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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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静寂の勇者ろうらく作戦(4)

 探索六日目の夜____。

先行討伐隊の一同は、やはり今朝と同じで、いつものノリで天幕を設営し、冗談を交わしながら夕食を取った。

今回はサレンも皆の調子に合わせて、笑顔を見せていた。

事前にデティットに相談して、後でオーマと二人で見張りに立てると分かっていたからだ。

 その後、皆が天幕に入って眠りに付くと、サレンとオーマが二人で最初の見張りを開始する。

そしてサレンは、パチパチと鳴る焚火の音をBGMにして、早速オーマに話を切り出すのだった___。


「オーマさん。ちょっといいですか?」

「どうした?サレン?」

「つかぬ事を聞くのですが、オーマさんはどうして反乱軍を作ったのですか?」

「・・・・・」


 サレンの質問に、オーマの表情が柔らかい笑顔から真剣なものへと変わる。

そして、何かを察したように口を開いた。


「・・・やっぱり、昨日の事が気になっていたのか?」

「はい・・・。でも、皆さん昨日の事などまるで無かった事の様に振る舞うので、聞けませんでした・・・」

「のわりに、ずいぶん直球で聞いて来たな」

「ごめんなさい。でも、戦闘にも集中できなくて・・・このままじゃ足を引っ張る事になりそうで・・・もう余裕がありませんでした」

「そうか・・・」


 オーマは視線をサレンから焚火へと戻して、溜息を吐くように言った。

呆れているというより、“仕方が無いか・・・”、“そりゃーそうなるよな”という、納得の溜息だった。

その様子に拒絶するような気配は無く、サレンはホッとすると同時に、話をしてくれるだろうと感じ、黙ってオーマが口を開くのを待った・・・。

 暫くして、枝で焚火をいじっていたオーマがポツリと呟いた。


「・・・責任を取るためだ」

「・・・責任?」

「ああ・・。自分の我儘を聞いてくれた人達に筋を通したいんだ」

「・・・我儘って?」

「・・・・・」


言うべきか言わざるべきか迷っているのか、それとも、言う覚悟が必要だったのかは分からないが、オーマはまた少しの間、思いつめたような表情で黙る。

 それから、意を決した様に、“本心”の願いをサレンに伝えた。


「・・・“死にたくない”んだ」

「え?」

「サレン・・・。帝国は表向き、階級社会でも下からの不満が出ない、豊かで良心的な国の様に見える・・・帝国の人間から見てもそうだ。だが、中身は違う。俺達平民は、帝国第一貴族の都合の良い道具だ。自国の人間にすら気付かれない様に、巧みな社会システムと印象操作で隠しているが、実際は俺達を利用するだけ利用して、必要が無くなったら切り捨てる。帝国の民・・中でも軍人は、そうして使い潰される末路を辿った連中が、星の数ほどいるんだ」

「・・・オーマさんもそうなってしまうのですか?」

「そうだ」

「そんな・・・」

「前に一度、その帝国の“本当の顔”を知る機会があった。そしてそれ以降は、目立たないよう大人しくしていたが、関係なかった・・・。俺達の命は何処までも奴らの都合に左右される・・・。詳しい内容は言えないが、俺は今、第一貴族から与えられた任務を通して、奴らに殺されそうになっている。そこから生き延びたいんだ。大義でもない、自分の意志でもない、他人の欲望のために死ぬなんて御免だ・・・!」


覚悟を決めた様な、悲痛な思いを訴える様な、そんな険しい表情でオーマは声を絞り出し、サレンに訴えた。

・・・サレンは眉の角度を変えて、悲しそうな同情の顔を見せていた。


「・・・それで反乱軍を?」

「いや、違う。反乱軍を作ったのは、あくまでその我儘に巻き込んでしまった人たちに対して責任を取るためだ」


自分が生き残るためでも、周りの人達に対する責任のためでも、反乱を起すのなら大した違いは無いようにサレンには思えた。

だが、オーマがハッキリとそう言う事で、オーマにとっては大事な線引きがされているのは分かった。

今、オーマに関心を持っているサレンにとっては、知りたくなるものだった。


「どういうことですか?」

「俺は当初、自分だけ生き残れれば、それで良いと思っていた。けど、帝国から生き延びるために活動しているうちに、自分が思っている以上に、色々な人を巻き込むことになっちまった。大陸一の力を持つ大国との戦いに巻き込んでおいて、“自分だけ助かれば良い”は無責任すぎるだろ?巻き込まれた側にも事情も利害も有るだろうが、その人達が一人でも多く生き残る道を模索する責任が俺には有ると思ったんだ・・・」

