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嫌なのよ

「あの……ですね、ちょっと確認なんですけど……」


 うつむくアクシルとカトリシア、なんだか普段と違って近寄りがたい王族オーラを出すルイスを前にヘレンは勇気を振り絞って声をあげる。


「いや、確かにアクシル様にはなかなか酷い目には逢わされましたけど……。ラディさんのお家は悪いことをしたので致し方ないように思いますが……」

 チラリとヘレンはアクシルを見る。

 項垂れた彼は廃人のようだ。


(本来なら私が断罪されて、ああなっていたのよね)

 そう思うとヘレンは心から終わったと安堵して手放しで喜べずにいた。


「まあ、多少バチが当たるのは仕方ないと思うんですよ、私も。むしろ何もないことの方が腹が立つのは本音なんだけど……、でも……」


 語彙が支離滅裂になりつつ有るものの、ヘレンはたどたどしく言葉を紡ぐ。そんなヘレンの言葉をサータスが止める。


「ヘンちゃんはもしかしてだけどさー。アクシル達を救おうとしているの?」

 突然図星をつかれ、ヘレンはビクリと肩を震わす。


「べ、別に。別にそんな事し、しないわよ。ただ……」

 ギュッと自分の腕をつかみ、ヘレンはうつむく。


「ただ、絶望だけが残るのは嫌なのよ」

「絶望ねぇ。でもさあ、ヘンちゃん。アクシルがしてきたこと知ってる?」

 サータスはヘレンに向かい合うと、身を屈めヘレンと目線を逢わせる。


「サータス、それは……」

「いやいや、教えてあげなきゃ。知った上でヘンちゃんはどうしたいんだろうね?」

 ヘレンを庇おうとするルイスを、サータスが遮る。


「彼ね、町でヘンちゃんが暴漢からカトリシアを守ろうとしたのを知ってて、ヘンちゃんが男達に襲わせたんだってあの時一番最初に叫んだんだよ?お陰で皆がヘンちゃんを悪役にしたでしょ?」

「え?」

(そうだったの?)


 アクシルをチラリと見るも彼は無表情のままだ。

「他にもね、ヘンちゃん達が落ちたテラス。元々耐久性に問題があったのは本当なんだけど、アレはカトリシアが吹き飛ばされた時に魔法が使われてなければ壊れなかったんだよ?ちなみに吹き飛ばした子は見つけたんだけど、どうしてか急にカトリシアを襲いたくなったんだって」

「ええ?それって……」

 それって……なんだかデジャヴ。

「そう、アクシルがその子に意識操作かけてたんだ」


 その言葉に今度はカトリシアが反応する。

「……なんで?お兄……様。な、ぜ……」

 その声は震えている。

「なぜって?そんなのヘンちゃんが悪役令嬢の役をしなかったからでしょ?これは彼で言うイベントで、ここでカトリシアがヘレンに襲われないときっとうまくなかったんだろうね。それに、ヘンちゃんに似ている子にそう言う役をやらせておけば後からへんちゃんに罪を擦り付けやすくなるしね」


(ん?どうして、サータス様がそこまで知ってるの?)


「ヘンちゃん、ヘンな顔してる」

「……失礼ね。もとからこういう顔よ」

「そう?僕がどうしてこんなに色々知ってるのかって思ってたでしょう?」

 図星をさされヘレンが苦い顔をすれば、クククとサータスが笑う。


「まさか……、貴方も転生者だから、とか?」

「ピンポーンって、そんなわけないでしょ?普通に考えてよヘンちゃん。ルイは学院の生徒と言えど一国の王子だよ?安全を守るために影に護衛がついていないとでも?」

「!?」

「彼らから随時くる情報を組み合わせれば現状把握なんてその場に居なくてもできるし、やらなきゃ行けないのが未来の宰相といわれる僕のお仕事でもあるからねー」


(なんと!?)


 確かに良く考えればどの国でも国のトップにはSPやら護衛やらついている。

 ルイスも良く考えれば次期国王だ。そんな事あるかもしれない。


「いや、ルイだけでなくってさ……。ヘンちゃんにもついていたと思わなかったの?」

 ヘンちゃん一応未来の王妃だよね? とサータスに言われるとヘレンは思わず令嬢らしからぬ声をあげてしまった。

「はぁ?」

「ルイだけでなくって一応、ヘンちゃんにもちょっとついてたんだよ?ただ、ヘンちゃんにが途中で地味ーな魔法を自分に使い始めるから護衛が機能しなくなって、それで面白いから途中で僕がヘンちゃん係になったのー。お陰でゲームやらラスボス悪役令嬢やら転生者やら隣国の姫やらなんか面白いワードだらけで飽きなかったよ」

(!!)


 ヘレンはギギギとゆっくりルイスに事実を確かめるように振り向けば、ルイスはさっと視線をそらす。

(視線がそらされたって事は……、本当の事ね)


「それって……私、もしかして色々と、見られてたって……」

「うん、見てた。まあ、ヘンちゃんの地味魔法による邪魔もあったせいで、そんなにずっとは見守りは出来なかったけど、一応ね」


 サータスの言葉をコホンと咳払いでルイスが遮る。


「それより、大分話が反れたけれどヘレンはどうしたいんだ?」

 改めてルイスに問われ、ヘレンは口をつぐむ。


 若干話を誤魔化された気はするけれど――。

 しかし、どうしたいのかいざ問われるとヘレンも自分自身で言ってみたもののどうして言いかわからない。


 ただ、このままではなんとなく後味が悪い思いだけがはっきりとヘレンの中にあった。


 勿論アクシルにされてきたことを許すつもりはない。ラディ家だって聞けば中々非道な事をしているのだから自業自得だとも思う。


 だけど……。このままだとアクシルの前世の思いもまた報われない気がする。


(私だってルイス様を振り回してまでラスボス悪役令嬢になりたくなくてもがいていたのだから……)


 それに全てを失う悲しみをヘレンも知っている。


(もし、ここが現実であってもやっぱり少しはゲームの世界の影響を受けているのなら……)

 少しだけでもハッピーエンドの強制力だってあったって良いはずだ。

誤字脱字報告ありがとうございます!

助かっています。


ブクマありがとうございます!

よろしければ下の☆☆☆☆☆で評価もお願いします!土下座。

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