ドワーフ遺跡の決戦(6)
ディディアルの足下でヴァリネス達は、ストーンバジリスク二体を相手に奮戦していた____。
「___ッ!?ヴァリネスさん!また来ます!」
アラドが叫ぶ____。
内容は言っていないが、それでもヴァリネスはアラドが言わんとしている事を理解していて、皆に指示を出した。
「右はフラン!左はクシナが防御!次いで私とアラドが牽制!アタックはイワとロジくん!ウェイフィーは二人の援護!」
「「了解!」」
「「ゴォァアアアアア!!」」
____ゴウッ!!
アラドの予想通り、再びストーンバジリスクのポイズンブレスがメンバーを襲う。
「「ハイウィンド・ウォール!」」
これをヴァリネスの指示通り、フランとクシナが風の防護魔法で味方を守る。
そしてヴァリネスは、金属性魔法で錬成した投げ槍で、アラドは自慢の弓矢で、それぞれストーンバジリスクの顔を狙って攻撃した。
二人の攻撃を受けて、ストーンバジリスクはダメージこそ受けなかったが、顔に当たった槍と矢を鬱陶しそうに顔を振って払ったことでスキを見せた。
そこに、魔力を溜めて準備していたイワナミとロジが駆け込んだ____。
「二人共気を付けて!下ぁ!!」
だが、ストーンバジリスクを見据えて、真っ直ぐに駆けていた二人に、ウェイフィーが叫ぶ。
二人がそれを聞いて下を見れば、地面から鋭利な爪が生えていた。
「「アイアンモール!?」」
ウェイフィーのおかげで地中に居る魔獣の存在に気付けた二人は、咄嗟に横に飛んで、飛び出して来たアイアンモールの攻撃を躱すことができた。
「バインウォール!」
アイアンモールの追撃を阻止するため、ウェイフィーは樹属性の防護魔法を発動して、アイアンモールと二人の間に蔓の壁を作ると、それと同時にアイアンモールをその蔓で絡め捕り、絞め殺した。
「ふぅ・・・セーフ」
「まだよ!ウェイフィー!!」
「!?」
アイアンモールに対処して息をついたウェイフィーに、背後からズルズルとマーダーパイソンが忍び寄っていた。
「はぁああああ!!」
それに気付いていたヴァリネスは、金属性魔法で新たに巨大な斧を錬成し、大木の様なマーダーパイソンの胴体をズンッ!!と真っ二つにした。
「ありがとう。副長」
「油断しないで!皆次に備えて!」
「「了解!!」」
先行討伐隊はヴァリネスの指揮の下、指揮官のオーマとデティット、それに主力のサレンを欠いても、ディディアルの魔獣部隊に対応して見せる。
さすがオーマと比肩する帝国団長クラスの指揮能力を持つヴァリネスと言えたが、やはり状況は厳しい。
(アイアンモール・・・あいつ等が穴をあけて三人を下の遺跡へ?それに、マーダーパイソンも・・・両方合わせて二十体。やれない相手じゃないけど、やっぱりストーンバジリスクが邪魔。というか、強力な毒を吐くストーンバジリスクがいるのに加勢させるって事は、こいつら捨て駒って事?いや、違う。召喚した魔獣をそんな使い方しても魔力を無駄に消費するだけ・・・恐らく、毒の抵抗力を上げる防護魔法を掛けてある。なら、乱戦の同士討ちは狙えない。どうしよう・・・)
先程まで戦っていた魔獣部隊とはまた違った編成。新たな攻撃パターンに対応しなければならない。
人数、体力、魔力が減っている今の状態では対応仕切れないと感じて、ヴァリネスは焦り始める。
「副長!?」
隊員たちから次の指示を催促するような悲鳴が上がる。
「・・・っ!先にアイアンモールとマーダーパイソンを仕留めるわ!ウェイフィーとアラドは土中のアイアンモールを!イワとロジくんはマーダーパイソンを!クシナとフランはストーンバジリスクのブレスに備えて!!」
「「了解!!」」
ヴァリネスは焦りつつも、この状況に対応する策を絞り出し、指示を出す。
だがそれは場当たり的な対応でしかなく、ヴァリネスは悔しさでギリッ!を奥歯を噛みしめた。
だが、指示を出したそのヴァリネスとは裏腹に、指示を受けたメンバーは弾けるように動き出した。
全員消耗して疲れているだろうに、その動きにも表情にも、それを感じさせるものは無い。
それは全員が、今の状況とヴァリネスの苦しい立場を理解しているからだった。
そのメンバーの無言の激励が、焦るヴァリネスを立ち直らせた。
(そうよ、落ち着きなさい!私!皆がめげずに頑張っているのに、一人焦って弱気になってんじゃないわよ!冷静に考えれば、勝機だってまだあるじゃない!)
