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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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烈震の勇者ろうらく作戦会議?(前半)

 クラースから次の作戦の指示を受けたオーマは、サンダーラッツの幹部達にその内容を報告するため、いつものデネファーの店の地下でミーティングを開くことを決めた。

 そして、クラースとリデルに会い一夜明け、更にもう一夜明けた日の夜。

サンダーラッツ幹部一同は、デネファーの酒場“レッドベア”に集まった_____。




 デネファーの店“レッドベア”の地下倉庫____。


「うん。やっぱり、この店の地下が一番落ち着く」

「フフッ。そうですね、ウェイフィー。私もここが一番落ち着きます」

「もう一つの我が家って感じですよね」

「バカ騒ぎも、大事な話も、ここが一番安心してできるからな」

「そうそう。何だかんだで、この店の酒が一番体に馴染んでるしな♪」


サンダーラッツ幹部達は、まるで“懐かしの我が家”に返って来たかのようなリアクションを見せて、くつろぎだした。


「ん?お前達・・・返って来た時、飲み会を開いていなかったか?まだ、此処には顔を出していなかったのか?」

「ええ、そうよ。帰って来た時はサレンに街を案内していたから・・・ほら、初日にサレンをレムザン通りに案内はできないでしょ?」

「ああ、確かにな」


 このレムザン通りに並ぶ店は、飲み屋の他に娼館や賭博といった不健全な店が多い。

そして、飲み屋にしてもガラが悪い連中が多い。

この都市に初めて来た、初心なサレンを連れて歩くような場所ではないだろう。

自分達の拠点があるため、いつかは此処にも慣れてもらう必要が有るだろうが、急ぐ必要は無い。

 オーマがサレンにどうやって、この都市やこの繁華街に馴染んでもらおうか考えている隙に、フランがいそいそと酒を運んできた。


「もう飲むのですか?フラン?」

「早くないか?」

「そうですよ。せめて会議がある程度進んでからじゃないですか?」

「せっかち」


皆で酒を運んできたフランに眉をひそめて非難する。

そもそも作戦会議ならお酒は控えるべきなのだが、そこには誰もツッコまなかった。


「まあ、良いじゃねーか今日は。そこまでちゃんとした会議じゃないんだろ?団長?」

「ふぅ・・・まあ、確かにクラースとの面会で聞いた話を皆に伝えるだけだが・・・」

「ほら、なら問題ないっしょ?」

「あっそう。そういう事なら、酒の準備をしてから始めましょうか?」

「お手伝いします、副長」

「?どこ行くんだ?ウェイフィー?」

「上、つまみ持ってくる」

「あ、ボクも行きます」


オーマの態度を見て、他のメンバーもその気になって、酒の席の準備を始めだした。


「やれやれ・・・」


その現金な態度にオーマは苦笑いを見せるしかなかった____。




 お酒とつまみの乾物____だけじゃなく、ちゃっかりデネファーに簡単な炒め物まで用意してもらって、わりとしっかりした酒の席になってしまった。


「はあ・・・」


一応は、作戦会議という事で招集したオーマは溜め息をついてしまう。


(まあ、いいか・・・)


自分も帝都に戻って来てまだ一口も酒に口を付けていなかったため、オーマも“今日は大事な会議じゃないから”と自分に言い訳して、皆と騒ぐことにした。


(おっと・・・とはいえ、大事な話は酒が回らん内にしておかないと)


オーマは酒に口を付ける前に、パンッと一回手を叩いて、皆の注目を集めた。


「始める前に、大事な事は話しておく。俺達の次の行き先はスカーマリスだ。ゴレストから帰国する道中でも話したが、ディディアルの背後には何者かが居る。そいつを捜査するためにスカーマリスに入る。そして、アマノニダイにも捜査協力をしてもらい、その名目でろうらく作戦のターゲットのヤトリ・ミクネに同行してもらう」

「スカーマリスで、ディディアルの黒幕の捜査と、ヤトリ・ミクネのろうらく作戦を同時にやるのね?」

「そうだ。そして、スカーマリスでの捜査は、少数の隠密行動ではなく、軍を導入しての大規模捜査になる。そのためサンダーラッツを連れて行くことになるから、各隊長は来週から準備にはいること」

