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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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タルトゥニドゥ探索任務完了

 ディディアルがハムイガンに連れられて別の区画へと移動していた頃、オーマとサレンは他のメンバーと合流するべく部屋を出た。

そして、サレンの探知魔法でヘルハウンドと戦うデティットを見つけると、直ぐに援軍に駆けつけて合流し、ハウンドの群れを撃破した。

その後、三人はドワーフ遺跡に入って来たアラド達に発見され、程なくしてヴァリネス達とも合流し、一同は全員が無事に合流する事が出来た。


「団長・・・無事だったのね」

「ああ。サレンのおかげでなんとかな」

「いえ・・そんな・・・オーマさんが居てくれたからです」

「そうか?」

「そうですよ♪」

「なら“二人”だったから無事だったって事だな♪」

「そうですね!うふふふふ♪」


「「・・・・・」」


 オーマとサレンの楽しげなやり取りに、メンバーは二人の仲が深まって作戦が成功したことを理解する。

クシナを含む何人かは、少し気まずい気持ちになっていたため、空気が悪くなるところだったが、それを察したヴァリネスが直ぐに話題を変えた。


「ま、まあ、全員無事で何よりね!」

「そうですね。危うい相手でしたから」

「全滅の可能性も有り得ましたし・・・」

「俺、上級魔族とこんなに戦ったの初めてだよ・・・ばんばん召喚しやがって・・・あのヒョロ長」

「あ!そうそう!それで、あのヒョロ長はどうしたの?」

「いや・・・俺は知らないが、ジェネリー達が倒したんじゃないのか?」

「い、いえ、アラド様にこの地下に案内されてから、一度も魔物と遭遇しておりません」

「私はてっきり、兄様とサレンさんが倒したのだとばかり・・・」

「私達はこの地下に落とされてからは見ていませんよ?」

「え?ちょっと・・・ひょっとして、誰もあのヒョロ長の行方が分かってないの!?なら、まだ終わってないじゃない!」

「に、逃げられた?」

「い、いえ・・・以前にこの区画を調べた限り、この区画から外に出るなら、何処かで我々と接触するはずですが・・・」

「じゃー、まだ遺跡内に居る?」

「___探そう。クシナ。念の為、本体に連絡を入れておいてくれ」

「了解しました」

「サレン。その間に、探知魔法で引っ掛からないか、試してくれないか?あのヒョロ長相手じゃ多分無理だが、一応な」

「分かりました」


指示を受けて、サレンが魔法術式を展開した時、見張りをしていたウェイフィーが何かを視界に捉えた。


「皆!あれ!」


ウェイフィーの声に反応して振り向いてみれば、ウェイフィーの指差す方から、一体の老いた白髭を生やしたグレーターデーモンが、両手に壺を持ってこっちに向かって歩いて来ていた。

直ぐに全員が陣形を組んで武器を構えると、その老いたグレーターデーモンが声を掛けてきた。


「こちらに戦闘の意思は無い。交渉しに来た」


「「・・・・・」」


 “交渉”という単語に、全員が訝しげな表情を浮かべた。

だが実際に、老いたグレーターデーモンには殺気も無く無防備に近づいて来るだけで、戦う様子は無い。

とはいえ、罠の可能性も有るため、直ぐに隊長のデティットが声を上げた。


「ならばそこで止まれ!!止まって、その壺を地面に置いて、手を上げろ!!そうでなければ交渉には応じない!!」

「・・・よかろう」


老いたグレーターデーモンは、デティットの指示に従い、壺を地面に置いて、両手を上げた。


「これで良いか?」

「・・・何者だ?」

「私の名はハムイガン。この地に住まう魔族達を束ねる魔族長の一人だ」

「ディディアルの仲間だな?」

「いや、違う。あいつはこの地の者ではない。余所者だ。お前達を襲った魔族はこの地の者ではないと誤解を解き、お前達と争う事になる前に交渉したくて会いに来た」

「・・・その経緯を一から話してみろ」


ハムイガンが信用できるかどうかの判断材料を持たないデティットは、一からの説明を求めた。

もし、これが罠ならば、話に矛盾が出るかもしれないと期待しての事だ。


「分かった。実は____」


了解したハムイガンは、先行討伐隊のメンバーに武器を向けられながらも冷静に事情を話し始めた____。



 ハムイガンが言うには、タルトゥニドゥの魔族長達は、以前にサレン達がこの地に来た事も把握していて、今回どんな目的で再びこの地に足を踏み入れたのかも知っていたそうだ。

