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「で、つまり?この世界は『ギャルゲー』とやらの世界に酷似していて?その作中の主人公がベアトリスを狙っている……と??」
頭が痛いと言わんばかりのガブリエルにはお構いなしにアンヌは力強く頷いた。
「そう!ベアちゃんは『胸キュン♡虹色スクールライフ』のメインヒロインだったの。入学式の時の栗毛野郎の様子から察するに、奴はベアちゃんに一目惚れしたに違いないわ!!」
「で?それが仮に本当の事だとして一体何が問題なんだ」
ガブリエルの疑問は真っ当である。なにせ、件の栗毛野郎━━━━もとい主人公はある程度名の通った伯爵家の出だったりするのだ。社交界での評判も悪くない。であれば、そんな彼がベアトリスを気に入ったというのは問題と言うよりはむしろ朗報である筈だ。が、そんな疑問を口にしたガブリエルをアンヌは信じられないものを見るような目で睨め付けた。
「はぁあ??大問題じゃない!あんな栗毛に可愛いベアちゃんを取られでもしたら、私、わたし…!!」
と、そこで感情が高まったアンヌはうるうると瞳を潤ませると…
「寂しくなっちゃうじゃない!!!」
どこで知能を落としたんだと尋ねたくなるような事を宣った。
「お前なぁ…」
呆れたと言わんばかりの幼馴染の視線から逃げるようにメアリは顔を背ける。
「仕方ないじゃない。ベアちゃんの事大好きなんだもの」
まだ私が独り占めしていたいわ。
そんなことをポツリと呟く幼馴染を見捨てるほどガブリエルは冷たくない。幼馴染だからこそ知っている。高嶺の花だの何だのという理由で同世代の貴族達から遠巻きにされている彼女は、実は人一倍寂しがり屋なのだ。いつだったか彼女が『友達が欲しい』とボヤいていたのをガブリエルは今でも忘れられないでいる。
「わかった、分かったよ。俺に助けて欲しいってことだろ?まったく本当に…お前には敵わないな」
「!!ガブちゃん…!それでこそ私の幼馴染だわ!ありがとう!!」
ぱぁっと顔を輝かせ彼の手を握りブンブンと振り回す。
「…別に良いよ。俺がお前に敵わないのは今に始まったことじゃないしな」
「??…成績は勝っていたじゃない」
「それとこれとは別だ、馬鹿アンヌ」
言いつつ爽やかに笑う彼は、本当に見目が良い。彼の顔を見慣れているはずのアンヌでさえドキリとさせられるほどだ。
「…っ、兎に角!そう、協力して欲しいの。栗毛野郎がベアちゃんに近付けないよう手回しをするのよ!」
頑張るわよ〜!と拳を天に突き上げる少女に、これは面倒なことになりそうだとガブリエルは思わず苦笑するのだった。