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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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静寂の勇者ろうらく作戦(5)

 オーマに反乱軍に入ってほしくないと言われて以降、オーマとサレンの間に会話は無く、そのまま夜の見張りを終えることになってしまった。

 そして、先行討伐隊の一同は、タルトゥニドゥ探索七日目を迎えた___。


 今度の朝は、サレンだけでなく、オーマも昨日の事が尾を引いているらしく、二人に会話は無かった。

探索が始まってから、よく二人で会話していたので、その余所余所しい二人の態度は目立つものだった。

 周りの者達は当然すぐに気が付いた。

だが、どうして二人がそうなっているかを知っているかのように(というより知っている)あえてその事には触れずに、いつも通りの振る舞いを見せていた。

そのおかげで、ギクシャクした空気にはならなかったので、その事には感謝するサレンだったが、誰にも気に掛けてもらえず、少し淋しさも覚えていた。


(仕方ないよね・・・今はタルトゥニドゥの魔物の生息圏に居るんだし、探索に集中しないと)


 本当は、オーマに反対された後のサレンを慰める人物とタイミングが決まっていて、それが今ではないだけなのだが、それを知らないサレンは心の中でそう言い訳をして、探索に集中した。

だが、サレンが集中するのも虚しく、探索七日目は一度も魔物と遭遇することなく終わった。

 そして、タルトゥニドゥ探索は八日目に入るが、この日もサレンの心境にも、探索の状況にも変化は無かった。

サレンとオーマは相変わらず余所余所しい。

探索も、こちらから低級の魔物の巣を見つけて討伐することが二回ほど有ったが、上級魔族に襲撃されるといった危険な事は無かった。

 唯一変った事と言えば、この日の夜に一緒に見張りをする予定だったロジが夕食で腹を壊して、見張りをヴァリネスと交代したくらいだった・・・。




 探索八日目の夜。サレンとヴァリネスに見張りの番が回って来ると、二人は目覚ましにお茶を一杯入れて、二人で焚火を囲んで見張りを始める。

この二日間、オーマとの余所余所しい空気を気に掛けてもらえず、淋しい気持ちになっていたサレンは、この事をヴァリネスに打ち明けようと思っていた。

 サンダーラッツの中で、ヴァリネスは自分ともオーマとも一番仲が好い。

オーマの事を相談するなら、“サレンにとって一番の適役”で、“都合よく二人きりになれた”相手だ。

今の自分の気持ちを打ち明けるなら、今、ヴァリネスにおいて他にない。

だが、サレンが勇気をもって打ち明ける前に、ヴァリネスの方から話を切り出してくれた。


「・・・サレン。団長と何があったの?」

「えっ!?」

「いや、そんなに驚かれても・・・あの様子じゃ誰だって気付くわよ。むしろ“何で誰も何も言ってくれないんだろう?”って思っていなかった?」

「あ、い、いや・・・それは、その・・今は探索中だし・・・」

「思っていた事自体は否定しないのね?」

「あう!?」

「あはははは♪良いわよ良いわよ♪誰だって、誰かと気まずくなったら構ってほしくなるわよ。・・・でも、それなら何があったか話してくれるわよね?」

「あ・・えっと・・」

「お姉さん。困っている仲間の相談に乗りたいなぁ?」

「ヴァリネス・・・・ありがとう。実は___」


相談に乗ってくれるというヴァリネスに感謝して、サレンは二日前の夜の出来事について話した___。

 サレンが話し終えてみれば、ヴァリネスは普段からよく見せる“しょうがないなぁ”という呆れ顔を見せていた。


「___ったく、しょうがないわねぇ、あのバカ団長は・・・“嬉しくない”だなんて・・もっと言い方あるでしょうに・・・。安心なさいサレン。団長はあなたに反乱軍に入ってほしくない訳じゃないわ」

「そうなの?」

「こんだけ強くて仲間意識も持ってくれている子に、仲間になってほしくない訳ないわ。本当は嬉しかったはずよ。争い嫌いのあなたが、反乱軍を拒絶するどころか入るそぶりさえ見せてくれて」

「本当?・・・だったら何故・・・」

「あなたの立場とか、色々引っ掛かって気が引けているのよ。団長は“巻き込むのは帝国と戦う意思を持つ者だけ”って言ったんでしょ?多分、オンデールがハッキリと帝国と対立していないから、あなたが帝国と戦う理由が無いと思っているのよ。実際そうでしょ?だから入るなら、自分からハッキリ戦う意思を示さないと」

