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かくして、アンヌ達の『チキチキ☆可愛いベアちゃんをウジ虫から守ろう作戦』は開始した。ちなみに作戦名の命名はアンヌが行った。作戦名をガブリエルに伝えた際、
「どうよ!素晴らしい作戦名でしょ?」
「あぁ、さすがだよアンヌ。その石鹸の泡しか詰まってなさそうな頭で良く考え付いたな」
「石鹸の泡…?あぁ、キラキラしていて幻想的って言いたいのね!!」
「うん、本当に…さすがだよ……」
などというやり取りがあったのは、また別の話である。成績の良い馬鹿(ただし数学は零点)というのは正に彼女の事だなとガブリエルはある意味感動した。アンヌにとっては非常に不名誉なことである。
何はともあれ、アンヌは奮闘した。全ては愛しのベアトリスを守るためである。登校時間もお昼休憩も放課後も、あらゆる暇という暇をベアトリスと共にすごした。交友という名の監視である。そして、そんな生活をし始めて早くも1ヶ月が過ぎたのだが━━━━
「で??一向に例の栗毛君が現れないのはどうしてかな?」
「分からない…ほんっっとうに分からないわ!?!?」
憐れ、アンヌは早くも行き詰まっていた。おかしい、これは本当にどうしたことか。
「ゲームでは、入学式の日に攻略する子を選ぶのよ。あの時ベアちゃんを熱く見つめていたからにはベアちゃんを選んだはずなの!!なのに!何のイベントも起こらないだなんて意味がわからないわ!?」
「イベント…って好感度を上げるためのやっだったよな?」
「そうよ。イベントを通して攻略対象との仲を深めていくの」
ふーん、と考えを巡らせていたガブリエルはふと思った。いや、正確には思い出した。アンヌから『ギャルゲー』とやらの事を聞いてからずっと聞きたかったことがあったのだ。
「なぁアンヌ、その『ギャルゲー』ってのは攻略対象キャラを選べるんだったよな?」
「ええ、そうよ」
「選べるってことは複数人いるってことだよな??」
アンヌはきょとんと首を傾げた。
「?当たり前じゃない」
「じゃあ聞くが、ベアトリス以外には誰が『攻略対象』だったんだ?」
ずっと疑問だったが、聞けずじまいだった。ベアトリスの元に『主人公』が現れないということはつまり、彼が他の『攻略対象』を選んだという事に他ならないだろう。
(主人公がベアトリスに興味が無いと分かればアンヌも安心出来る筈だ…)
「攻略対象?えっとね…正統派ヒロインのベアちゃんでしょ?庇護欲そそる妹系ヒロインのエリアーヌちゃん、皆大好きツンデレヒロインのイネスちゃん…それから」
「それから?」
謎の間が空いたその瞬間、それまで普通に話していたアンヌが唐突に髪を掻き上げた。そして━━━━
「頼れるお姉様系ヒロイン…その名もリファンヌ!そう!この!私よ!!!」
「はぁああああああ!?!?!?」
生まれて初めてあんな大声を出した。
後に、ガブリエルはこの時のことをそう語ったという。