていた____。


「へっ?」

「ちょっ!?」

「うそ?」

「まじぃ!?」

「お前達も甘い____」


「「のわあああああ~~~・・・」」


こうして、フランが捕まったのを皮切りに、他の遊撃隊員達も次々にウェイフィーの魔法で捕えられてしまい、簀巻の逆さ吊りの刑にあうのだった____。




 「のあ~~~・・・」

「たいちょ~・・・」

「____ブイ」


遊撃隊が全員捕縛されたことで訓練が終了すると、ウェイフィーは隠れていた地中からのそのそと出てくる。

そして、逆さ吊りになっているフラン達に、勝利のVサインを見せつけて勝ち誇った。


「ウェイフィーちゃ~ん。樹属性魔法使うなんて聞いてないぜ~~。ずりぃよ~~・・・」

「ズルくない。私達は次の遠征先で魔獣と戦う事になる。こういう罠や植物系の魔獣が出てくるかもしれないんだから、対応できなきゃダメ」

「ブーーー」


フランは不満気な様子でブー垂れているが、ウェイフィーに気にする様子は全くない。


「まあ・・・ウェイフィーの言い分の方が正しいだろう。訓練だしな・・・」

「ひ、一人もゴール出来ずに捕まっちゃいましたね・・・人数は遊撃隊の方が多いのですよね?」

「ああ。遊撃隊は約150人、工兵隊は約50人だ」

「さ、三倍差ですか・・・工兵隊はスゴイですね・・・」

「まあ、相手が悪かったな。相手がウェイフィーじゃ、しょうがない」

「で、でもフランさんも潜在魔法で、神経を強化して、五感を鋭くできるんですよね?」

「ああ。それは確かにスゴイことでフランの強みだが、ウェイフィー相手じゃ無理だ。信仰魔法の技術と戦術幅に差があり過ぎる。ウェイフィーは、ただ樹属性魔法と土属性魔法で、身を隠して罠を仕掛けていただけじゃない。魔力や気配を遮断する防護魔法も使用していた。それを見破るためには索敵魔法が必要だ。だから、感覚が鋭くなっただけのフランじゃウェイフィーの隠密と罠を見破る事はできない」

「あー、なるほど」


 結局、この工兵隊と遊撃隊の訓練は、隊長の技量で勝敗が分かれる結果になった。

 これは言い方を変えれば、他の要素、両部隊に技量の差は無いともいえるので、そういった意味で言えば指揮官のオーマとしては両隊の実力に満足する内容だった。

フランに対してもウェイフィーが相手では仕方が無いと思うので、攻める気にはならなかった。


(なにしろウェイフィーが本気になって罠を仕掛けたら、俺でも見破れるか分からないからなぁ・・・)


 勇者候補達の素質が凄すぎて影が薄くなっているが、まだ二十代前半という若さでオーマやヴァリネスの技量に並ぶウェイフィーの実力に、オーマは改めて驚かされるのだった。


「フフッ♪すごい!ウェイフィー♪」


そのウェイフィーの才能の影を誰よりも薄くしているサレンは、ウェイフィーの勝利を誰よりも喜んでいる様子だった。


(仲好しになったもんなぁ・・・)


 静寂の勇者ろうらく作戦において、一番の功労者は恐らくウェイフィーだろう。

オーマとサレンの距離を縮める事に一番尽力したのはヴァリネスだが、サレンがオーマを好きになり、サンダーラッツの仲間になりたいと意識する切っ掛けを作ったのはウェイフィーだ。


(もし、サレンを部隊に加えて運用するなら、一番の候補はウェイフィーの工兵隊かな?)


サレンとウェイフィーとの仲と、サレンの能力と工兵隊との相性を考えると、そんな考えが頭に浮かんでくる。

工兵隊と遊撃隊の訓練は、オーマにとっても収穫の有るものだった____。

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