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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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甲斐性無しのオーマ

 作戦会議と称して飲み会をしたその三日後、オーマはお昼前にジェネリーの屋敷を訪れていた。

今日は午後からサンダーラッツの訓練を行う予定のため、勇者候補の三人を迎えに来たのだ。

 今週は休みをもらっていると言っても、来週には出発の準備をして、東方軍の駐屯地があるミカワ(旧トウショウジン領)という帝国の東の地に向けて、雷鼠戦士団を連れて出発しなければならない。

 ゴレストでの作戦のために二ヵ月ほど留守にしていた為、出発前に軍の連携の確認作業が必要である。

何より、新たにサンダーラッツに加わったサレンに団員の紹介をして、各部隊との適正を見たいというのも有る。

ジェネリーと違い、レインとサレンは軍属ではないので部隊に入れる義務はないのだが、次の作戦では魔物との戦闘になる。

そこで、戦術幅を広げる意味でも、部隊に加えての運用も検討したいとオーマは考えていた。

レインに関しては以前、ゴレスト出発前に模擬遠征を行い、各部隊との相性を見ることができたので、今日はサレンという訳だ。

 サレンは帝都ではジェネリーの屋敷に滞在している。これはクラース達の配慮だ。

そしてレインも、ジェネリーのメイドという立場のため、同じくジェネリーの屋敷に寝泊まりしている。

 オーマが訪れると、三人とも笑顔でオーマを迎え入れて、昼食前というのもあって、一緒に食事を取ることになった____。



 大きなテーブルに純白のテーブルクロスが惹かれ、その上に貴族らしい手の込んだ料理が並ぶ。

四人はそれらを口に運びながら、ちょっとした団欒を楽しんでいた。


「___それで、どうだ?サレン?帝都の印象は?」


ゴレストから帝都に帰って来て六日目、仕事(と飲み会)でサレンと余り交流が出来ていなかったオーマは、サレンの帝都でも生活が気になっていた。


「はい♪見る物すべてが新鮮で楽しいです!ヴァリネス達だけじゃなくて、街の方々も皆さん良くしてくださいます。直ぐにここでの生活に慣れることが出来そうです!帝国の人達は親切な方ばかりですね♪」

「そうか・・・」


明るい声と無邪気な笑顔を見せるサレンに、オーマはホッと一安心した。


 人類からの迫害の歴史がある故、サレンが“ダークエルフである自分は帝国の者達に良く思われないのでは?”と、内心で心配していたのをオーマは知っていた。

だが、それはどうやら杞憂に終わってくれたようだ。

 考えてみれば、帝国の価値観は貴族という階級制度はあるが比較的先進的だし、アマノニダイのエリストエルフのおかげで魔法が発展したのも有って、帝国人達にエルフに対する偏見は殆ど無い。

その上で、第一貴族の客人として迎えられて、その証の記章を身に付けているなら、帝国内でサレンを邪険に扱う者など居はしないだろう。

オーマ自身、頭ではそう分かっていたが、実際にどうなるかは分からなかったので、サレンの表情を見るまでは安心できなかった。

 そうやって安心しているオーマの表情を、サレンは何か言いたげに覗き込んでいる。

オーマが眉を上げて、“何か言いたい事でも?”というアクションを起こすと、サレンは上目遣い(カワイイ)でオーマにおねだりをした。


「今度は、オーマさんにどこかに連れて行ってほしいです」

「ん?そうか?そうだなぁ・・・」


言われて、サレンを連れて行ってあげたいオーマは、どこを案内しようか考え始める。

だが、オーマからアイディアが出る前に、レインが二人の間に入って来た。


「あーー!兄様ぁ!?それなら私とデートしてください!」

「へ?」

「えー?レイン、割り込みですよ?」

「・・・・」

「いいえ、サレン。私の方が先に約束していました。“ベルヘラから帝国に帰ったら、こっちでもデートしましょう!”って」


レインのその一言に、サレンはピクンと眉を上げて反応した。


「こっちで“も”ってどういう事ですか!?他ではもう既にデートしているという事ですか!?ずるいですよ!レイン!」

「ふふん♪こういうのは早い者勝ちです♪」

「・・・・」

「だったら、私が先にオーマさんとデートしたって良いじゃないですか!」

「だから、その前から私は兄様とデートの約束をしていたんですってば!」

「えっと・・・」

「・・・・」

「レイン、ずるい!」

「ずるくないです!」

「ちょっと、二人共・・・」

「二人共やかましい!!食事中だぞ!!」


サレンとレインのやり取りにオーマはオロオロするばかりだったが、業を煮やしたジェネリーが二人をしかりつけた。


「だいたいにしろ、オーマ団長は帰って来てすぐにクラース宰相に呼び出されたり、報告書を書かさられることになったりして、お忙しいのだ。あまり我が儘を言って無理させるな」

