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眠り猫

作者: 楓凜

初投稿なので拙いものですが、読んでいただけるとありがたいです。

まどろみの中で黒猫は



春。桜の花は散り、風の音も柔らかで、日差しもあたたかい。

陽だまりとなる窓のそばに居、耳をすませばかすかに聞こえてくる少年少女の遊ぶ声、笑い声。

昼休みも終え、もうすぐ今日最後、6限の授業も終わるからか、ソワソワしている人がいるのがのがなかなかに面白い。


私にとって最近の週1でやってくるこの6限物理の時間は春のまどろみに加えて、先生の声はとても心地よくて、いつも以上に私を眠りに誘う。


ふいにぼやけた視界にうつる先生と目が合った。

苦笑交じりに

「やっぱ眠いかー、水無瀬、あと5分な」

というので、私が軽くうなずくといくつかの小さな笑い声がきこえる。


先生は所謂ハイスペック人間だった。なにせ、高身長の美青年で、まだ20代後半だろうか、全教師の中でも若い。話し方がフレンドリーで、何があろうと常に笑顔を絶やさず、その上結構優しいから評判も高かった。それゆえに告白する生徒が後を絶たないとか。私からすれば、心が読めないから少し気味が悪い人だ。


「あ、先生、髪の毛に花ビラついてるー」

「え、マジ?どこ?とってくれる?」

私の席はモダモダしている先生がよく見える。そうしているうちに時間は過ぎ、チャイムが鳴って

みんなさっさと教室へと移動していく。


私も移動しようとすると、先生が

「眠そうだったけど、大丈夫?まぁ、いつもだけど。他は起きてなよー」

と話しかけてくる。

つまり先生の授業は寝てていいんですね。というと

「いや、そうとは言ってないんだけどね?水無瀬は成績がいいからまだ許すよ、一応ね」

と、私の頭を軽く撫で、呆れたふうに笑った。私は、頭を撫でられるなんてほとんどなかったから驚いていると、先生ははっとした顔で、すぐさま手を引いた。

「ごめん、嫌だった?これ、最近じゃダメなヤツだよね…」

先生は私が大丈夫ですよ、というとほっとしたように微笑んだ。

気にしなくていいのに。

先生の手の少し冷えた温度に心地よさを感じてしまった私は申し訳なくなった。

思わずうつむくと、くっきりと二人分の影がうつっていた。


後から思えば私はこの時点で十分おかしくなっていた。


そうこう話していると、先生の服に黒色の糸か毛かがついているのに気がつく。

先生も私の視線に気がついたようで

「あ、まだついてたかー、全部取ったはずだったんだけど…。これね、飼ってる猫なんだけど、見せてあげたいなぁ、すごい美人なんだ。まぁ、すぐに散歩にでてるからその辺にいるかもねぇ」

と言ってその毛をとった。


そうこう話しているうちに5分などとうに過ぎており、HRがもうすぐ始まる時間になっていた。

HRなんて面白くないから行きたくないけど、先生、といえば、そうだね、行っておいでと返ってくる。

私は後ろ髪引かれるように先生と離れるけれど、ドアの横でつい振り返ってしまったとき、少し低くなった太陽の光が教室に差し込んで影になっているものの、黒板のほうを見ている先生の横顔が暗く見えて、思わず見つめてしまった。


それは一瞬のことで、すぐに私と目が合い、また微笑んで、行かないの、といった。

なんだか恥ずかしくなって走ってその場を後にしたが、なぜか先生の表情を何度も思い出してしまう。いつも笑っていて、ある意味考えていることが分からない先生のあの表情は、私を混乱させるのに十分だった。心臓が妙に早く打っているように感じていた。


二階渡り廊下に来たところで、空いていた窓辺で風にあたりながら少し上がった息を落ち着かせる。それでも心臓のほうは戻らなかった。またあの光景がフラッシュバックして、何とも言えない、ただ、意味の分からない感情に苛まれ続ける。


先ほどまでいた4階を見上げて、また目をそらして、私自身の行動を笑う。はたから見れば変な生徒だろう。HRまであと1分くらいはあるはず。急いで教室に戻ろう、そうして早く帰ってしまおう。


西日が緩くなってきたころ、私は部屋の窓から外を眺めていた。そのときふと朝登校途中に桜の木に登っている猫がいたことを思い出した。風が少し冷えた中、日差しの暖かい場所で、眠そうにしている黒い猫を。あの猫は家に帰ったのだろうか。私は少しずつ、あのときの渦巻いた気持ちをまた思い出しそうになっていた。


少し眠ろう。


温かな布団の中に身をくるませて、私は、夢を見た。

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― 新着の感想 ―
[良い点] むずかしいところもありましたが、先生が主人公の女の子を想いやっているところが良かったです。後欲を言うと、女の子が後半から出てきた黒猫を なでなでするところとかも見てみたかったですね。
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