静寂の勇者ろうらく作戦(3)
行軍を続けて、太陽が真上に来た探索六日目の昼頃____。
メンバーの疲労も溜まり、集中力が切れてきていると察したデティットが、昼食を取るため、周囲に気を配り始める。
魔物に襲われない様に、なるべく魔物の気配が薄い場所を探しているのだ。
この頃になると、サレンの思考も鈍くなっていて、頭の中のモヤモヤを文章にできず、ただ何かを期待する様にオーマの顔をボーっと眺めているだけだった。
そんな、探索の集中力を切らしているサレンを叱咤するような出来事が起きた___。
「敵襲!!前方四百メートル先にヘルハウンドの群れ!数は三十以上!!」
「「___!?」」
斥候に出ていたアラドが、戻って来ると同時に叫ぶように報告を上げた。
そして、それを聞いた先行討伐隊のメンバーは、その報告とほぼ同時に一斉に武器を構えた。
ヘルハウンドの群れ___。
一対一ならば、メンバー全員が負ける相手ではないが、三十以上の数ともなれば油断はできない。
敏捷性と殺傷能力の有るヘルハウンドに、約三倍の数で乱戦にされたなら死人が出てもおかしくない。
先行討伐隊は、しっかりと対強襲用の防御陣形を敷く。
前衛に、オーマ、ヴァリネス、イワナミ。その後ろ、中衛中央にクシナ、サレン。その二人の両サイドに、ロジとウェイフィー(本来はフランだが、斥候に出ている)。そして、背中をデティットとアラドが守る。
ヘルハウンドは足が速いため、先行討伐隊が陣形を整えた頃には、距離を約二百メートルと約半分に縮め、その姿を全員が捉えられる距離まで迫って来ていた。
両軍が衝突するのに、もう十秒も掛からないだろう。
だが、ヘルハウンドの足の速さが、“そういうもの”だと知っているオーマ達に焦りは無い。
「合わせろ!!」
オーマの合図で、イワナミ、ヴァリネス、クシナ、そしてオーマ本人が魔法術式を展開する。
属性は炎。敵を引き付けて、四人でのSTAGE3(連結)による集団魔法でカウンターを狙う作戦だ。
他の者達も、属性は合わせていないが、各々がヘルハウンドとの衝突に間に合う時間で打てる、最高の魔法を用意する。
「「グゥオオオオオオ!!」」
ヘルハウンド達が、鋭い牙を見せて獰猛に迫って来る___。
「___今だ!打ぇーーー!!」
手前二十メートルほどの距離までヘルハウンド達を引き付けて、オーマは砲撃合図を出し、四人での集団魔法によるファイヤーボールを打ち放った。
___ドドドッドドッドドドドドド!!
個人で打つより遥かに殺傷能力の高い無数の火球が、ヘルハウンドの群れを襲う____。
「「グギャオオオオオン!!」」
ヘルハウンド達はそのファイヤーボールに反応し、自慢の敏捷性で避けようとしていたが、集団魔法で速度も上がり数も増えているため、一発二発は避けられても躱し続けることはできず、先頭集団を中心にファイヤーボールの餌食となっていく。
