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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
104/358

ドワーフ遺跡の決戦(1)

 タルトゥニドゥ探索十日目の朝___。


 目的地に到着する予定になっているこの日、空には灰色の雲が掛かっており、いつもより薄暗い。

昼頃には雨が降り始めるだろう。

せっかくの作戦最終日だというのに、不吉さを感じさせる雲行きだったが、不安を感じる者は一人もいない。

サンダーラッツ一同は勿論、信心深いデティットとアラドも、“濡れんのやだなぁ・・・”とか、“足下に気を付けないと・・・”と思うくらいだった。

 だが、出発すると、不吉さを感じていないはずのアラドが、程なくして不吉なことを口走った。


「・・・・この探索十日目、無事に目的地にたどり着けるでしょうか?」

「どうしたっていうの?アラド?」

「雨が降れば予定はズレるでしょうが、それでも我々は昼過ぎには着いて、本隊も陽が沈む前には到着すると思いますよ?」

「いえ、天候の話ではなく、魔物の襲撃に関してです。ここ数日、中級・上級の魔物の襲撃に遭わなくなったじゃないですか」

「・・・そうね。七日目からパッタリと襲撃が止んだわね」

「それって、どういう事だと思いますか?」


「「・・・・」」


 その場の全員が、直ぐにアラドの言わんとしている事を理解した。

 探索の前半では、多数の中級・上級の魔物の襲撃を受けた。

その魔物の種類と襲撃のバリエーションの多さから、何者かの故意による襲撃では?と疑問を抱き、自分達を試していると推理した。

そして探索後半。タルトゥニドゥのより深くまで進んでいるにも拘らず、その襲撃はピタリと止んでいる。

アラドは、“これの意味することは何だ?”と聞いているのだ。

 斥候に出ているフランとウェイフィー以外のその場の全員が、その意味する事が何かを察していた。


「まあ・・・前半で、もし何者かが私達を試していたなら、このまま終わるって事は無いわよね」

「試した結果に基づく行動を起こすでしょう」

「この沈黙は、そのための準備ですか・・・」

「ですが、我々の目的地が分かっているのでしょうか?それが分かっていないと準備に数日使う大掛かりな罠なんて用意できないですよね?」

「我々は前回もここに来ていますから、気付いている可能性は有りますよ。ロジさん」

「相手は本隊にも襲撃している。そこで本隊の様子も見ているだろうから、目的地の予想はできるはずだ」

「なら、目的地を知られていると思っていた方が良いですね」

「ということは、目的地のドワーフ遺跡には、ドワーフの宝だけでなく、魔物の罠も待っているわけだな」

「___んで?どうするの?デティット?」


 上級魔族さえ使役するほどの手練れが、罠を張って待ち伏せている可能性が有る___。

この事態に、全員の注目が隊長のデティットに集まった。


「我々の役目は本隊の危険を排除することだ。目的地に危険が有るなら、ことさら無視できない。確認して罠を食い破るなり、本隊に報告するなりせねばならん」

「まあ、ここまで来て、“目的地に罠があるかもしれないから引き返そう!”は無い話ですよね」

「わざわざ罠が有ると分かって行くのもバカみたいだけどな」

「仕方ないですよ、イワナミさん。ボク達は本隊が危険な目に遭わない様にする囮でもある訳ですから」

「危険を承知で飛び込むしかないですね」

「良し。なら、皆、防御陣形に移行せよ!ここからは更に注意して進む。後、罠に備えてサレン様は力を温存しておいてください」

「分かりました」


 一同は、デティットの指示で陣形を組み替えて、注意しながら先を進む。

より慎重に進むようになった上に、予想通り雨まで降り始め、先行討伐隊の行軍は遅れた。

そして、一行が目的地のドワーフ遺跡に辿り着いたのは、本来の到着予定のお昼から、二刻ほど過ぎた後だった。




 ドワーフ遺跡_____。


 高い標高と雨のせいで、霧が立ち込めている。

エレメンタルフォッグと戦った経験が有る先行討伐隊は、斥候を出すのを止めて、十分に警戒しながら、前回サレン達がベヒーモスと戦ったドワーフ居住区の入口を目指す。