立ち直り、この状況を打破する方法を思い出したヴァリネスは、その手を打つための準備をする。
「全員防御陣形!敵は無理に倒さなくて良い!!」
「なっ!?お言葉ですがヴァリネスさん。この状況で守りに入るのは危険ですよ!?我々は消耗していますし、サレン様達からの援護も期待できません!」
「分かっているわ!でも私に考えが有るの!アラド、指揮を代わって!とにかく守って一人も死なせないで時間を稼いで!」
「___ッ!?分かりました!お願いしますよ!」
ヴァリネスの策がどんなものかは想像できなかったが、短い付き合いとはいえヴァリネスがこの状況で考えなしに動くとは思っていないアラドは、ヴァリネスを信じて指揮を預かり、鉄壁の防御態勢を作って時間稼ぎに入った。
アラドに隊の指揮を任せたヴァリネスは、一人ディディアルの下へ駆け寄り、声を掛けた。
「ディディアル様!お願いがあります!話を聞いて頂けないでしょうか!?」
「・・・何だ?娘?」
「我々にはもう戦う力は残っていません!降伏します!この場に居る私達だけでも降伏を受け入れて頂けないでしょうか!?」
「ほう・・・」
「ヴァリネスさん!?」
突然のヴァリネスの降伏宣言にアラドは混乱した。
(降伏ってどうゆうつもりだ!?“この場に居る私達”って、サレン様たちは見捨てるという事か!?それが策!?それとも別の考えが!?)
「「・・・・・」」
だが、他のメンバーを見れば、他のメンバーはヴァリネスの発言に驚いた様子は無く、戦いに集中している。
アラドはその様子を見て、やはりヴァリネスの言葉の裏には、何かの策が有ると理解した。
(だが、どんな策がある?降伏してもしなくても事態が変わるとは思えない・・・何より、ディディアルが降伏を受け入れるとは思えないが・・・)
ヴァリネスの考えが読めないアラドは、ヴァリネスの交渉を止めることも、援護することも出来ず、ただ困惑しながら見守るしかなかった。
「下に落ちた者達を見捨てて、自分達だけ助かろうというのか?見下げ果てた奴だ。薄情だとは思わないのか?」
「我々は軍人です。情では動きません。命令で動きます。我々の任務は、後続に居る本隊が安全にこの遺跡に辿り着くため、その周りの危険を排除する事です。ディディアル様の狙いが本隊であるならば、戦闘の対象となりますが、そうで無いなら我々には戦う理由がありません。そしてディディアル様は、我々と行動を共にしているダークエルフの娘が目的だと仰っておりました。もしそれが本当なら、彼女の力を奪った時点で我々が戦う理由は無くなるはずです」
「あの娘を犠牲にするというのか?」
「元々この部隊が、本隊の安全を確保するための囮であり犠牲なのです。皆が覚悟の上です」
「・・・まあ、確かに。あの小娘の力さえ手に入れば、ここにもお前達にも用は無い・・・」
ヴァリネスの発言が一理あると感じたのか、ディディアルは顎に手を当てて考え始めた。
ヴァリネスの方は、態度も表情も変えず、その様子を見ながら必死に頭を回転させていた。
(“ここ”にもお前達にも用は無いって・・・コイツ、このタルトゥニドゥの魔族じゃない?じゃあ、何処から来た?このタルトゥニドゥ以外で元魔王軍幹部が居そうな所・・・スカーマリス?スカーマリスの魔族が何故ここに?どうしてサレンの力の事を知っているの?・・・・コイツに教えた奴がいる?いや、今はそれどころじゃない。その事は後でいい。今、必要なのは___)
「それでしたら、彼女との戦闘以外は無意味でしょう。これ以上お互いが消耗する必要はありません。我々は引き揚げますので、兵を引いて頂けないでしょうか?」
「ふむ・・・」
ヴァリネスは地面に片膝を付いて臣下の礼を取る。
ディディアルは周囲の状況に気を払いつつ、しばし考えた後、答えを返した。