「むーー・・・」

「ご、ごめんなさい・・・」


二人はジェネリーに怒られて、シュンとしてしまった。


「ま、まあ、ジェネリーもそれくらいで・・・俺は別に平気だ。気を使ってくれてありがとうな」

「そうなのですか?」

「ああ。実際、今日は軍事訓練を入れたが、休みは貰っているしな」


オーマがそう言うと、ジェネリーは急に顔を赤らめて、モジモジし出した。


「そ、そうですか?あ、あの・・・それでしたら___」

「え?」

「それでしたら、私も何処かに連れて行ってほしいです・・・」

「へ?」

「あっ!?ずっる~い!」

「そうです!ただ自分も兄様とデートしたかっただけじゃないですか!」

「うるさい。オーマ団長に時間が有るなら、別に良いだろう」

「だったら私が先です!」

「だから、私が先に約束していたと言っているじゃないですか!サレン!」

「待て待て。お前達はもうすでにオーマ団長と、何回かデートしているのだろう?私はまだだ。だから次は私だ」

「そんなルールなんて____!」

「そうです____!!」

「なッ!?_____!」

「えっとーー・・・」


ジェネリーも加わってヤイヤイする三人を他所に、オーマは一人縮こまってしまう。


(この三人が一緒のときは、俺はそばに居ない方が良いのかな?)


恐ろしくなってきたので、“今日の集合場所だけ伝えて、先に行こうか?”___なんて事も考え出す。


「オーマ団長!」

「兄様!?」

「オーマさん!」

「ひゃい!?」


突如三人に一斉に睨まれて、オーマはビビって変な声が出た。


「な・・・なんでしょう?」

「オーマ団長は誰とデートしたいですか?」

「埒が明かないので、兄様が決めてください」

「え?い、いや・・・だが・・」

「休みは貰っているんですよね?だったら、最低でも一人は決められますよね?」

「うっ・・・」


サレンにしっかり逃げ道を塞がれて、詰め寄られる。


 もちろんオーマにも、このまま甲斐性無しでいても良いだろう、という気持ちは無い。

三人をデートに連れて行きたい気持ちだって、ちゃんとある。

だがやはり、オーマでは三人の中から一人だけ誘うのは難しい・・・他の二人の目が気になってしまう。

これをどう言えばうまく伝わって、どうやって誘えば良いのかが分からない。

こういう状況を乗り切る術を、素人童貞のオーマは持っていないのだ。


(こんなとき、プレイボーイだったらどう立ち回るんだろう?・・・ヴァリネス助けてくれ~~)


心の中で悲鳴を上げつつ、この場を乗り切るため、なんとか知恵をふり絞って文章を考える。


「そ、それはこれからの流れ次第だろ?」

「むっ・・・どういう事ですか?」

「逃げるんですか?」

「い、いや、違うって。確かに休みは貰っているが、任務は有るし、他にもやらなきゃならない事は山ほどある。今日だってそうだ。休みだけど、来週ミカワに出発するための準備として訓練をしておく必要がある。その流れで、各々の仕事の合間に・・・その、皆と交流出来たら良いと・・・思っている?」


「「・・・・・」」


オーマの言い分に三人は目を細めて疑惑の眼差しを向けてくる。


(か、勘弁してくれ・・・)


甲斐性無しのオーマでは、この言い訳で精一杯だった。


「まあ、一理は有りますけどぉ~」

「確かに、私もまだ団員の皆さんとはお会いしていませんが・・・」

「命に係わる事ですから、遊ぶのはやるべき事をやってからにすべきですけどぉ・・・」

「だ、だろう?」


「「・・・・」」


乾いた笑顔を顔に張り付けているオーマを、三人はジト目で睨んでいた・・・。

だが、やがて三人とも諦めた様に溜息を吐いた。


「ふぅ・・・まあ、良いでしょう。今回はこれ位で勘弁してあげます」

「まあ、兄様にその気が有ると分かっただけで良しとしましょう」

「ちゃんと時間が出来たら誘ってくださいね?」

「も、勿論だ・・・」


しぶしぶ納得してくれた三人に感謝しつつも、これ以上詰められたくないオーマはさっさと昼食を済ませて、三人を訓練場へと連れて行くのだった____。

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