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笑えない冗談

(今日は何も起こりませんように!)


 ビシッといつものとおりじみ目の制服に袖を通すと、ヘレンは鏡の前で胸をギュッと手に力をこめて握った。


 卒業記念パーティーは卒業生との交流と言うことで、全学年が集まる大規模なパーティーだ。

 ただ、学院はかなりの広さを誇っているためその人数がはいれるほどの巨大な会場をもっている。

 8学年が一斉に集うのだ、それなりの人数になるだろう。


(今思えばそれもなかなかすごいことよね)

 そんな人数の人前で私は断罪されたり、ラスボスにされて戦わされたりするなんて……。


 考えただけでげっそりする。

 今日イベントがないことなど多分ないだろう。なんたってゲームではあったのだから。ただ、その内容がヒロインが誰を選ぶかによって違うだけだ。何かが起こるのが分かっていてもなにも起こらないようにと願ってしまうのが心情だろう。


 しかし、この貴族社会の縮図とも言える学院で、そんなに大勢の貴族の令息、令嬢の前でそんなことしていたらそりゃ国外にまででなければヘレンの貴族人生は詰むだろうとヘレンは思っていた。

 恥もいいところだ。


 本心は岩にかじりついてでも欠席もしたいところだが、今日を欠席したら……


 暗い顔でヘレンは鏡のなかの自分を見つめる。


 きっと休んだらアクシルの思うつぼだろう。ヘレンが居ないのを良いことに、言い逃れ出来ない程に悪いことをしたことに仕立て上げられ、いずれルイスがヘレンと婚約破棄して捨てるように強制力などを利用してゲームのストーリー通りに駒を進めてくるに違いない。


(どっちにしても私は今日は頑張るしかない)


 グッと拳を再度握り、ヘレンはゆっくりと部屋をあとにしてルイスとの待ち合わせの場所を目指した。






 ☆☆☆☆☆





「ヘレン、顔怖いよ?」


 ヘレンの顔を見たルイスは片眉を下げて驚いたような呆れたような顔をする。


「……酷くもなります」


 なんたって今日はヘレンの運命を左右するイベントと言っても過言ではないほどのことが起こるはずなのだから、緊張するなと言う方が無理だ。一応いざというときのために魔法玉はきちんともってきてはいるし、なんとなく攻撃に使えそうな魔法も少しだけ覚えてきた。

 グッと拳を握ったままでだまっていれば、そんなヘレンの頭は大きな手でポンポンと撫でられる。


「……ルイス様、子供扱いしないでください」


 身長はもう随分前から彼の方が高くなっている。だから頭を撫でられたりすれば完全に子供扱いされているようで、最近までお姉さんぶっていたヘレンとすればなんとなく面白くない。


「んー?してない、してない」


 してないと言う割にはルイスの手は頭から外れない。それどころかヘレンが頬を膨らませて抗議の眼差しを向けても可愛いなぁとルイスの笑い声が聞こえてくる始末だ。

 結果的に増々ヘレンは頬を膨らませる。



「……ヘレン。それは可愛いだけだって。大丈夫、今日は何があっても守るから」



 頭から手を外され今度はヘレンの固く握っていた拳の上から、フワリと包み込むように優しく大きくなったルイスの手が覆うようにヘレンの手を取る。


「……だから、こんなに固く握ってなくて大丈夫」


 突然ルイスが少し屈んでヘレンを覗き込んできたせいで、ヘレンは身体中が熱くなり顔も思わず赤らめてしまう。


「~~っ!きゅ、急に覗き込むのはや、やめてください!!」

 空いている手で赤くなった顔を見られたくなくて隠せば、今度はその手も握られてしまう。


「赤くなったヘレンも可愛い」

「~~っ!!」


 ルイスの優しい瞳や大きな手がヘレンに安心感を遥かに上回るドキドキと羞恥心を与える。

 ヘレンの頭の中は照れと恥ずかしさとドキドキでもうパニック状態だ。


(なんなの!なんなの!この無難攻略王子!)


 今まで自分が精神的に年上だからとルイスを相手にしてもさほどトキメク事はなかったのだが、年が同じになってからと言うものルイスが異様に異性としてのアピールをしてきているようでヘレンはタジタジになってしまっていた。


 そもそも前世のうららも元々恋愛してきていたわけではない。

 思い出してみても小学生の時はあのこカッコいいなーレベルで好きな人が居た位だし、中学生になってからは好きな人と手を繋いで帰るくらいな経験しかもちあわせていない。

 高校に入ってからは図書館の司書さんかっこいいと思った位であっという間に病気になってしまったので、結局は恋愛に関しては殊更初だと表現しても間違いではい。


 そんなヘレンにルイスのこのアピールは刺激が強い。ゲームの時ですら思わずうららがムキャーと身悶えする時だってあったのに、リアルでされるとさらにおかしくなりそうだ。


「わ、私をからかってないでください!今日を何とか乗りきらないと、下手をすると私はどこかの辺境のロリコンお爺さんの後妻に入らないと行けなくなるんですから!」


 恥ずかしさを紛らわしたくてヘレンが思わず叫んだ一言に、突如ルイスは笑顔のままで動かなくなった。

 不思議に思い今度はヘレンがルイスの顔を覗き込み直ぐに後悔した。


「る、ルイス様?お顔が……怖いです」


(み、見てはいけなかったかもしれないわ)


 笑顔なのに、どうしてだろうか。ルイスのその笑みは怖いと感じてしまう。思わず引きかけたヘレンをルイスはガッシリつかむ。


「ん……ヘレン。あんまり良く聞こえなかったんだけど、後妻がどうのこうのの件についてもう一度教えてもらっていい?」

「へ?え、えっとあの……。ここでルイス様が仰られてた通りイベントがおこるとですね、そのイベントの出方次第では私は婚約破棄されて辺境のロリコンお爺さんの所で後妻に送られてですね、えっとそのあと辱しめにって……る、ルイス様」


(顔!顔!!目茶苦茶怖いんですけどー!!)


 笑顔は崩れていないのに、何とも表現し難い顔をしたルイスにヘレンの顔は引き攣る。それに心なしかルイスの回りの温度も下がっているような気までしてきたヘレンは恐怖でブルリと震えあがった。


(聞かれたから答えただけなのに……)

 私悪くないよねとヘレンは首をかしげる。

 と言うより、ゲームではそんな怖い顔をしている張本人が後妻への片道切符をきるのだが、そんなことはとても今のルイスの顔をみると口には出せない。


「大丈夫だよヘレン、婚約破棄はしないしさせないからそんな笑えない冗談はもう言わなくて良いよ」


 ね、っと端から見ればにっこりと笑いかけるルイスにヘレンは無言の圧力を感じてしまいカタカタと震えながら無言でうなづき続けた。


 そして、半泣きでうなづき続けるヘレンの手を相変わらず握りしめながら、ルイスがボソリとヘレンには聞こえないように害虫は完膚なきまでに叩きのめすと呟いていたのだった。

ここまでお読みくださりありがとうございます。何とか連日投稿出きるように頑張ってはみますが、時々休んでたらごめんなさい。



前話でポンコツ作者のミスを見つけてしまったので修正を途中でかけました。もしよろしければ前話からお読みくだされば幸いです。

ブックマーク、評価は頑張る力になるので是非お願いします!!土下座!

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