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思春期王子

(ど、ど、どうしよう……)

 ルイスの鼓動は目の前の光景に激しく高鳴っていた。


(いや、落ち着け俺!落ち着け)


 バチコーン


 これは夢だとルイスは自分に思いっきりビンタをしてみるが、頬が激しく痛いだけだ。


(……と言うことは、夢、じゃない?)

 ボーッとするルイスの頬に柔らかい手が触れる。


「ルイス様?ご自分を叩かれていかがなさいましたの?」

 ルイスの顔を曇った紅い瞳が覗き込む。

「え?あ、いや……その……。まさかヘレンがこうして俺の側に来てくれるとは思わなくって……あと、そのまあ色々あって」

 我ながら情けない答えだとルイスは思いつつ、まさかの展開にいまだに現実味が帯びてこないでいた。そんなルイスにヘレンは自分の腕を絡ませすり寄る。

 まるで媚びるように。

 そうしてつぶやく。

「本当にカトリシアはいやな女ですわ。平民のくせにルイス様にまとわりつくなんて。ルイス様あの女はこの学院にふさわしくありませんわ。排除してください」


(まさかのヘレンが……)

 その言動にルイスは苦笑いしつつ、己の正常な意識を保とうと一人でひたすら奮闘していた。



 朝起きて、普通に学院にきてヘレンの事を頭の片隅で考えつつ授業をうけ、寮に帰り授業の予習・復習及び城から届いた書類に目を通し王族としての業務を行い、ヘレンの姿絵を見ながら眠りに入るルイスのルーティーンは普通に学院に来た辺りから今、けたたましい音を立てて崩壊していた。

 学院に来るとすぐルイスは自分のクラスの前での出来事に唖然としたのだ。


 なぜならそこにはヘレンがいて、ヘレンの前にはカトリシアがいて……。

 ルイスの姿をみたカトリシアが殿下!とルイスを呼べばヘレンが突然、生意気なと叫びカトリシアの頬を平手打ちしたのだ。

 そうして言い放つ普段の彼女からはありえない罵りの言葉の数々。

 そのあまりの変貌ぶりに、いくら王族で常に冷静にいるよう指南されてきていても驚いて思わず固まってしまった。まずはそこから非日常が始まったのだ。

 数秒だがついていけなくて、2人のやり取りを呆然と眺める羽目になったルイスはそこであることに気づいたのだ。ヘレンの耳元で怪しくきらめくイヤリング、ヘレン以外のまとわりつくヘンな匂い。


 この匂いは度々ヘレンにまとわりついていて鼻につく。

 それに、ヘレンの黒曜石のイヤリングからはなかなか精密な闇魔法の気配が漂っていた。


(この変な匂いに闇魔法。加えてカトリシア嬢が絡んでいるという事はあいつか……)

 そこまでルイスの中で考えがまとまるととりあえず、ヘレンとカトリシア及び周りで野次馬していた生徒を適当な理由でお引き取り願いつつ、変貌してしまったヘレンをルイスの部屋に連れてきたのだった。


 部屋に入れば、影をしていたデュランが姿をすぐに現す。

「殿下、これは一体?」

「さあ、誰かがご丁寧にヘレンに闇魔法をかけてくれたみたいだ。忌々しい事におかげでヘレンは術者のいいなりだ」


 ルイスがそういえばヘレンはいまだにカトリシアは嫌な女なんですと殿下の腕にすり寄っていた。

 俺の普段の言葉はヘレンに聞いてもらえないのにあの男が介入すると聞いてくれるのはむかつくとルイスが小さく拗ねていたのは気にしないように、デュランはヘレンを見た。


 どうやらこちらの会話は彼女の耳には届いていないようだ。


「どうして術者はライラット様を殿下にすり寄るようにしたんですかね?」

 思わず目の前の光景にデュランは首を傾げれば、ルイスはポリポリと頬を掻く。


「まあ……デュラン、事の詳細は後でカトリシア嬢にも確認するとして。もう少しこのままでもいい気がするんだけど……」

 どこにでもなくルイスがヘレンをよしよししながら呟けば、盛大なため息とともにデュランがルイスの背後に立つ。

「いや、流石にこれはだめに決まってますよね。第一偽りの愛は貴方が一番嫌っているのでは?」

 そう言えばルイスは小さく呻き声をあげた。

「そうなんだけどさ。でも、なんだったら今、この状態で既成事実にもっていってそこから真実の――」

「今度の王族継承会議に今のセクハラ紛いの発言暴露しますよ。女々しい事を言ってないで早く治して差し上げないとライラット様もお可愛そうですし、このままだとライラット様はそもそも殿下の婚約者としても成り立ちません」


 デュランにそう言われ、ルイスは肩を落としながら自分を覗き込むヘレンを見る。

(ああ、かわいい)

