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立場逆転

 相変わらずキラキラしているテラスでヘレンは何をするわけでもなく、ルイスとのお茶で時間を潰していた。

 そんなヘレンの耳には今は暁色の小さな丸いイヤリングが揺れている。

 ルイスがヘレンにした約束の一つ目でもらったイヤリングはヘレンの漆黒の髪から見えかくれし、まるで夜空から朝を迎えようとする太陽のようで、キツく見えるヘレンの印象を柔らかくしてくれていた。




 2人だけのお茶会をするようになってから、避けるだけの以前とは打ってかわって、ルイスと一緒に過ごす時間が日に日に増えるようになっていた。

 別に婚約破棄をかけた勝負を禁止されている訳ではないが、ヘレンのためと色々気を遣ってくれている素振りが見えかくれするルイスについ甘えてしまっていることが引け目にかんじてしまいそんな態度をとれないでもいた。

 それにルイスとこうしてすごしていてもヘレンがラスボス悪役令嬢に追い込まれるような緊迫感もなく、ルイスの宣言通りあんなにも酷評のようなヘレンに対する悪い噂まで鳴りを潜めるようにピタリとやんでいた。


 それこそピタリと噂がやんだので、ヘレンはルイスに何をしたのか問いただせばルイス曰く「ちょっとね」でその話題は打ちきられてしまった。

 いったいちょっと何をしたのか、深くヘレンが言及しようとすればルイスの一見爽やかな、でも背景がどす黒いオーラ全開の王子な笑みで黙秘されてしまいそれ以来聞くに聞けないでいた。


 そんなこんなのおかげで、ヘレンが今までラスボス悪役令嬢を避けるべきしてきた、婚約破棄するための頑張りはなんだったのか思わず強制力を疑ってしまう位には平穏だった。




 そうして日々が少し過ぎたころ、ついにルイスもヘレンも16歳となり、明日はいよいよアクシル達の学年の卒業記念パーティーが執り行われることとなった。


「ヘレン、明日は卒業記念パーティーなんだけど、前に言った罰の3つ目覚えてる?」


 いつもと同じようにテラスでお茶を過ごしていたヘレンにルイスは問いかける。


(罰というか……)

 ただ、ヘレンを守ってくれているというルイスの優しい約束だとヘレンは耳元の小さなイヤリングをさわりながら思いつつ、ルイスに答える。


「ええ、確か卒業記念パーティーをルイス様とご一緒させて頂く事だったと」

「そう、それね。ねえ、ヘレン。多分明日はアレが動くと思うんだ」

 お茶を飲み干したルイスが、渋い顔で呟いた。


「アレ?アレって……もしかして……」

(アクシル様……それともカトリシア様?両方?)

「両方かな?ただしカトリシア嬢は俺らに対してと言うよりも害虫駆除に関して動くかもね。ただ、問題は害虫のほうだよ」


 相も変わらずルイスはヘレンの心の声に反応するも、ヘレンは慣れすぎてもうどちらで会話するのもどうでも良くなっていた。


 そんなルイス曰く、卒業してしまえばもうカトリシアとルイスをくっつけるチャンスをアクシルは失ってしまう。そうなれば、何かをしてくるのには必ず明日が好機となるだろうと言うことだった。

ルイスの読みはだいたい当たっている。

明日は確実に何かイベントがおこるだろう。

ただ、それがアクシルルートのイベントなのか、もしくはルイスルートなのかははっきりしない。


カトリシアの思いが通じればアクシルルートだ。ただ、アクシルの戦略道理なら――。


「あの害虫はそこまでして自分の妹を俺に押し付けて、自分が権力を得たいと思っているんだね。まったく、ラディの血はどこまでも汚い」

 そうルイスは苦々しそうに呟いていたが、多分それは違うとヘレンは思っている。


 (アクシル)は権力が欲しいのではない。ただ、純粋に妹の願いを叶えたいだけなのだ。


 (確かにあんなにも妹を姫にしたいと切望していた彼が諦めて何も仕掛けてこないとはおもえない)


 アクシルのそう言う思いはヘレンにとって迷惑以外の何物でもないのだが、ただなんとなくヘレンはアクシルがそこまで前世にこだわる気持ちもうっすらと分かるような気もしていた。


(私もアクシルと似たようなものだもの……)

 うららは全てを失いながら死んだ。

 それは恐怖や失望や悲しみだけしかなく、耐えられないほどつらかった。

 だからそんな思いをまたしたくなくて、ヘレンだって心のそこでは婚約破棄やラスボス悪役令嬢に向けての強制力をまだ恐れている。きっとアクシルだってそうなのだろう。妹の願いを叶えられず幼くして死なせてしまった事は彼にとって何にも返られない苦痛だったのだろう。