「戦う意思・・・」


ヴァリネスが言う様に、確かにサレンにはオーマ達に協力したいという気持ちは有るが、帝国と戦いたいという気持ちも、戦う理由も無い。

 自分の戦う理由が見出せないので、サレンは参考にヴァリネスの戦う理由を聞いてみるのだった。


「ヴァリネスは、どんな理由で反乱軍として帝国と戦うのですか?」

「___ハーレムを作るため」

「はっ?」

「あ!いや!ゲフンゲフン・・・何でもないわ、今のは忘れて」

「は・・はぁ・・・」


何やら、ヴァリネスからドス黒い欲望が出ていた気がしたが、気になる以上に恐ろしかったので、サレンは聞かなかった事にした。


「ま、まあ・・・私の場合は、団長に泣きつかれて仕方なくね・・・巻き込まれたってこと」

「ええっ!?私に言っていた事と違いませんか!?」

「そうね。違うわね。サレンに対しては、昔の団長の悪い癖が出ている気がするわ」

「昔の悪い癖?」

「傲慢な優しさ?プライドの高い自己犠牲?何て言ったら良いのか分かんないけど、あいつ、昔は人に頼ったり甘えたりするのが下手だったのよ・・・そもそも人を頼らなかったっていうのも有るわね。自分が犠牲になるのは良いけど、他人が犠牲になるのはダメ、みたいな?騎士道精神が強くて、世のため人のために自らを犠牲にして戦うって感じだったの。帝国に対しても従順でさ」

「そうだったんですか?意外です・・・オーマさんに、そういうイメージは有りませんでした・・・」


オーマに対しては、もっと人間臭い人物という印象だったため、騎士道という単語が出てくるのはサレンにとって意外な事だった。


「どうして、そんな人が反乱を?」

「・・・あいつ戦災孤児でさ、そのせいで戦争を憎んでいたのよ。それで、この世から魔王や人との争いを無くそうと軍人になったの。自分や、死んだ自分の親と同じ目に遭う人が一人でも減る様に、って」

「へぇ・・・」


またも、サレンにとって意外なオーマの一面だったが、今度は余り驚かなかった。


(・・・だから、巻き込んだ人たちに対して責任を取るって決めたのかも・・・)


むしろ、オーマの反乱の理由に納得ができる話だった。


「___で、そう思って帝国の理念に共感して戦って来ていたの。でもある日、自分がその第一貴族に抹殺されそうになって、その時に奴らの本性を知ったの。自分の騎士道が第一貴族の欲望のために良いように利用されていたってね・・・。自分が信じていたものが足元から崩れた時のあいつショックは尋常じゃなかったわね。暫く廃人みたいになっていたし。反乱を決意したのは最近だけど、反逆の意志を持ったのはその時ね」

「酷い話ですね・・・オーマさんが気の毒です」

「まあ、そうね。でも正直言うと、結果としては良かったなって思うわ。今の方が接しやすいし、昔は帝国に抹殺されなくても、いつ死んでもおかしくないような戦い方してたし」

「そうだったのですか?ヴァリネスはどうして、そんな接し難くくて危なっかしい人と戦っていたのですか?」

「ムカついていたからよ」

「えっ!?」


再び意外な発言をサクッと言われて、サレンは驚いた。


「む、ムカつく相手と何故、一緒に戦っていたのですか?」

「嫌いだったのよ。あいつの正義感と自己犠牲の精神が・・・“俺が!俺が!”って感じで、無茶してしょっちゅう危険な目に遭ってさ。雷属性を扱う様になってからは、周りを巻き込むからって、前にも増して一人で突っ走っていたの」

「今の冷静沈着で戦略的な戦い方からはイメージ出来ないですね・・・」

「“皆もっと周りに頼れ!皆で生き残ろう!”って言うくせに、自分は誰にも頼らないの。今思うと私もガキだったけど、まるで“悲劇の主人公”を気取っているように見えて、気に食わなかったの。だから、コイツを一人で戦わせたり、犠牲にして死なせたりしたら負けな気がして、ずーっと戦場で付き纏ってやったわ」


 その結果、ヴァリネスは対雷属性用の金属(ヌティール合金)を錬成できるようになり、オーマとパートナーになって、デネファーの炎熊戦士団で最強の突撃コンビとして、戦場で活躍する様になったのだ。


