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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
120/358

駆け引きの相手は?(1)

 FD920年、九月中頃____。

 夏の暑さが収まり、木々の葉から青々とした匂いが薄れた頃、オーマ達は帝国に帰国した。

遠征慣れしているとはいえ、二ヵ月程も異国にいて、魔物の探索までしたので、やはり疲労は溜まっている。

だから、帰国してすぐは自室でのんびり過ごしたり、或いはサレンの歓迎会も兼ねてデネファーの店の地下で酒を飲んだりと、羽目を外したいところ・・・。

 だが、オーマに待っていたのは、今回の作戦の報告書の作成と、クラースからの呼び出しだった。

毎度の事とはいえオーマはうんざりして、その気持ちをヴァリネス達に愚痴らずにはいられなかった。

ヴァリネス達はそんなオーマの愚痴を聞いて、心配しながらも自分達はしっかり飲み会の席を予約して遊ぶ準備をしていて、オーマを落ち込ませるのだった。

 不貞腐れたオーマは一人、重たい足を引きずって城に向かった___。




 ドネレイム帝国の首都ドネステレイヤ。本城ドミネクレイム城___。

 オーマは城の前に到着すると、相変わらずのその魔獣のごとき姿を見上げている。


「なんか、此処こそ魔王の城に見えるなぁ・・・・・」


ならば、この中でオーマを待つクラースこそ魔王だろうか____?


「魔王が魔王対策をしているとは、なんとも皮肉な話だな・・・・・」


オーマは、そんな風にブツブツと呟きながら、重たい気持ちを引きずって、入城した。


 そしてドミネクレイム城、クラースの政務室___。


 「よく来てくれた。先ずは貴君の無事での帰還に安堵している。よく戻って来てくれた」

「私目のような者を心配してくださるとは、ありがたき幸せ。大変恐縮にございます」

「そのような事は無い。貴君の様な優秀な人物に心を配る事は、上に立つ者として当然の事だ。実際に貴君は今回も素晴らしい成果を上げてくれた。サレンを加えただけでなく、帝国がタルトゥニドゥの遺跡調査ができるようにもしてくれた。これは間違いなく、今後の帝国の魔法技術の発展に役立つだろう。よくやってくれた」

「ありがとうございます。今後とも帝国のために励みたく思います」

「うむ。貴君からのその言葉こそ、帝国にとっての真の利益であろうな。皇帝陛下に代わって感謝しよう」


相変わらずの感情の無い賛辞がクラースから送られる。

オーマはそれをいつもの様に恭しい態度で受け取った。

 形式的な挨拶が終わると、クラースはさっさと話しを進めた。


「___さて。それで、帰国してすぐで悪いが、今回の一件を君の口から報告してくれるか?後で報告書を出してもらうが、今後の話もある。君の口から、今回の一件の君の見解が聞きたい」

「ハッ!仰せのままに___」


内心で“二度手間じゃねーか!”とキレながら、オーマは一度礼をした後、聞かれるだろうと思って予め頭の中で整理しておいた、サレンのろうらく作戦のレポートを口に出して読み上げた。

 主な内容は、監視を頼まれたカスミの様子。サレンの状態とその能力。そして、ディディアルの事だ。

他の余計な事は省いて、クラースが聞きたいであろうこの三つをまとめて簡潔に報告した。


「___ふむ。ではカスミにこれといって、変った様子は無かったのだな?」

「はい。特別ラルスエルフと親密になるといった事も有りませんでした。私が見た中で一番彼女の心が動いたのは、タルトゥニドゥの調査に関してです」

「君に持ち掛けた話も、世界中を回る中で“未知”の物や情報を提供してほしいという事だけか?他に何か特別な事を頼まれたりといった事は?」

「ありません」

「そうか・・・・・」


一瞬、脳裏に“魔王”という単語が浮かんだが、報告する気は無いので直ぐに振り払った。


「・・・あの、よろしいでしょうか?」

「何だ?」

「このカスミの話には乗っておくべきと判断していますが、それでよろしいでしょうか?」

「ああ、問題ない。どちらにせよ、君が見聞きした魔法に関する情報は、こちらに報告しても彼女のもとに渡るのだ。今更変わらない」

「分かりました。では、そのように___」


 カスミに関しては裏で手を引いているのがクラース自身故、クラースはオーマに怪しまれない程度に探る“ポーズ”を決めると、次に話題に進んだ。


「サレンの能力に関してだが、ケルベロス三体の上級魔法を同時に封じたそうだが、それはどういう仕組みだ?サレンの源属性魔法の効果範囲にケルベロスが三体とも入っていたという事か?それとも三体個別に源属性魔法を掛けたのか?」