「ダメだな・・・。お前達を生かしておいては後々面倒になるかもしれん。ここで死んでもらう」
ディディアルにとって、サレンの力を手に入れることは最終目標ではない。
もし、力が手に入れば、その後は自身の野望を実現させるべく挙兵するだろう。
となれば、当然ドネレイム帝国ともぶつかる事になる。
ディディアルはそこまで考え、今ここで摘み取れるものは摘み取って置いた方が良いという答えを出した。
(やはり・・・)
アラドは、ディディアルのその言葉を聞いて、心の中で溜め息を一つ吐いた。
そもそも戦う前にクシナも言っていたが、ディディアルにこちらを見逃す理由は無いのだ。
思った通りの展開になり、アラドは少しだけヴァリネスに呆れてしまい、“どうするつもりだ?”という目線を送る。
だが当のヴァリネスは、その視線に気が付いていたが、気にすることなく、ディディアルに食い下がった。
「何故ですか!?このまま戦い続けるなら、貴方は我々の本隊とも戦う事になりますよ!?貴方は知らないかもしれませんが、本隊の戦力は我々以上です。目的を果たした貴方にとっては損にしかならない相手ですよ!?」
「知っているとも。私も貴様らの本隊と事を構えるつもりは無い」
「それでしたら兵を引いてください!今ここで本隊に援軍を要請することだって出来るのですよ!?」
「やりたければやれ。援軍が来る前にケリは着く」
ディディアルは変らずの余裕の態度でそう言った。
だがそれに対してヴァリネスは、先程の低姿勢な態度を変えて、ニヤリとした表情で口を開いた。
「____と、言う事は貴方、本隊には戦力を割いていないのね?」
「あ?」
「ならOKよ。降伏は受け入れなくていいわ。最初からする気も無かったし」
「何を言っている?貴様」
「こっちが知りたかった事が分かったから、もういいって言ってんの!クシナ!援軍を呼んで!!」
「了解!」
ヴァリネスの指示で、クシナは通信魔法を発動した。
そのやり取りをディディアルは少し呆れた様子で見ていた。
「・・・何をやっているんだ?今から援軍を呼んで間に合うと思っているのか?確かに本隊には戦力を割いていないが、それでも位置はちゃんと把握している。今からでは絶対に間に合わんぞ?私がそんなに時間を掛けると思っているのか?」
ヴァリネスがこの状況を打破するために、ディディアルが本隊に戦力を割いているかどうかを聞き出して、本隊が援軍を回して良いのかを確認すること自体は理解できる。
だが結局、本隊がこちらに援軍を回せたとしても、間に合わなければ意味が無い。
ディディアルには、ヴァリネスがしている事が、意味の無い事の様に思えた。
ディディアルがそう思うのも仕方が無い事だろう____。
“普通”に考えれば、距離が離れている本隊からの援軍は間に合わない。
そして、その距離を一瞬で縮める“普通”じゃない存在が居る事をディディアルは知らない。
本体に威力偵察した時にも確認できていないし、リデルからも教えてもらっていない。
だから、たった数日でベルヘラからバークランドを往復できる、STAGE8(融合)の技を持つ者が居るなんて事は想像できるはずも無く、高を括ってしまうのは仕方が無い事だった___。
「___が現在地です。お願いします」
本隊と通信していたクシナが、連絡を終えて通信魔法を解除した。
すると、その次の瞬間____
_____ズガガガァアアアアアンンン!!
ヴァリネス達が居る場所に光が落ちると、雷鳴が轟いた。
「!?」
突然の出来事にディディアルは一瞬動揺する。だが、直ぐに冷静になって、下の状況を確認した。
そして、さっきの落雷の正体を確認すると、背筋を凍らせ、先程以上に動揺した___。
下に居るヴァリネス達のそばには、本隊に威力偵察をした時に見た、“源流の英知”と同格と思われる金髪のメイドと赤髪の女騎士が居た___。