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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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部隊訓練:砲撃隊と重装歩兵隊

 訓練場へ向かうため、オーマと勇者候補達は帝都中心部の正門を出て、馬で第四区画(農場地帯)を走る。

しばらく走り、人気が無くなって来ると、ジェネリーが神妙な顔でオーマに質問してきた。


「オーマ団長。次の作戦で東の地に行くわけですが、帝国の東方地方とアマノニダイで反乱軍の活動は行うのですか?」


オーマの反乱計画に関心を寄せるジェネリーは、ただ東の地でウーグスのサポート(人材の引き抜き)と、ディディアルの背後に居る魔族の捜査を行うだけでは飽き足らない様子だった。


 何故ジェネリーが反乱軍の事を知っているのかと言えば、ゴレストから帝国に返ってくる道中で、オーマはヴァリネスと相談して、ジェネリーに反乱計画の事を打ち明けたからだ。

話を聞いたジェネリーは、最初こそ驚いたり、黙っていた事を怒ったりもしたが、最終的には意欲をもって反乱軍の参加を決めてくれた。

 決め手になったのは、旧シルバーシュ領地を奪還し、シルバーシュの復興を助ける事を約束したことだ。

 オーマとしては、ジェネリーを反乱軍に加えれば、ザイール以外の野に下っているシルバーシュ残党を反乱軍に加えられるかも?という思惑もあっての提案だった。

 これにジェネリーは飛びついた。

元々帝国に不信感を持っていて、シルバーシュ復興を夢見ていたジェネリーにとって、好きな人と共に帝国と戦いシルバーシュを取り戻す決断するのは、難しい事でもなんでも無く、むしろ望むところだった。

そうして、ジェネリーはシルバーシュ代表として反乱軍に加わり、改めてオーマ達の味方となったのだ。


 反乱軍に加わってからのジェネリーは、今の様に反乱軍の活動に積極的だ。

 普通に考えて、アマノニダイや帝国領内で反乱軍の勢力活動を行うのは難しい。

ジェネリーは、それを承知した上で何か出来る事は無いかと聞いているのだ。

そのジェネリーの積極的な態度をオーマは嬉しく思うが、返事はといえば苦笑いを浮かべて返す内容だった。


「今回は見送りだな・・・。反乱軍にとって、帝国もアマノニダイも敵勢力・・・いや、“だからこそ”という考えも有るが、この両国の結びつきはそう簡単には崩せない。それに、サンダーラッツで反乱計画を知っているのは、隊長達と通信兵達だけだ。団員達にはまだ話していない事も含めるとな・・・」

