それが罰ですか
「それが……罰ですか?」
ヘレンは首を傾げた。
罰を与えるといった割には、ルイスが出した内容があまり罰になっていないようなきがする。
「うん。それで罰かな。本当は罰とかどうでもいいけどさ。でも罰を与えればヘレンは俺と昔みたいに関わってくれるでしょ?もっともヘレンは俺が嫌いだからじゃなくて、ラスボス悪役令嬢とやらになりたくないからわけわかんない行動をしてたんだと思ってたんだけど、違うの?」
ルイスはそういってにこやかに告げてきた。
ルイスがヘレンに与えた罰は3つ。
1つ、ルイスがヘレンに送る装飾品以外身に着けない事。
2つ、ルイスを殿下と呼ばない事。
3つ、今度の卒業記念イベントを一緒に過ごすこと。
「ま、まあ……」
(ラスボス悪役令嬢になる道を避けたい私にしてみれば、殿下と関わること自体罰と言われればそうなんですけど……)
「でも、殿下――」
「はい、不正解。やり直しー」
「え、は……」
「だから、殿下じゃなくて名前でよんでって言ったばっかりだよ?それに昔はちゃんと名前で呼んでくれたのに、いつの間にかそんな余所余所しい呼び方になってるの嫌だったんだ」
クイッとルイスに下顎を持ち上げられ、ヘレンはルイスと目が合う。目に写るルイスの暁色の瞳は楽しそうに煌めいている。
「っ!ま、まだちゅ、中学生の癖に」
そう言ってヘレンがルイスの手を逃れ視線を避ければ、ルイスはクックと笑う。
「な、何が可笑し……」
「ヘレン、あともう少しで俺も前にヘレンが言ってたコウコウセイに成るってしってた?」
「え?」
「やっと、前に言ってたヘレンの前世とやらと同い年になるんだから、ね」
今度はツンとルイスに頬をつつかれヘレンはハッとする。
前世のうららは16歳だった。
だから今までルイスに16歳としての記憶があるがゆえに、お子様だから相手に出来ないと言って婚約破棄を迫っていたのに――
「そっ、もう、そう言う理由は使えません」
相変わらずヘレンの心の声にルイスは目ざとく反応してくれば、もう一層の事ルイスの前では心で思うだけで言葉を口にする必要はないのかもしれないとヘレンは思ってしまった。
しかし、そんなヘレンの考えまではルイスにも読み取れなっかったようで、気にすることもなくそれとね、とルイスはヘレンの耳に手を添えた。
ルイスの手が触れる時と同時にパチリと耳元で小さな金属音がし、僅かに重さがかかる。
「はい。まず1つ目の約束ね。気に入ってくれるといいんだけど」
「え?」
ルイスの手が耳から離れると、ヘレンはすかさず耳をさわる。するとそこにはチャリっと小さな音が響く。
「イヤリング?」
「うん。本当はあんな事になる前に渡したかったんだけどね。ヘレンがなかなか受け取ってくれないから、本来なら俺が付けてあげるはずだった所に害虫が飛んできちゃったんだから、今度からはちゃんと受けとってね」
そう言ってルイスは嬉しそうに微笑みヘレンの耳をチョンとつつく。
「やっぱりヘレンにはこういうのが似合うよ」
と満足げだ。
「殿――」
「はいそこ名前で。2つ目の約束だよ?約束守らないとどうなるんだったっけ?確か……ヘレンが破ったらもう婚約破棄って言わないんだっけ?」
「うっ……そ、それは……勝負の時だけの事で」
「え?そう?勝負の時だけなんて聞いてないよ?」
ニヤリと笑うルイスはどこかイジワルなのに、色っぽい。歳がもう子供でなくなっていると分かると余計に今まで以上にヘレンはルイスを男として意識してしまう。もともと整った顔立ちのルイスを異性として意識しないためにもヘレンにとって年齢は気持ちの防波堤だったのに。
それでも内心いつかは歳が同じに成るとは思っていたが、まさかこんなにあっという間に成るとは思っても居なかったぶんなんとなく不意を突かれた気分だった。
「しょ、勝負の時だけです!」
「じゃあ、ヘレンは今まで俺を避けていたのは悪いと思ってないし反省してくれないんだ。ヘレンの行動は別に怒ってはないけど、寂しかったのは事実だよ?それに実は名前呼びたくないくらい俺が嫌いなんだ……」
やや伏し目がちに憂を帯びてそんなこと言うルイスの色気の効果は絶大だった。
「っ!~~ル、ルイス様」
改めて名前を声に出せば羞恥心で身体中が熱くなる。きっと顔など茹で蛸のように真っ赤になっているのだろうと、ヘレンは心で思ってしまう。
そんなヘレンを尻目にルイスは満足そうに笑っているのが見える。
そこでヘレンはハタと気づく。
「で、でも。私がどうして、でん、じゃなくって~~る、ルイス様を避けたいるのか分かっているなら、罰は一緒に居れとおっしゃらないのですか?」
多分ヘレンとルイスが一緒に居ること自体が、ラスボス悪役令嬢への道になりそうでヘレンにとっては恐怖で罰となるのに。
「それは……」
楽しそうな顔から一変してルイスは眉をひそめる。
「罰で無理やり一緒には居たくないから、かな?流石にヘレンと接点が全く無くなるのは嫌だから多少は関わって欲しい。けど、無理やり強制的に一緒に居るように言いつければヘレンは嫌だなーって思うでしょ?そんな嫌々くるヘレンとは一緒に居たくない」
そういうとルイスはまっすぐにヘレンを見つめた。
先ほどの表情と違い少しルイスの顔色が曇って見えるのは気のせいだろうか。
「ねえ?ヘレンは俺が嫌い?そばにもよりたくない?」
無難攻略キャラと言えど攻略キャラになる程のルイスの顔面偏差値は高い。つまりはイケメン。
そんなイケメンに見つめられ、ヘレンはタジタジになる。
(嫌ってはないですけど!)
確かにルイス自体を嫌ったことはない。
嫌いと言うより、避けたくって、関わりたくないのはラスボス悪役令嬢と言う未来をもたらす役割だ。
むしろそんな関係でなければ良かったと、思っていた事があったと言うのは嘘じゃない。
「ヘレン?」
「~~き、嫌い、じゃあないです」
なんとかヘレンが声を絞り出せば、良かったとルイスは呟く。
「そこはできればもっと違う素敵な答え方で答えが聞きたかったんだけど、まぁ、それはおいおいね。話は戻すけど卒業記念イベントについては多分そこであの害虫がヘレンに何か仕掛けて来るだろうから、一緒に居てくれた方が安全だと思うからなんだけど。ほかの時にどうせ一緒に過ごすなら、ヘレンが俺と一緒に過ごしたいと思ってくれる時がいい」
無理に一緒に居て、あんな風に俺はなりたくない……
そうしてまた小さく呟くとその先の言葉を言いたくないとでもいうように、ルイスはヘレンから顔をそらし残りのお茶をグイっと飲み干した。
予約設定はしていないのでだいたいの時間で更新してます。
とか言いつつ、次回は予約投稿です。
8月3日0時で更新します。




