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綺麗な檻
温かな水が足の下を通っている感覚がする。
空は終わりが見えず、解放的。
とても心地いい。
見ると白い床の中を赤と白のまだらの鯉が泳いでいる。
透明な水が流れている。
一面が白と空色の世界。
「ここはどこ?」
恋子はつぶやく。
「夢の中なのかしら?」
まるで現実世界とはかけ離れた世界。
「夢ならこのまま覚めたくない」
温かくて優しい世界。ずっとここにいたいのに。
そして、恋子は泣いていた。
自分が涙を流していることに気が付いた。
「私はなんで泣いてるの?」
その問いに答える者はいない。
恋子はこの世界から抜け出すことはできないのだ。
「どうして、何も思い出せないの?」
彼女は、そこに立っているだけだった。
代償を払いすぎて、抜け殻のように残りカスになってしまったのだ。
大事な人達も思い出せない。
涙だけが、彼女を彼女と認識させていた。
美しい鯉だけが、床の中を泳ぎ続けていた。