「確かに・・・。事情を知らない部下を連れての敵地での活動は危険で、現実的ではありませんでしたね。申し訳ありません」

「謝る必要は無いぞ、ジェネリー。それだけ反乱計画に意欲的ということだろう?俺としては嬉しい限りだ」

「それはもう!シルバーシュを取り戻す事が、より現実的になっているわけですから!」

「フフッ。こんな事なら、もっと早くにジェネリーに打ち明けるべきだったな」

「全くです。もっと早く話してほしかったですよ」


ジェネリーは拗ねたようにプク顔でオーマに訴えた。


「悪かったよ」

「プッ・・冗談ですよ♪気にしていません。事情が事情ですから、慎重になるのは仕方が無いと思います」

「ありがとう。ジェネリー」

「礼には及びませんよ。オーマ団長」

「いや、礼を言わせてくれよ、ジェネリー。君の様な気高い騎士に自分のやっている事を認めてもらえるのは、俺にとって本当に光栄な事なんだ」


 オーマの本心だった。

ジェネリーの姿。特に最近の立ち振る舞いを見てみると、ジェネリーは益々騎士らしくなっている。

そんなジェネリーを見ていると、オーマ自身、身が引き締まる思いだった。

騎士としてのジェネリーに認めてもらえるのは、プロトスやデティットに認めてもらえるのと同様に、オーマを誇らしい気持ちにさせた。

一度は捨てた誇りを取り戻したような気持になって、嬉しくなるのだ。

 オーマが、その気持ちを真っ直ぐジェネリーの目を見て伝えると、ジェネリーは頬を赤くした。


「オーマ団長・・・そんな・・・私だって、オーマ団長に認めてもらえて嬉しいです」

「ジェネリー・・・」

「オーマ団長・・・」

「___って、それは待てよ」


「「ほうっ!?」」


良いムードに成りかけていた二人の間に、ドスの利いたレインの横やりが入って、オーマとジェネリーは正気に返った。


「な、なんだレイン!急に!?」

「いや、急にはこっちのセリフですよ?ご主人様この野郎。何で反乱計画の話から、急に良いムードになっていやがるんです?」

「レインの言う通りです。おかしいです」


サレンも加わって、二人はジト目でオーマとジェネリーに訴える。


「え!?・・いや!あ、あはははは!そ、そんな事は無いぞ!なあ!?ジェネリー!?」

「そ、そうです!二人とも気にし過ぎだぞ!?まったく!」

「本当ですかぁ?メチャクチャ怪しいですけどぉ?」

「これからやるのは本当に訓練ですよねぇ?」

「も、勿論だとも!あっ!ほら!訓練場が見えてきたぞ!」


オーマはわざとらしくそう言って、前を指さす。

指した方向には、本当に一応、サンダーラッツの人影があった。


「ア、アーー!ホントウダ!シカモ、モウハジマッテイマスネ!?コレハイソガナイト!」

「あ、ああ!そうだな、ジェネリー!急がないとなっ!行こう!皆!」


「「むーー・・・」」


ジェネリーとわざとらしく口を合わせて、オーマはサレンとレインのジト目を背中に受けながら馬を走らせて、サンダーラッツの皆と合流するのだった___。




 訓練場に到着すると、各隊がそれぞれ分かれて訓練に励んでいた。

オーマは、既に団員と交流のあるジェネリーとレインには訓練に参加する様に指示を出し、自身はサレンを連れて隊の解説をして回る事にした。


 オーマが先ずサレンを連れて行った先は、一番近くに居たクシナの砲撃隊だった。


「サレン。先ずは、あれがクシナの砲撃隊だ」


オーマが指示す方向をサレンが向くと、凡そ100人ほどの軽装の団員が、クシナの号令に合わせて炎の魔法術式を展開していた。


「12時の方向!距離は130!・・第四小隊!術式を合わせるのが遅いですよ!」

「うわぁ・・・スゴイですね。あれだけの人数で、魔法の威力、方向、距離をピタリと合わせられている・・・しかも速い」


魔法の技術では団員達の遥か上を行くサレンだが、サンダーラッツの統率された集団魔法の技に感嘆の息を漏らしてくれた。

 オーマはそれが嬉しくて、得意気になって解説を始めた。


「ウチの砲撃隊の火力は高い。とは言っても主戦力ではない。砲撃隊の主な役割は、突撃隊や遊撃隊が敵陣に切り込むための火力支援だ。そのため、砲撃隊の一番の自慢は飛距離だな」

「汎用性が高そうな部隊ですね」

「ああ、その通りだ。クシナも魔導狙撃手として有能だから、指揮官を直接狙い撃ちする事もできる」

「スゴイですよね。クシナさんの狙撃。タルトゥニドゥで何度か見ましたが、速くて正確でした」

「サレンも同じ事できるんじゃないのか?」

「どうでしょう?狙撃はアラドが一番得意にしていましたから、私は実戦では余り試したことがないんですよ。速度と威力はともかく、あそこまでの正確な狙撃ができるかは怪しいです」