ファイヤーボールを食らって、ヘルハウンド達は、どんどんその身を炎で焦がし死んでいった___。
だが、やはり数が多かったため、全てを仕留める切ることはできず、十体ほどのヘルハウンドが生き残り、前衛に飛び掛かれる距離まで切り込んできた。
ヘルハウンド達がオーマ達の攻撃を掻い潜って距離を詰めて来た時、無防備になっているオーマ達前衛を守るのはサレンの仕事だ。
集団魔法の打ち終わりを狙われたオーマ達を守るため、サレンは準備していた水属性の防護魔法を発動した___だが、
「アクアウォール・ニードルピラー」
棘状の水の柱が往来する水の壁が、オーマ達に飛び掛かったヘルハウンドの前に現れる。
そして、凄まじい水圧の壁と水の棘がヘルハウンド達を弾き飛ばした。
「「グギャオオオオオン!!」」
「「____!?」」
オーマ達前衛を守ることには成功したが、そのサレンの魔法に先行討伐隊全員が違和感を抱いた。
確かに威力はあるし、防御にも成功しているのだが、いつものサレンの威力ではなかったからだ。
本来のサレンならば、あれだけのタメの時間が有ればもっと威力が出て、残りのヘルハウンドを一掃できたはずなのだ。
だが、昨日の事が尾を引いて集中しきれなかったためか、そこまでの威力には達していない。
事実、ヘルハウンド達は、負傷こそしたものの死んではおらず、闘志も萎えてはいなかった。
そして、水の勢いが弱まるや否や、再び先行討伐隊の前衛に襲い掛かった。
「アクアウォール・ニードルピラー!!」
この事態に、ロジが機転を利かせ、水の防護魔法を発動し、オーマ達を守る。
先程のサレンと同じ魔法だが、サレンほどの威力は無い。それでも、集団魔法を打ったオーマ達が態勢を立て直すのに十分な時間を稼いで見せた。
だが、今度は防護魔法を発動したロジ自身が、一瞬無防備になってしまう。
「「グゥォオオオオ!!」」
そのスキを逃さず、二匹のヘルハウンドがロジに襲い掛かる。
「「ロジ!!」」
___ビュン!!____ビュン!!
ヘルハウンドの牙がロジの喉元まで後数センチまで迫ったところで、二つの線が伸びた。
一本は、ロジの後ろからヘルハウンドの眉間へ___。もう一本は、ロジの右側からヘルハウンドの肺へと走る線___。
アラドと、斥候から戻ってきていたフランの弓矢だった。
「「____グギャオン!?」」
矢で射られた二匹のヘルハウンドは、その牙をロジに届かせることなく、そのまま地面に倒れ、動けなくなる。
そして、その二匹が完全に絶命する頃には、オーマ達がクシナとウェイフィーの援護を受けながら、残りのヘルハウンド達を地面に沈めていた。
際どい瞬間も有ったが、オーマ達先行討伐隊は一分も掛けずに三十頭ほどのヘルハウンドの群れを一掃して見せたのだった。
「____本当にごめんなさい!」
ヘルハウンドとの戦いを終えて、一同が集まると、真っ先に出たのはサレンの謝罪だった。
「どうした?急に?」
「何でサレンが謝るのよ?」
「だって・・・さっき、私のせいで皆さんを危険な目に・・・」
「ああ、あれですか?・・・確かにサレンならもっと高威力の魔法が出せるとは思いましたが・・・」
「ちゃんと防御は成功したのですから、そこまで気に病む必要は無いと思いますよ?」
「そうそう。長い遠征で疲れが溜まっていると、自分が思っている以上に集中できていなくて、力が出し切れないなんて、よくあることよ」
「お昼前の集中力が切れている時間帯でしたしね」
「・・・・・」
皆が口を揃えて励ましてくれるが、サレンは難しい顔をしていた。
励まされても罪悪感が拭えないというより、励まし方が“腑に落ちない”という気持ちだった。
皆の励ましの言葉に、一つとして昨日の事が出てこない・・・“昨日の事が尾を引いているのか?”といった類の指摘をする者が一人もいないのだ・・・。
オーマが、“探索が終わったら考える”と言っていたのだから、皆のその態度は正しい事ではあると、サレンは頭では理解こそいているが・・・
(・・・私には耐えられそうにない)
自分でも子供だなと思いつつも、どうしても昨日の事が頭から離れない。
(このままじゃダメだ・・・。一度、オーマさんと話をしてみよう・・・)
サレンはオーマと二人で話ができる様に、今夜オーマと見張りを一緒にしてもらえる様にデティットに相談した。
断られるかもと思っていたが、デティットは“喜んで”サレンの頼みを聞き入れてくれた___。
オーマ達がヘルハウンドと戦っていた所から、東へ約三キロの地点で、ディディアルがいつもの様に、その戦いぶりを見ていた。
結果は秒殺___。ヘルハウンドの群れは自分達の三分の一程の人数相手に、一分と持たず全滅させられてしまった。
だが、ディディアルに驚いた様子は無い。
これまでの分析で、それ位しか持たないだろうとディディアルは予想していたのだ。
だからむしろ、分析を基にした予想が的中して、自分の分析が正しかった事が分かって喜んでいるくらいだった。
「乱戦も良し、だ。味方への咄嗟のフォローも出来ていた。陣形の強度も同属性で、魔法を連結させて強化することができる・・・。帝国兵なら、それ位の事はできると知っていたが、あそこまでスムーズかつ強力な連結技が出せるとは・・・鎧は一般兵の物だが、実力は精鋭だな・・・。あれを切り崩すには魔物一種類の部隊では厳しいか?・・・敏捷性の高いヘルハウンドの機動力を生かすために、奴らは遊撃にして、前衛は防御力の有る魔物を・・・いや、あるいは空から行くか?・・・だが、“源流の英知”の対空迎撃は確認していない・・。どちらにしろ、数種の魔物を入れた混在部隊でなくては・・・」
自分の分析が正しかった事を喜んではいたが、今回の分析結果を見てみれば、溜め息をつきたくなる内容だった。
「私が戦場に立つ場合、混在部隊を編制するとなると、代わりの指揮官も用意しなくてはならん。やはり、理想はグレーターデーモンだが・・・。“源流の英知”を仕留める以外にも上級魔族を使うとなると、準備は一日では足りんな・・・」
今、ディディアルの頭の中にある作戦では、十体ほどの上級魔族を召喚することになる。
一日でその数の上級魔族を召喚するのは、ディディアルでも不可能だ。
「仕方が無い・・・分析はここまでだな」
正直に言えば、対空迎撃方法など、まだ調べたい事が有るのが本音だが、準備に二日、魔力の回復に一日使うとなると、決戦は四日後(先行討伐隊の探索十日目)なのだから、もう時間が無い。
時間内に勝算の有る作戦を立てられる分析結果が得られた事に、納得するしかない。
ディディアルは、彼らの目的地であるドワーフ遺跡に移動を開始する。
そして、四日後の決戦に向けての準備を始めるのだった___。




