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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
幕間アマノニダイの戦巫女
118/320

アマノニダイの戦巫女(前半)

 FD920年、九月初頭____。

オーマ達がディディアルとの戦いに勝利し、タルトゥニドゥでの任務を終えた頃、他の地でも魔族との戦闘が行われていた。

 場所はスカーマリス___。

大陸中央のドネレイム帝国から東に在り、北東のエリスト海、南東のアマノニダイがあるアマズルの森に挟まれている、ファーディー大陸東方の秘境だ。

前回魔王が誕生し、魔王が支配下に置いていた土地であるため、タルトゥニドゥと同じくらい荒廃しており、今もなお多くの魔族が住み着いている。

 これにドネレイム帝国とアマノニダイは、二カ国が協力して、スカーマリスの魔物の被害を抑えるため、毎年夏の季節になると魔物の掃討作戦を実施している_____というのが表向きだが、実際は違う。

確かに帝国とアマノニダイは協力して、スカーマリスから魔物が両国に侵入してこない様に、両国の国境に防衛施設を作り、防衛ラインを引いてはいる。

 だが、この防衛ラインは的確に表現するなら“檻”と呼ぶ方が正しい。

魔物が両国に侵入してこない様にしているのではなくて、魔物がスカーマリスから出られない様にしているのだ。

似たようなものだろう?と思うかもしれないが、この表現に違いには明確に二か国とスカーマリスの魔族勢力との力の差が表れている。


 ドネレイム帝国とアマノニダイは、他国に対してスカーマリスの魔物を抑えていると、さもスカーマリスの魔物が脅威であるかのように主張しているが、本当は今ではもう脅威でも何でもない。

 魔王大戦が終わってすぐの頃は確かに脅威で、魔物と戦うのは非情に危険を伴う作業だったが、魔法技術の発展に伴い軍事力が強化され、魔物の生態も調査されて多くの魔物との戦い方も判明してくると、帝国とアマノニダイの両軍は殆ど被害を出すことなくスカーマリスの魔物に対処できるようになっていた。