すると、入口に近づけば近づくほど、霧が濃くなっていった・・・。

これは、あからさまに不自然だった。


「やっぱり罠だったな・・・」

「ねぇ、“どっち”だと思う?それとも、私達の事バカにしているのかしら?」


ヴァリネスがこの濃い霧の意図について、疑問を吐いた___。


 先ず、このあからさまに霧が濃くなっている事で、間違いなく前回と同じく、炎と水のエレメンタルフォッグが潜んでいると分かる。

それと同時に、予想していた通り、これまでの襲撃が何者かによるものだったと判明する。

 これを踏まえた上でヴァリネスは、相手の首謀者が“どうして前回と同じ待ち伏せをしているのか?”と疑問を抱いたのだった。

普通に考えて、同じ相手に同じ手は使わない。前回、敗北しているのなら尚更だ。

それなのに、前回と同じ手を使っているのは、同じ手が通じると思っているバカか、あえて同じ手段で待ち伏せて、相手に同じ手段だと思わせ、油断させて別の策を用意しているかの“どっち”かだろう。

或いは、これもヴァリネスが言う様に、こちらを学習能力の無い奴だとバカにしているかだ。

 この疑問に答えたのはオーマだった。


「何日間も魔獣でこちらを試しておいて、バカも、バカにしているも無いだろう」

「絶対ワザと」


オーマに続いてウェイフィーもそう断言し、皆も頷いて、何時襲われても対応できるように警戒レベルを上げる。

そして、隊長のデティットは早急な対処をすることにした。


「わざわざ相手のペースに乗ってやる必要は無いな。どんな罠かは分からないが、この視界の悪さは鬱陶しい。さっさと振り払ってしまおう・・・サレン様!」

「はい!」


 デティットの指示が飛んで、サレンは前回と同じ様に霧の中に潜んでいるであろうエレメンタルフォッグ二体を倒すため、霧を払う風魔法と、炎と水のエレメンタルフォッグを仕留める水と炎の魔法術式を展開した。

その瞬間____


「それは、やめておいた方が良いぞ」


「「!?」」


 聞き覚えの無い声がオーマ達の耳に届いた。

声のする方を振り向けば、そこには、灰色の細い枯れ木の様な姿をした魔物が、数メートルほど宙に浮いていた。

一見すると、細くて、ひ弱そうに見えるが、その姿を視界に入れてそう思う者は一人もいなかった。

その枯れ枝の様な体の周囲で、禍々しい魔力を放つ五つの巨大なリングが、この魔物が尋常ならざる相手だと主張していた。

その魔物に、先行討伐隊の全員が肌を泡立て戦慄し、この魔物が今回の首謀者だと直ぐに分かった。


「お前がこの霧に潜むエレメンタルフォッグを倒している間に、その周りの者達の数は半分以下になるぞ?」


 この魔物の言葉が決して脅しではないのは、全員が理解できた。

あのリングから感じる魔力は、自分達でどうにかできるレベルではない。

あの魔力による攻撃をまともに防げるのはサレンしかいないだろう。

 サレンはデティットに目配せして攻撃を中止する。

そして、デティットの方は陣形変更の指示を出す。

全員が動き、サレンを中心に輪になるような陣形を作った。

さっきまでの、お互いがフォローし合える防御陣形から、サレンが防御を一手に引き受けるという、別の防御陣形へと移行したのだ。


「・・・賢明な判断だ」


その魔物はまるで、その陣形の意味を知っているかの様にそう呟いた。


「何者だ!?貴様!!」


その余裕の態度が気に入らなかったのか、或いは恐怖を振り払いたかったのか、デティットは怒鳴り散らす様に問うた。

その魔物は、デティットのその態度を気にすることなく、悠然とした態度で名乗りを上げた。


「私の名はディディアル。魔王軍第四魔術団の団長として、魔王様より一軍を預かっていた悪魔よ。今回はその小娘の力をもらい受けに来た」

「ディディアル・・・?」

「元魔王軍幹部ですか・・・」

「上級魔族も使役しているから予想はしていましたけど・・・」

「とんでもねー大物だな」

「やっぱり狙いはサレンの力か・・・」


本来、悪魔の言う事など信用できるものではないが、一同は予想していたため、ディディアルが元魔王軍幹部であることも、その目的がサレンの力であることも、直ぐに信じた。

 ディディアルの方も、あえて本当の事を口にしていた。


(これで、こ奴らは小娘と共に戦うはず・・・)


