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お母さんと麻袋と

『ヘレン・ライラット!数々の悪行、その身をもって償え!――――!』

『きゃあぁぁぁぁぁ!』


 しばらく真っ黒な画面が表示され、ゆっくりと穏やかなメロディーと共に今度は眩く、幸せに満ちたような画面に切り替わる。

 それと共にゲーム機を持った手はパタリと力なくベッドに放り出された。

『……ゲームまで終わっちゃった』

 視界には無機質な天井だけが写る。

『ヘレンは悪いことをしたから終わったんでしょ。仕方ないじゃん、悪いことをしたんだから』

 でも……

(私は何にも悪いことをしていない)


 痩けた頬に冷たいものが伝う。

『なんで、何で私……悪いことをしてないのに……』


 皆、どうして来てくれないの?

 私、そんなに嫌われることした?

 なんで私ばっかり……



 頬に冷たい感触が伝う度に息が荒くなり、苦しさが増す。

『苦しい……助け、て……』


 視界がかすみ、助けを呼ぼうとするのに手足が言うことを聞かない。

 ああ、このまま自分は終わるのか。

 ついに自分にもエンドが来たようだ。


 早くこの絶望や苦しさから楽になりたくて、そっとうららは目を閉じる。

(どうでも良い。この世界にはもう何もない)


 そんな時、優しい温もりがうららをしっかりつつむ。

『うらら!うらら!しっかりして!!だめ!だめよ!いやよ!』

 うっすらと閉じかけた目蓋を開ければ、霞んだ視界の中ではっきりとみえる。

(お母さん……)

 その姿はなぜか防護服で身を包まれている。

『ごめんね、ごめんねうらら……。ずっとお部屋に入っちゃだめだって言われて、来れなくて。寂しい思いをさせちゃってごめんね。お母さんやっとお部屋にいれてもらえたの!だからお願い!お願いこれからはずっとここにいるから……だから』

 ボロボロと抱きしめながらなく母。その後ろには父もいる。

(来てくれたんだ……)


 つつまれている優しさや、匂いが懐かしい。

 何日も来てくれない日が続き、きても触れる事がなかったからもう見放されたのだと思っていた。

(お母さん、なかないで……)

 触れようにももう手足がついているかどうかの感覚もわからない。


『うらら!頑張れうらら!やっと、やっと皆で作って出来たんだよ!皆でうららが元気になるように……つくって……やっと。やっと出来た……のに!』

(――――ちゃん?来てくれたの??)


 彼女の手には漫画やドラマで見たこともある動物が幾重にも連ねられている。

(つくって、くれた?わた……しの、た、め?)


 目蓋が重たくなってきた。

 もう自分が息をしているのかどうかもわからない。


 それでも、ゆっくりと薄れ行く意識のなかで失くなって行ったと思って絶望してきた感情は消え暖かみを取り戻す。


 自分は皆から見放されていたようではないようだ。


 その事実にうららの頬には暖かいものが伝っていた。











「――レン!」

「……」

「ヘレン!!」


 力強く、それでも優しい温もりに包まれていることに気づきそっと目蓋を開ければ若干視界はボヤつく。

「……お母さん?」

「ヘレン!?」


 ガバリと抱きしめられれば、鼻をくすぐるような甘い匂いが妙に心地よい。

「お母さん、いい匂い……」


 尚もぎゅっと抱きしめられれば、安心感に包まれる。

 再びヘレンが目蓋を閉じようとしたその時――


「ヘンちゃーん、ルイはヘンちゃんのお母さんじゃないからねー。それからルイー。またヘンちゃん気絶しようとしてるから手を緩めてあげて。」

 呑気な声が部屋とヘレンの頭の中に響く。


(……ん?ルイ?ヘン、ちゃん?)


 その声に、言葉に引っ掛かりを覚え閉じかけた目を再びゆっくりと上げれば、サラサラの暮色の髪が写る。


(サラサラ……髪……?)


「………」


(ここは……?)

 ぼんやりとながら目を見開けば、そこには家具等が散乱している部屋や、サラサラ暮色ヘアー越しにこちらにむかってヒラヒラと手を振るサータスの姿がみえる。


「サータス……様?」

(と言うことは……。これは?)


 自分をつつむ安心感から顔をそっと離し、サラサラの暮色ヘアーをたどれば、そこには……

「……ヘレン」

「っ!!きゃぁぁぁあ!」


 そこには、見慣れたゲームの無難攻略キャラことルイスが眉間にシワを寄せてこちらを見つめていた。

 その事に急に気づいたヘレンは思わず声をあげて、バっと音がする程の勢いでルイスから飛び退いた。


「……ヘレン、お母さんはかなり我慢するとしても、流石にそれは傷つくからね」


 割りと最近思う事が多くなってきたが、ルイスがニッコリ笑うと後の背景から黒い影がみえるのは気のせいだろうかとヘレンは冷や汗を流す。

「痛っ!」

「!ヘレン!」

 ルイスからジリジリと離れようとしてヘレンはズキリと体の痛みを感じて見れば所々かすり傷をおっている。


「ヘレン!急に動かない方がいい」

 怪我をしているんだからとルイスに再び抱きしめられれば、ヘレンに先程の記憶が甦る。


(あ、そう言えば……)


 アクシルが放った黒い魔方陣。それが目に入った瞬間、ヘレンはルイスを庇うようにルイスの前にたち、そしてそのまま魔方陣を直撃したのだ。

 お陰で満身創痍で動けない。


 そんなヘレンを抱きしめつつルイスは荒れた家具から器用に椅子を起こすと、ヘレンをそこに優しくおろした。


「直ぐに医者を呼んだからもうちょっとだけ辛抱してくれ」

 そう言いながら顔をしかめてルイスは簡単な回復魔法をヘレンへ施す。お陰でチクチクとしたじみな痛みは回復しつつある。


「いえ、私はもう大丈夫なのですが、それよりもカトリシア様や……アクシル様は……」

「あの、私はここに……」


 ヘレンが顔を上げれば、オズオズとカトリシアが真っ青な顔をしてこちらに歩みよってきた。


「目覚めた……?」

「ああ、彼女はヘレンがアレから魔法を受けた後でヘレンよりも先に目覚めたんだ」

 苦々しそうな顔でルイスがヘレンに告げる。


「私が魔法を受けてから……」


 ゲームでもヘレンが攻略キャラから最初の攻撃を受けてから、カトリシアは目覚めた。


「やっぱり強制力でカトリシアは目覚めなかった………。とすると、アクシルは!?」


 今度は目覚めたカトリシアと共にヘレンに攻撃を――


 そう思い身構えたヘレンに、ルイスは苦笑いでもう大丈夫だからと頭を撫でてきた。


「そうそう、ルイの言うとおり~。なんたってアクシルはここにいるからね」

 ほらっと満面の笑みでサータスが指差す先に今度はヘレンが真っ青になった。


 なぜなら、そこには背景こそ違えど見たことのあるスチルのワンシーンが広がっていた。



 人の形をしたような麻袋とサータスの満面な笑みが――。

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