 もうとっくの昔に二か国は、スカーマリスの魔物を殲滅し、スカーマリスの地を浄化して正常な地に戻せるだけの力と情報を得ているのだ。

それを敢えてしていないだけだった。

 理由は両国の軍事強化のためだ。

 スカーマリスには、タルトゥニドゥに劣らず、いや、それ以上に様々な魔物が多く生息している。

これは、人にとって脅威であると同時に可能性であり、敵であると同時に宝だ。

帝国とアマノニダイは、このスカーマリスで魔物を狩って、魔法研究や魔道具開発の材料にしている。

 例えば、オーマ達が身に着けている帝国の遠征軍用のレザーアーマーは、このスカーマリスの“ゼオノトプス”という、サイに似た魔獣の皮が材料になっている。

他にも武器から防具、遠征道具や防衛設備に役立つ材料が手に入り、両国に莫大な利益をもたらしている。

 それだけでなく、魔族との戦闘は魔王大戦に向けての訓練にもなる。

他の地にも魔物は居るが、巣や群れであって、軍や勢力とは呼べない。

この大陸で魔族のちゃんとした勢力が有るのは、タルトゥニドゥとスカーマリスだけだ。

そのため、この地での戦闘は対魔王軍用の人材育成にもなるため、全滅させるのは勿体ないのだ。

だから適当に生かしておいて、毎年夏の時期に、対魔族戦の軍事演習を兼ねて、数が増えた魔物を狩っている。

両国は、スカーマリスを丸ごと“狩場”にしているという訳だ。



 スカーマリスという、帝国とアマノニダイ両国の狩場の“管理”を任されているのが、帝国の東方遠征軍と、東方防衛軍だ。

アマノニダイも同盟国として面子を保つため協力してはいるが、両国との間には人数に差があるため、主力はやはり帝国軍だ。

 帝国東方軍は、狩場の管理が役目のため、他の地方の帝国軍と違い、侵略は行われない。

そのため、遠征と防衛とで役割が分かれておらず、両軍は連携して狩りと防衛をしている。

役割が同じのため、東方の遠征軍と防衛軍の両軍は、殆ど混在して一つの軍になっていて、“東方軍”と一つにまとめて呼ばれる事がある。

指揮系統も、ある日を境に統一され、東方防衛軍の軍団長の第一貴族が“東方軍団長”と呼ばれて、まとめている。

 その第一貴族の名はホンダ・ニツネ・ジョウショウ。

オーマと同じ位の背丈(約180㎝)だが厚みはオーマよりあってオーマよりデカく見える。

黒髪をオールバックにして、糸の様に細い目と四角い輪郭、そして福耳が特徴的な人物だ。

 名門と呼ばれるホンダ家の現当主で、ホンダ家は、元はトウジン家に仕えるトウショウジンの貴族だった。

帝国建国後も、代々トウジン家に仕えてきているため、ジョウショウもマサノリと仲が良く、信頼されている。

トウショウジンの名家ゆえ、東の地に関する知識が豊富で、アマノニダイともマサノリ同様に先祖代々交流が有る。

それが理由で、ジョウショウは東方軍団長として帝国の東の地を預かっている___。



 帝国東方軍は今現在、数の増えた魔獣を狩るためにスカーマリスに遠征に来ているが、軍団長のジョウショウはのんびりお茶をしていた。

戦場で呑気にお茶をしているのは、無能だからではなく有能だからだ。

 ジョウショウは帝国の東に地の総大将として、軍備から索敵、作戦立案まで抜け目なく完ぺきにこなしている。

そのため戦場に来れば、後は部下に任せて結果を待つのみで、戦場では殆どジョウショウに仕事は無い。

長年の調査で明らかになった対魔物戦闘の知識を持ち、それを実践して魔物との戦闘経験を積んできた東方軍は、帝国軍で最も魔族との戦闘に長ける。

魔王が誕生して、魔王大戦が勃発すれば、東方軍は対魔王軍の主力となる軍団だ。

そんな東方軍は、年に一度の魔獣狩りで被害など殆ど出さない。

ジョウショウが魔獣狩りで憂う事など何も無い。

 ジョウショウにとって、厄介なのはむしろ身内。同盟国であるアマノニダイだ。

さすがの第一貴族のジョウショウでも、帝国に様々な恩恵を与えるアマノニダイには気を使う必要が有る。

とはいえ、帝国とアマノニダイとの関係は非常に良好で、更にホンダ家はトウジン家の下でアマノニダイのエルフと交流してきた一族なので、エルフの高官達とも顔なじみだ。

ジョウショウ自身の外交手腕も確かなので、基本的には気に病むようなことは無い。

 ただ一つだけ、ジョウショウ、それにクラース含む第一貴族たちが、アマノニダイで面倒だと思っている事があった・・・・いや、面倒に思っているアマノニダイの“人物”が居た___。




 スカーマリス東方軍野営地____。


「ジョウショウ様。よろしいでしょうか?」

「入れ____」

「失礼します」


 野営地のジョウショウの天幕に一人の騎士が入って来て、恭しく頭を下げた。

ジョウショウはその様子を見ることなく、東方のお茶(緑茶)をすすりながら、低く静かながらによく通る声で呟いた。


「また“あいつ”か?」

「はい。お察しの通り、“戦巫女”です」


 ジョウショウは報告に来た騎士が口を開く前に、その報告内容を言い当てた。

別に、ジョウショウに相手の心が読める力が有るわけではない。

ジョウショウが完璧に準備した上で、狩りを始める前に緊急の報告が入る理由など一つしかないのだ。


「全軍に撤退命令。“あいつ”に巻き込まれるな、と・・」

「畏まりました。失礼します」


 それだけ言って、騎士はさっさとジョウショウの天幕から出て行った。

短いやり取りだったが、それを両者が気にすることは無い。

度々起こる事ゆえ、この件に関して長々と会話する理由がもう無いのだ。


「ふぅ・・・せめて魔獣達が素材として使えるように、原型を残しておいてくれれば良いのだがな・・・」


ジョウショウは今回の狩りで利益を得るのを諦めたかのようにそう呟き、溜息を吐いた・・・。




 ジョウショウが居る野営地から五キロほど離れた地点____。


「ニジョウ師団長。本部より通信が入りました。“アマノニダイより戦巫女が参戦。全軍撤退せよ”とのことです」

「___チィッ!」


ニジョウ師団長と呼ばれた艶のある整った顔した女性指揮官。東方遠征軍、第二師団師団長ニジョウ・ウザネは、顔に付いているプルンとしたたらこ唇を歪めて舌を鳴らした。


「又かい?あのお嬢ちゃんは・・・しょーがないね・・・」

「止めることはできないのでしょうか?」

「小娘とはいえ、アマノニダイの巫女相手じゃ、第一貴族の方々も口を挟むのは難しいのだろう。一応、建前は“加勢”なんだ。私達に攻撃してくる訳でもなく、魔獣も殲滅してくれる・・・」

「我々の目的と面子は無くなってしまいますがね」

「かといって、巻き込まれれば命が無くなるよ・・・それで?今どこまで来ている?」

「通信兵の報告ですと、約一キロ、もうあと数分で接敵するそうです」

「なら、ぼやぼやしてられないね。全部隊に撤退命令!」

「は!了解であります!」


ニジョウは、ぼやきながらも指示を出し、部隊を転進させて撤退を始めた____。

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