「・・・自分だけじゃなく、周りの人も一緒に生き残るために、反乱軍を作ったのですね?」

「色々矛盾していて迷う事も有るが、覚悟は決めている・・・」


“話せることはこれで全部だ”____。そう意思表示するかの様にオーマは席を立つ。

そして、荷物のある所へ行って茶葉を取り出して戻って来た。


「・・・サレンも飲むか?」

「あ、ありがとうございます。頂きます・・・」


やかんに水を入れて火にかける。

暫くの間、お互い無言の時間が流れた___。

 オーマの方は、やかんをただ眺めつつ、さっきの自分の言動を振り返っていた。


____巻き込んだ人間に死んでほしくないなら、そもそも巻き込むなよ・・・


____自分が生き残るのが大事なくせして、わざわざ死地に立つなよ・・・


____“現状を見れば、しょうがないじゃないか”


____“複雑な事情と、複雑な人間関係の中で行動していれば、矛盾だって起こるだろう?”


 オーマの言動の矛盾を指摘していたら切りが無いだろう。

だが、オーマはこれまで、自分の言動の矛盾を指摘し、自問自答し続けてきた・・・言い訳してきたという方が正しい。

 人の弱さから来る行いだが、その行いが人を強くする事もある。

繰り返し言い訳していく中で、オーマは少なくとも今、サレンの前でその矛盾だらけの“本心”を口にできるくらいの強さは手に入れられていた。

だから、 “作戦上の本心”ではなく、“自分の本当の気持ち”を言えたし、言いたくなったのだ。


____“やり方がどうとか、理屈がどうとか・・・最終的に仲間だと思える奴らと生き残れればハッピーエンドで良いだろ!”


今オーマには、帝国との戦いに対してこんな割り切った、開き直りにも似た覚悟ができているのだった。


(・・・ただ、そのハッピーエンドが、ハーレムエンドになるってのがなぁ・・・)


