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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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ドワーフ遺跡の決戦(9)

 自分の頑なな態度を改めて、オーマはサレンと運命を共にする覚悟を決める。


「サレン・・・今から一緒に生きる為の一手を打つ。ハッキリ言って、生き残る確率は低い。恐らく失敗するだろう・・・その時は一緒に死んでくれ」

「はい!」


 勝算の低い作戦だが、もう迷いは無い。

それしか一緒に生き残る可能性が無いなら、それがどんなに低い確率でも、その可能性に全てを掛ける。

オーマは期待と覚悟を持って、サレンに無慈悲な指示を出した。


「サレン!俺が上級魔法の準備をする間、囮になって敵を引き付けろ!!」

「はい!」


 万全な状態ならともかく、消耗しているサレンには酷な仕事だろう。

ディディアルが念入りに分析し、ケルベロスの戦闘力、サレンの戦闘力と消耗率を計算して出したサレンに勝つための策____これは的を射ている。

オーマは自分を足手まといだと思っていたが、それでもオーマが居なければ、サレンは今頃ディディアルの想定通りにケルベロス達に殺されていただろう。

 だから今、この状況でサレンが一人でケルベロス三体を同時に相手にするのはかなり危険だ。

オーマが上級魔法の準備をしている間に、噛み殺されてもおかしくはない。

だがオーマはそんな事お構いなしに指示を出した。

サレンもその指示がどれ程危険かを理解しながらも、迷う事無く引き受けた。


 それしか一緒に生き残る可能性が無いなら、そうするだけだった___。


「____アクア・ランス!____サンド・ウィップ!____ウィンド・アーマー!」


 ケルベロスに魔力を溜める時間を与えてもらえないサレンは、速攻ができる低級魔法を連発し、戦いを組み立てる。

襲い来るケルベロス達に、水属性の攻撃魔法で足下を狙い、動きを鈍らせると、砂の鞭で顔を狙い視界を奪う。

一体がその両方の攻撃から逃れて爪を振るってきたが、それに対しては最も受け流し効果の高い風属性の防護魔法で何とか凌いで時間を稼ぐ。

攻防共に少しの判断ミスで命を落とす、危うい戦いが繰り広げられた___。


 オーマは、そのサレンの危うい戦いぶりを眺めながらも、動じることなく高威力の魔法を準備している。

展開している術式の属性は雷___。最も味方を巻き込む恐れが有る、オーマお得意の属性。

ケルベロス三体に向けて放てば、確実にサレンも巻き込んでしまうだろう。

 ケルベロスとの乱戦の最中に、オーマの上級魔法を食らえばどうなるだろうか___?

まず間違いなく、サレンでも無事では済まない。オーマとサレンとの間に魔力の差が有るといっても、オーマも帝国で上位に入る魔導の達人。

消耗している状態で無防備にその攻撃を受ければ、生き残れる可能性はかなり低い。

サレンがそれで死ねば、当然オーマもケルベロスに殺されることになり二人ともここで死ぬ。

だが今はそれでも構わないとオーマは思っているし、サレンも同じ気持ちだった。


(これしか無いんだ・・・これでサレンが死ぬなら、俺も後に続くだけだ!)


 心の中でそう叫ぶと、オーマは躊躇することなく、最大威力まで溜めた自身最高の電撃魔法を、サレンもろともケルベロス達に撃ち放った___。


雷霆ケラウノス!!」


______ズバァッシャァアアアアアアンン!!!


 高威力の激しい雷が、広いドワーフの遺跡の室内を埋めつくす。

オーマの渾身の一撃。さしものケルベロスとサレンもその一撃で大ダメージを負った。

そして、オーマを残して全員が感電して、身体から煙を発して動かなくなった。

それを確認してオーマは自身の魔力の回復を始めた。




 (____!?おのれ!あの男!!)


隠れていたディディアルが、この異常事態を把握し、万が一に備え援護に入る必要が有ると判断する。

そして、ジェネリーとレインに見つからない様に、ケルベロス達の援護へと向かい始めた___。




 オーマ達が居る場所では、暫くしてようやくケルベロ達が動き始めていた。

だが、ケルベロス達が感電している間に魔力を回復させたオーマは、もう既に次の攻撃準備をしていた。


「エレクトリック・アトラクション!」


 魔力を回復させて余裕ができたオーマは、電気の極性変化の防護魔法をサレンに掛け、次に撃つ電撃魔法を同極性で弾けるようにしておく。

サレンはいまだに動かないが、もし先のオーマの一撃を耐え抜いて生きているなら、回復を始めてくれるだろう。

オーマはそれを期待して、再び最大最高の魔法でケルベロスにダメージを与えに行くと共に、時間稼ぎに入る。


「雷霆!!」


______ズバァッシャァアアアアアアンン!!!


 再びオーマの最高威力最大範囲の電撃魔法が部屋一帯を埋め尽くし、ケルベロス達に大ダメージを与えた。

だがそれでもケルベロス達の体力は削り切れず、三体ともまだ戦闘可能な状態だった。

さすがにもう一度は同じ魔法は撃たせてもらえないと判断したオーマは、戦法を変える。


「レールガン!」


_____バチバチバチィイイイ!!


得意の上級魔法で、ケルベロスの一体に追撃をする。

すると、その間に残りの二体が動き出したが、オーマは上級防護魔法を纏って、サレンを庇う形で肉弾戦に応じた。


「はぁあああ!!」


____バチィイイイン!!


「「グゥウオオオオ!!」」


体力魔力が回復して、十分に力と魔力が乗ったオーマの剛撃は、先程までとは違い、しっかりとケルベロスにダメージを与え、更には感電させて動きも止める。


「「グゥウウオオオ!!」」


「おうっ!!」


オーマの打ち終わりを狙って、もう一体が爪を振るってくるが、オーマはこれにカウンターを入れる。

これも、先程だったら防御しきれていなかったが、今は対応を間に合わせる事ができる。


「「グルルルゥウウウウウオオオオ!!」」


三体目___。レールガンから復活した三体目の攻撃はさすがに防御が間に合わなかったが、ケルベロスの爪がオーマに触れた瞬間に、バリバリバリィイイ!!と音を立てて、上級防護魔法がその身を守ってくれた。


