閑話⭐️デュランの苦笑い
※前話の裏話です
読み飛ばしてもOK
16の時にこの国の第一王子、ルイス・エバンヌ様にお仕えするようになってはや10年。明日はいよいよ魔法学園の入学式だ。
(あんなに小さくて天使のような殿下が……)
自室で殿下の幼かった頃の姿絵を見て思わず感慨に耽ってしまう。
「あのさ、デュラン。僕の姿絵見ながらうっとりするのやめてもらいたいんだけど」
後ろからまだまだ幼い男児の声が聞こえ振り向いた。
「おや、殿下が俺の部屋に来るなんてめずらしいですね」
「べ、別に。ただ、明日はデュランも来るんだよな?」
学園にと小声で呟く殿下はまだまだ幼さの残る可愛らしい子供だ。学園は身分平等をうたっているため、王族であっても寮生活になる。勿論護衛として影となり側につくが、今のように俺は殿下のそばに居て差し上げられない。
「ええ、勿論いきますよ。学園生活内でも殿下の影としてお側にいますよ」
そう言ってニッコリと微笑めば殿下はほっとしたような顔をする。
ああ、うちの殿下はまだまだ天使。
幼い頃の姿絵と何にも変わらず、いい子に育ってくださった。
「デュラン……その姿絵みてうっとりするのやめて」
あ、殿下。引くような態度もとれる様になったんですね。成長しましたねと心で称賛してみる。
俺は傷ついてない。これも殿下の喜ばしい成長だ。
「いや、うっとりもしますよ。あんなに小さかった殿下がいよいよ入学まできたんですよ。10年は長いようであっという間でした」
またニッコリと微笑めば、殿下はポリポリと頬をかく。
どうやら照れているようだ。
うん。うちの殿下天使。
政略結婚され殿下を賜ってから顔も会わせる事もしない両陛下から幼少期どころか生まれてからすぐに殿下は適当にあしらわれていた。
初めてお会いした時はまだ赤子でありながら、にこりともせず滅多に泣く事もしない子だった。
だから俺はそんな殿下を放っておくことは出来なかった。
流れ作業の様に殿下の世話をするメイド達から殿下の世話役を譲り受け、昼夜問わずミルクにオムツ替えに時には子守唄など。
殿下が熱を出せば付きっきり。
何度俺は男で母乳が出せないのかと悔やんだことか。
あの日々を思いだしホロリと目尻に雫が光る。
「デュラン。オーイ、デュラン?」
ああ、そんな冷たい目も出来る様になったんですね殿下。
ちょっと俺のハートにグサリと何かが刺さる。
大丈夫。まだ傷ついてないよ俺。成長。成長。
「すいません。それより、殿下。明日のお仕度は済みましたか?明日はライラット様をお迎えに上がってからの登校ですよ?」
そう言えば殿下は嬉しそうに顔を緩ませる。
本人は出来るだけ隠しているようだが、ライラット様の名前が出たとたんに態度があからさまに変わってしまわれる。
そんな殿下を見てちょっと俺はライラット様に嫉妬してしまい、不敬にも俺はまるで殿下の母のようだなと思ってしまい、苦笑がでた。
「だけど、ヘレンがおとなしく僕と一緒に登校するかな?」
先程まで綻んでいた表情が今度は不安げに俯く。
「大丈夫ですよ、ライラット様に何か動きがあればすぐに殿下にお知らせ出来るようライラット家には何名か影を配置しておきましたから。それから万が一のライラット様の逃走予防のために早馬も用意してあります。殿下は一応申し訳ありませんがすぐに出れる服装での入眠をお願いいたします」
俺の発言に何か言いたそうな殿下に先手をうち、俺ははやく寝てくださいと強制的に入眠を促す。
ライラット家の長女ヘレン様はなにをどう思って殿下と婚約破棄したいのかはさっぱり理解出来ないが、殿下に良い影響を与えてくださる貴重な存在だ。
あんなに両陛下の様になりたくない、愛せないものとは絶対結婚しないとわめいていた殿下がやたら執着して愛でている方だ。
それに、彼女自身もうわべだけ繕って殿下にまとわりつく令嬢達と違い、殿下と対等に接してくれている。それが殿下らしさを引き出す事に一役かってくれているのは俺も認めている。是非ルイス殿下のものになって頂きたい。
だから断固婚約破棄などさせないようにあらゆる手を使おう。
きっと殿下の婚約者様は予想の斜め上な行動をとるはずだ。勿論最終的に婚約破棄にならないようにするには殿下自身も頑張ってもらわねばならないのだが、殿下も最近こっそりと一人で秘密裏に色々頑張っておられるので大丈夫だろう。
「さてと、殿下のお荷物の最終チェックでもしますかね」
殿下の新生活と頑張りに不備があってはならない。
そう思い自室をあとにした俺もライラット様に振り回され、挙げ句殿下から射殺さんばかりの視線を突き刺さされることになり苦笑いをするしかなくなるのは数時間後のことだった。
前話の裏話が書ききれなかったので追加更新です。
デュランさんはママ役。
パパ役も居るのかしら?