____ごめんウソ。やっぱり覚悟できていなかった。

大陸一の大国と戦う覚悟はできたというのに、ハーレムを作る度胸は無かった。

女性に関しては、オーマは未だにヘタレのままだった_____。




 サレンも同じ様に、何を言うでもなく、火に当てられているやかんを眺めて黙っている。

サレンがオーマの話を飲み込んでいる沈黙だ。

詳しい事情は聞けなかったが、それでもオーマの気持ちは聞くことができたし、それが本心だというのも分かった。

オーマの本心を知って、それを受け止めようとしている沈黙・・・この沈黙はサレンのオーマに対する誠意だ。

 オーマは、サレンのこの沈黙に緊張していた。

話していた時の気持ちには、“作戦上、ここは本心の方が良い”といった打算は頭の片隅にも無く、“自分の気持ちを理解して受け入れてほしい”という願いだけだった。

オーマは今、表の態度ではいつも通りの態度を取っているが、内心では、母親に自分の気持ちを受け入れてほしい子供の様な気分だった。


 オーマがそんな子供の様な心境でいる中、サレンもオーマに対して母親の様な母性を抱いていた。


 元々、オーマ達が崇高な精神や正義感で帝国と戦っているとは、サレンは思っていなかった。

だから、“死にたくない”というシンプルかつ分かり易いこの動機は、直ぐにサレンの心にハマった。

そして、反乱軍を作った“責任を取るため”という理由も、なんとも“らしい”理由だと思えて、妙に納得してしまっていた。

 世のため人のために戦う正義感は無い。

だが、自分が生き残るために、他人を利用するだけで済ますほど薄情でも無い。

善人にも悪人にも成り切れない不器用な様が、なんとも人間臭く感じてサレンの母性を刺激したのだ。

 それと同時に、こういう善悪や損得だけではない、自分の価値観で生きる人が羨ましく思えた。

オーマ自身は自分の言動を矛盾だらけと卑下していたが、矛盾だらけになるのは世に対して自分の価値観を持っている証拠だろう。

サレンは、オーマのその価値観にこそ興味を抱き、仲間意識を持ち、そして今、それ以上の感情が芽生えつつあるのだった。


(オーマさんは私が反乱軍に入りたいと言ったら、どう思うんだろう?喜んでくれるかな?)


サレンはオーマが自分に対してはどう思っているのか知りたくなって、思わず探ってしまう。


「オーマさんには、帝国と戦うため、より強い力を持った人の助けが必要なのですよね?」

「・・・・まあな」

「・・・オーマさんは、私が反乱軍に入ったら嬉しいですか?」

「____いや、嬉しくない」

「えっ?」


内心で感激してもらえると期待していたサレンは、驚くと同時にズキッと心を痛めた。

 オーマは、そのサレンの驚いた表情に対して、気にしていない風を装い、“嬉しさを必死に堪えながら”誠実な態度でサレンに自分の想いを伝えた。


「サレン・・確かに君は強い。反乱軍に入ってくれれば、最高の戦力になるだろう。だが、君は本来争いを好む人では無いだろう?そんな君を巻き込みたくはない。それじゃあ帝国と同じだ。この戦いに巻き込むのは、帝国と戦う意思を持つ者だけだ。俺の事を思ってくれたことには感謝する。けど、君の力を借りる気は無い」

「あ・・・」


ハッキリとしたオーマの拒否。

本来、戦わずに済んで喜ぶべきことなのに、サレンには淋しさが残った___。


___ちなみにオーマに残ったのは名残惜しさだった。


(・・・今の感じなら反乱軍に受け入れて、それで任務完了で良かったんじゃないか?・・・このまま反乱軍に入らなかったらどうしよう?)


会話の最中のサレンの態度で、サレンが反乱軍に入りたがっているのを感じ取っていたオーマは、そんな心配と後悔をしていた。

 サレンに自立心を持ってもらうため、自ら進んで反乱軍に入る様にするという事だが、入れるチャンスを一度棒に振って、二度とサレンが入ると言って来なかったら目も当てられない。


(でも、デティットもアラドも、大丈夫だって言ってくれていたし、それに___)


実際、サレンには自立心を持ってもらわなくてはならない。

力が有るといっても、世間知らずであることがレインやジェネリーと違うところだ。

同情や愛情だけのそんなサレンでは第一貴族に利用されるだけだ。


 そしてオーマは、またここで自分の言動を振り返ってしまう。


____自分達には愛情で流されてほしいくせに、自立心を持ってほしいだとかさぁ・・・


____籠絡するくせに“自分の意思で反乱軍に入ってもらう”とかさぁ・・・


____帝国と同じ事をしているのに、“それじゃあ帝国と同じだ”とか言ってさぁ・・・


こうしてまた、自分の矛盾を指摘する自分が居る・・・。

そしてまたまた、その矛盾に対して言い訳を始める自分が居た。


____“俺だってしたくてしてんじゃない!全部第一貴族が悪いんだ!”


____“実際、この矛盾を両立しないと、後々困るんだよ!”


____“矛盾しない事より、自分達が納得できるかの方が大事なんだよ!”


____“最後に皆で生き残れれば、自分が矛盾していたとか、どうでもいいじゃないか!”


 こうしてオーマはまた、自分の弱さを言い訳して、作戦を遂行していく強さを得ていく。そして___


(それでもハーレムってどうなんだ・・・?良い事とか悪い事とかの前に実感が無いんだよなぁ・・・)


やっぱり強くなれないヘタレ素人童貞だった____。

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