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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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ドワーフ遺跡の決戦(4)

 死体___。死体、死体、死体、死体死体死体死体死体・・・・。

オーマ達の周囲には、ヘルハウンド、デスサイズトータス、グレーターデーモンと、数多くの魔物の死体が転がっている。

先行討伐隊は、ディディアルに待ち伏せされ魔獣部隊の猛攻を受けるも、敵部隊を全滅させる事に成功した。

 雨の降る薄暗い山の中で、ディディアルは一人孤立する。

だが、そこに焦りは無い。当然だ。この決戦が始まってから、不測の事態に対処する羽目になりながらも、自身の作戦通りに事を進めてこられたのだから___。



 敵を全て倒した先行討伐隊は、一か所に集まり、最初と同じ陣形を組んで、ディディアルに対峙する。

一旦仕切り直すような形になって、回復薬などで魔力と体力を回復するチャンスだが、一同は動かない。

 いや、動けない。これは突発的に始まった戦闘ではない。待ち伏せされて始まった戦闘だからだ。

ならば、突然何が起きるか分からない。回復したいのは山々だが、スキは見せられない。

 ディディアルの方も、せっかくサレンを消耗させたのだから、当然回復させる気など無い。

ディディアルの作戦に、オーマ達の休憩時間など用意してはいない。

ただ、作戦の最終段階を実行するために、オーマ達が一か所に集まるのを待っていただけだ。


「やれ!」


ディディアルが怒号を飛ばすと、周囲の岩壁がゴゴゴゴゴと音を立てて動き出した。


「何ィ!?」

「岩が・・・」

「まさか、これは・・・」

「ストーンバジリスクか!?」

「しまった!!直ぐに散開を___」

「遅い!!」


「「ゴォァアアアアア!!」」


 岩壁に擬態していたストーンバジリスクが二体、先行討伐隊を挟む形で姿を現し、それと同時にポイズンブレスを吐き出した。

霧での視界の悪さと魔獣との戦闘に気を取られていて、只でさえ気付き難いストーンバジリスクの擬態に誰も気付く事ができなかった。

先行討伐隊は全員が一か所に集まっていて、全員がポイズンブレスの効果範囲内に収まってしまっている。


「まずい!!」


 オーマが声を上げるも、皆が消耗している状態では、全員がストーンバジリスクの直撃を防ぐ事は難しい。

そして、直撃を受ければ、数秒でその体は動かなくなり戦闘不能になる。

そうなれば、この戦闘の勝敗は決してしまうだろう。


「___ッ!トルネード・ウォール!」


 だが、このストーンバジリスクの攻撃に、サレンが防御を間に合わせる。

元々、自分が防御を担う陣形だったというのも有るが、ストーンバジリスクの姿が見えた瞬間に、“自分が防御しなくては殺られる!”と思い、その責任感が、消耗している中でも上級魔法を即座に発動する魔力を絞り出していた。

 そのサレンの必死な様子を見て、ディディアルは笑みを浮かべていた。


(ハハッ!やるな!だが、やはり最初の時より反応速度が遅くなっている・・・これならば行ける!!)


 サレンの消耗を再確認できたディディアルは、作戦遂行のため魔法術式を展開する。

展開した術式は水属性だった。


「エディ・トラップ!」


ディディアルは、魔法の発生技術(帝国の基準で言うSTAGE5)でサレンの足下に渦を作り、サレンの足を止めた。


「えっ?」


 その魔法を見て、オーマは不思議に思った。


(何故トラップ?防護魔法を掻い潜るためにSTAGE5の技を使うのは分かるが、何故、捕獲用のトラップ魔法?)


今のこの状況なら、攻撃魔法でサレンにそれなりのダメージを与えられるはずである。

だが、サレンの力を手に入れるのが目的のディディアルが、そのチャンスを活かさない事に違和感があった。


(ダメージを与える以上の効果的な事があの魔法には有る!?)


 直感的にそう判断し、オーマは思わずサレンに駆け寄っていた。

すると、それと同時にサレンの足下の地面が崩れ落ちた___。


「「!?」」


ディディアルの罠を警戒してサレンに近寄っていたオーマは、サレンの足下が崩れた瞬間に“そうなった理由”を視界に捉えた。


(アイアンモール!?)


土の中に、数匹のアイアンモールが目に入る。そして、オーマの中で答えが出た。

 アイアンモール等の土の中に生息する魔獣は音に敏感だ。

だから、アイアンモール等を使って敵を罠に嵌める場合、水魔法で地面に影響を与えて合図を送るのは、召喚主として思念で指示を出すより正確に標的の位置を伝えられる。

ディディアルのエディ・トラップは、サレンを捕らえるためではなく、アイアンモールに合図と標的の位置を教えるための魔法だった。



 ディディアルは、この決戦でサレンを仕留めるため、敵を分断したいと考えていた。

特に、標的のサレンと、敵の連携の要である指揮官のオーマとデティットの分断は必須条件だと思っていた。

だが、自分一人の力では、どう頑張っても敵を分断するのが難しかった。

 そんなディディアルに幸運が巡って来たのは、決戦の地であるこのドワーフ遺跡の下調べをした時だった。

 入口から入って、地下に広がるドワーフ居住区___。

当然、住む部屋ごとに区切られているため、落とし穴で落とせば、簡単に敵を分断できる。

しかも、部屋はかなり広く、大型の魔獣でも動き回れるため、罠も用意し易かった。

相手をどう分断するかで悩んでいたディディアルにとって、ドワーフ居住区はまさに青天の霹靂だったのだ。

 ディディアルはアイアンモールを使い、ドワーフ遺跡の住居からある程度地上へと穴を掘り進めておき、決戦の時に自分の水属性の魔法で指示を出し、穴を掘らせて標的を落とし、掘っておいたドワーフ住居に通じる穴へと繋げて、標的をドワーフ住居に落とすという、分断作戦を考えたのだった___。



