表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
115/358

カスミの釣り針二回目(前半)

 タルトゥニドゥのドワーフ遺跡に建てられた調査基地___。


 建てられた基地は『タルトゥニドゥ研究所』と名付けられ、カスミは帝国の魔法研究機関『ウーグス』と兼任で、この研究所の所長を務めることになる。

 カスミのために用意された専用の所長室は、一般的な木製の机と椅子がワンセット、後は書類をしまう棚が幾つかあるだけの窓も無い六畳ほどの質素な作りの部屋だった。

だが、見た目はそのように第一貴族のカスミが使うには貧相なものだったが、その壁や床にはちゃんと魔法が付与されていて、室内で禁術の魔族召喚などを行っても外に漏れないようになっている。

そのため、カスミ本人は特に内装に不満を抱いていなかった。

 カスミはクッションも無い硬い木の椅子に座って、タルトゥニドゥでの役目を終えて帰還するために挨拶に来たオーマと対面していた___。



 「今回のタルトゥニドゥ探索の任務、ご苦労様でした。おかげでドワーフ遺跡の調査を行えるだけでなく、魔族と不可侵条約を結んだことでゴレストとオンデールに恩を売る事が出来て、外交でも目覚ましい成果が得られました。この共同事業を提案し、探索にも貢献した貴方の働きは本国でも高く評価されています」

「とんでもない事でございます。元はといえば、ろうらく作戦のために提案したもの、それをここまでの大規模な事業へと発展させたのはカスミ様です。今回の一件は、カスミ様がこのタルトゥニドゥに興味を持たれたこと。カスミ様の魔導への探究心の成せる業でしょう」

「そこまで謙遜しなくても良いのですよ、オーマ殿。貴方の提案が無ければ、私はタルトゥニドゥの発掘事業自体行う事が出来なかったでしょうから、感謝しているのです」

「感謝のお言葉、恐縮にございます」


 第一貴族に対するいつもの美辞麗句。

今回の一件で、カスミとは距離が縮まったと思うオーマだったが、公の場(今は二人しかいないが)では、お互いの立場をわきまえた立ち振る舞いを見せる。

カスミはそれが嫌だったのか、それとも最初からそうするつもりだったのかは分からないが、お互いの挨拶が終わると、頬杖をついて姿勢を崩し、口調も崩して会話を続けた。


「ふぅ・・・ただ惜しむらくは、この地の魔物に手が出せない事ですね・・・上級魔族は魔術の研究においても魔道具の開発においても貴重な素材。できれば、このタルトゥニドゥもスカーマリス同様に“狩場”にしたいのですが・・・」


カスミが会話を続けた事で、形式的な挨拶だけで立ち去ることはできないのだと分かったオーマは、カスミの態度とは正反対に姿勢を正し、警戒レベルを上げて言葉を選んだ。


「不可侵条約を結んだ以上、難しいでしょう。オンデールが進んで賛成したと聞きました」

「その通りです。ですので今、この地の魔族に手を出せば、オンデールとの外交問題になりかねません。・・・何か良い手は無いですか?オーマ殿?」

「え?と、と申しますと?」

「この地の魔物を捕獲しても問題にならない方法です」

「はあ?」


サラリと帝国の意向を無視した相談をしてくるカスミにオーマは驚き、変な声を上げてしまった。

反乱を起こすつもりとはいえ、今、帝国の意に反する事などできるわけはない。

相談に乗るのも危険だと判断する。


(こんな相談を気軽に俺に持ち掛けるなんて、どういう神経してんだ?やっぱり帝国にそこまで執着は無いという事か?・・・・・それとも俺を試している?)


頭の中で一瞬、“離間の計”を思い浮かべたが、今は早計と考え直し、話を受け流すことにした。


「今はオンデールとゴレストとの仲を深めることが大事な時期ゆえ、時を置いた方がよろしいかと思います。いずれ両国との関係が深まれば、この地の魔族討伐の話を持ち掛けることもできましょう。オンデールのエルフとタルトゥニドゥの魔族は決して仲が良いという訳ではないですから」

「でも、それだと遅いのです」


 “遅い”という単語にオーマは眉を上げる・・・。

長寿のエルフにとって、魔法の研究に関して“遅い”という事が有るのだろうか?