「来週でいいの?」

「ああ。今週は休んでいいそうだ」

「へぇー、第一貴族にしては気が利くわねぇ・・・」

「俺達に気を利かせたというより、サレンに気を使った感じだ」

「なるほどね」

「まあ、そういう訳だから、来週から準備して、準備が終わり次第出発とだけ覚えておいてくれれば今日はもういい。後は楽にしてくれ」


そう言ってオーマも席に座り、自分の杯に口を付けた。

それに合わせて、他の者達も飲み始めた___。




 「スカーマリスですか・・・あのディディアルの背後に居る奴の捜査って事は、ディディアル以上の奴との戦闘になるのでしょうか?」

「人間社会では一概にそうは言い切れないでしょうけど、力がすべての魔族社会だと、そうなるでしょうね」

「うへぇ・・・ちょーめんどくせーな・・・」

「絶対強い」

「でも、サレンさんも加わって戦力は増強していますし、スカーマリスでも遅れは取らないと思いますよ」

「それに今回はサンダーラッツも動かせて、軍団で戦うからやりやすい」

「戦い方次第ですね」


クシナがそう言い終わると、隊長達の視線は戦術と指揮を担う団長のオーマと副長のヴァリネスに集まった。


「次はいよいよ、軍での勇者候補の運用になるわね。団長は、何か考えているの?」

「何かも何も、考えだらけだ。ジェネリー、レイン、サレンと、三人とも一人で軍と戦えるから、単騎の運用でも良いし、三人での精鋭遊撃部隊にしても良い」

「どこかの部隊に入れないの?ジェネリーは一応イワナミの部隊でしょ?」

「勿論入れても良い。ジェネリーだけ、帝国軍人でもあるから、イワナミの部隊に所属しているが、他の二人も部隊に入れても良い働きをしてくれるだろう」

「入れるとしたら、レインは突撃か遊撃で、サレンは砲撃か工兵かしらね・・・」


そう言いながら、オーマとヴァリネスはニヤニヤと楽しげだった。

 勇者候補を雷鼠戦士団の戦術に組み込む際の戦闘パターンは、ちょっと考えただけでも豊富だ。

指揮官として、試してみたい運用方法がいくらでも二人の頭の中から出てくる。


「次の作戦は都合が良いわね。スカーマリスでは魔獣との戦闘になると言っても、その殆どの生態が判明していて、戦い方が分かっている訳だし、勇者候補を加えたサンダーラッツの力を量るにはうってつけよ」

「そうだな。できるだけ多くの戦術を試したいところだ・・・できれば、ヤトリ・ミクネもな」

「次の勇者候補・・・ヤトリ・ミクネはどれ程の魔導士なのでしょうね?」

「もう四人目だし、サレンちゃんの力も見ているから、どんな能力でもさすがにもう驚かないぜ」

「___まあ、確かに。サレンに比べれば、“普通”の勇者候補だが、それでもやっぱり破格の強さだぞ?」

「団長。ヤトリ・ミクネの力を知っているの?」

「ああ。一昨日、クラースに追加で戦闘資料をもらった。ヤトリ・ミクネは同盟国だし、彼女自身、あまり能力を出し惜しみしない性格らしくて、その力のほとんどが解明されていた」


 そう言ってオーマは、懐から数枚の資料をと知り出し、テーブルに置いた。

そして、最初に読み始めたヴァリネスを放っておいて、オーマは他のメンバーにざっと目を通した資料の内容を他の隊長隊に話すことにした。


「彼女は、“烈震の勇者”と呼ばれた勇者と同じ力を持っている」

「烈震の勇者?」

「そうだ。烈震の勇者とは____」


 オーマは皆に烈震の勇者の伝承を話始めた____。



 その代の魔王は“個”ではなく、“群れ”だった。

蟻の群れ___。一匹の嬢王蟻に負の力が宿り誕生した魔王。

蟻の群れである魔王は、数百万という大群で行進し、大陸の全てを食らい尽くして行った。

人、動物、植物はもちろん、建築物や、同族の魔族、そして魔法すら自分達の餌にしてしまった。

 この魔王蟻は、一匹三十センチ程度の大きさだが、自身の数十倍の重さと大きさの獲物を仕留めることができ、十匹もいればドラゴンでさえ捕食できてしまう。

 だが何と言っても恐るべきは、この魔王は群れであるが故、殺すことが非常に困難な事だ。

屈強で魔法さえ食らう蟻だが、一流の魔導士・・例えば、オーマ・ロブレム等だったら、二・三匹位なら駆除できる。

ならば一流の魔導士達で、巣を狙って嬢王蟻を仕留めれば____となるが、意味が無い。

魔王は___いや、二百年近く溜まった人々の怨念の力は、そんな事で浄化できるほど甘くない。

実際に、当時の人間達はそれを実行し、嬢王蟻を仕留めたが、別の蟻が嬢王蟻となって巣を作り、再び異常な速さで群れを形成してしまった。

全ての兵隊蟻が、同時に嬢王蟻でもあったのだ。故に、“群れ”の魔王なのだ。

 この魔王蟻を討伐するには、“一度に全ての魔王蟻を一匹残らず同時に仕留める”という方法しかない。

三十センチほどの蟻が、凡そ数百万匹・・・群れの広さは数十キロ平方メートルにもなる。

そんな異常な範囲の攻撃など、昔も今も人類には到底できない不可能な事のはずだった。

 だが、それを成し得たのが、“烈震の勇者”だった。

烈震の勇者は、歴代の勇者の中でも屈指の魔力量を誇り、戦術・戦略級の規模となる攻撃を可能にした。

その攻撃魔法の効果範囲は、最大で直径百キロメートルにも及んだという。

烈震の勇者はその力で大地震を起こして、全ての魔王蟻を葬ったのだった____。

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