 個の力が自分を上回るサレンを相手にする場合、ディディアルにとってはオーマ達が居てくれた方が、都合が良かった。

オーマ達が居るなら、サレンは必ず自分に対する攻撃より、味方を守る防御を優先するだろう。

そのオーマ達は、ディディアルの召喚する魔物たちにとっては強敵だが、ディディアル本人にとってはそこまで脅威となる訳ではない。

となれば、オーマ達が居る限り、オーマ達を狙えば、ディディアルは安全に戦うことができる。

ディディアルは、オーマ達を間接的に人質にしたのだ。

だから、サレンがエレメンタルフォッグを攻撃しようとした時、警告だけで、実際にオーマ達を攻撃しなかった。

殺してしまっては人質の意味がない。


(小娘が消耗するまで人質でいてもらうぞ)


 ディディアル自身の力や、召喚する魔獣の力だけでは、どう頑張っても通常の状態のサレンを仕留めるのは難しい。

どうにか、上手い事サレンを消耗させなければならない。

そこで、ディディアルが考えた、サレンを消耗させる作戦がこれだった。

 多数の勢力が混在している部隊にも拘らず連携が取れているという事は、お互いの立場ではなく、個人同士でのつながりが強いという事。絆が有るという事。つまり、 “情につけ込める”という事だ。

ディディアルは、オーマ達の結束力を逆手に取ったのだ。


「・・・・皆さん。あの悪魔の狙いは私です。ですから___」

「却下よ」

「ヴァリネス?」

「どうせ、“自分を置いて逃げろ”みたいな事を言うんでしょ?ダメよ」

「あ・・・で、でも、相手の狙いが私だけなら、皆さんを狙う理由は____」

「私達を狙う理由は無いでしょうけど、見逃す理由もないですよ?」

「クシナの言う通りだ、サレン。そして情けない話だが、サレンが居なくては、アレを相手に俺達は戦えないだろう」

「一緒に戦うのが、一番全員の生存率が高いはずです」

「皆さん・・・」

「そうだ。そんな風に“自分が犠牲になれば良い”なんて考えるのは止せ」

「む・・・」


サレンは皆の言葉に感動していたが、オーマの言葉だけには眉をひそめた。

自分に対してだけ態度が違うサレンに、オーマは少し動揺した。


「え?あ・・あの、サ、サレン?」

「・・・オーマさんにだけは言われたくないですよ」

「えぇ!?」

「そうですね!私が馬鹿でした!“自分が犠牲になれば良い”なんて考え方間違っていました!ここにいる全員で生きて帰りましょう!」


「「おう!!」」


「お、おう・・・」


自分を犠牲にするのを止めてくれたのは良かったが、サレンの怒ったような態度にオーマは困惑した。

気になってヴァリネスに視線を送ると、ヴァリネスからは、“問題無い。気にするな”と、アイコンタクトが返って来た。


(気にするなって言ったってなぁ・・・)


サレンから批判的な事を言われたのは、これが初めてだったので、気にならない訳がなかった。

とはいえ、現状でその真意を確かめている暇は無いので、オーマは何とか努めて、ディディアルと周囲に気を配った。


 こうして、先行討伐隊は、皮肉にも自分達からディディアルの作戦に乗ってしまう。

そのやり取りを眺めていたディディアルは、内心でオーマ達に感謝していた。

 そして、霧の中に潜ませている魔獣達に戦闘開始の指示を出すと、ディディアルとオーマ達の決戦が始まるのだった___。

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