「「ッガァアアア!!」」


___ギンッ!!


「___ぐぅ!?」


オーマの防護魔法に触れて感電するケルベロスだったが、それでも攻撃の威力は完全には落ちず、オーマもダメージを負った。

そうしてオーマがスキを見せている間に、感電していた二体が復活する。

二体ともしっかりダメージを負っているが、そこは魔界でもトップクラスの魔獣。獣が苦手な電撃を受けても体力気力ともに十分で、闘争本能をむき出しにして襲い掛かって来る。

だが、体力も気力も十分なのはオーマも同じで、「はあ!」という気合の一言と共に再び防護魔法をその身に纏い、三体のケルベロスを迎え撃とうとした。

その時____


「グレイトフル・ハイウィンド!」


_____ズビュゥウウウオオオオオ!!


ケルベロスとオーマが再び衝突する寸前に、室内に凄まじい暴風が吹き荒れた。


「くっ!」


「「グゥウウウオオオオオン!!」」


三体のケルベロス全員がその暴風の直撃を受け、自慢の巨体を攫われる。それだけでなく、その暴風で発生した旋風で全身を切り刻まれた。

ケルベロスは三体とも、大ダメージを負いながら、部屋の壁へと叩きつけられるのだった。


「サンド・リンク」


ケルベロス達を部屋の隅へと追いやった張本人は、もう既に次の魔法を発動し、床を走りづらい砂へと変えて、ケルベロスの足を鈍らせる手を打っていた。


「サレン!」


 オーマは思わずその名を叫ぶ。

サレンが生きていた事。この状況を打開できた事。色々な喜びの感情がこみ上げて、名前を呼んだ後は言葉が続かなかった。

そんな、もの言いたげなオーマの表情を見て、サレンはニッコリと微笑む。

オーマはサレンが微笑んだのを見て、自分の気持ちが伝わったのだと安心した。

今の二人はそれだけで通じ合えた___。


「オーマさん」

「ああ!仕上げだ!サレン!」

「はい!」


お互い短い言葉で理解し、表情を引き締めると、二人横並びでケルベロスに対峙する。

 見れば、ケルベロスは三体とも瀕死の状態だった。

瀕死で動きが鈍くなっている上、今は床を砂に変えられていて足場が悪い。

今のオーマとサレンなら、ケルベロスの攻撃速度にも余裕で対応できるだろう。


 形勢は逆転した___。


「「グルルルゥウウウウウオオオオ!!」」


だが、獰猛さで知られるケルベロス達は、雄叫びを上げて戦意を奮い立たせる。


「オーマさん!」

「ああ!俺が前に出る!頼むぞ!」

「はい!」


オーマもサレンも、ほぼ勝ちが決まっているこの戦いに油断することなく集中する。


 そう、上級魔獣に油断は禁物だ。


 ケルベロスは魔獣____。獣とはワケが違う。ただ屈強な肉体で肉弾戦をするだけではない。

上級魔獣は必ず奥の手に上級魔法を備えている。

上級魔獣との戦闘経験が有る二人にとっては常識だ。

そして、ケルベロスは“マジシャンズキラー”と呼ばれるほど有名故、ケルベロスの奥の手は魔導士達の間では有名だった。


____パキィイイインン!


 ケルベロス三体の足下に水色の魔法術式が浮かび上がる____だが水属性では無い。

ケルベロスの扱う属性は“氷”。風属性か水属性から派生するRANK2の属性だ。

“凍結地獄”という、周囲を絶対零度の世界に変えて、あらゆる物を凍らせる氷属性の上級魔法がケルベロスの奥の手だった。

そして、ベヒーモスやストーンバジリスクなど、他の上級魔獣同様に、その野性的な姿に似合わず魔法の術式速度は速い。

オーマは潜在魔法で肉体を強化して必死に距離を詰めるが、普通に走っても間に合うかギリギリの距離な上、今はサレンが床を砂に変えているため、間違いなく間に合わないだろう。

サレンの取った行動が裏目に出たかにも思える。

 だが、そんな訳はない。

魔力が回復しているなら、肉弾戦より魔術戦の方がサレンとオーマにとって絶対に有利だ。

実際に、サレンが展開した魔法術式の規模と魔力は、ケルベロス三体の魔法術式を遥かに上回る、七色の光を放つものだった。


「「グルルルゥウウウウウオオオオ!!」」


“凍結地獄”___。ケルベロス三体が上級氷結魔法を発動した_____だが、


「ヒリアイネン・バロ(静寂の光)!」


サレンの声と共に七色の光が放たれると、氷の魔法は霧散し、静寂の時が流れた____。


 そして____


「サンダーストーム!!」


ケルベロス三体との距離を詰めたオーマが、至近距離で上級電撃魔法を発動した___。


_____バリバリバリバリィイイイ!!


「「グォオオオオン!」」


けたたましく響く雷音と共に、今まで聞いた事の無いケルベロスの甲高い叫びがこだまし、それとともにその巨体を地に伏せると、ケルベロス達はそのまま永遠の眠りにつき、決着がつくのだった____。

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