「そうか・・・」


意外だなと思いつつも、サレン(勇者候補)だったら、練習すれば直ぐに出来るようになるとも思うので、オーマはあまり気にしなかった。


「打て――ー!!」


 クシナが叫ぶと、砲撃隊から一斉に炎弾が飛んだ。そして、一呼吸おいて更にもう一度、炎弾が弧を描いて飛んで行く。


 クシナは、約100人の砲撃隊を二手に分けて、50人一組での集団魔法を順番に放って制圧射撃の二連撃を行っていた。

その前には、20人一組での集団魔法を五組が順番に放って五連撃を行っていたので、どうやら波状攻撃の練習をしているようだ。

 そして、一斉に飛んだ炎弾の先には、イワナミ率いる約350人の重装歩兵隊がいた。


「第一、第二、第三小隊はフレイムアーマー発動!第四、第五、第六小隊はファイヤーボールで迎撃!」


「「了解!!」」


イワナミは前衛にいる部隊には防護魔法を使わせて、後衛にいる部隊には砲撃隊が飛ばして来た炎弾を打ち落とすよう指示を出した。

恐らく、一斉射撃後に敵部隊が突撃してくることを想定して、それを迎え撃つ練習だろう。


「あっ・・・」


 だが、重装歩兵隊はその迎撃に失敗する。

砲撃が専門ではない彼等では、全ての炎弾を打ち落とす事が出来ずに何発か着弾してしまい、負傷者も出る始末だった。


「し・・・失敗ですか?」

「どうやら、そのようだな。まあ、予想通りだ。重装歩兵隊は有能だからな」

「うん?どういう事ですか?」


“失敗”と“予想通り”と“有能”が繋がらず、サレンは小首をかしげてオーマを見る。

オーマは、頭にクエスチョンマークを浮かべたサレンが可愛くて面白くて、フッと笑ってから解説した。


「あんな防御の仕方は見たことが無いんだ。恐らく、今日初めて試したんだろう。だから失敗した」

「なるほど?」

「それで、今回はミカワに行く前の訓練だろ?だから各部隊、通常の連携を確認している。だが、イワナミの隊はそれをせず、新しい戦法を研究している。それは何故か?」

「部隊の連携を確認する必要が無かった?」

「その通りだ。サンダーラッツの重装歩兵隊は、一番の精鋭部隊だ。入った新人で有能な奴は真っ先に重装歩兵隊に入れている。軍の陣形を維持する守りの要で、最も重要な隊だからな」

「そういえば、体格なんかも他の隊の方達より一回り大きい方が多いですね」

「体格だけじゃない。魔法の技術だってそうだし、性格も真面目で忍耐強い奴らばかりだ」

「有能な方が多いから連携の確認はしなくて良いと?」

「いや、ちゃんと言えば、有能で真面目だから戦の無い間もちゃんと訓練していて、部隊練度を維持していたんだろう。イワナミは訓練を始めてすぐにそれが分かったから新しい戦法を試すことにしたんじゃないかな」

「重装歩兵隊の皆さんは真面目だから、隊長のイワナミさんが居ない間も常在戦場の構えで気を抜かずにいたんですね」

「ああ。あの硬さと勤勉さはサンダーラッツの宝だ。重装歩兵隊はサンダーラッツの命綱といえる」


 実際にサンダーラッツが敗北して撤退することになる場合は、重装歩兵隊が突破されたときにそうなる場合が多い。

軍全体ではなく、一団単位で見れば、重装歩兵隊が一番サンダーラッツの戦いの勝敗を左右している。


(そういった意味で言えば、ジェネリーが重装歩兵隊に入ってくれて本当に良かった)


 勇者候補である以上、ジェネリーも単騎や少数精鋭などの色々な運用方法を考えていた。

だが、訓練を見ながら改めて考えると、不死身のジェネリーはサンダーラッツの命綱となる重装歩兵隊に置いておくのが一番の運用方法のように思えた。

 こんな具合で、オーマは訓練風景を見ながら、サレンを放って頭の中であれこれと考えている。

 実はオーマはヴァリネスから、訓練とはいえ少しは色気のある話をして、勇者候補達との仲を深めるように言われていたのだが、そんな事はすっかり忘れてしまっていた。

オーマはナチュラルに甲斐性が無いのだった___。

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