 オーマは思わず、サレンに手を伸ばした___。


「きゃ!?」


いきなり足下が崩れた事に驚いたサレンも、思わずオーマの伸ばしていた手を掴んだ。

そして、二人はそのまま穴の中へと落ちて行った___。




「サレン様!?」

「団長!?」

「チィ!あの男も一緒になったか!まあ良い。後は、あの女だけだ!エディ・トラップ!」


先行討伐隊が、穴に落ちていくサレンとオーマに気を取られているスキに、ディディアルは再び同じ魔法を、今度はデティットに使用した。


「ぬっ!?」


 デティットは自分の足をサレン同様に絡め捕られ、これから自分に何が起きるのかを理解する。

だが、理解はできても、ディディアルの魔力を上回る事はできないため、抵抗虚しく、デティットもオーマ達同様に穴に落ちていくのだった___。





 地下、ドワーフ居住区___。


「ッ~~!大丈夫か!?サレン!?」

「は、はい・・・」


 地上からアイアンモールの作った落とし穴で、二十メートル近く落下したオーマとサレンだったが、オーマは潜在魔法で肉体を強化して受け身を取り、サレンは咄嗟に低級の風魔法を使用して落下の勢いを殺したおかげで、二人とも殆どケガは無かった。

 お互いに無事を確認すると、今度は周囲の確認に入る。

周囲を見渡せば、地下だというのに随分と明るい所にいた。


「ここは・・・?」

「ドワーフ居住区のどこかの部屋のようですね」

「ドワーフ遺跡の中か・・・」


 よく見ればオーマの見た事の無い機械的な人工物や、家具らしき物が置いてある。

そして、魔法の技術に長けていたという伝承通り、住人が居なくなった今でも、何かの魔道具で部屋の中に明かりが点いている。

独自の文化を持っていたというだけあって、イスやテーブルも見た事の無い黒光りした金属で作られていて、オーマの好奇心を刺激した。

物色したいのは山々だが、状況が状況なだけに、二人は部屋の物色を諦め周囲を警戒する。


「気を付けろ、サレン。君を狙っていたディディアルが、この地下のドワーフ遺跡に君を落として、それで終わりじゃない筈だ」

「はい・・・」


 数日間分析し、この地で待ち伏せていたのだから、必ずここにはディディアルがサレンに勝つための秘策が用意されているはず。

ならば、どれ程の危険が待ち受けているか分からない____。


(まだ少し魔力には余裕があるが、一旦回復しておくか?・・・いや、だが、この先何が待ち受けているか分からないし、ディディアルはそう簡単にはここから俺達を出してはくれないだろう・・・。なら、長期戦を想定して回復薬は温存しておくか?回復するにしても、もう少し状況を把握して、脱出の目途が立ってからの方が・・・いや、敵の罠にハマればそんな暇は無いし・・・どうする?)


 当然、罠が有ると予想されるが、それはどういう類の罠だろうか?

時間を掛けて相手を削るものか・・・。一気にこちらを仕留めるものか・・・。それによって、回復薬を使用するタイミングも変って来る。

この状況で、貴重な回復薬をどう扱うかでオーマが頭を悩ませていると、サレンがオーマにぼそりと呟いた。


「・・・ごめんなさい。オーマさん」

「ブツブツ・・・え?あ、サレン?どうした?」

「すいません。こんな危険な状況に巻き込んでしまって・・・。私が落ちる瞬間、思わずオーマさんの手を掴んでしまったから・・・」


サレンは心底申し訳ないといった様子で、顔を伏せて落ち込んでしまった。

 そんなサレンの様子を見て、オーマは苦笑いを浮かべてサレンを励ました。


「そんなこと言わないでくれ、サレン。俺は“本当に”君とお互いに支え合えることを喜んでいる。ウェイフィーも言っていたが、ここで巻き込まれて、君を一人にしなくて済んで本当に良かったと思っているよ」

「オーマさん・・・」


 オーマの真摯で優しい言葉を、サレンは嬉しく思う。

だが、それと同時に淋しい気持ちにもなり、サレンの顔にはそちらの感情が出た。

口を尖らせ拗ねた様子のサレンに、オーマはまたも困惑した。


「・・・サ、サレン?」

「・・・・だったら、オーマさんも私を巻き込んでください」

「え!?えっと・・・サレン・・それは・・・」


 オーマはサレンの言葉に一瞬戸惑う。

だが、いかに鈍感なオーマでも、ここまで作戦を進めて来て、その言葉の意味に気が付かない訳が無かった。


(これって、そういう意味か?ヴァリネスが、“問題無い。気にするな”と言っていたのは、こういう事か?)


サレンの言葉を歪曲せずに受け止めれば、サレンも危険を承知で仲間に誘ってほしいという事になる。

今の二人は、お互いに遠慮して、相手を巻き込む事を躊躇っている状況という事だ。


(つまりは、こちらから手を伸ばせば、もう手を取り合えるって事か!?____なら!)


さすがの素人童貞でも、そうと分れば行くしかないと理解する。

 だが、ディディアルがオーマ達に回復する時間を与える気が無いのだから、当然、告白する時間も有る訳が無かった___。

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