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エンドのその後で

 まだ薄暗い景色の中、一人の少女が小さな鞄ひとつを持って門を潜る。

 この門をくぐるのはこれで2回目だ。

 一回目はやっと手に入れた自由と大好きな人のそばに居れる喜びと不安でいっぱいだった。

 今回は既に色々な物を失っているにも関わらず、初めて門をくぐった時と違い喜びで心はわりと満たされていた。全てを喜びで満たせないのは、ここまでしてくれた人にお礼も謝罪も出来ないままで門をくぐらなければならないからだろう。


「……カトリシア?」

 思わず門のところで、かつての学舎を振り返って入れば名前を呼ばれ少女は声の方へ足を動かす。

「……やっぱり、君はここで残った方が……」

「ううん。これで良いんです。私は貴方が居ないここに残っても何にも意味がないですもの、学院に未練なんてありません。私が居たいのはいつでも貴方の傍です。お兄様」


 カトリシアがそう言えば、困った顔でアクシルは笑った。


「そっか……。ありがとう、カトリシア」

「ええ。ただ、唯一の心残りはライラット様にちゃんとお詫び出来なかった事ですかね」


 こんなに庇ってもらったのにとカトリシアが呟けば、アクシルは更に困った顔でそうだねと呟く。



 城でのラディについての取り調べが済むと、アクシルと学院に残らないと決めたカトリシアは早々に学院の退去および、指定された居住区への移動を言い渡され今に至っていた。

 元侯爵でもあるラディの捕縛は、瞬く間に他の貴族や領地皆にしれわたり、悪行の数々を行っていた事が明るみになるなり水面下で不満を抱いていた人達からの暴動が起こったらしい。それ故安全のためにも自分達の元領地に戻ることなく、なるべく人目につかないように居住区先へ行く様に言われたのだ。


「最も、俺はお会いすることが許されていたとしても、どの顔下げて彼女に逢えばいいかわからない」

 前世の妹への思いがあって、今世でもカトリシアの為だけにヘレンを傷つけるとわかっていて非道な数々をしてきた。それは決して許されることではない。


「お兄様、それは……それは私も同じです」


 カトリシアはまた門を見る。


 アクシルが何を願い、何をしたいのかわかっていた。そのせいでヘレンが傷つくことも。そして、自分もヘレンを傷つけるようなことをしてしまった。

 それでもアクシルが笑ってくれるならと、現実を見ないふりしてアクシルの言う通りに動いた。


 勿論、彼の言う通りにルイスと関わっていくうちに作戦が失敗だと早い段階でわかってもいた。ルイスはヘレンを大事にしていたから。

 それでも自分で彼をとめなかった。


(本当にズルかったのは私だ。それにお兄様達を巻き込んだ)


 アクシルが起こす王子やその婚約者に対する犯罪にも近い不敬で、本当はラディに責任が生じラディ家自体に何らかの処罰が下ればいいと思っていた。もしくは運が良ければ没落まで追い込まれればいいと願っていた。

 それが何もかも自分から奪ったラディへの唯一の復讐にもなるようで、カトリシアはアクシルを止めることをためらってしまった。

 アクシルが自分を傍に置いてくれるだけで満足していたのなら、ここまで拗れる前に何度も止めるキカイはあった。

 けれど、ラディへの憎悪が混じったせいで自分で止めることをはばかり、その結果がこれだ。


 懺悔するとするならば、唯一アクシルにだけはこんな風に追放まがいな目にあっては欲しくなかった。

 彼は侯爵家の嫡男として、ゆくゆくは侯爵家を取りまとめる当主として堂々と過ごしてほしかった。


 今になり、後悔の念が込み上げる。


 あの時ヘレンに助けを求めてしまったのはアクシルだけは救いたかったから。彼女ではアクシルを止めることは、出来ないししたくない。けれど、彼女なら何らかの温情をルイスに働きかけてくれるかもしれないと一抹の期待をもって利用したのだ。


 もし誰もアクシルをとめられ無くても保険になるように。


(私はどこまでも酷い悪女だわ)


 彼女(ヘレン)は自分の事をラスボス悪役令嬢だと言っていた事があったが、本当のそれは私だとカトリシアはうつむいたその時。


「カトリシア……。巻き込んですまなかったな」

 ポンポンと優しく大きな手がカトリシアの柔らかい金色の髪を撫でる。


「え?」

 顔を上げれば困ったように笑うアクシルと目が合う。


「お前もライラット様と同じだな。心の声が漏れてる」

「へ?」


 アクシルの言葉の意味がわからなくて、カトリシアがポカンとすればアクシルは更に困った顔で笑いかけてくる。


「ラディにこさせてしまったせいで、お前までまた何もかもなくすはめになってしまったのは俺が悪いんだよ。だからカトリシアは悪役なんかじゃない。お前にそんなことを思わせて全部悪いのはラディでもある俺なんだから、頼むから自分を悪く言わないで」

「お兄様……」

「いつか、いつか……もしも機会がもらえたならば」

 アクシルはカトリシアの手を握る。

「その時は誠心誠意謝ろう。その時まで俺たちは今度は間違わずに罪を償い、彼らへ忠誠を誓おう」


 握られた手を静にうなづきながらカトリシアは握り返し、もう一度門を見た。

ここまでお読みくださりありがとうございます。


約4ヶ月お付き合い頂ましてありがとうございます。

何度も筆をへし折ろうとした、まだまだ稚拙な作品ですが、少しでも面白かったと思っていただければものすごく幸いです。


誤字脱字報告、いつも助けられてます。ありがとうございます。すごく細かく丁寧に読んでくれてるなあといつも勝手ながら愛を感じてます。

ブクマ、評価してくださる方々。

神です。

本当にこれらは涙が出るほど嬉しいんです。


また気が向いた時にちょこちょこ修正したり追加加筆するかも知れませんが、その時は笑ってまたコイツ書いてるよー。読んでやるかーとページを開いてくだされば嬉しいかぎりです。


本当にありがとうございました。

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