表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
121/358

駆け引きの相手は?(2)

 オーマの報告を聞いて幾つか質問をしてきていたクラースは、それも終えると、机に両肘を付いて体を少し前に倒して、やや前傾姿勢になる。

そろそろ本題に入りたいというその態度を見て、オーマも落ち込んでいた気持ちを切り替えた。


「それで、早速という訳ではないが、君達には新たな戦場に立ってもらいたい」

「はっ!クラース様のご命令とあらば、どこへでも赴き、誰が相手でも戦果を挙げて見せましょう」


断れるわけもないクラースの言葉に、オーマは気持ちを奮い立たせて即答した。


「頼もしい限りだ・・・。実は、君達にスカーマリスへ行ってもらいたいのだ」

「スカーマリスにですか?」


オーマは、“スカーマリス”という単語で、次の任務の内容に大体の予想がついた。


「ああ。ディディアルの件でな・・・察しは着いているのだろう?」


予想通りだった____。


「ディディアルにサレンの事を教えた人物を探るのですか?」

「その通りだ。カスミからディディアルの報告を受けて、私はこのディディアルという悪魔は、何者かの操り人形だったと思っている。そして、元魔王軍幹部のディディアルを操るのだから、この黒幕はディディアル以上に危険な魔族だろう。ならばその人物の捜査は、勇者候補を抱えている君達が適任だと思ってね・・・それに、君の本来の任務をこなす上でも、良い大義名分になると思う」


言われて、オーマはすぐに察しがついた。


「本来の?・・・ろうらく作戦のターゲットに近づく口実にするのですか?」

「ああ。スカーマリスに探りを入れるなら、アマノニダイの協力も得られる。君とアマノニダイに居るターゲットが近づく口実になると思わないか?」

「アマノニダイのヤトリ・ミクネと行動を共にできるよう、アマノニダイに話を付けて頂けるのですか?」

「勿論。君に与えた作戦は、帝国で最優先事項の案件だ。私もできる限りの強力はする。とはいえ、君が他のターゲットを予定していたり、既にヤトリ・ミクネに近づくプランがあったりするのなら、無理にとは言わない。スカーマリスの調査も、どうしても君達でなければならない理由は無いからね。ただ、彼女に関しては、こういう大義名分があった方が良いと思ってね」

「こちらとしても、エルフのサレンを加えたので、残り三人の候補者の中で、ヤトリ・ミクネが一番攻略し易いだろうと考えていました。ですので、次のターゲットをアマノニダイのヤトリ・ミクネにする事にも、スカーマリスに行って、ディディアルを操った人物の捜査をする事にも、全く問題はありません」

「・・・“にも”というのは、含みがある言い方だな。聞きたい事があれば、聞いてくれて構わないよ」

「ハッ・・・では恐れながら・・差し支えなければ、ヤトリ・ミクネを攻略する上で、“大義名分があった方が良い”という理由をお聞かせ願えないでしょうか?」

「ああ、そういう事か・・・」


 クラースは溜息を吐くようにそう呟くと、ふんわりした椅子の背もたれに完全にもたれかかり、姿勢を崩した。

それから、先程とは違う、愚痴をこぼす時の様な口調でオーマに理由を話し始めた。


「それは彼女が帝国を良くは思っていないからだ・・・・いや、すまない。ハッキリ言った方が良いな。彼女は我々帝国に敵対心を抱いている」

「敵対心?どういった理由で・・・何か、彼女と対立する出来事があったのですか?」

「いや、無い。だが、東方軍の武官達にも、私にもはっきりと喧嘩を売って来たよ。“お前が嫌いだ!”とな・・・ああ、だから嫌悪感を抱いていると言った方が良いな。カスミもそう言っていたし・・・」

「はあ!?」


オーマは驚きを隠せず、声と表情に出してしまった。



 確かに、受け取った勇者候補の資料には、ヤトリ・ミクネは考え足らずで直感的、或いは感情的に行動を起こす人物と書いてあった。

だが、帝国とアマノニダイの友好関係と、帝国の軍事力を知った上で、堂々とクラース相手に喧嘩を売るなど、頭がおかしいとしか思わない。ハッキリ言ってバカだ。

 どんな理由かは分からないが、帝国を嫌っているのは良い事だ。反乱軍に誘いやすくもある。

だが、そこまで向こう見ずだと、リスクも感じてしまう。



「・・・驚いたかね?」

「はい・・・。頂いた資料に、それらしい内容が書いてありましたが、そこまでとは思っていませんでした・・・正直申し上げて、理解できません」

「分かるよ。私も本音を言えば、こいつは敵にも味方にもしたくない奴だ。だが、アマノニダイの巫女であり、勇者候補である以上しかたがない」

「はぁ・・・」

「そして、ここまでの性格だと、面会できたとしても“帝国軍人”というだけで拒絶される可能性が有る。帝国とアマノニダイの共闘作戦という大義が無ければ、取り付く島もないかもしれない」