基本的には無いはずだ。

有るとすれば、早急に調べる必要が有る場合だが____


「・・・研究を急がねばならない理由が、何か有るのですか?」

「いえ、研究ではありません。ディディアルの背後にいる、今回の事件の黒幕を追う捜査が遅れてしまうのです」

「今回の事件の黒幕!?」


カスミの相談内容が予期せぬ方向に動いて、再びオーマは驚いた。

だが、それ以上にディディアルの背後の存在に関心を持った。


(そういえば、ヴァリネスもそんな事言ってたっけ・・・)


 ドワーフ遺跡での決戦後にヴァリネスが報告してくれた、ディディアルと会話した際に感じたという内容を思い出す。

ディディアルはタルトゥニドゥの魔族ではなくスカーマリスの魔族で、サレンの事はタルトゥニドゥの魔族からではなく、他から聞いた可能性が有るという、ハムイガンも言っていた内容だ。

その事を頭の片隅に置いて、カスミの話に耳を傾けた。


「オーマ殿。この地の魔族長達は、ディディアルはスカーマリスの魔物だと言っていました。だとするならば、何故、ディディアルはサレンの力の事を知っていたのでしょう?」

「・・・・・」


 この地の魔族はサレン達とベヒーモスとの戦闘を見ていたのだから、サレンの力の事を知っているのは当然だ。

だが、ディディアルはそうではない。

そして、この地の魔族達はディディアルに協力はせず、そういった情報は提供していない。

この地の魔族達を信用するならば___だが。


(ああ・・・だから捕獲したいのか・・・)


この地の魔族達が本当にディディアルに協力していないのかを知るには、捕獲して聞き出すしかない。

この地の魔族達の発言の事実確認、魔法の研究と、外交問題になる火種が無ければ、今すぐにでも捕獲作戦を実施したいところだろう。


 話を戻して、もし、この地の魔族達の話が本当なら、ディディアルは他の誰かから話を聞いたことになる。


(サレンの事を知っていたのなら、他の勇者候補の事も知っているのだろうか?ディディアルにサレンの事を教えた奴は何処まで知っている?ベルヘラの魔獣事件とも関係しているのなら、勇者の件も知っていそうだ・・・)


オーマは口元に手を当てて考え始めた・・・。


「・・・・・」


 その様子をカスミは先程と同じ様に頬杖をついて見ていた。

だが、その目は頬杖をついたラフな姿勢とは裏腹に、真っ直ぐジッと見つめてオーマを観察していて、オーマの僅かな変化も見逃さないという、集中している目だった。


(・・・・・動揺は無い?上手く隠している?いや・・でも、そういう風には見えない・・・)


カスミは、オーマとディディアルが繋がっている可能性も捨てていなかった。

そして、もしオーマがディディアルと繋がっているなら、少なからずこの話を持ち出せば、心に動揺が走り、態度に出るのでは?と期待していた。

 クラースほどではないが、カスミも帝国第一貴族のエルフとして人の数倍の時間を生きて来ているため、洞察力には自信が有った。

何より、今回の一件で帝国を出てから何回もオーマと交流してきたので、その性格もある程度掴んでいる。

もし、オーマが少しでも動揺しようものなら、直ぐに見破れると思っていた。

だが、今のオーマには動揺する様子など一切無く、それどころか自分が疑われている自覚すら無く、今回の事件を推理しているように見えた。


(・・・演技には見えないし、本当に関係無い?・・・・・いや。もしかして___)


____“この一件の黒幕に利用されているのでは?”


 カスミの中で新しい仮説が生まれる。

そして、新しく生まれたその仮説は、今までで一番しっくりくる説だった。


(黒幕の魔族は、記憶操作ができる私と同じ精神属性の使い手・・・オーマを相手に記憶を覗いたり、書き換えたりするのは至難の業だけど、仮に、この黒幕が私以上の魔導士であったり、何か強力な魔道具を持っていたりしたら、オーマにでさえ記憶操作の魔法を使えるかもしれない・・・もし、オーマに精神属性の魔法を掛ける事が出来ているとしたら・・・)


 オーマに気付かれずに利用して、帝国や勇者候補の情報を得る事ができるだろう。


(・・・だとするなら、敵は人間のフリをしてオーマの周囲のわりと近くにいる?)


さすがに遠隔や寝ている隙にというのは無理だろう。

もし、黒幕がオーマの記憶を覗いているなら、直接会っているはずである。

 カスミは図らずしもクラースと同じ仮説に行きついた。

そして、それを確かめるため、黒幕を釣り上げる針をオーマに仕掛けると決めた____。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