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お母さんからの……

※R15?的な表現が少し入ってます

 柔らかく安心するような匂いにヘレンはうつらうつらしていた意識を更に漂わせる。


 今までの何だか怠いし、頭がスッキリしないしでモヤモヤしていた気分が晴れていくようだ。


(もう少し、もう少しだけ寝てたい)

 コロンと寝返りをうてばほのかに暖かい温もりにあたり安心感は更に広がる。


(あー、そう言えば……)

 お母さん今日湯タンポ入れてくれたのかも。


 うららが風邪をひかないように、寒くないようによく母はうららの布団にそっと湯タンポをいれてくれていた。

 温もりにすり寄れば優しく頭を撫でられ、それがくすぐったくて思わず笑ってしまう。母が優しく頭を撫でてくれるのは堪らなく好きだ。

「お母さん……くすぐったい」


 そう呟けば、優しく撫でてくれていた手はピタリと止まってしまった。

「お母さん?」


 ふと目を開ければ、ぼんやりとした視界に整った顔がコチラを見下ろしているのがわかる。


(お母さん……じゃ、ない?)

 あれ?でも頭を撫でてくれたのは?


 ボーッとその顔を眺めれば、気まずそうに顔をそらされ名前を呼ばれる。

「へ、ヘレン。その、あんまり見られると……。あと、お母さんはちょっと……」

「……」

(……お母さんはちょっと?……お母さん、じゃない?)


 ヘレンと呼ぶ聞きなれたようで聞きなれない低く甘い声。

 暁色の瞳。


(ん?ヘレン?暁の瞳?)


 んんん?

 んんんんん?


 んー!


 ガバリと飛び起き辺りを見回せば、度々目にしてきた質素ながらに質の良さそうな家具達。少しひろめの部屋。

 そしてモフモフのベッドに、なぜか近くに頬をポリポリと掻ながらコチラをチラチラ見ている殿下が見える。

 そして、湯タンポだと思ってすりよっていたのはベッドサイドに腰かけていた殿下の手だと気づく。

 どうやら殿下の手を握って、更にはすり寄ってしまったようだ。


「なぜ!?」


 ヘレンはあわわと目を見開き、頭を抱えて考える。


(どどどど……)

 どうしようと、ヘレンはもう一度ルイスを見る。

「わ、私は……もしかして殿下の手を……」


 恐る恐る口を開くと、ルイスはニッコリと綺麗な微笑みをヘレンに向ける。


(その顔は……)

 ヘレンはルイスの顔を見て血の気が引いた。


(まって、まって、まって!)

 更に混乱したヘレンの頭の中はぐるぐると音を立てて回りだす。

 まさか、なぜルイスの手に自分はすり寄ってしまったのか。

 そもそもなぜここに手があるのか。


 だいたいなぜ、ルイスのベッドで自分は寝ているのか。

「思い出せー!思い出せヘレン()!」


 ムムムと唸りつつ、こめかみに手を添える。


 確か、カトリシアがアクシルが何かを企んでると言ってきて……。

 そのあと、本の事を思い出して図書館にいって……。

 本をさがして。


 そこではたと気づく。

(あれ?私、図書館にいなかったっけ?)


 あれ?

 あれれと頭をこれでもかと捻りながら考える。

 図書館から、なぜルイスの部屋に??


(いや、それよりもなぜ殿下の手を!!)

 いや、というかなぜ手が!


「そうよ!これは夢よ!夢なのね」

 そっか、そっか良かったーと再びヘレンはベッドの中にゴソゴソと戻り始める。

(もう少し寝たらわかるわ)


 きっと私は図書館で本でも読んで寝ちゃったのね。

 はー。とため息をつき目を閉じれば、ズシリと重たく身体の上に圧がかかったため、ヘレンは小さくうめいてしまった。


「ちょっと、嫌だなーヘレン。こんなところで自ら目をつぶって横になるって、俺が襲っていいってこと?」


 タラリとヘレンの額に汗が流れる。

(夢よ!夢!都合のいい夢なの!それか金縛り!!)

 金縛りよ!

 と言うか、重たくて動けない。



 何も言い返さず、ただひたすら重さに耐えキュット瞳を閉じればふーんとこえがして耳元にフッと小さく息がかかる。

「ヘレンは襲って欲しいんだね」

 呟きと共に耳に温かい物が触れ、それは耳朶から耳の輪郭を這うようにゆっくり動く。


「ひゃっ!」

 ゾワリとした感覚に思わずヘレンは変な声を上げ目を開いてしまっていた。


「……っ!殿下!」

 何してるんですか!?