 ヘレンは相変わらず可愛らしく、美しい。


 ただ一つ、ヘレンにまとわりつくヘレンとは違う匂いにルイスは眉間にしわを寄せた。

 (確かにこれだけはいただけないな)

 ヘレンの耳に鈍く光る地味な黒曜石のイヤリング。

 ヘレンには全く似合わないとルイスは思う。


 しかし同時に、若干うれしいけどとルイスは密かに思ってしまってもいた。

 好いている女の子に、ましてや今まで会えば婚約破棄、腹黒無難、お子様と言われていた人にまとわりつかれれば、誰だって少しは嬉しいと思ってしまうだろう。ただ唯一そこに変な奴が絡んでいることは大変不愉快ではあるものの。

 ルイスだって王子である前に思春期真っただ中の男の子だ。


「……ルイス様?何をお話されていましたの?私がお側に居るのによそ見などされて。もっと喜んだらいかがですの?」


 そう言いながらルイスの腕を取り覗き込むヘレンに、ルイスは本当に残念そうに向かい合うと渋々ヘレンの腕をほどいた。


「いや、すごい喜んでるよ俺。これがヘレンの本心だったらもう閉じ込めて、愛でてそれから朝までヘレンを――」

「殿下、まだお若いのに発言がセクハラの領域に入って来てるのでやめてください。品位が損なわれます」

 デュランにコホンと咳払いされ、ルイスはわかってるよと再び肩を落としつつ、ヘレンを優しく抱き締めた。16歳を目前に控えたルイスは最近急に背丈が延び始め、いつの間にかヘレンより頭1つ飛び出るほどの身長差になっていたので、なおさらヘレンはすっぽりとルイスの腕の中に収納されていた。


「ルイス様……」

 その仕草にうっとりとするヘレンとは対照的にルイスは深いため息を吐く。

「本当にもう、これが悪い虫のせいじゃなければなあ」

 思わずぶつぶつと悪態が口をつけば、ヘレンはコテンと首をかしげる。

「……かわいいなあ、もう」

 思わずギュッと抱き締めれば、いい加減にしてくださいと後ろからデュランに小突かれてしまったため、再び深い深いため息を吐き出し、ルイスはそっとヘレンの耳元でごめんねと囁き耳に手を添えたのだった。







「流石殿下。お見事です」

 ルイスの腕の中でぐったりとして目蓋を閉じているヘレンを見てデュランは軽く手を叩く。

「いや、なんか嬉しくない。もう少しヘレンが甘えてくれるなんて天国みたいな環境に居たかったのに。上手くすればこれを機にヘレンと――」

「殿下、セクハラは駄目です」

 やはり最後まで発言を許されずデュランにルイスは言葉を阻まれる。

「デュラン、これは王族に対する不敬だ。発言権のはく奪だ」


 若干頬を膨らませてルイスがデュランに抗議すれば、デュランは冷たい眼差しをルイスに向け、はぁと小さく息をついただけだった。


「くっ、デュランそんな目で見るな。だいたいセクハラじゃない!俺は思春期なだけだ。一応俺だって男なんだからな」


 拗ねるようにそっぽを向くとルイスはやつ当たるようにして、手の中にある黒曜石のイヤリングに力をこめパリンと壊した。先程ヘレンを抱き締めて耳に手を伸ばしたのはそこに気にくわない臭いの原因と、腹立たしいけれどこの状況を作り出し感謝すればいいのか、はた迷惑だけなのか戸惑う魔法が付与されかけられていたからだ。


 壊れたイヤリングからは黒い煙がシュウと音を出しルイスに触れると浄化され消えていく。そしてそれと同時に小さくうっと呻き声を出しヘレンは更にルイスの腕の中によりかかってきた。

 どうやら魔法が途切れたのと同時に完全に意識を失ったようだ。

 今はすうすうとヘレンのかわいらしい吐息が聞こえルイスは思わずホッと胸をなでおろした。


「それならなおのこと駄目です。子供は健全に行きましょう」

 さりげなくルイスの腕の中でぐったりと目蓋を閉じるヘレンをデュランは受け取ろうとするも、ルイスはヘレンをきつく抱き締めて離そうとしなかった。


「誰が子供だ。俺はもうすぐ16だぞ。それにお前は保護者か!」

「恐れながら16歳はまだ子供に位置します。大人は18歳からの扱いになりますし、さらにおそれ多くも申し上げれば学院においてはルイス様の保護者です」

 と言うことで、とデュランはひょいっとルイスからヘレンの体を再度取り上げようとしたためルイスは再びぎゅうとヘレンを抱きしめた。

「ライラット様は私が責任を持ってお部屋にお運びいたしますので、殿下はまず現状を何とかしましょうね。それともこのまま虫取しないでおきますか?」

 そう言われるとルイスはぐうの音も出せずにデュランを睨んだ。

 流石にヘレンに闇魔法で意識操作がかけられていたと分かった時は、ルイスの中の黒い感情は爆発寸前だったのだ。ただ爆発しなかったのは、そのあとヘレンがルイスに媚びるようにまとわりついたがために意識がヘレンに集中してしまったせいなのだが……。