 サレンは今の話を聞いて、サレンから見ても“嫉妬”するほどオーマがヴァリネスを頼る理由を理解した。


「ヴァリネスって優しいね」

「あぁん?どうしてそうなるのよ?世辞は要らないわよ」

「お世辞じゃないわ。だって要は、その危なっかしいオーマさんを放って置けなかったって事でしょ?優しいと思う。オーマさんがヴァリネスを頼りにする理由が良く分かる」

「そう・・・じゃ、まあ、悪い気はしないから、褒め言葉として受け取っておくわ」

「フフッ」

「まあ、とにかく、今のあいつは、反乱軍を結成したこともあって、少し昔の自分に戻っているところが有るわ。あなたを巻き込むことに罪悪感が有るのよ。だから、団長からは入ってほしいとは絶対に言わないわ。入るつもりなら、帝国と戦う意思を示して、自分から行くべきね。今、私が言える事はそれだけ」

「・・・分かったわ。ありがとう、ヴァリネス。私、自分の気持ちをもう一度整理してみる」

「お安い御用よ。暇な見張りの良い時間潰しになったわ」


ヴァリネスは、サレンが本当に反乱軍に入りたいかの意思確認はあえてせず、話を切り上げた____。



 自分の役目を終えて、ヴァリネスはお茶を入れて一息つく。

そして、何かを決意するような表情で焚火の炎を見つめているサレンを見て、自分の与えられた役の手応えを感じていた。


(う~ん・・・でも、ちょっと喋り過ぎたかしら?私や団長の昔話までしなくても良かったかも・・・ま、いっか。オーマの奴、反乱軍を結成してから“本当に”ちょっと頑なになっていたし・・・)


 これまでのオーマの言動と、サレンの相談でオーマの事を聞いた際、“作戦上の本心”ではなく、“本当の本心”をサレンに伝えたのだと分かって、オーマがろうらく作戦だけではなく、反乱に対してもプレッシャーを感じているのだと、ヴァリネスは察した。

そして、サレンのフォローをしながらオーマの昔の話をして、“本当に頑なになっている”オーマの気持ちをサレンにほぐしてもらい、オーマの心のサポートも狙うのだった。


 そして、ヴァリネスの思惑と、ろうらく作戦の作戦通り、サレンは心の中で反乱軍に入る決意を固めていた。


(オーマさんもヴァリネスも、帝国と戦う意思を示すべきって言ってはいたけど、私にはそんなの無い。・・いや、必要無い。帝国は侵略国家。アラドが言う様に、オンデールは帝国の傘下には絶対入らないだろうし、戦う理由は幾らでも有る。大事なのはそこじゃない。少なくとも私にとっては・・・。私にとって大事なのは、オーマさんが私を戦いに巻き込む事に対して、罪悪感を持っているという事)


 サレンがヴァリネスから話を聞いて、一番に芽生えた感情は共感だった。

ヴァリネスが“オーマの正義感”をムカつくと言っていた事に、サレンも共感していた。


(私には“一人で背負う必要は無い”、“周りを巻き込んで、一緒に責任を果たせば良い”って言ったくせに、自分は巻き込みたくないなんて、勝手だよ、オーマさん・・・。そんな風に言ってくれた人を放って置く事なんてできない。そういう態度だと、相手が距離を感じたり、プライドが傷ついたりするって分からないのかな?)


自分が巻き込まれて危険な目に遭うのは良いが、自分が誰かを巻き込んで危険な目に遭わせるのは嫌という、このオーマの考えに、サレンはヴァリネスと同じくムカついて、拗ねたような気持になっていた。


(ヴァリネスがムカついて、付き纏っていたっていう気持ちが良く分かる・・・・私だって・・・!)


 サレンの中で、沸々とやる気がみなぎって来る。

それは、反乱軍に入りたいというより、オーマの頑なな態度を改めてやりたいという気持ちだった。


(この探索が終わったら・・・ううん。探索十日目には目的地で本隊と合流するはず。そしたら、少し休めるだろうから、その時にオーマさんと話をしよう!)


 サレン自身、その気持ちがオーマに対して特別な感情を抱きつつあるから芽生えた気持ちだと分かっていない。だが、とにかくサレンは、その気持ちをオーマにぶつけることを決意した。


 こうして、まだ誰も分かっていないが、この時点でろうらく作戦は成功しているのだった___。




 サレンの気持ち、オーマ達の作戦、ディディアルの野心、カスミの釣り針と、表面上の外交で始まった、この四カ国共同事業のタルトゥニドゥ探索の裏には様々な思惑があった。

その思惑が交差して探索が進む中で、探索九日目も終えると、遂に舞台は、その様々な思惑が交差するタルトゥニドゥ探索十日目を迎える___。

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