「・・・失礼ですが、有れば大丈夫なのですか?今のお話ですと、両国の関係を無視しているようですが・・・」

「共闘作戦の中身が魔族や魔王に関するものなら大丈夫だろう。彼女も勇者候補だけあって、正義感は強い。魔王に対抗するために必要な事と分かれば了解するだろう」

「なるほど・・・」


口では納得するが、内心で“そんな奴を籠絡しろとか、無茶な命令するな!!”と叫んだ。

ヤトリ・ミクネの事を想像しただけで、両肩にずっしりとした物が乗った気分になった。


「そういう訳で、君達にはヤトリ・ミクネと共にスカーマリスに行って、ディディアルを操った人物を捜査してほしい」

「そして、その中でヤトリ・ミクネを籠絡するのですね?」

「そうだ。後これを渡しておこう」


そう言って、クラースは数枚の紙を机に出して、オーマに差し出した。


「これは?」

「ヤトリ・ミクネの戦闘に関する資料だ。彼女は同盟国のエルフだし、性格も先ほど言った通りなので、力を出し惜しみしない。だから彼女に関しては、スカーマリスでの魔獣狩りでその能力の全貌を殆ど調査できている。以前渡したプロフィールだけの資料と違って、魔法に関する情報が記載されている国家機密故、万が一のため、作戦直前になってから渡すつもりだった」

「分かりました・・・」


そう言って、資料を受け取ると、オーマは直ぐに懐にしまった。

 元魔王軍幹部も操る人物の調査、ヤトリ・ミクネという人物の性格など、かなりのリスクを伴いう作戦になるとオーマは予想する。

だが、“やりません”、“できません”は言えないし、オーマ自身も反乱計画のためにも言う気は無い。


(ディディアルを操った奴を調べる事も、ヤトリ・ミクネを加える事も、反乱軍には必要な事だからな・・・むしろ、どうやってヤトリ・ミクネを攻略するか決まっていなかったから、ある程度プランが出来ているのはありがたいかな・・・。ただ___)


 頭の中で、軽くスカーマリスでの捜査をシミュレーションすると、気になる事があった。


「質問よろしいでしょうか?」

「構わんよ」

「元魔王軍幹部を操るほどの人物を捜査するなら、魔族の拠点を落として確保する必要も出てくると思うのですが、その場合は人手を借りられるのでしょうか?それとも、拠点制圧などの大規模な軍事行動は控えた方がよろしいのでしょうか?」

「そうだな・・・確かに、黒幕の魔族は隠密行動にも長けている。ならば、捜査は隠密ではなく、人海戦術での大規模捜査の方が良いかもしれない。何より、軍人である君もそちらの方が得意か?」

「はい」

「___分かった。スカーマリスでの拠点制圧を許可しよう。東方軍団長のジョウショウには、話を付けておく。それと、私兵もあった方が良いだろう。サンダーラッツも動員して構わない。それで日程だが・・・そうだな、君達も帰って来て少しは羽を伸ばしたいだろうし、サレンもここに来たばかりだから、出発は来週中で構わない。今週はゆっくり休むと良い」

「ありがとうございます」

「では、話しは以上だ」

「ハッ。必ずや、ヤトリ・ミクネを帝国に加えて、黒幕の魔族の尻尾を掴んで見せます」

「期待している」

「はっ!失礼します!」


オーマは、気合の入った声を出して頭を下げた後、キビキビとした動作で退室していった____。



 クラースは、またいつもの様に、オーマの足音が聞こえなくなるまで黙って座っていた。


「____ふむ。やはり怪しい様子は無かったな・・・。オーマは魔族と繋がっていない・・・。少なくとも、オーマ自身はそう思っているはずだ・・・」


となると、やはりカスミが言っていたように、オーマもその黒幕の魔族に利用されている、という可能性が高いとクラースは感じた。


「ならば、スカーマリスで黒幕の尻尾を掴むのは難しいだろうな・・・」


黒幕が、どのタイミングでスカーマリスの捜査を知る事になるかというのも有るが、ディディアルやハムイガン達を利用した手際を考えると、そう判断せざるを得ない。


「だが、それならば、それで良い」


 もし、スカーマリスで黒幕が見つからなければ、それはその事実で、敵の居場所を絞ることが出来る。

人間の政治に明るく、その知識を使って帝国がタルトゥニドゥの魔族達に手出しできないようにしたという事は、帝国がタルトゥニドゥを制圧できる実力を持っていると分かっているという事。

それは、帝国の政治だけではなく、軍事力もある程度知っているという事だ。

そしてカスミの話では、敵がオーマの記憶を覗く際には、オーマ本人と直接会っているはずだと言う・・・。

つまり____


「スカーマリスに居ないなら、帝国内に潜んでいる可能性が高い____」


_____と、クラースはそう推理する。


「先ずは、敵がカスミがオーマに仕込んだ釣り針(魔王の予言)にどんな反応を示すかだな・・・」


そう呟いて、クラースは不敵な笑みを浮かべた。

だが、その笑みとは裏腹に、その瞳は確実に獲物をしとめるという殺意を宿した、獰猛な目つきをしているのだった____。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