そして、その対応を魔族長達で話し合っている間に、あのディディアルがスカーマリスから来て、勝手にこの地で戦闘を始めたという。

ハムイガン達魔族長は、余所から来たディディアルが勝手に戦闘を始め、この地を荒らす事に憤りを感じていたが、ディディアルが強くて手が出せず、静観する事しかできなかったらしい。

だから、今回のディディアルの一件には一切関与していないと主張した。

そしてその証拠として、戦いで弱っていたディディアルの首を取ったと言って、デティット達に壺に入ったその首を差し出して来た。

 オーマ達は、話に矛盾が無かった事、事実この一件で戦った魔族の殆どがディディアルの召喚した魔物だった事、そしてディディアルと交渉している最中に、ヴァリネスがディディアルをスカーマリスの魔族と推理していた事で、一応納得した。



 ディディアルとこの地の魔族の関係性の誤解が解けたところで、改めてハムイガンは交渉を呼びかけてきた。

内容は、お互いにこのタルトゥニドゥで共存し、互いに関与しないという、不可侵条約を結びたいというものだった。

 簡単に言うと、邪魔者だったディディアルを倒してくれたオーマ達の面子を立てて、ドワーフ遺跡の調査の邪魔をしない代わりに、ドワーフ遺跡以外の場所、魔物達の住処などといった所には立ち入らないでほしいという事だった。

先行討伐隊の権限では決められない話だったため、デティットは本隊と連絡を取った。

そして、魔族との交渉は探索責任者のカスミに引き継がれた___。



 交渉を引き継いだカスミは、現地に居る外交官だけではなく、本国、ゴレスト、オンデール、アマノニダイの首脳陣とも連絡を取って、魔族との交渉を進める。

そして、この交渉は結果から言えば、タルトゥニドゥの魔族との間に不可侵条約が結ばれる事となった。

 この条約が結ばれた一番の要因はオンデールが強く賛成したことだ。

タルトゥニドゥ山脈と隣接しているオンデンラルの森に住むラルスエルフとしては、タルトゥニドゥの魔族の被害が無くなる事は、ドワーフ遺跡の宝以上に望むものだったからだ。

そして、オンデールが賛成するとなれば、ダークエルフを“神の使徒”と崇めるゴレストが反対するはずも無い。

帝国も遠方に送る兵や物資を節約できるため反対しなかった。

 唯一、魔族の秘術や魔獣の素材が手に入らなくなると、カスミだけが帝国本国に愚痴っていたが、帝国としてはそれら以上に、オンデールのエルフとタルトゥニドゥの魔族が、不可侵条約を結んだ事に対して自分達が協力したという外交成果の方が大事だったため、カスミには諦めてもらうしかなかった。


 不可侵条約が結ばれて基地建設に着工すると、建設作業は魔族の邪魔が入ることなく順調に進んだため、魔族の襲撃を想定して立てられた予定より大幅に早く、その作業を終えて基地は完成した。

 こうして、四か国が共同で着手したタルトゥニドゥの発掘事業は、現地の魔族と条約を結ぶという成果も加えて、その第一段階を終了し、オーマ達の任務も完了したのだった___。






 ドネレイム帝国、ドミネクレイム城クラース政務室____。


 クラースは、昨日の夜から机に書類を広げて、自身の政務室に籠っていた。

 机に散らかっている書類は、ゴレスト・オンデールでの外交に関するカスミからの報告書が主だった。

四か国の会談の内容、それにおけるオンデール、ゴレスト、アマノニダイの見解と立場をまとめた物や、四か国で取り決めた交易や共同事業の草案など、その書類の数は膨大だ。

 その中で、クラースが一番注目し頭を悩ませていたのが、タルトゥニドゥに関する書類だ。

基地建設や魔族との交渉内容は勿論、探索の経過記録に載っている遭遇した魔物の数と種類、その魔物との戦闘内容まで詳細に記されて書類には何度も目を通していた。


「・・・チッ、やはり、このディディアルという悪魔の背後にいる存在を特定できる情報は無いな・・・」


 クラースは、その穴が開くほど読み返した資料を見つめながら、難しい表情を浮かべて溜め息をこぼした。

オーマ達の動向、サレンとジェネリー、レインの戦闘データ、オンデールの魔法技術など、重要な情報が多く記載されているその書類だが、クラースがその書類に何度も目を通していた理由は、ディディアルを操った黒幕を推理するためだった。