 そしてその過去の辛さが今の彼を捕らえて動かしている。


 そんなアクシルと、ルイスの気持ちを見て見ぬふりして婚約破棄を一方的に迫るヘレンと何が違うのか。


 それに、こんなにも穏やかに時を過ごさせてくれるルイスにだってまた強制力が働くようであればもしかしたらヘレンは……。

 そう考えるとヘレンの胸はズキズキと痛み思わず自分の胸を強く握ってしまっていた。


 アクシルについてヘレンが考え込んでいると突如ヘレンの鼻がぎゅむっとつままれ、ヘレンは間のぬけた声をあげてしまう。

「ヘレン?また何か変なこと考えてた?」


 ヘレンが目を見開いてルイスを見れば、ルイスは鼻から手を離し困ったように笑っていた。

「ヘレンがラスボス悪役令嬢だっけ?そんなのになるような事にはならないと思うけど?それから強制力だっけ?それが働いてヘレンが逃げようと勝負をするなら、俺は余裕でその勝負勝つから大丈夫。ヘレンが婚約破棄して俺から逃げれることは無いとおもうよ?」


 そう言って優しく頭をポンポンされてしまった。

 まるで子供をあやすように。16歳を迎えた最近の彼は如何せんヘレンを子供扱いしてくる時がある。


(同い年なのに……)


「……ルイス様。最近私を子供扱いしてませんか?私達同い年ですよね?」

 ヘレンがジッとルイスを見ればルイスはいたずらっ気を含んだ笑みに変わる。

「同い年だけど、考え方や行動は多分俺の方がヘレンより経験豊富なんじゃない?」

 そう言うや否やルイスはフワリとヘレンの腰に手をやり自分のそばに引き寄せ抱きしめる。


(顔!顔が近い!)


 身体だけではなくルイスの顔がどんどんヘレンに近づいてくる。ヘレンはルイスの胸に手をあて押し返すも、ルイスはびくともしない。

 それどころか押し返そうと力を込めれば込めるほどルイスの身体も顔も近くなっていく。

「ヘレン……」

 ルイスの熱が、吐息が伝わるほどにまでヘレンに近づき、おもわずヘレンがギュッと目を瞑ったその時、カシャンとテーブルの上のカトラリーが落ちた。


 そこにルイスが一瞬目をとられた隙に、ヘレンは何とかルイスの腕の拘束から抜け出すことに成功した。

「~~っ、ルイス様!」


 抜け出しルイスとの距離を離し、顔を真っ赤にしながらフーッと猫のように威嚇すれば、ルイスはハイハイと片手をあげて降参のポーズをとりつつクスクスと笑っていた。

「こういうのはヘレンはお子様だね。俺の方が大人だから」

 そう言われると、ヘレンは更に顔を真っ赤に染め上げる。

「~~ふ、不健全ですっ!!」

(い、今までお子様だったくせに!!)


 急に立場が逆転したようで、何とも言い返せずヘレンはただただ真っ赤な顔をルイスから背けることしかできず、後ろではクスクスとルイスの楽しそうな笑いだけが続いていた。

閑話休題☆保護者との攻防


真っ赤になったヘレンを無事に寮に送り届け、一人部屋に戻ったルイスは壁に向かって勢い良く枕を投げつけた。


投げつけた枕は壁に当たりもせず、だからと言って床に落ちもせず、ただゆっくりとふわふわと浮かんでいる。しかし、その光景に驚くこともせずルイスは浮かんでいる枕に近づき、今度は勢い良く宙から枕をひったくり叫ぶ。


「なんで良いところでわざとらしく、石なんて投げてくるんだよ!」


引ったくった枕を今度は思いっきりギューッと抱きしめたルイスはそのままベッドにダイブする。

ヘレンは気づいていなかったようだが、ルイスはちゃんと気づいていた。


影に徹していた保護者がルイスがしようとしていたことを防ごうとわざとカラトリーに石をぶつけて落とした事を。

そのせいで、ヘレンに逃げられ威嚇されたことを。


「もう少しで、もう少しで」

ヘレンと……


先程の光景を、からだの熱を、真っ赤になった漆黒の髪の持ち主を思いだしルイスは枕を抱えたままジタバタと騒ぐ。


あの時石が投げつけられ、それがカラトリーに当たった事に気をとられなければ……。

スルリと腕から逃げ出され、その後は妙に警戒されてしまったせいで上手く雰囲気を作れずせっかくのチャンスも台無しになってしまった。


「俺は……俺だって」

あああああとルイスが相変わらずベッドでバタバタ騒げば、ヒラリヒラリと一枚の紙がルイスの顔に落ちてきた。

そこには一言綺麗な文字で「不健全」としたためられ、傍目で見ればルイスしか居ない部屋で、半泣きのルイスが一人であちらこちらに枕を投げつける光景が繰り広げられた事は当事者達しか知らない。








後半でなんとかキュンキュン、ホワホワさせられる内容になってたらいいなぁ。

後書に閑話休題が書きたかったから今回だけ時間予約してみました。

閑話休題は本当に思いつきだから全く物語に関係していないので悪しからず☆

カラトリー落とした保護者様はデュラン様☆


すいませんまた連日投稿出来ない日々がチラホラと続きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっと安心して見れる内容になりました。 一歩先回りできるルイスがかっこいいですね、 このままもっとルイスのカッコよさに振り回されてほしいです。 [一言] でも、やっぱり可愛い。 ふふふ、色…
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