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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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ドワーフ遺跡の決戦(2)

 ディディアルの戦闘開始の合図で、先行討伐隊とディディアル軍の戦闘が始まった___。


 先行討伐隊はサレンを中心に輪になって、360度警戒する防御態勢だ。

本当ならエレメンタルフォッグを速攻で倒して、霧を晴らしたいところではあるが、ディディアルが居るせいで、エレメンタルフォッグに速攻ができるサレンが動けない。

霧が晴らせない以上、否が応でも先行討伐隊は受け身になってしまうのだった。


 これまでの襲撃が全てディディアルの手によるものなら、ディディアルが召喚できる魔物の数と種類は、かなり豊富だ。

それに加えて、ディディアルが召喚した魔物ならば、ディディアルの意思で動かせるため、視界の悪さは関係ない。この霧のハンデは先行討伐隊だけが背負う事になる。

 この視界の悪い霧の中で、いつ、どんな魔物に襲われるか分からない状況だった。


____足の速いヘルハウンドが突然飛び出してくるだろうか?


____マーダーパイソンが音も立てずに、ひっそりと迫って来るだろうか?


____グレーターデーモンがいきなり上級魔法を撃ってくるだろうか?


 だが、霧から見えてきた影はそのどれでもなく、三メートル位の岩のような形で、ゆっくりとした動きで先行討伐隊に迫って来た。


ズンズズン!ズズズン!ズズン!ズズズズズン!___


濃霧の中で、かなり重量感のある何かが、大勢で地面を踏み鳴らしている____。

 そして、徐々に迫って来ていた“それ”が、ついに霧から姿を現し、オーマ達の視界に入ってきた。

 それは、濁った水と苔、そこに赤黒い血を垂らしたような、嫌悪感を抱かせる毒々しい色の甲羅を持っている、馬ほどの大きさをした巨大なリクガメだった。



 デスサイズトータス____。

 ファーディー大陸でもよく知られた魔獣で、体長は約三メートルと通常のリクガメをゆうに上回る体格をしており、ゴツゴツとした鋼より硬い甲羅を背負っている。

特徴的なのは、名前の由来にもなっている、口から出ている死神の鎌の様な牙を持っている事だ。

硬い甲羅と鋭利な牙を持っていて、攻守ともに優秀と言える中級の魔獣だ。

 だが、先行討伐隊の一同に危機感は無かった。

鋭利な牙を持っているとはいっても、その牙による攻撃はそこまで速くない。というより、先程ゆっくり現れた事でも分かるように、動き自体がそこまで速くない。

通常のリクガメよりは断然速いが、その攻撃は戦闘経験を積んだ者なら十分に反応できる。

デスサイズトータスの牙で死ぬ者は少ない。

デスサイズトータスと戦って命を落とした者達のその殆どが、デスサイズトータスの重量と硬い甲羅で圧し潰されるパターンだ。

だが、その攻撃もわりと逃げられる事が多い。

身体が大きいので人並よりは足が速いが、馬なら勿論、人でも潜在魔法で足を強化できれば、自力で一人でも逃げられるからだ。

今回の様に、周囲を囲まれれば逃げられないが、それでも先行討伐隊が恐れる事は無い。

 その理由は、デスサイズトータスが魔法に弱いからだ。

物理防御力は見た目通りに高く、その甲羅はストーンバジリスクの皮膚にも匹敵する。

この甲羅を物理的な力で砕くのは、オーマ達でも無理だ。物理的な力で無理矢理砕けるのはジェネリーくらいだろう。

だが、魔法防御力はストーンバジリスク程ではない。

帝国の一般兵の中級の炎魔法かなんかで、簡単に蒸し焼きにできてしまうのだ。

三十体近く居るが、上級の魔法が扱える先行討伐隊にとっては恐ろしい相手ではない。



 そういう訳で、先行討伐隊の何人かが、セオリー通り魔法でデスサイズトータスを仕留めようと、魔法術式を展開する。

だが、それに先行討伐隊で一番目が良いアラドが、別の敵影を見つけて警告を発した。


「気を付けてください!霧の中に他の魔物も潜んでいます!」


アラドがそう言うや否や、直ぐに一同はデスサイズトータス以外にも気を配る。

そして___


____ブゥオン!!


そのおかげで、濃霧に潜んでいた別の魔獣の攻撃をかわすことができた。


「___ヘルハウンド!?」


濃霧とデスサイズトータス達の隙間を縫って襲ってきたのは、ヘルハウンドの群れだった。

ヘルハウンド達は、その俊敏性と身の軽さを利用して、デスサイズトータスの股下や、甲羅の上からオーマ達へ飛び掛かり、その牙を向けてきた。


「___くっ!」

「このぉ!!」


ヘルハウンドに武器を振って迎撃しようとするも、突然現れるので上手くタイミングを合わせられない。


「くそぉ!!」


更には追撃しようにも、一度攻撃したら直ぐに霧の中に隠れてしまうので追撃できない。

ヘルハウンド達は、デスサイズトータスを遮蔽物として利用しつつ、霧から出入りしてヒットアンドアウェイを繰り返す。


「___チィッ!」

「これでは魔法を放つ間が!」


 ヘルハウンドの機動性を活かした巧みな戦法で翻弄され、オーマ達は魔法を使う間が作れず、全員が苛立つ。

そうしている間に、デスサイズトータスがゆっくりと迫って、プレッシャーを掛けてくる。

デスサイズトータスは魔法で簡単に倒せる反面、魔法が使えなければ攻防共に人間を凌駕する恐ろしい魔獣だ。

 エレメンタルフォッグの作り出した霧の中、ディディアルという指揮官の下で統率されて、互いの個性を活かして襲ってくる魔獣部隊を前に、一同は早速苦戦を強いられる。

