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デジャヴ

(お、落ち着かないわ)


 ヘレンは現状にソワソワしていた。

 只でさえ今日、この会場で何時かは分からないがイベントが起こると知っていて不安で一杯なのに、加えてこの状況はいただけないとヘレンは大きくため息をついて腰に回っている手をチラリと見た。


「ん?ヘレン、どうしたの?」

「……あ、あの。いくらなんでもこれはやり過ぎかと……」


 残念ながら先程の後妻云々の流からルイスは何を思ったのかヘレンの腰に回した手を離さない。そのお陰で異様な程ヘレンとルイスの距離は近い、それどころか密着していた。離れようとすればルイスの手に力が入り、輝くばかりの王子スマイルで離れないでと無言の圧をかけられる。ダメもとで近すぎると言えばそんなことはないよ?と恐ろしい程整った更なる王子スマイルで返答され、余計に密着させてくるので質がわるい。


(こんなことなら後妻については言わなければよかった。と言うか、後家に私を追いやるのも婚約破棄するのもルイス様なのに……)


 要はアクシルとイベントが起こってもルイス自体にそんなことをする気がなければ良いだけなのだが。今更ルイスにそんなことを言っても無意味だろう。

 しかし、こんなに密着していれば歩きにくい。それにやたらと回りからジロジロ見られてしまうので、若干の居心地の悪さは感じてしまう。

 反対に、ルイスからはそんな様子はうかがえない。さも当たり前のように優雅な動きに乱はない。

 そんなルイスをヘレンにはどうすることもできなく、ひたすら胸の高鳴りに気づかないように色々考えることに意識を切り替える。


(アクシルの作戦は殿下をそんな風に(婚約破棄)させたくなるような物かも知れない……)

 ラスボスにするために、ストーリーにそってカトリシアのハッピーエンドを迎えなければ、彼の目的である姫にはなれないのだから。


 アクシルがその作戦に成功すれば、こうやってルイスと密着することもなくなるのかもしれない。なんたって、アクシルルートは婚約破棄ののちに後妻行だ。


(それは、それで……さみ……)


 ヘレンは考えの途中で頭を振る。

 ここで、寂しいと素直に感じてしまえばもし万が一本当にラスボス悪役令嬢に転じてしまった時、断罪されることで喪失感ができきっと耐えられなくなるだろう。

 もしかしたらあの時のうららよりも、絶望してしまうかも知れない。


(だめ!まだ、私はラスボス悪役令嬢にならないって保証されるその日まで気を抜いちゃいけないの)


 それに、万が一ヘレンがアクシルの策にはまってしまった時、ヘレンが悪役のせいで、そばにいたルイスにもしかしたら何かしらの代償が飛び火する可能性だって捨てきれない。

 彼はこの国の権力者の唯一の息子だ。

 そんな彼はこれを機に貶めようとする輩にはめられるかもしれない。


 流石に今まで散々振り回してきてしまったのだ。せめて、ラスボスになったとしてもルイスには迷惑がかからないようにしたい。それが出来れば、最悪自分は頑張ったとヘレンにとって今後の支えになるかもしれない。

 そう思えば、うんとうなづきヘレンはルイスに顔を向ける。


「る、ルイス様!こんなに近いと万が一私がラスボス悪役令嬢だと扱われた時に、貴方の王族としての格に傷が――」

「別にそんなものはどうでもいいよ」


 折角意を決して声を出せば、全てを言いきる前にルイスはどうでもよさそうに声を被せてきた。


「ヘレンはまた変なことを考えてるんでしょ?ちょっとこっちきて」


 そういってルイスは人混みの中から抜け出し、一番近くにある人気のないテラスへ誘導してきた。


(あ、このテラス……)

 見たことが……。でもなんだっけ??


 ムギュッ

「ふへ!?」


 ヘレンがテラスの景色に目を奪われているとルイスが困ったように笑いながらヘレンの鼻をつまんできたのだ。

「ふ、ふいふはな!」

「もう!ヘレンはなんでいつも変な方向に思考をもっていくのかな?」

「?」

「あのね、ヘレン。本当は俺は王子だって事も、その役割も要らないんだ。欲しいのはヘレンだけだから」


 ルイスの真剣な眼差しに思わず胸が高鳴りかけたその時――


「本当に貴方は邪魔なのよ!!」

「きゃあぁ!!」

 甲高い叫び声と共に、勢いよくヘレンとルイスが立っている隣の手すりに鈍い音と共に人が飛んできた。


「「!?」」

 思わずルイスとヘレンは飛んできた人を見て固まる。


「か、カトリシア嬢?」


 最初に声を出したのはルイスだったが、ルイスが動くよりも先にヘレンはカトリシアの側へ駆け出していた。

「ちょっと!大丈夫!?」

 手すりに思いっきり背中を打ち付けたのだろう。カトリシアは呻きながら中々動けずにうずくまっている。


「うう、お、にい……様」

 小さく声を出しカトリシアは気絶した。そんなカトリシアを抱き上げつつ、ヘレンのは全身から血が抜ける用な感覚に陥った。


(この場面……)

 ヘレンはバッと顔をあげ、カトリシアが飛んできた方向を見る。

 そこには黒髪を乱し走り去る小さくなった令嬢の背中がなんとか見えた。

 その姿はまさしくゲームの中のヘレンそのもの。


 ――見たことがあるはずだ。

 逃げ去る令嬢の後姿。

 このテラス。

 そして、うずくまっているカトリシア。


 これはまさしく本来ならヘレンが起こすはずのイベント。

(でも、私はここにいるのに……)


 本来ならあの逃げ去る黒髪の令嬢はヘレンの役割をだったはず。

 彼女はいったい……。


「ヘレン!カトリシア嬢は?」

 ルイスがヘレンにかけよって来たため、ヘレンは考えをやめカトリシアに視線を移す。

「ルイス様。カトリシア様は気絶されたようです。出来れば医務室に運んで頂きたいのですが……」

 そう言えば、ルイスは分かったと言いカトリシアをヘレンから受け取り抱き上げてくれた。


「カトリシア嬢は俺が運ぶからヘレンも一緒に来て。今この状況で君から離れるのは嫌だから」

「分かりました」



 ビシィィィ……


 ルイスとヘレンがテラスを後にしようとしたその時――


 おかしな音が盛大にしたと同時に、ルイスとヘレンの僅かな距離に一瞬にしてテラスに巨大なひびが走る。

 それは、まるでヘレンとルイスを割くように。



「え?」

「ヘレン!?」



 亀裂が入ると同時にフワリと地面が揺れ、一瞬にしてヘレンの体は浮遊しているような感覚に陥り足元を掬われてしまった。


「あ、あれ?」

(イベントにこんなこと――)


 そして、ゆっくりとヘレンとルイスの距離が開く様な感覚にヘレンは陥る。


(あ、これ……もしかして?)


 過去に落馬しそうになった時の様に、ヘレンの視界はゆっくりと動く。

 そこにはヘレンに前にも見たことがある、あの日の様に瞳を大きく見開き、あわてふためいているルイスが映った。


(デジャヴ……)




 そして瞬く間にルイスのそんな顔は、崩れ去るテラスと共にヘレンの視界からフェードアウトしていった。

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