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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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ドワーフ遺跡の決戦(5)

 もうサレンは、オーマが手を伸ばせば手に入るところにいる___。

 サレンの言葉でそれを理解したオーマは、周囲の状況を忘れて、告白の口を開こうとした。

だが、そうしようといた瞬間、オーマとサレンはまるで氷の牢獄に入れられたような感覚になり、現実に引き戻された。


「「___!?」」


 その感覚に、オーマもサレンも弾けるように立ち上がり、身構えた。

音も無い。臭いも無い。視界にも当然何も映っていない。だが、二人はハッキリとその恐るべき冷たい殺気を感じ取った。

人間のものでは無い、獰猛で力強く、禍々しい殺気___。

 オーマとサレンは一度だけ、“話は後で”と、お互いに目を見合わせてから身構えて、殺気のする部屋の入り口を注視する。

警戒心から来る緊張が、胸の鼓動をドクンドクン!と強くしていく・・・。

そして二人は、その鼓動と一緒に部屋に近づく何かの足音も聞こえて来るようになる。

足音の主は、部屋の入口まで来ると、バコォオオオ!___と、部屋の扉を壁もろとも破壊して入って来た。


「「グルルルル・・・」」


「「___!?」」


 二人の視界に飛び込んできたのは、三体の体長六メートルほどの大型の四足獣だった。

全体的に黒い毛並だが、頭部に至極色の鬣があって、顔も獅子に似ている。

そして、その顔が一つの体に三つ付いていた。


「「グルルゥウオオオオオン!!」」


「「グガァアアアアア!!」」


「「グギャァアアアアーーー!!」」


「なっ!?ケルベロスだとぉ!?」

「そんな!?」


 ケルベロス___。

 魔界にしか生息していない大型の上級魔獣だが、ストーンバジリスク等の他の上級魔族とは違いその名は有名で、このファーディー大陸にも広まっている。

 有名な理由は、別名“マジシャンズキラー”と呼ばれるその強さだ。

単純な強さなら、ケルベロスより強い魔獣は存在する。

ストーンバジリスクとケルベロスが戦えば、恐らくストーンバジリスクが勝利するだろうし、物理攻撃がメインなので、エレメンタルフォッグと戦ってもケルベロスは生き残れないだろう。

だが、その反応速度と敏捷性は上級魔獣で一番で、全ての魔族の中でもトップクラスだ。

その攻撃速度は、並の魔導士の術式速度を遥かに上回り、魔導士に魔法を使わせる間も与えず殺傷する。

 人が魔族と戦う場合、その殆どが魔法で戦う。純粋な人間の筋力では、とても魔族には対抗できないからだ。

だから人間達にとって、魔法を発動するより速く、殺傷力の高い攻撃ができるケルベロスは最悪の魔獣と言われている。

ストーンバジリスクやエレメンタルフォッグに勝てずとも、その両方に勝てる人間の魔導士に、ケルベロスは勝ててしまうのだ。

対人戦において最強の魔獣とも言われている。

 どんなに優秀な魔導士でも、信仰魔法だけでは、まずケルベロスに勝つことは不可能。

潜在魔法でケルベロスの攻撃に反応できるところまで肉体を強化できないと、戦う事すらままならない。

サレンにとっても、ディディアルと魔法比べをするより、ケルベロス三体と速さ比べをする方が厳しいだろう。

 全快ならオーマでも一対一でなら、なんとか勝利するだろうが、体力と魔力を消耗している今の状態ではどうだろうか____?


「「グルルルル・・・」」


「___来る!?」


「「グァアアオオオン!!」」


「ッ!」


 ドワーフ居住区の広い部屋の一室。

ケルベロスが居た入口からオーマ達が居る所まで二十メートルくらいはあるだろうか?

ケルベロスはその距離を瞬きするのと変わらない一瞬で、その爪がオーマ達に届く距離まで間合いを詰めてきた。


___ゴウッ!!


一体のケルベロスが前足を上げて爪を振り下ろす___。

戦鎚以上の重量。名刀より鋭利な爪がオーマを襲う。


「フッ!」


オーマは出来る限りの潜在魔法で肉体を強化し、自身のハルバードでその爪を受けた。


___ガキィイイイン!!


「ぐっ!」


ケルベロスの攻撃は速く、オーマは防御こそ間に合わせるも、不十分な態勢で受けてしまい、バランスを崩した。

ケルベロスはその突進の勢いのまま押し込むように追撃する___


「ウォーター・ランス!」


____が、バランスを崩したオーマにケルベロスが追撃しようとした時、そこにサレンの援護が入った。

サレンも、もう一体のケルベロスに攻撃されていたが、サレンの方はアイアンモールに襲われた時と同様に、その攻撃に反応しながら魔法を繰り出して見せた。

 だが、アイアンモールの時とは違い、その魔法は低級のもの。

ケルベロスの速さと自身の消耗で、低級魔法で牽制してオーマが態勢を立て直す手助けをするのが精一杯だった。

 低級の魔法ではケルベロスにダメージは与えられない。


 今の二人の状態で、ケルベロスと戦えるかどうか?という答えは、三対二で戦えない訳ではないが、苦戦は必至といったところだった___。


(それにしても、まさかケルベロスまで用意しているとは・・・)