「あの時は、前者です。範囲型の魔法を発動して、三体のケルベロスを魔法の効果範囲内に入れて、魔法を封じたと思われます」

「“あの時は”?」

「はい。後で上げる報告書にも記載する予定ですが、任務を終えてタルトゥニドゥを下山する最中で、可能な限りサレンの力を調べました。彼女の静寂の力は個別型でも範囲型でも、どちらでも使用できるようです」

「ほう・・・個別型は一度に標的は一つだけか?複数は?例えば、個別に複数の標的・・つまり、乱戦などで、敵味方が入り乱れている最中で、敵の魔法だけ封じるといった事は可能か?」

「今現在では不可能です。いずれはそういった事も可能になる可能性はあるようですが、サレン曰く、源属性魔法の熟練度を上げるのはかなり困難な作業らしいのです。そこに到達するのはずっと先の話でしょう」

「そうか・・・範囲型の射程距離は?範囲はどれ位だ?」

「現在の射程距離は、約三十メートル。効果範囲は、半径七メートル程です」

「ふむ・・・それではまだ、小隊規模の戦闘でしか使えんな」

「はい」

「封じることができるのは信仰魔法だけか?」

「はい。そのようです」

「そうか・・・・・」


 クラースは残念そうな、安心したような声を出した。

能力が強すぎても引いてしまうが、強くないとそれはそれで困るからだろう。

オーマには、クラースのその気持ちが良く理解できた。

 そう共感しながらも、それとは別で、オーマは内心でその様子を緊張しながら見ていた。


 実を言うと、オーマはここでウソをついている。

いや、“正直に正確に言っていない”と言うべきか・・・。


 確かに、サレンの静寂の力は信仰魔法しか封じることができない。

だが、これは範囲型の話の流れで、そう答えただけで、個別型で使用した場合の事は言わなかったのだ。

個別型での使用・・・つまり、一個人に対して静寂の力を行使すれば、その個人の潜在魔法も封じることができるのだ。



 サレンの静寂の力は、一言で言うと“魔力が働く機能を停止させる力”だった。

範囲型で源属性魔法を発動すると、そこに“魔力が機能しない空間”ができる。

信仰魔法は、いってみれば魔力を外に出す作業なので、魔力が働かない空間では魔法が発動しない。

それに対して、潜在魔法は肉体の内側に魔力を行使する作業なので、その空間の中でも魔法が発動する。

 水中には空気が無いが、水中に入った人間の肺の中には空気が有るのと同じ理屈だ。

 だが、一個人に対して源属性魔法を使用した場合、その対象を“魔力が機能しない物質”にすることができる。

そうなった場合、対象の肉体そのものが魔力の働かない肉体になるので、信仰魔法も潜在魔法も発動しなくなる。

つまり、範囲型で使用すれば、信仰魔法だけしか封じる事が出来ないが、標的を一人に絞れば、信仰魔法と潜在魔法の両方を封じて、相手の魔法を完全に沈黙させることができるという訳だ。

 この、“一個人の魔法を完全に沈黙させる”という点を、オーマは話の流れで、クラースの質問を“範囲型の源属性魔法で封じることができるのは信仰魔法だけか?”という解釈にして、全部を言わなかった。


 理由は、クラースと戦う事になった場合、切り札になるかも知れないと考えたからだ。


 クラースがもし、サレンが潜在魔法は封じることができないと勘違いしてくれれば、例えば、今の状態でも状況が整えば、クラースを仕留めることができるかもしれない・・・。

 サレンの力の全てを隠すことはできないが、オーマはクラース達第一貴族との戦闘も考えて、戦いの肝になるかもしれないこの部分は隠し通したいと考えていた___。



 「・・・潜在魔法を封じることが出来るようになる可能性は全く無いのか?」

「分かりません」


オーマは、余計な事は言わずに短く答えた。


「ふむ・・・・・」


 クラースはオーマの様子を眺めながら、何やら考え事を始める。

オーマは怪しまれない様に、全神経を集中して、少しも動じていないよう平静を装った。


 クラースは少しした後、視線をオーマに戻して口を開いた。


「____まあ、彼女の力は未知な部分が多い。直ぐにその力の全貌を把握するのは難しいだろう。そこまで分かっただけでも良しとしよう」

「ありがとうございます」


 クラースはそう言って、この話を打ち切った。

その態度はごくごく自然で、オーマではクラースがオーマの言動を怪しんだのか、信用したのかどうかの判断ができなかった・・・。


(くそぉ・・・)


その事で、オーマはいまだにクラースとの駆け引きに太刀打ちできていないと感じて、悔しい思いを抱いた。

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