本能のまま暴れるのと、統率されて戦うのとでは訳が違うという事だ。

サレンを頼りたいところだったが、ディディアルが居るため動けない。

 やむを得ず、オーマ達は各々で態勢を立て直すしかなかった。


「イワナミ!クシナを援護!」

「了解!」


 オーマは、メンバーで一番乱戦に不向きなクシナの援護をイワナミに任せ、自身はハルバードを振るってヘルハウンドを牽制する。

そうして小さな隙を作ると、最低限のタメで発動できる低級の電撃防護魔法を発動し、防御に少し余裕を作った。

その余裕を活かして、そこから今度は低級の攻撃魔法の術式を展開する。

雷属性では味方を巻き込む恐れがあるので、炎属性の攻撃魔法で、ヘルハウンドとデスサイズトータスの足下に赤い絨毯を敷いて、動きを鈍らせた。

 そうして更なる余裕が生まれると、今度は先程より一段強力な防護魔法で身を守る。

上がった防御力で更にタメの時間を稼ぐと、攻撃も先程より一段上の魔法を使用する____といった具合に、余裕を作りながら、少しずつ使用する魔法のグレードを上げていき、態勢を立て直していく。

体力と魔力の消費が激しい戦法だが、サレンの手を借りられない以上、仕方がない。

他の者達もオーマと同じ要領で、戦いを組み立てていった___。



 戦いが進む中で、一番にこの状況を打破したのはヴァリネスだった。

金属性魔法で鎧を造れば、その鎧の手甲がそのまま武器となる。

金属性魔法は、他の属性より攻防一体に成り易く、味方も巻き込み難い。

そのため、ヴァリネスはサンダーラッツで一番乱戦が得意だった。

更には、ヘルハウンドの足下にマキビシを撒いたり、トラばさみでデスサイズトータスを止めたり、牢獄を作って捕獲したりと、魔獣との戦いにも向いている。

 ヴァリネスは態勢を立て直すと、すぐさま味方のフォローへと向かう。

向かった先はクシナとイワナミの所だった。

自分と違い、クシナが乱戦に向いていないというのも有るが、それ以上に本隊との通信役のクシナは、この戦いで命綱でもあるため、真っ先に助けに入る。

ヴァリネスがクシナの援護に入っている間に、オーマとロジ、ウェイフィーも自力で態勢を立て直した。

そして、その三人も他の味方のフォローに入ると、先行討伐隊はサレンの力無しで敵を押し返し、反撃の態勢を整えることに成功した。

 だが、こうなる事は、先行討伐隊を分析していたディディアルには分かっている事だった。

 もとより、オーマ達を人質としているディディアルには、魔獣達にオーマ達を殺させる気は無い。

狙いはあくまで、サレンを消耗させることだ。

サレンに味方を守らせて消耗させるのが目的で、この魔獣部隊は、その状況を作るための駒でしかない。

 そして今、態勢を立て直したといっても、それまでに魔法を多数使ったオーマ達の消耗は激しく、“ディディアル以外の者の上級魔法でも防ぐのが困難”な状態になっている。

ディディアルが魔獣部隊を使ってやりたかったことが、“これ”だった。

つまり、これでディディアル以外の魔物でも、サレンの魔力を消耗させる事が出来るというわけだ。


「今だ!行け!グレーターデーモン!」


ディディアルが叫ぶと、霧から一体のグレーターデーモンが空から姿を見せる。

そのグレーターデーモンは、既に魔法術式を展開しており、十分な魔力を込めて上級魔法を発動できる態勢だった。


「___マズイ!?」

「防護魔法!!」

「ダメ!!間に合わない!!」


 オーマ達はそのグレーターデーモンの姿を捉えるも、グレーターデーモンが用意している上級魔法を防ぐだけの魔法を使う余裕がない。

そんなオーマ達に、グレーターデーモンは容赦なく自身最高の魔法を撃ち放った___。


「ナパーム!!」


_____ドドドドドドドドド!!


 上級悪魔による上級魔法。通常でも防ぐのが困難なこの攻撃に、消耗したオーマ達は完全に無防備だった。


「グレイトフル・ハリケーン!」


ならば当然、サレンが防ぐしかない。

 サレンは自身が使える最高の防護魔法を発動する。

サレンが起こした超強力な暴風は、いとも容易くグレーターデーモンの放った火球を吹き飛ばした____。


(ククククク♪)


強力な魔法だが、その魔法を見てディディアルは恐れるどころか、内心で笑って喜んでいた。


(そうだろう♪そうだろう♪私が目の前にいる以上、生半可な防護魔法は使えまい♪)


この状況こそ、ディディアルが望んでいる展開だった。


 もし仮に、サレンがグレーターデーモンの攻撃を防ぐだけのレベルの魔法を使用した場合、ディディアルにそれ以上のレベルの魔法を使用されたら、防御を抜かれてオーマ達が死ぬことになる。

つまり、サレンはディディアルが目の前にいる以上、ディディアルの追撃も想定して、たとえグレーターデーモンの攻撃に対してでも、ディディアルの攻撃も防げるレベルの防護魔法を使用しなくてはならないのだ。

サレンを消耗させるため、グレーターデーモンでもサレンに強力な魔法を使わせる事ができる状況を作るのが、ディディアルの作戦の第一段階だった。

オーマ達がヘルハウンドとデスサイズトータスの魔獣部隊から反撃の態勢を整えた様に、ディディアルもサレンを消耗させる態勢を整えていたというわけだ。


 ディディアルの用意した魔獣部隊に翻弄されるも、態勢を立て直せた先行討伐隊。

だがそれは、ディディアルの用意した筋書き通りだった。

戦闘開始序盤は、予め入念な準備をしていたディディアルの予定通りに進むのだった___。

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