(今サータスがいなくてよかった)

 見られていたら今頃彼のいいおもちゃにされていただろう。

 そんな事を思いつつ、ルイスは腕の中で眠るヘレンの黒く柔らかい髪を優しくなでベッドに寝かせた。



「いや、虫取はするさ。流石に今回のは我慢の限界だ。それに、虫をつぶすにもいい情報が入ってきているし、もう見過ごせない。あと……」

「あと?」


「俺もいつか闇魔法習得して見せる……」

 そしたらヘレンと……

 グッと握りこぶしを作るルイス。


 それを見てルイスの不埒な考えがデュランに伝わったようで、デュランに呆れたように、そんなことしたら本当にライラット様に嫌われますからねと釘を刺されてしまっていた。

「それなら、今はヘレンをここで寝かしておいて。デュランもいるから健全だろ?」

 諦めの悪いルイスに、デュランは女性は寝顔を見られるのは好きじゃないと思いますよとたしなめつつ、最後はどうなっても知りませんからねとあきらめお茶の準備を始めたのだった。

 せめて彼女が起きた時に少しでも精神的ショックを和らげられるようにと思いを込めて。

☆閑話休題:お年頃

(……珍しくデレデレしてる)

目の前の不思議な光景にデュランは静に息をついた。


これは祝ってもいいのだろうか?はたまた真面目な顔をして彼を嗜めればいいのだろうか?


(いつかはこんな風に2人が寄り添ってくれればいいと思ってはいたが)


流石にこれは頭が痛い。


殿下が何時ものように学院に登校すれば、いつも想像の斜め上を行く殿下の意中の婚約者はなぜかカトリシア嬢を良くわからないが平手打ちしていたのだ。流石に理由はわからないが貴族令嬢が皆の目を気にしないで平手打ちはいただけない。

ただ、学院内では残念ながら殿下の影に徹しているため静に見守っていると、殿下がボソリと「ヘレンから変な匂いがする」と呟いた。


すいません、匂いなんてまったくわかりません。


その後も殿下は「ヘレンにはあのイヤリング似合わない」とか「俺だって何か贈りたいのに」とかぶつぶつ呟いていましたが、殿下。気にするところはそこではありません。

むしろ早く止めに行きなさい。


そう思うこと数秒、殿下は見事に周囲の野次馬とカトリシア様を適当に散らされた。その手際の良さに感心してしまった。

(うん、流石うちの殿下。立派です)


そう思っていた矢先、ライラット様がまさかの殿下に腕を絡める行為にでたのだ。

(ああ!殿下が!殿下が真っ赤になってプルプルしてらっしゃる!)

頑張れ殿下!


なんとなく殿下のお気持ちがわかり無駄に応援していると、事も有ろうに殿下は自分の部屋にライラット様を誘導し始めたのだ。


流石にそれは良くない。

まだ若い男女に間違いがあってはいけない。


仕方なく、殿下達が部屋に入ったタイミングで姿を現せば気のせいだろうか、殿下から小さく舌打ちが聞こえた様な気がしたが気にしない。


俺が現れても尚も殿下にまとわりつくライラット様はどこか様子がおかしい。殿下を見れば殿下は理由がわかったようで耳を指していた。


(ああ、なるほど)

闇魔法特有の意識操作。

しかも、簡単にはほどけないようワザワザイヤリングに付与されている。

殿下程ではないが多少は影として仕える為に魔法分析はできる。


意識操作は術者が望むままにかけられた側が動く。と言うことは、術者は殿下とライラット様がいちゃいちゃするのがお望みなのだろうか?

なぜ?と殿下に問えば、しばらくこのままでもいいんではと切り返されてしまった。

見れば殿下が頬をポリポリ掻いている。

と言うことは、照れている若しくは何かを隠している。


隠すとするなれば、どうして術者がこのような事をするのかと言うこと。

理由がわかっててもハニートラップにかかる気ですか貴方は!!


取りあえず殿下を嗜めなければとデュランはため息を小さく吐いた。


(殿下もお年頃だからなぁ……)

あんなに小さくて可愛らしくて天使だったのに。


それでも今は心を鬼にして、保護者を貫かなければとデュランは密かに気合いをいれたのだった。









はい、不定期すいません。

やっとこ暗い話しから脱出しかけてます。


本来単純にいちゃラブが好きなので、そのシーンになるまでのんびり待っていていただけると幸いです。

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