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姫になる方法

「~~~っ!出よハッピーエンドの強制力!」


「「「「……」」」」

 いきなり空に両手をあげおかしな事を叫び出したヘレンに3人の引いた目線が容赦なく突き刺さる。


(くっ……なんなの)


 後味が悪い結末が嫌い。

 絶望が嫌い。


 だけど、どうすればいいかわからない。

 そんなヘレンの苦肉の策が先程の不明な叫びだった。


「ヘンちゃんは頭もヘンちゃんだ」

 サータスが盛大にため息をつけば、ルイスはヘレンから顔を反らしたまま

「それでもヘレンは可愛い」

 と呟く。

 ただ、今も静にオロオロするのはカトリシアだけで、アクシルは無関心な顔のままだ。


「ヘンじゃないわよ!この空気の中断罪だの、魔力剥奪だの淡々と言う方がヘンなのよ!それに、本当だったらここはハッピーエンドがくるのよ!だって、そうでしょ!?私、アクシルに倒されたんだよ!?」

 そうでしょ!?とヘレンはアクシルにズカズカと近づき両頬を持ち上げる。

「私、さっき貴方の魔法をモロに直撃したの!走馬灯だと思うけど、ちゃんと意識まで吹っ飛ばすくらいやられたんだよ!ヘレン・ライラットは倒されたの!」

 それにねとヘレンはアクシルに弱々しく微笑む。

「それにね、私貴方に吹き飛ばされたお陰で私の……うららの最期を思い出してあげることができたの。私はずっと全てを失ったって絶望しながら死んだんじゃなかった……。私は、うららは本当は何にも失ってなかった。ちゃんとお母さんもお父さんも、友達だっていてくれた。ただ、私がそれを見ようとも気づこうともしないで自分だけが悲劇のヒロインだって泣いて、絶望してただけだったの……。貴方だってそう、カトリシア様を姫にできる方法なんていっぱいあるじゃない」


 ヘレンの言葉にアクシルはゆっくり顔をあげる。その目にはわずかに光が灯っている。


「適当な事を、言わないでくれ。カトリシアを、妹を姫にできるのはルイスルートだけだって君も知っているのだろう。俺はただ、カトリシアを姫に、ラディに縛られず幸せになってほしかったんだ。ラディにいれば、カトリシアは幸せには成れない」

「そんなの違います!」


 ヘレンとアクシルの会話にカトリシアは叫ぶ。


「カトリシア……」

「お兄様は間違ってます。私は……私はずっとお兄様だけの、アクシル様だけの、姫になりたかった、んです……。私は、お兄様のそばにいられるならラディにいても幸せでした」


 カトリシアから絞り出される声に、アクシルはハッとした表情に変わる。


「……ずっと、ずっと……。私は本物の姫なんかじゃなくて貴方だけの姫に、貴方のそばに居たかったんです。貴方の言うことを信じて居たのは、あなたが笑ってくれたから……。それだけなんです」

「……カトリシア」

「だから、私を……私を貴方だけの姫にしてください」

 

「カトリシア!」


 アクシルとカトリシアは静かに抱き合う。カトリシアに顔を埋めたアクシルの頬に光るものが見えたヘレンは、彼が少しでも絶望の中に居ない事をただ願うだけだった。


(生まれ変わってまで過去の絶望に囚われなくてもいい)


 なんたってここはゲームの世界だけど、現実なのだから。

 生まれ変わってまで過去をもう背負う必要はないのだから、とヘレンは自分にもそっと言い聞かせた。





 ☆☆☆☆☆





「で、いいのルイ?」

 サータスに顔を覗き込まれ、ため息をつきながらルイスはサータスの顔を遠ざけるように押しやった。

 その顔には不満の二文字が刻まれている。


「……いいもなにも、ヘレンがそうしたいって言うんだから仕方ないだろう」

「あ、そう。つまんないのぉ」

 折角調教プランも考えてたのにぃとブツブツ呟くサータスにうんざりしながらルイスは深い深いため息をついた。

「俺だって不服だ」




 結局のところ、あのあとヘレンはルイスに2人にこれ以上の裁きがないようにルイスに懇願したのだ。

 それだけではなく、話の途中であろうことかヘレンは以前つった装飾品の事を思い出してそれを担保にアクシルとカトリシアの新しい生活環境を整えるように提案までしてきたのだ。


 流石に罪人の家族にそこまで王家が温情を示せば他のものへの示しがつかないので、出来ないとルイスが断れば更にあろうことかヘレンはアクシル達の生活の質をかけて勝負まで持ちかけてきたのだ。


「しかし、あの勝負はなかなか面白かったね。ルイも一回戦くらい実戦で受けて立てば良かったのに。そしたらもしかしたらで、僕も良いものが見れたのになあ」


 サータスも先程の事を思い出したのだろう。ケラケラと笑っている。


「……あんな勝負人前で、しかも俺以外の男が居る前で受けられるわけないだろ!あんな勝負を受けるぐらいなら俺は即敗けを認めたほうが何倍もましだ!」

「と言うか、ルール知らずに受けちゃって、ソッコー白旗だして負けたよね。一回も戦わずに」

「ぐっ……」

 尚も笑うサータスとは反対に、地を這うようにうなるルイス。



 ――ヘレンが持ち出してきた勝負。

 そしてそれを人前で受けてしまったルイスが絶対にヘレンに勝てない、と言うより何がなんでも勝ってはいけなかった勝負。


 その名もうららの記憶から思い出された、日本に代々伝わると言われるれっきとした勝負。


 野球拳。



 なんて危険な勝負をヘレンは提案したのだろうと、もう何度目かわからないほど深く深くため息をつくと、ルイスは頭を抱えた。



「負けるに決まってるだろう」


 俺が間違ってじゃんけんに勝ってしまったら、ヘレンの肌があの場で晒されるんだから……。


 ヘレンの前世だったと言われる日本は、何と恐ろしい勝負を思い付く国なのだろうと静かにルイスは震えながらも恨めしそうな目線をヘレンが現在診察中の部屋にむけた。

お読みくださりありがとうございます!

ポチポチ修正かけつつ進めております。


野球拳

恐ろしいと思いつつ

いつか2人きりの時に勝負を受けてたとうと考えるよこしまなルイスが、そこにはいた……


そのうち番外編でルイスとヘレンの野球拳実況中継しようと模索中。



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