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妹の願い

(――はい、どういう状況でしょうかコレ)


 ヘレンは自分の状況が理解できずに固まっていた。



 ―――アクシルの腕の中で。



「あ、あのう……コレは一体……」

(さっきまで私、この人に嫌なこと言われてましたよね?私、結構傷ついてましたよね?)

 泣いてましたよね?

「うん。泣いてたし、怒ってたねヘレンちゃん」


 アクシルはヘレンの心の声に答えながら、頭をポンポンと撫でてきた。


(え、エスパーか!?)

「いや、違うよ。ヘレンちゃん思ってること普通に小さいけど声に出してるんだよいつも」

「!?」

「それ、気づかなかったの今まで?」


 今までルイスのそばでしかこうなったことはない。

 でもルイスは何もいってなかったとヘレンは頭の中で腹黒無難攻略王子を思い浮かべる。


 それよりもとヘレンがガバリと勢い良くアクシルから体を離し彼の顔を見る。その顔にはもう先ほどのような無表情も胡散臭い笑顔もない。

「お、泣き止んだみたいだね?」

 よしよしと再び頭をポンポンされてゆっくりヘレンは完全に彼の腕から解放された。


(なにこの人……行動が読めない)

 ヘレンが思わず引き下がるも、アクシルは何てことない表情でまたベンチに腰かけた。


「俺ね、転生する前も妹が居たんだ。凄く年の離れたね」


 急に話し出すアクシルにヘレンは戸惑いうごけないでいた。そんなのヘレンを気にすることなく、アクシルは話続ける。


「なんかヘレンちゃん妹っぽくてつい」

(私一応16才だったのに!)


 心で反論すればアクシルは俺は22だったからやっぱりヘレンちゃん妹だねと苦笑いしながら尚も続ける。


「姫っていう名前でね。まだ小さくって、スッゴい可愛かったんだけどね……病気で死んじゃったんだ」

「え?死んだ?」

「そう、死んじゃった。その姫がね、このゲーム好きだったんだよ。良く病院で一緒にしててさ。それでカトリシアがお姫様になるシーンで、自分も大きくなったらお姫様になりたいって嬉しそうな顔してさ。俺も姫をちゃんとお姫様にしてあげるよって約束してたんだ」

 でも、約束守れなかった。姫、死んだからと声に出さずアクシルの口だけがわずかに呟くように動く。


 アクシルはそっとベンチの背もたれに深く寄りかかる。

「で、しばらくして俺も姫と同じ病気で死んでここにきたんだけどさ。そしたら姫が好きだったカトリシアがいるじゃん。それに、カトリシアは本当に家で糞みたいな扱いされててさ。俺何とかしてやりたくて頑張ったんだけど俺にできることほとんどなくって。で、そんな時たまたま読んであげてた絵本をみて、カトリシアが私もお姫様になりたいっていったんだ。だから俺は今度こそ絶対にお姫様にしてやりたいんだ。俺には前世の記憶とゲームの知識があるから、それなのに……」

 俺じゃあカトリシアを姫にしてやれないんだよ。アクシルの表情は忌々しそうに一瞬歪むも直ぐに切なそうなかおになる。



 ―――カトリシア・ラディ。幼い頃拐われた隣国のお姫様。長い間見つからなかったが、学院入学後王子ルートのみで最終的に隣国の姫だと発覚する。

 他のキャラクターでのハッピーエンドもあるのだが、姫になれるのはルイスルートのみだ。


(というか、普通にアクシルがカトリシアが姫だったって皆に言えばいいんでは??)


「お、ヘレンちゃん今何か考えてたでしょ?口元隠すとわかんないね」


 無意識に声に出さないように、必死で手で口を押さえてヘレンは回想する。それが、どうやら功を奏したようだ。

(よし、次もコレでいこう)


「んー……ヘレンちゃん手で隠すとなに考えてるかわかんない」

 ひょいっとヘレンは口を押さえている手をアクシルにはずされてしまった。

「ちょっ!何考えてるかわかんなくていいのよ!というか、アクシル様が普通にカトリシア様がお姫様だったってネタバレすればいいじゃない」


 怨めしそうにアクシルを見れば彼は困ったような顔をした。


「それがね、君もわかると思うんだけどできないんだよ」

 アクシルは項垂れる。

「どういう訳か俺がカトリシアが隣国の姫だって皆にいっても、証拠をだしても何をしてもカトリシアが姫だってならないんだ」


(運命の強制力……)

 思わずヘレンは目を見開く。

 自分が何をしても、どう頑張っても絶対に婚約破棄にならないように、アクシルもカトリシアを姫にできない。


「運命の強制力……ね。うん、そうだね。そんな感じ。俺は運命にまた負けてるんだ」


 アクシルに手をはずされてまた心の声が漏れたようだ。

 ヘレンは再び口を塞ぐ。

 そんなヘレンをみてアクシルはポンポンとヘレンの頭をなでた。


「ねえヘレンちゃん。信じなくていいけど、ヘレンちゃんが転生者ってわかってから一応ヘレンちゃんに悪いと思ってるんだ。ごめん。酷いお願いだってわかってる。ヘレンちゃんがカトリシアを本当に苛めないなら、ヘレンちゃんにとって酷いエンドにならないように俺も協力するから。だから、お願い。カトリシアを姫にさせてやってくれ……」

 今度こそ妹を……

 そう言うアクシルにヘレンは何も言いかえす事ができなかった。

⭐️閑話休題:くしゃみ⭐️


「ぶえっくしょーん」

盛大なくしゃみをしながらルイスはベッドで丸まっていた。

「殿下、それは品がないです。それからベッドに入るなら服を……」

ルイスのくしゃみとともにデュランはどこからともなく現れルイスを嗜める。

「うるさい。今は影だろ。放っといてくれ」

そんな丸まっているルイスをみてデュランはため息をついた。

「殿下、そんな拗ねてないで。噂は噂です、ライラット様だってそんなことしてないって仰ってたでしょう」

「…………」

それでもとルイスは枕に顔を埋めた。

「面白くないんだよ。あんな噂が出ることじたい。それにヘレン最近全然俺と勝負するって言わないし。しかも逃げたし、見つかんないし」

「それは殿下があんな怖いかおしてライラット様を追いかけるからです」

デュランに言われてルイスは完全に枕に顔を埋めている。これは酷く拗らせているとデュランは目を手でおおった。

「あ、そう言えばどこかの国ではくしゃみすると言うことは誰かに噂されたり思われてたりするからだそうですよ。もしかしたらライラット様が殿下を思ってらっしゃるのかも知れませんね」

そう言ってデュランはそっと影にもどる。

「……服の皺ぐらいのばすよ」

デュランがいなくなったあと、誰に聞かせるわけでもなくルイスは呟くとイソイソと自分の服の皺をのばし始めた。





⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

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