 どうやらやっぱりこれは夢じゃないらしい。


 でも、どうしてこうなっているのかまったく皆目検討がつかなくて、ただただヘレンは混乱するばかり。

 それなのに、そんな状態のヘレンにはお構いなしにルイスはささやく。しかも、耳元で。


「ヘレン、俺……怒ってるんだからね」

 訳がわからない囁きとともに急にカプリと甘噛され、今度は耳朶に軽く痛み似た刺激が走る。

「っ!」

「ねえ、ヘレン俺以外の男から何装飾品もらってるの?」


 俺だって、ヘレンに何度も何度もあげたのに受け取らなかったくせに他の男のは貰うんだとルイスが小さく呟く。


(装飾品??)

 話がさっぱり見えてこないが、取りあえずこの状態は何とかしたい。ヘレンとルイスの間には毛布一枚で隔てられていると言えど、今はルイスにヘレンが組み敷かれている状態だ。

 ベッドの中で手足に力をいれては見るものの、ルイスが上に乗っている為に毛布が邪魔して上手く動かせるはずもなかった。


「それだけじゃないよ。俺以外の男の言うことは聞くんだね。俺の話しなんて全然聞いてくれないのに」

 まあ、すり寄ってくれてたのは嬉しかったけどと小さく付け足すように言っていたのはなんのことだろう?


 それに先程からルイスが何を言っているのかわからないだけでなく、様子がおかしい気がするのはきっと気のせいではないだろう。背後には黒い影が見えるのもきっと気のせいではない。


「ちょっ……殿下!お戯れはいい加減にしてください。子供がそんなませた事をしていいと――」

「子供じゃない!」

 突然大声を出されて思わずビクリとしてしまう。

 彼は普段から穏やかな王子キャラそのものだ。

 だからこんな風にしてきたり、こんな声を出すことなんてあまり聞いたことがない。


「殿――」

「子供、子供、子供って、俺は子供じゃない」

 ただの男だ。


 ルイスのまっすぐな瞳がヘレンの瞳を捉えて離さない。

(まただ……)

 ルイスの真剣な顔。

 かなわない力の差。

 低い男らしい声。


「ヘレン、俺を……男として見て。もう逃げないで……」


 切なげに目を細目ルイスの顔がそっとヘレンに近づく。


 ドクリ。

 ヘレンの心音が高鳴る。


 ルイスの唇がヘレンの唇に触れかけたその時――



「はい、15歳はまだ子供なので健全に行きましょうね殿下」

 ひょいっと殿下の顔の真横にデュラン様の顔が並ぶ。

「「!!」」


 一瞬の出来事に思わずルイスは固まり、ヘレンに関しては恥ずかしさと驚きで意識が吹き飛んでしまった。

「……デュラン。邪――」

「はい、殿下ー、それ以上は不健全なので駄目ですよ。続きしたけりゃ頑張って18歳になりましょうね」

 ルイスの恨めしさMAXの視線を気にせずデュランはニッコリと微笑むとひょいっとヘレンの上からルイスをどかした。

「ほら、殿下……。ライラット様が泡吹いて白目になってますよ?」










(は、恥ずかしい)

 何がどうなったのか、一瞬?意識が吹きとんだヘレンが再び意識を取り戻した時にはルイスはベットの脇に置かれた椅子にムスッとした表情で座り、そのとなりにはにこにこと笑うデュラン様がお茶を持ってたっていた。


「ヘレンは覚えてないの?」

「何をですか!?」


 顔がきっとまだ赤くなっているだろう事を隠したくて睨めば、殿下は不機嫌な顔を引っ込め今度はケロッとした顔を向けてきた。

 どうやら不機嫌になっているのは白目を向いて気絶したヘレンにではなく、彼の何かを邪魔したデュランに対してだけのようだ。

 ヘレンにはむしろ飄々とした顔を向けてきたように見える。


(よく飄々としてられるな!)

 赤いながらも恨めしさをこめるのにルイスは気にしていないようだ。それどころか

「ヘレン?そんなに顔を赤らめて可愛いね」

 等と言ってくる始末だったので余計にヘレンはルイスを睨んでしまった。


(なんなのよ!)


 だいたいキスを迫られて、挙げ句そのシーンを第三者に見られれば普通は羞恥心で死にかけるだろう。しかも、白目&泡を吹いて失神なんて侯爵令嬢にあるまじき醜態をさらして。

 恥ずかしさで死ねるだろう。

 本当に穴があったら入りたい。


「それより、本当に覚えてないの?公衆の面前でカトリシア嬢にルイス様は私のよって叫んで平手打ちしたこと」

「はぁ?」

 思わず変な声を出した私はおかしくない反応だろう。

(何それ?)

 なんだそれ?

 冗談だろ??

 これ以上の醜態は耐えられそうもないんだけど。

 救いを求めたくて殿下を見れば、不思議と彼は頬を赤らめていた。


「いやー。嬉しかったよ、俺。ヘレンがルイス様は私のものよって皆の前で言ってくれて」

 ウンウンと一人頷く彼をみてヘレンは白目を向いて石化してしまった。

「まぁ、カトリシア嬢を叩いたのはいただけないけどね」


 ルイスのトドメの一言でヘレンはただただ崩れるしか出来なかった。

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