 ケルベロスは上級の魔族でも簡単には使役できない、気性が荒い魔獣だという。

それを三体も使役できるのは、さすが元魔王軍幹部という事だろう。


(・・・まさか、ベルヘラでカラス兄弟を襲ったのはディディアルか?)


 その可能性は割と高いとオーマは考える。

上級魔獣のケルベロスを召喚できる存在は魔族でもそう多くは無い。

それに加え、ディディアルの標的は勇者候補のサレンだ。ならば、勇者の件を知っている可能性も有り得る。

確証は無いが、今回のディディアルの動きはベルヘラの魔獣事件と連動していて、帝国の動きを掴んでいる節があるようにも思えたオーマだった____。






 主力のサレンと、指揮官のオーマとデティットを分断できたディディアルは、下のヴァリネス達に注意しながらも、召喚したケルベロスを通じて、その戦いを見ていた。

そして、そのケルベロスの戦いぶりに、勝利の手応えを感じていた。


「・・・フン。いけ好かないが、リデルの言っていた通りだったな」


 ディディアルに、サレンと戦う際はケルベロスが有効だと助言したのはリデルだった。

そして、リデルがそう助言した表向きの理由は、先にも述べた通りケルベロスが、“マジシャンズキラー”と呼ばれるほど対魔導士戦に向いている魔獣だからだ。


 だが、本当の理由は違う___。


 本当の理由は、オーマ達にディディアルをベルヘラの魔獣事件の犯人と思わせるためだ。

そうする事で、自分達の所に第一貴族の捜査の手が伸びない様にするのが、リデルの一番の目的だった。

 多彩な召喚魔法を扱え、サレンの戦力分析に向いている事と、ケルベロスが召喚できて、ベルヘラの魔獣事件の犯人役になれるというこの二つが、リデルがディディアルをサレンの噛ませ犬に選んだ理由だった。

 ディディアルはそうとは知らず、リデルの助言を信じてケルベロスを使った。

そして、実際にサレンとの戦いでケルベロスは有効だったので、ディディアルがリデルを疑う事は無かった。


「あの男と一緒になったのは誤算だったが、それでもケルベロス三体なら消耗しているあの二人を押し切って見せるだろう。もう一人の女の方はヘルハウンドだけだが、万が一勝てずとも時間稼ぎはできるだろう」




 サレンとオーマ同様に穴に落ちたデティットを、ドワーフ遺跡の一室で待ち伏せしていたのは、数体のヘルハウンドだった。

地上で戦っていた時のように、エレメンタルフォッグやデスサイズトータスとの連携は無く、主人のディディアルからも、“足止めしろ!”と雑な指示を受けているだけだったので、先程よりは楽な戦いではある。

だが、それでも消耗している上に一人では危険な状態だった。

それに、仮に勝ったとしても、出口までに何が待ち受けているか分からない。

そこまで考えたデティットは、無理はせずに味方が助けに来るまで時間を稼ぐ作戦を選択していた___。




 「後は、ここに残っている連中だが___」


そう呟いて、ディディアルは下の状況を確認する。

見れば、残った敵の数は七人___。ストーンバジリスクのポイズンブレスを受けたが、サレンの防護魔法のおかげで全員が無事だった。

 そして三人が穴に落ちた後、一瞬動揺が走るもヴァリネスが指揮を執り、態勢を立て直して反撃に出ていた。

主力と指揮官が居なくなっても、即座に対応している事には、ディディアルは素直に感心していた。


「ほう・・・指揮官が居なくなっても、あれだけの連携ができるか・・・予想外だ。だが___」


だが、それ自体は素晴らしくても、肝心の反撃があまり有効ではなく、ストーンバジリスクの手足に多少の傷を負わせてはいるものの、ストーンバジリスクが深刻なダメージを受けている様子は無い。

 とはいえ、ストーンバジリスクにダメージを与えられる者が居る事はこれまでの分析で分かっている。

このまま行けば、いずれ深刻なダメージを受けて勝負の行方が分からなくなるかもしれない。

だがそれでも、ディディアルは自分が出る必要は無いと考えていた。


「私が動かなくても、伏せておいた魔物たちを援護に回せば十分だろう」


そう判断したディディアルは、地上の敵を部下たちに任せ、自身は三か所で行われている戦闘の把握と、指揮に専念するのだった___。

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