「カスミが言う様に、こいつの背後には誰かいる・・・そして、そいつは間違いなく勇者候補の件も知っている・・・。それに____」


 クラースは机の隅に置いてある、今回の報告書と関係の無い書類を手に取る。

それは、以前にマサノリが上げた、ベルヘラの魔獣事件に関する報告書だ。


「一見すると、このディディアルがベルヘラの魔獣事件の犯人の様にも見えるが・・・怪しい。ベルヘラでオーマ達を監視していたカラス兄弟を襲ったという事は、勇者の件でオーマ達の動向を追っていたはずだ・・・。なら、ジェネリーとレインの能力についてもある程度情報を持っているはず。少なくとも、その後にレインがオーマの正体を突き止めるために、ベルヘラとバークランドを数日で往復して見せた事は知っているはず・・・。だが、この報告書を見る限り、ディディアルはその事を知らないで作戦を立てたために、レインに邪魔をされて敗北している・・・・となれば当然___」


ベルヘラの魔獣事件の犯人は、ディディアルではなくその背後にいる人物だろうと、クラースは推理する。


「ディディアルはそいつに、サレンの力の分析と、我らの捜査の目をかく乱するための捨て駒にされたか・・・」


 カスミの報告書には、ハムイガンから受け取ったディディアルの首を持ち帰って、その脳の記憶を精神属性魔法で調べたが、ディディアルを利用した人物に関する記憶が消されており、犯人の特定には失敗したと記されていた。


「ディディアルの背後にいる奴は、他者の記憶操作ができるほど卓越した精神属性魔法の技術を持っているという事・・・魔導士としてカスミに匹敵するぞ・・・」


そこに魔族としての肉体能力も加われば、戦力としてならカスミを上回るかもしれない。

となれば、現状まだ力が成熟していない勇者候補たち以上だ。

知略・戦闘力ともに、クラースにとって一番の障害と言える。


「出来る事ならタルトゥニドゥの魔族達を捕らえて調べたいところだが・・・」


 ディディアルの首を持って交渉に来たハムイガンを筆頭に、タルトゥニドゥの魔族長達は、恐らく黒幕の人物を知っているだろう。

捕まえて調べれば、黒幕が誰か分かるかもしれない。

だが、不可侵条約を結んでしまった為、現状それをするのは難しい。


「不可侵条約を破って魔族長達を捕らえれば、タルトゥニドゥの魔族達が暴れ出し、オンデールとの外交問題になる・・・」


そして、オンデールとの間に外交問題が起きれば、アマノニダイとも問題になる可能性が有る。


「時期を見るしかないが、グズグズしていたら黒幕の魔族は、タルトゥニドゥの魔族長達の口も封じてしまうだろう・・・チィ!・・・こちらがタルトゥニドゥの魔族を詮索できないようにする事まで計算して条約を結ばせたのなら、かなりの知略の持ち主だ。だが____」


この事件の黒幕は、魔法も智謀も兼ね備えている上、魔族でありながら人間社会の政治にも精通している。

かなりの傑物だが、だからこそクラースは思う。


“ここまでの力を持っていて、人間社会にも詳しいなら、敵は意外と近くにいるのでは?”____と。


スカーマリスの魔族をベルヘラの魔獣事件の犯人に仕立てようとしている辺りで、クラースはそう感じていた。


「・・・とはいえ、先ずはスカーマリスに探りを入れる必要が有るな・・・」


 考察を終えて、クラースは席を立つ。

そして、スカーマリスに探りを入れる準備を始めるのだった___。


 前回、クラースの思惑を読んで、帝国の捜査をかく乱する手を打ったリデルだったが、今回はクラースにその意図を読まれる結果になった。

表に出て来ないこの二人の策謀戦は、見えないながらに一進一退の激しい攻防を繰り広げていた___。

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